魔女のハーブは、あんまり甘くない 3ー3 魔女と森の守り鳥(3)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
"A cozy fantasy story of a witch, her bitter herbs, and the gentle secrets they hold."
◯森の中(満月のころ)
森のあたまの上には、スーパームーンのよう な満月が、浮かんでいる。
ナナとカミーユは、ならんで音を立てない ように、森の中を歩いている。
ナナ「やっぱ、この時間は、ちょっと怖いかもね…」
ナナが、つぶやく。
カミーユ「う、うん…」
カミーユが右手に持っているランタンが、カ タカタと、震えている。
ナナ「(心配そうに)…ね、ランタン、あたしが持とうか?」
カミーユ「…い、いや、ぼくが持つよ」
カミーユ、気合を入れた表情になるが、相変 わらず、右手がカタカタ震えている。
カミーユ「なあ、ナナ…」
ナナ「…?」
カミーユ「この前みたいなのが現れたら、どうする?」
カミーユ、前をむいたまま、声をだす。
ナナ「ふくろうおじさんのこと? おじいちゃんは、平気だって言ってたから…」
カミーユ「ま、まあ、そうだけど…」
カミーユ、小さく、せきばらいを、する。
ナナ「たぶん、ハンカチは、このへんで…」
ナナが、落ち葉の中を見ようとかがむと、とつ ぜん、頭のうえで、大きな音がした。
カミーユ「わっ!」
カミーユが、おどろいて、その場に尻もちを つく。
その拍子に、ランタンが地面に落ちて、ナナが いそいでランタンをひろい、上を見る。
ナナ「大丈夫よ、ただのふくろうよ」
ナナがかかげたランタンの淡い光の先に、シ ロフクロウが、高い枝に、とまっているのが 見えた。
シロフクロウが、小さな目を、ナナたちにむ けている。
カミーユ「そ、そうなのかい?」
カミーユが、腰を、ぶるぶる震わせながら言 う。
ナナ、はあと、ため息をつく。
ナナ「あー、でも、きれいな模様。雪かぶってるみたい」
カミーユ、ゆっくりと、腰をあげる。
カミーユ「シマエナガ、じゃなくて、本当のふくろうか。やっぱり、森の守り神って、雰囲気あるね…」
ナナ「うん、やっぱり、森には、ふくろうだよね…」
ナナがつぶやくと、木のかげから、音がした。
ナナ、ランタンを、木のかげにむける。
カミーユ、さっと、ナナのうしろにかくれる。
やがて、木のかげから、人の大きさをしたも のが、ゆっくりと出てきた。
ナナ「え?」
カミーユ「わあああ!」
カミーユ、走り出そうとするが、ナナがカミ ーユのズボンを、ぐいっと、ひっぱる。
カミーユが、その場に、音を立ててころぶ。
カミーユ「いてて…」
ナナ、ぴたっと、その場にとまり、ランタ ンの光の先を、見つめる。
光の先には、上半身がふくろう、下半身が 人のように黒いズボンをはいた、生き物が いた。
ナナ「…」
ふくろうは、大きな黄色い目を、ナナたちに むけていた。
ナナは、その黄色い目を、じっとを見つめ た 。
ナナ「なんですか?」
ナナが、口を開いた。
ふくろうが、黄色い目を、わずかに動かし た。
ふくろう「わすれもの…、かい?」
ふくろうが、小さく、声を出した。
ナナ「…え?」
ナナ、視線を下に移すと、ふくろうが、大 きな翼を差し出しているのが見えた。
そして、その先に、なにかがひっかかって いるのにきづく。
ナナ「あ、あたしのハンカチ…」
ナナ、目をひらく。
ふくろう「…」
ナナ、いちど、ふくろうの方を見てから、 ゆっくりと、手を伸ばす。
そして、ふくろうの翼の先から、ハンカチ を、そっと取る。
ナナ「どうも、ありがとう…」
ナナ、ふくろうに、ほほえみかける。
ナナ「ふくろう…おじさん、ですか?」
