パラレル≠相対≠Destiny #22 (2012年版)
「あの時は大変だったな。ドルフィンと会った前夜の空間に生身の璃地君が入ってきちゃったから一度に大量過ぎる記憶の逆流が起きてしまって、魂と脳が制御しきれずに記憶に押し潰されそうになっていて、その状態が続いているとへたすると自我を失うところだったのよ。私が通りかかったのは偶然だったけど本当に見つけることが出来て良かったわ」
自我を失う?あの時ってそんなにやばかったんだ・・・。
「でも、今俺は平気だぜ?」自我はしっかり保っている。
「それはね。この部屋が特殊な細工をされてて、中に入っていると記憶の逆流を防ぐことが出来るのよ。あと、太陽の光を受けて育った食べ物を食べて、体の中から現状の時間に体を調整することも大事なのよ」
「へ~。ここに連れて来られたのには理由があったんだ」
じゃなきゃ普通、生徒なんか自分の部屋に入れないよな。
「あとね・・・。事故後に言うことじゃないと思うんだけど、瑠威君が璃地君の生まれ変わりだなんて全然考えられなかったんだよ」
「だろうね。生まれ変わり自体信じられないからな」
静かに頭を横に振る表情はこれから言うことを、なんとも言いずらそうに顔を固くした。
「生まれ変わりは、生きいてる人皆がするんだよ。だから、記憶が逆流する現象も知っていたし、逆流を防ぐ方法も見つけることが出来た」
俺の頭の中にある記憶が先生の言っていること全てを肯定していた。ちょっと前までの俺なら全く信じなかっただろう。
「生まれ変わった人って、少なからず前世の記憶が残っているものがあって、それは癖等として出てくるの。例えば利き腕とか」
その言葉にはさすがに疑問を浮かべた。俺の利き腕は左だが璃地は右だ。
「本来、同じ魂は生まれ変わってもずっと利き腕は同じなんだけど、何らかの変化や事柄が起きると変わったりするんだよ。だから・・・ね?」
俺は「うん」と言って察した。利き腕が右だった璃地の魂が、右腕を失ったことによって何十年と左手だけを使っていくうちに利き腕が左へと変化した。
「大丈夫。俺はもう全て知りたいと思っているんだ。だから、そんな悲しそうな顔しないでよ」
先生も一緒に悔やんでくれているのだろう。
「私もわかっていたなら璃地君の運命を変えることが出来たのに・・・」
「先生が気に病むことじゃないさ。俺が左利きの時点でもう変えることが出来なかったんじゃないかな?」
フォローにもなっていない言葉を言って、静かさだけが残った。
沈黙も最高に重くなり、話の繋ぎとして疑問に思っていたことを言ってみた。
「やっぱり俺が帰るところは未来なのか?」
先生は両手でカップを強く握り、口をつけた後話してくれた。
「うん。その為に私とドルフィンが来たんだよ。あと、瑠威君にとってはこの世界が過去よ」
「そうか。でも・・・」
俺が言う前に先生は口を開いた。
「でも、の次はないわ。本当なら璃地君の記憶が瑠威君に流れきってしまう前に、今すぐ帰りたいけど、安定した方法で帰るには時間が必要なの」
「流れきってしまうと自我を失うからか?」
「えぇ。璃地君の記憶が全て瑠威君に流れきったら最悪の場合、瑠威君の記憶が璃地君にまで及ぶ恐れがあるからよ」
俺は返事が出来ないでいた。璃地まで影響したなら璃地も自我を失うのだろう。
「・・・、どうしても行かなきゃ駄目なようだな」
もう、わかっていた。俺が璃地の生まれ変わりだと予想していた時には、俺を照らす光はなく、暗闇だけが広がり、この世界にとって違う存在なんじゃないのかと。幼馴染四人組の本当は、幼馴染三人組だったんじゃないかと・・・。先生の口から正解と言われた時には腹を括らざるを得なかった。
「でも、どうするんだ?いきなり居なくなったら璃地や母さんは心配すると思うけど?」
「それもちゃんと考えているわ」
そう言って先生は立ち上がり、クローゼットの中からひとつの箱を取り出し、テーブルの上で開けた。
「これは?」中からはのっぺらな仮面と一通の手紙が入っていた。
「この仮面は瑠威君の仮面よ。まさか使うことになるなんて思っていなかった」
「俺の?」
「えぇ、そうよ。この仮面を着けたら記憶の逆流を止めることが出来きて、私の部屋と同じ効果が得られるわ。だからもし、記憶が一度に流れてくる気持ち悪さがあれば着けてね」
仮面を取り出してみると、穴が開いておらず何も見えなくなってしまうと思ったが・・・。
「あ、あれ?」一度顔に当ててみた。
なんの紐も着いていない仮面は何故か顔から落ちず、最初は真っ暗だった視界に『STAND BY』の文字が出てきて、数度瞬いた後『OK』と見えたら視界がクリアになった。仮面を着けている感覚は全く存在しない。
「どう?見えてる?」
先生は確認するようにこちら側に手を振っている。
「うん、見えてる。すごいなこれ」
「けっこうすごい物なんだよ。いろんな機能付いてて、望遠機能だったり、文字の自動翻訳だったりあるの」
「へ~、便利だな。・・・どうやって外すんだ?」今はこの仮面のことは置いておこう。
「それはね。仮面の中央辺りを二回トントンとすれば外れるよ」
そう言って先生は自分の顔を掴むような手をして指を二回動かし、俺は同じように仮面を掴んで指で叩いた。視界は暗くなり仮面が取れるようになる。
「大事にしてね」
笑顔で言われるセリフに「うん」と応えた。
次は箱に入っているもうひとつの物だ。
「こっちは?」
俺が指差すと「これはね」と箱から出した。
「あなたのお父さんからお母さんへの手紙よ」
「母さんへの?」
「聞いた話だと、瑠威君を未来に連れて行くという内容だそうよ。頃合を見て渡す様言われているわ。・・・見る?」
「いいのか?」
「えぇ。どうやって連れて帰るか見たほうが早いじゃない」
「でも封が・・・」
「大丈夫よ。本物を開けなくても手紙は読めるわ」
そう言った先生の手には、もう一通の手紙があった。蜃気楼の能力を使ったんだ。
「見てないものまで出せるんだ」
「そうよ」と言葉が返って来て、複製した封筒の端を手で切って手紙を出し、見る様渡された。
内容を掻い摘んで言うと、今は海外に住んでいて子供を引き取りたいと書いていた。なんと勝手なものだ!
