脳の構造が大きく転換(老化)する年齢は9歳・32歳・66歳・83歳【ケンブリッジ大学の研究】
(アイキャッチはpixabayのケンブリッジ大学のフリー画像より引用)
脳の構造転換や老化は、毎年少しずつ進むと思われてきました。
しかし、近年の脳科学研究では、その考え方が大きく変わりつつあります。
2025年、イギリスのケンブリッジ大学の研究チームは、約4,000人分のMRI画像を解析し、次の内容を報告しました。
人の脳は連続的に構造の転換や老化をしない。
特定の年齢で神経ネットワークが大きく再構築される。
その転換点は、9歳・32歳・66歳・83歳の4つです。
なお、9歳での脳の構造転換はシナプス刈り込み(不要なシナプスを消して効率化)として従来から知られていました。
この研究の重要なポイントは脳が32歳・66歳・83歳で老化するということです。
脳には人生を通して5つのステージが存在する可能性が示されたのです。
これまで、「脳は年齢とともに少しずつ衰える」と考えられていました。
しかし、今回の研究では、「脳はある年齢で構造やネットワークが大きく変化する」ことが示唆されたのです。
今回は、この研究について詳しく説明しましょう。
なお、研究結果は学術誌『Nature Communications』に掲載されました。
この論文は下記のサイトから全文が無料で読めます。(2026年5月現在)
英文ですが、興味があればブラウザの日本語訳で読んでみて下さい。
私も日本語訳で読みましたが、極めて難解でした。
そこで、今回は他のサイトの解説も参考にしてまとめてみました。
A.脳の構造転換(老化)は直線的でない
これまでの脳研究では、「加齢とともに脳容積が少しずつ減少する」という見方が一般的でした。
しかし、今回の研究では、脳の変化は滑らかな直線でないことが分かりました。
特定の年齢で神経ネットワークの結合性や脳構造が急激に変化する節目が存在していたのです。
特に変化が大きかった年齢が、次の年齢です。
9歳
32歳
66歳
83歳
研究チームは、これらを脳機能の相転移(フェーズシフト)に近い現象として解釈しています。
つまり、脳は単純に変化したり古くなるのではなく、「ある時期ごとにシステム全体を再編成している」可能性があるのです。
B.研究では何を調べたのか?
研究チームは約4,000人分の脳のMRIデータを解析しました。
解析対象には、次の項目などが含まれます。
白質ネットワーク
灰白質構造
脳領域間の接続性
神経回路の統合性
特に重要なのが、コネクトーム解析です。
これは脳の各領域が、どのようにつながっているかを調べる方法です。
単に脳の大きさを見るのではなく、「脳内ネットワークがどう変化するか」を調査したのです。
従来の研究では脳容積だけを見ることも多かったのですが、今回はネットワーク構造そのものを解析した点が特徴です。
その結果、脳は連続的に変化するのではなく、段階的に再構築されることが示唆されました。
C.脳には4つの転換点が存在
1.第1転換点:9歳 脳ネットワーク再編成の初期ピーク
a.どんな変化が起きるか?
9歳前後では、神経回路の再編成が急速に進みます。
特に不要なシナプス接続を整理するシナプス刈り込みが活発です。
脳は大量の接続を維持するより、「必要な回路を効率化する」方向へ変化します。
b.体内での現象
学習能力や認知制御機能が大きく変化する時期です。
注意力、感情制御、社会性などに関わる前頭前野ネットワークも成熟を始めます。
この時期は発達障害の分野でも重要視されています。
c.生物学的な意味
子どもの脳から思考する脳へ移行する段階です。
単なる成長ではなく、情報処理システムそのものが再編成される時期と考えられます。
2.第2転換点:32歳 長距離脳ネットワーク効率変化の始動期
a.どんな変化が起きるか?
30歳代前半では、脳ネットワークの安定性が変化し始めます。
特に長距離ネットワーク接続の効率が徐々に低下する傾向が確認されました。
(長距離ネットワーク接続とは脳の物理的に離れた部位同士の接続)
一方で、経験依存的な回路は強化されます。
b.体内での現象
記憶力や知能そのものが急低下しないのです。
しかし、脳では微細な変化が現れ始めます。例えば……
処理速度
注意切り替え
認知柔軟性
睡眠不足や慢性炎症の影響も受けやすくなる可能性があります。
c.生物学的な意味
脳が成長モードから維持モードへ移行する転換点と考えられます。
神経可塑性(ニューロプラスティシティ)は依然として存在しますが、若年期より低下し始める段階です。
3.第3転換点:66歳 脳ネットワーク再構築と神経変性リスクの顕在化
a.どんな変化が起きるか?