ふくろう、おどろいたように、黄色い目を 大きくする。
ふくろう「…わしを、知ってるのかい?」
ふくろう、人の声を、だす。
ナナ「…ええ、おじいちゃんから聞きました」
ふくろう、大きな目を、はんぶん閉じる。
ふくろう「そうか、そんな人が、この街に、まだいたのか…」
夜の森に、風が、ふいた。
ナナ、ランタンを地面におくと、そばのき りかぶを見て
ナナ「そこに、座りませんか?」
とつぶやく。
ナナが、きりかぶに座ると、ふくろうおじ さん、ゆっくりと、ナナのとなりに座る。
カミーユ「…」
カミーユは、地面に、座ったまま、2人を 見ている。
すると、枝のシロフクロウが、ふくろうお じさんのひろげた翼の上 に、とまった。
ナナが、小さく声をあげる。
ふくろう「はは。いや、すまないね。この子は、ちょっと、イタズラ好きなとこがあってね」
ふくろうおじさんが、楽しそうにいう と、ナナも、くすっと笑う。
ナナ「ほら、カミーユ、起きて」
ナナが言うと、カミーユが、地面から立ち 上がる。
ふくろうおじさん、カミーユを見る。
ふくろう「おや、女の子かい?」
カミーユ、すこし、震える様子。
ナナ「いえ。この子、こう見えて、男の子なんです」
ナナが、すましていう。
ふくろう「はは、そうなのかい。とても可愛い子だね」
ナナ「ほら、カワイイだって」
ナナがいうと、カミーユ、ひきつった笑み を、うかべる。
カミーユ「ど、どうも…」
ふくろう「…びっくりしたかい? こんな、ふくろうの顔をしたうえに、人の足がはえてるなんて」
ナナ、手を口にあてて、笑う。
ナナ「ええ、この前見たときは、びっくりしちゃいました。だけど、もう平気です。すごい面白い」
ナナ、楽しげに、いう。
ふくろう「おもしろい、か。はは、そう言ってくれると、こっちも、気がラクになるよ」
夜の森に、笑い声が、ひびきわたる。
ふくろう「こうやって若い人と話をするなんて、何年ぶり、いや、何十年ぶりかな…」
ふくろうおじさん、ナナとカミーユを見る と、きりかぶから、立ちあがる。
ふくろう「ようし。じゃあ、ちょっと、ここでまってて」
ふくろうおじさん、左右の翼を大きくひろげ ると、シロフクロウが夜空へ飛び立つ。
シロフクロウが満月と重なると、ふくろう おじさんも、大きな音を立てて、夜空へと 飛んでいく。
ふくろうおじさん、満月の中へ消えてい く。
ナナ「すごい、あっという間…」
ナナ、満月を見ながらつぶやくと、カミー ユがナナのそばにくる。
カミーユ「な、なあ。本当に大丈夫なのかな?」
ナナ「平気よ。ここで待ってよ」
カミーユ、ふうっと、きりかぶの上に腰をお ろす。
ナナ「だらしないなあ。なにそんな、へたっとしてんの?」
カミーユ「そ、そりゃあ、あんなの見たら、だれだっておどろくよ。ナナが、ちょっと変わってると思うけど…」
ナナ「はあ、なにそれ?」
ナナが、じろっと、カミーユを、にらむ。
カミーユ「だ、だから、それは、つまり…」
2人がしばし、森の中で言い合っていると、 満月の中に大きな鳥のシルエットが浮かび、 ナナとカミーユ、いっしょに満月を見る。
やがて、ふくろうおじさんが、満月から大き な音をたてて、地面に降り立つ。
ふくろう「やあ、またせたね」
ふくろうおじさん、翼を重ねて、2人に見せ る。
ふくろう「ほら、もっておいき」
翼の中には、大きなクリと、ドングリがたく さんはいっていた。
ナナ「(笑って)わあ、うれしい。みんなもらっていいんですか?」
ふくろう「もちろん、たくさんお食べ」
ナナ、ポケットにつめるだけクリをつめ て、のこりのクリとドングリをぜんぶ、カ ミーユにもたせる。
ナナ「ようし、これでOK」
ナナ、満足の表情。
カミーユ「お、重い…」
カミーユ、よろよろしてる。
ナナ「じゃ、おじさん、また」