「これを見せたらわかってくれると言っていたわ。あと・・・」
「あと?」
先生はかなり言いずらそうに顔を逸らした。
「連れて帰ったら、後日、父子は死んだことにするって。その方が諦めもつくからって・・・。
初め衝撃が走るほどビックリして、またなんと勝手なものだ!と思いたいが、死んだことにすれば確かに話が早いが・・・、納得したくない。璃地や母さんに「俺未来に行くよ」と言っても信じてもらえないと思う。
数秒考えた。
「・・・いいよ、それで」
「ほんとに!?」
予想していた反応と違って驚いたのだろう、すごい勢いでこちらを向いた。
「あぁ。もうどの道会えないんだろ?思い出している璃地の記憶だと、再会は無いからな」
「ごめんね・・・」
「なんで先生が謝るんだよ?」
「なんとなく」
また空気が重くなりそうだったので聞くべきことを聞いてみた。
「出発はいつになりそうなんだ?さすがに今からは心の準備が出来ないんだが?」
「そうね。・・・今年の夏至に帰るわ。一年で一番太陽の光が多いから安定して帰れるのよ」
夏至か。六月後半だから・・・。
「あと、三ヶ月ってところか」
一月にドルフィンが半年後とかって言ってたな。この世界に居られるのも残り少ない時間だ。
「わかった。それまでに心の準備をしておくよ」
その日は右目に能力をかけ直してもらい、璃地の入院している病院に向かった。
四月になり俺らは三年に進級した。
璃地の様子も徐々に事故前まで戻ってきているが、俺がこっちに居る間に璃地が退院することは難しそうだ。
五月に入り、母さんがあいつからの手紙を受け取った。
緑川先生が能力で顔を変え、秘書風の姿で現れた。ちなみに、あいつは海外で会社を経営していることになっている。
手紙を見た瞬間に全てを察したようだった。
その日はずっと泣いている母さんの横に居た。
次の日に璃地や雨咲、梓雅にも話した。初めは驚き、「断っちゃえよ」とか言っていたが何度も説得し、数日かけて納得してくれた。たまには帰ってくると、嘘すらついてやれなかった。
最終月である六月の初め、璃地の体調が良いということで半日だけ帰宅が許された。
久々に帰って来たのに幼馴染の二人を呼んで、俺の送別会をしてくれた。
送別会と言っても、いつものように喋って過ごすような、十年以上やってきたようなことだった。俺にとっては家でやった最後の楽しい会話になった。
そして最後の日。
今年の夏至は六月二十一日で日曜日。現在の時刻は十一時。自宅の自室、右側にある自分の机の椅子に俺は座っている。左側には弟の璃地。見送る為に今日も一時帰宅をしている。雨咲と梓雅も来てくれて、二人は今リビングで待っている。
時間移動で大量の物を持っていくことが出来ないらしく、荷物は最少でと言われた。手荷物をひとつだけ持ち、中身はほとんど何も入っていないが一個だけ持って行きたい物があったからそれを入れている。服は昨日、時間移動に最適と言っていた真っ黒い服を上下渡された。外は十分暑い気温を保っているのに長袖。
「着るとそうでもないよ」と言われ、実際渡されたその場で上着だけ着ると全然暑くなかった。今はもう着替えているが、よくよく見ると母さんが冬に着るジャケットに似ている。
「俺の荷物はそのまま置いていくから・・・、まぁなんだ、使ってくれ」
左利き用のはさみ等、俺が使っていた物は机に置いている。
「うん。兄貴がいつ帰って来てもいいように大切にしとくよ」
「そうか」と一言発したが、心臓に針を刺した感覚だった。
その時『ピンポーン』とインターホンの鳴る音がした。おそらく、十一時に迎えに来ると言っていた緑川先生だろう。
先生は教師の仕事を家の都合でと先週退職した。初めから、そうなる可能性があると働き出す前に校長に言っていたらしい。俺も学校には海外の学校に転校することになっている。
最後に十年以上お世話になった部屋を一周見回し、一階へと降りた。長い時間過ごした空間との別れは、案外あっさりとしているが寂しさも、もちろんあった。
階段の下では母さんが居て、俺の真っ黒い姿を見たら涙を浮かべた。リビングに居た雨咲と梓雅も玄関まで出てきた。
涙を拭いた母さんは玄関を開ける。
「こんにちは」
一見、社長秘書を連想させられる格好をした女性が扉の外に立っていた。
つづく
