《 魔女のハーブは、あんまり甘くない 》 リサの願いごと Episode1ー3
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「よし、このあたりですね」
ルークさんは、私をおろすと、青い目を光らせた。
その、するどい光は、やはり、おおかみのものだ⋯。
「たぶん、あの人たちは、むこうの食堂のほうへ行ったように見えたけど⋯⋯」
私が、奥の食堂のほうをゆびさすと、ルークさんは、うなずいて私を見た。
「じゃ、先にいっててもらえますか? ボクも、すぐにおいつきます」
ルークさんは、そばの部屋に入っていった。
ーなんだろう。
もしかして⋯⋯。
私は、いそいで食堂へと、むかった。
私も、いままで、なんども盗人を相手にしてきたが、海賊というのは、はじめてだ。
ー用心しないと。
そして、あの帽子を、取り返さなくては⋯。
あんな小さな子のものまで盗むなんて、許せない⋯。
私だって、ちゃんと、盗みのルールは守った。
ー子どもは、ゼッタイに、NGだ。
同じ盗人として⋯、いや、魔女のはしくれとして、これは見逃せないと、私は心をかためた。
「たしか、このあたり⋯⋯」
食堂のまえにつくと、なかは暗く、とてもひろかった。
私は、音をたてないよう食堂に入ると、身をかがめ、おくのテーブルを見た。
ーいた、テーブルのしたに、隠れてる。
海賊の2人が、かべの窓に手をのばして、なにかサインをだしていた。
ー窓から、出るつもりだろうか。
たぶん、脱出用のボートを、したに用意してあるのか。
そこで、まっている仲間に、サインを送っていると、私はみた。
すると、海賊の1人が、私のほうを見て、はっとした顔になった。
「だれか、いるぞ」
私は、内心、しまったと思った。
ーまずい、気づかれてしまったのか。
気配をけすのが、おそくなっていたのか。
最近、ハーブティーばっかり、つくってたからなあ⋯⋯。
2人が、ゆっくりと、私のほうにせまってくる。
1人が手に、なにか光るものをもっていた。
ーどうしよう。
食堂のそとにでるか。
でも、そうすると、あの帽子は⋯。
私が考えていると、びゆっと、なにかが音をたてて、私のそばを通りすぎた。
私は、目をひらいた。
ー白銀の、おおかみだった。
「ルークさん⋯!」
私は、反射的に声をだしていた。
おおかみになったルークさんは、すごいはやさで海賊の足にかみついた。
「な、なんだこれ?」
海賊が、床にひっくりかえり、おどろいている。
ーすごい、あのいきおいで、かみつかれたら、 ひとたまりもないだろう。
これなら、うまく帽子を⋯。
「こ、こいつ」
だが、もう1人が、ナイフをだして、ルークさんに切りかかった。
すると、ルークさんは、すばやく、その場をはなれた。
一瞬、なにか音がしたが、ルークさんは、平気みたいだ。
「いてて⋯。なんで、おおかみが、船に?」
かまれた海賊が、足をおさえながら、床から、たちあがった。
「わからん。だが、とっとと、ここをでるぞ」
ナイフをもったほうが、こたえた。
ルークさんと海賊たちが、にらみあっていると、そとから、足音がひびいてきた。
私は、おどろいて廊下のほうをみた。
「おい、こっちだ。いまなにか、音がしたぞ」
ー船員たちだ。
よかった、気づいてくれたのか。
「おい、はやく、とびおりろ」
ナイフを持ったほうがさけぶと、足を押さえている海賊が、窓を開けて、そとに逃げようとした。
したのボートに、飛びうつる気だ⋯。
そして、海賊は、あの赤い帽子を、ポケットにいれているのが見えた。
ーあれを、持っていかれてはダメだ⋯。
海賊が、窓のふちに足をかけた。
私は、その場から飛びだそうとした⋯、だが。
ーだめだ、間にあわない。
海賊が、窓から飛びだし、海に、身をなげた。
そのとき、私の胸のペンダントが光った。
「わっ」
私は、おどろいて、声をあげた。
ペンダントからはなたれた白い光は、あたりをつつむと、つよく、てんめつした。
「ど、どうして?」
私は、手を、顔のまえにあてて、たちつくした。
しばらくすると、白い光はきえた。
「この光って⋯?」
私は、ゆっくりと手をどけると、目のまえの光景におどろいた。
「え?」
ー海賊たちが?