ナナが頭を小さくさげると、カミーユもつづ いて頭をさげる。
ふくろう「ああ、気を付けてな。また、おいで」
ふくろうおじさん、翼を小さくふる。
ナナとカミーユ、ランタンをかかげて、来た 道をゆっくりと、引き返していく。
やがて、夜空から、シロフクロウが、きりか ぶの上に舞い降りてくる。
ふくろう「なあ、覚えているか? ああ、まだお前さんは、生まれてなかったな…」
シロフクロウ、小さく鳴く。
ふくろう「あの子、あのときの魔女さんに、そっくりだったよ…」
満月が、森を照らしていた。
◯おじいちゃんの小屋(夜ごろ)
おじいちゃん「なに、会ったのか?」
おじいちゃん、おどろいてナナを見る。
ナナ「うん、いい感じの人だったよ。本当に、体の半分が、ふくろうの姿してた」
ナナ、いたずらっぽく笑う。
おじいちゃん「そうか、まだいたのか…」
ナナ「おじいちゃんは、会わないの?」
おじいちゃん「ああ、ワシはもう年だからな。足があまり動かんから、遠慮しとく」
ナナが、テーブルにひろげたクリとドングリ を見て、おじいちゃん、にっこり笑う。
おじいちゃん「ようし、じゃ、今日は、クリご飯でも作るかの…」
ナナ「え、本当? クリご飯、大好きー」
おじいちゃん、釜に火をつける。
ナナがクリの皮を、せっせと、むき始める。
おじいちゃん、奥の棚から、古びた写真を出 す。
5人の若者たちが、港にならんでいる写真。
しばらくすると、おじいちゃん、写真をそっ と棚にしまう。
窓のそとでは、まだ、大きな満月がうかんで いた。
◯カミーユの家(夜)
街のはずれの、大きなレンガ造りの家。
屋根の煙突から、煙があがっている。
カミーユ、玄関の扉を開ける。
「あー、お兄ちゃん、お帰りー」
ショートカットの女の子が、大きな声を出 して、奥の部屋から顔をだす。
カミーユ「あ、ただいま、リリア」
リリア、カミーユの顔を見て、首をかしげ る。
リリア「あれ、なんかあったの? 疲れてるみたいだけど?」
カミーユ「い、いや、いろいろあってね…」
カミーユ、部屋に入ると、絨毯のうえにどさ っとドングリをひろげる。
リリア「わあ、すごい大きなドングリ。どうしたの?」
カミーユ、小さく笑う。
カミーユ「ちょっと森でね。へへ、お兄ちゃん、ドングリ採るの得意なのさ…」
リリア「ふーん、はじめて知った。でね、リリア、今度のパレードに参加するから」
カミーユ「(おどろいて)え、出るの?」
カミーユ、目をひらく。
リリア「うん。はじめてだから、すっごい楽しみ」
リリア、どんぐりをテーブルの上で、くるく る回す。
リリア「ナナさんも出るんでしょ?この前、いきなり、これなくなったもんね」
カミーユ「あ、ああ」
リリア、となりの部屋に行くと、衣装が入 っ た箱を持ってくる。
リリア「あたし、赤ずきんがいいー」
リリア、箱から、赤ずきんのコスチューム を出して見せる。
リリア「すごいでしょー。これ、リリアが作ったんだよー」
リリア、赤ずきんのコスチュームを、すっ ぽりとかぶる。
カミーユ「え、本当に? そりゃあ、すごい」
リリア、えへへと得意げに笑い、箱に手を 入れる。
リリア「あと、お兄ちゃんには、これねー」
リリアがカミーユに、衣装をわたす。
カミーユ、ひろげると、それは派手なガイ コツ模様のコスチューム。
カミーユ「ガ、ガイコツ…?」
カミーユ、しばらく言葉をうしなう。
リリア「お兄ちゃんに、にあうと思って作ったのー。ぴったりしょ?」
リリア、大きな目をかがやかせて、カミー ユを見る。
カミーユ「あ、ああ…」
カミーユ、ひきつった笑みをうかべる。
リリア、鼻歌を歌いながら、絨毯の上でく るくるまわる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

<3ー4へ、つづく>