60歳代後半では、脳ネットワークの統合性低下が著しくなります。
特にデフォルトモードネットワーク(DMN)や前頭葉ネットワークの変化が目立ちます。
b.体内での現象
記憶機能や実行機能の低下リスクが増加します。
さらに、次の影響が脳に強く反映されるようになります。
慢性炎症
血管老化
ミトコンドリア機能低下……など
アルツハイマー病などの神経変性疾患リスクも、この頃から上昇します。
c.生物学的な意味
脳の老化が分子レベルから機能レベルに表面化しやすくなる段階です。
神経細胞単体ではなく、脳全体の協調システムが影響を受け始めます。
4.第4転換点:83歳 高齢脳ネットワーク再構築の後期ピーク
a.どんな変化が起きるか?
80歳代前半では、脳ネットワークの再編成がさらに大きくなります。
一部ネットワークでは接続性低下が急激に進行します。
b.体内での現象
認知機能低下リスクが急増する時期です。
また、多因子的な変化が重なります。例えば
神経炎症
血流低下
白質障害……など
身体機能低下とも密接に関連します。
c.生物学的な意味
脳が高齢環境へ適応しようとする最終段階とも考えられます。
単なる壊れる過程ではなく、限られた資源で機能維持する再構築とも解釈できます。
D.転換点が生まれるメカニズム
1.神経ネットワークの再構築
脳という器官は固定されていないということです。
神経回路は常に再配線されています。
特定年齢で大規模なネットワーク再編が起きることで、転換点として観測された可能性があります。
2.脳のエネルギー代謝の変化
脳は大量のエネルギーを消費します。
加齢により、次のような変化により、ネットワーク維持能力も変化します。
グルコース利用
ミトコンドリア機能
酸化ストレス制御
脳老化は配線だけの問題でなく、エネルギー発生の問題でもあるのです。
3.免疫・炎症システムとの関係
近年、脳老化では神経炎症が重要視されています。
ミクログリアという免疫細胞が慢性的に活性化すると、神経回路維持に影響を与えます。
特に高齢期では、全身炎症と脳老化の関連が強く指摘されています。
4.ホルモンと加齢の影響
加齢に伴うホルモン変化も脳ネットワークへ影響します。
神経可塑性に関与するものは、例えば次のものがあります。
性ホルモン
成長ホルモン
コルチゾール
脳の転換点は、全身老化システムの影響を受けている可能性があります。
E.この研究の重要点
今回の研究の重要点は、「脳老化は連続的ではない」可能性を示したことです。
これは老化研究全体にも大きな影響を与えます。
実は脳だけでなく体全体でも「老化は連続的ではない」という研究がスタンフォード大学で報告されました。
つまり、人体は「ある年齢でシステム単位の再編成が起きる」可能性が見えてきたのです。
脳も例外ではなかったということになります。
重要なのは、「この年齢になると急に老化する」という意味ではないことです。
個人差は非常に大きく、例えば次の要因で脳老化の進行は変化します。
睡眠
運動
栄養
教育
社会的交流
また、脳には高い可塑性があります。
たとえ加齢変化が始まっても、機能維持できる可能性があります。例えば……
運動習慣
知的活動
睡眠改善
血糖管理
今回の研究は「脳老化は段階的に起きる」可能性を示した重要な研究ですが、まだ因果関係までは完全には解明されていません。
今後はなぜその年齢なのか?どの生活習慣が影響するか?どうすれば変化を遅らせられるのか?といった研究が進むと考えられます。
本記事は脳老化と加齢研究に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾病の診断、治療、予防を目的とするものではありません。
体調や認知機能に不安がある場合は、医師等の専門家にご相談ください。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は5月28日(木)午前10時です。
今回はケンブリッジ大学の脳老化研究を紹介したのですが、次回はスタンフォード大学の老化研究について紹介します。
『体の構造が大きく転換(老化)する年齢は34歳・44歳・60歳・78歳【スタンフォード大学の研究】』
スタンフォード大学の研究は過去にも書きましたが、ケンブリッジと比較用に書き直して改めて投稿します。
次の次の記事で、ケンブリッジ大学の研究とスタンフォード大学の研究を比較・統合した記事を書こうと思います。
少しでもご参考になれば、スキを押して下さい。