2人が、テーブルのしたにいた。
ーさっき、見たままの光景だ。
窓から、飛びだしたはずなのに?
「な、なんで?」
私は、はっとして、胸のペンダントを見た。
ーこれって、アカリちゃんと同じちから?
時間を、あやつる光⋯。
「お、おい、どうなってんだ?」
「海に、とんだんだけど⋯⋯?」
海賊たちが、パニックになっている。
ーいまだ。
私は、全力でとびだすと、ぱっと海賊から、赤い帽子をうばいとった。
「え?」
海賊が、おどろいて声をだす。
ーどうだ、この動きは、まだまだおとろえてな い。
スラムのときも、追ってをふりきる足のはやさは、負けたことはなかった。
私は、そのままはしって、食堂のそとにでた。
海賊たちが、ぼうぜんとしていると、船員たちが、食堂に、ながれこんできた。
みんな、ライトを手にしている。
食堂のなかが、いっきに、明るくてらされた。
「そこを、動くな!」
船員がさけぶと、海賊たちは、おびえたように、かべにはりついた。
ーよかった、大丈夫みたいだ。
私は、ほっとしたが、すぐに気づいた。
ーあれ、ルークさんは?
どこに?
私は、なんども、あたりを見まわしたが、ルークさんの姿はなかった。
ーすばやい。
私の気づかないうちに、そとにでたのか⋯。
「あ⋯⋯」
私は、廊下のおくを見た。
あの女の子が、こっちに、歩いてきた。
きょろきょろと、なにかを探してるようすだ。
私は、にっこりして、女の子のまえにでた。
「わっ?」
女の子が、おどろいた顔で私を見る。
「これでしょ?」
私が、赤い帽子を見せると、女の子は、まんめんの笑顔をうかべた。
「わあ、お姉ちゃん、どうも、ありがとう」
と嬉しそうに、帽子をうけとった。
ーまさに、天使のほほえみだった。
そして、私たちは、チークキスをかわした。
やがて、おくから、母親が来るのが見えた。
私は、すぐに、近くのドアをあけて、なかにはいった。
「あれ、お姉ちゃん、どこ⋯⋯?」
女の子の声が、ドアのむこうから聞こえた。
ーだめよ、盗人と、いっしょにいちゃ⋯。
あれ、でも、いまはもう、いいのかな?
私は、2人が、とおざかっていく音を確認したあと、ドアをあけて廊下にでた。
ー私が、いちにんまえの魔女になったとき、また
会おうね。
私は、そう思った。
「ああ、もう、終わったんですね」
ルークさんが、すれちがいに、あらわれた。
何食わぬ顔だ⋯⋯。
食堂のほうから、船員さんたちと、しばられた海賊たちが、でてきた。
「すごい、リサさんが、やったんですね」
ルークさんが、私を見る。
「ええ、まあ、たいしたことは⋯」
私は、どう返事をするべきか、まよっていると、ルークさんの右腕を見て、口をひらいた。
「あら、キズが?」
ルークさんの右腕に、きりきずがあった。
「ああ、ちょっとドジやって。大したことないですよ。すぐになおりますから」
ルークさんは、わらって気にしない顔。
ーやっぱり、切られてたのか。
深くはないが、すぐに手当が必要だ。
「だめよ、そんなの」
私は、ポケットからハンカチをだし、キズに巻こうとしたが、小さすぎた。
ーしかたがない。
私は、上着をぬいで、ルークさんのうでにまいた。
「え、そんなことまで⋯」
ルークさんが、顔を、赤くする。
「これ、けっこう高い生地だから、つけ心地がいいですよ」
ーいや、本当は、フリーマーケットで、手にい れたものなんだけど⋯。
私が上着をまきおえて、よし、これでOK、というと、ルークさんが、じっと私を見ていた。
「な、なんですか⋯?」
私は、すこしキョリをおいていった。
「あれ、リサさん、その模様⋯」
左腕の、とぐろの模様が見えていた。
「あ、ああ。これは、私のいた街で、はやってたんですよ、あはは⋯」
私は、ひっしで笑顔でいうと、ルークさんは、へえ、と興味ありげに見た。
「じゃ、ボクは、いそぐので」
すると、ルークさんは、すっとたちあがり、声をだした。
「⋯?」
「ボク、この船から、すぐにはなれないと」
ルークさんが、笑みをむける。
「え、どうして?」
私は、おどろいて、ルークさんを見る。
「じつは、ボク、きっぷを持ってないんです」
「え⋯?」
私は、ぽかんとして、言葉がでない。
「へへ、じつは、この船には、みなとから運ばれる荷物のなかに、かくれて入ったんです」
ルークさんは、苦笑いしながら、ウインクする。
「そ、そんな、芸当を⋯⋯」
ーなんて、大胆な人だ。
「だから、街まで、泳いでいきます。船員さんたちが、もうすぐくるし」
「お、泳いで?」
私の言葉に、ルークさんは、大きくうなずいた。
「ええ、泳ぎは、得意なんです」
私は、はっときづいた。
ーそうか、さっき、海をのぞきこんでたのは、 泳ごうか、まよってたからか⋯。
私は、かんちがいした自分に、苦笑いをした。
「でも、大きな街ってワクワクします。どんな人や出会いがあるんだろうって」
目をきらきらさせたルークさんを見て、私は、自然とほほえんだ。
「そうですね。ルークさんだったら、きっと素敵な恋人が見つかりますよ」
「ええ、そうなるといいですね。でも⋯」
ルークさんが、すこし、目をふせる。
「⋯?」
「でも、もし、見つからなかったら⋯」
ルークさんが、目をあげて、ちらりと、私を見た。
「え⋯?」
船員さんたちが、くるのが見えた。
「じゃ、また、リサさん」
ルークさんが、私に小さく手をふる。
「ルークさん?」
ルークさんは、そのばから走り出すと、柵をこえて、海へと、ダイブした。
「うそ⋯⋯」
ざぶん、と、大きなしぶきをあげると、すぐに、海面からルークさんが顔をだし、泳いでいった。
私が、じっとそのようすを見ていると、ルークさんは、くるりとふり返り、私に手をふった。
「まあ、変なひと⋯⋯」
私は、そうつぶやきながら、小さく手をふった。
やがて、泳ぐルークさんの姿は、街のほうへと見えなくなった。
ーほんと、不思議な人だった。
私が、ふうっと、いきをはくと、胸のペンダントが光った。
すると、南の空に、虹が、かかった。
「あれ、虹が⋯?」
いままでで、いちばん大きな虹だ。
「そうねえ。じゃ、素敵な人と、ハーブティーが、のめますように⋯⋯」
なぜか、私は、虹にむけて、つぶやいた。
ー星に願いをでなく、虹に願いを、か。
それも、いいかもね。
それに、その相手は、もしかして⋯。
私は、小さくわらった。
「あ、街が⋯」
やがて、街が、見えてきた。
ーあの街には、アカリちゃんたちがいるはずだ。
また、あの、あんまり甘くないハーブティー がのめる⋯。
私は、ひろげた両手を、空にかざした。
夜があけて、朝の光が、手のうえに、ふりそそいだ。
「さ、エドワウとノアちゃんを、起こしにいこうっと」
私は、虹がかかる海を見て、ドアをあけた。
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《魔女のハーブは、あんまり甘くない》
リサの願いごと
END
