経営に統計学を取り入れる意味について考えてみた
最近、仕事のことを考えていて、「効率がいい」とはどういうことなのか、少し見え方が変わってきた。
これまで効率というと、
「早くやる」
「安くやる」
「少ない人数でやる」
というイメージが強かった。
もちろん、それも効率だと思う。
でも、新しい商品やサービスを作る時には、別の効率がある。
それは、
「少ないお金と時間で、どれだけ多く学べるか」
という効率だ。
たくさんやれば成果が出るわけではない
例えば勉強。
6時間机に座っていても、ずっと集中しているとは限らない。
実際に頭に入っている時間が1時間なら、大事なのは「6時間勉強した」という事実ではなく、
6時間のうち、どれだけ学習に変わったか
だと思う。
仕事も同じだ。
たくさん広告を出しても、お客様から問い合わせが来なければ意味がない。
たくさん問い合わせが来ても、契約にならなければ売上にはならない。
つまり、
投入したものが、どれだけ成果に変わったか
を見る必要がある。
これを「コンバージョンレイト」と考えると分かりやすい。
日本語にすると「変換率」だ。
事業は、変換の連続になっている
事業を簡単にすると、
お金や人を使う
↓
商品やサービスを作る
↓
お客様が興味を持つ
↓
契約する
↓
売上になる
↓
利益が残る
という流れになっている。
どこか一つでも詰まれば、利益にはならない。

だから売上が伸びない時に、
「もっと働こう」
「もっと広告を出そう」
と考える前に、
どこで止まっているのか
を見る方が大切なのだと思う。
例えば不動産で考えてみる
大型犬の賃貸住宅で見てみると
例えば、大型犬を飼っている人は、住める賃貸住宅が少ない。
これは一つの困りごとだ。
そこで、
- 犬が滑りにくい床
- 庭
- 足を洗える場所
- 温水シャワー
- 汚れを家に持ち込まない動線
などを作ったとする。
お客様にとっては、普通の賃貸住宅より便利になる。
でも、ここで大事なのは、
便利なものを作っただけでは、事業として成功したとは言えない
ということだ。
例えば普通なら家賃10万円の家が、この工夫によって15万円でも借りてもらえる。
そこで初めて、
お客様にとっての価値が、経済的な価値に変わった
ことになる。

この価値がお金に変わる部分を経営学ではマネタイズと呼ぶ、お金を出して商品サービスを買う瞬間だ。
僕は最近、マネタイズとは、
「価値をお金に変換すること」
なのだと考えるようになった。
未来のことは、最初から分からない
新しい商品を考えた時、一番難しいのは、
「本当に売れるのか?」
という問題だ。
未来のことなので、誰にも正確には分からない。
それなのに僕たちは、つい、
「これは絶対売れる」
「これはダメだ」
と白黒をつけたくなる。
でも実際の世界は、それほど単純ではない。
そこで役に立つのが、
「今ある情報では、このくらいの可能性だろう」
と考える方法だ。
例えば、大型犬向け住宅を作ろうと考えたとする。
まだ何も調べていない段階では、
「うまくいく可能性は40%くらいかな」
と考える。
もちろん40%という数字が正確である必要はない。
大切なのは、
自分が今どのくらい確信しているのかを意識することだ。
新しい事実が出たら、考えを変える
そこから大型犬を飼っている人に話を聞いてみる。

すると10人のうち8人が、
「そんな家があったら住みたい」
と言った。
そうしたら、
「思っていたより需要があるかもしれない」
と考える。
最初の40%を、例えば60%くらいまで上げる。
次に広告を出してみる。
予想以上に問い合わせが来た。
すると、
「やはり需要はありそうだ」
と考えて、60%を70%くらいに上げる。
さらに実際に高い家賃で1件契約になった。
すると、
「これは本当に成立する可能性が高くなってきた」
と考える。
逆に、まったく問い合わせが来なかったら、
「自分の考えが間違っていたかもしれない」
と確率を下げる。
つまり、
最初の考えに固執せず、新しい事実が出るたびに、自分の見立てを修正していく。

この考え方を統計学では「ベイズ的な考え方」と呼ぶ。
難しい名前だが、本質はかなり普通のことだ。
予想する。
確かめる。
違っていたら考えを直す。
また確かめる。
これを繰り返しているだけだ。
天気予報と同じように考える
もっと身近な例なら、空を見た時と似ている。
朝の天気予報では、
「今日は雨が降る可能性30%」
だったとする。
ところが昼になって、空が真っ黒になってきた。
雷も聞こえてきた。
それでも、
「朝は30%と言っていたから、雨は降らないだろう」
とは考えない。
新しい情報を見て、
「これは80%くらい降りそうだな」
と考えを変えるはずだ。
これが基本的な考え方だ。
情報が増えたら、判断も変える。

経営でも同じことをすればいい。
1件成功しても、正解とは限らない
ここも大事だと思う。
1件成功すると、人はすぐに、
「これは売れる」
と思ってしまう。
でも、たまたまかもしれない。
逆に1件失敗すると、
「この商品はダメだ」
と思ってしまう。
これも早すぎる。
新しい情報は、
正解を一発で教えてくれるものではない。
自分の考えを少し強くしたり、少し弱くしたりする材料だ。
だから1件成功したら、
「この商品は絶対売れる」
ではなく、
「売れる可能性が前より高くなった」
と考える。
1件失敗したら、
「全部間違っていた」
ではなく、
「どこかの条件を見直した方がよさそうだ」
と考える。
例えば、
「大型犬というニーズが弱い」のかもしれない。
「家賃15万円が高すぎた」のかもしれない。
「場所が悪かった」のかもしれない。
「大型犬可だけでは足りず、庭や温水シャワーまで必要だった」のかもしれない。
失敗した時に商品全体を捨てるのではなく、
何が違っていたのかを探す。
これも統計学的な考え方だと思う。
自信がない時は、小さく試す
この考え方をすると、お金の使い方も変わる。
まだ本当に売れるか分からない時に、いきなり大金を使う必要はない。
最初はお客様に話を聞けばいい。
次に広告を出してみる。
それでも反応が良ければ、小さく商品を作ってみる。
売れたら、少し投資を増やす。
また売れたら、さらに増やす。
つまり、
自信がない時は小さく試し、
自信が増えたら大きく投資する。
という考え方だ。
ここが重要だと思う。
「正解が分かってから投資する」のではない。
未来の正解は、いつまで待っても完全には分からない。
だから、
分からないなりに小さく動いて、現実から情報をもらう。
その情報を使って、次の投資額を決める。
商品やサービスが本当に売れるかどうかは売ってみないと分からない、実際に売って調べてみる事をテストマーケティングと呼ぶ。
そして、この確率の確からしさを上げ下げする考え方をテストマーケティングに加えて考えてみると面白い事が分かる。
そうすると、テストマーケティングの意味も変わって見えてくるのだ。
この考え方をすると、テストマーケティングの目的も変わる。
テストとは、
成功するかどうかを一発で判定するもの
ではない。
次の判断を少し良くするために情報を集めるもの
になる。
例えば広告を3万円出して、契約が取れなかったとする。
普通なら、
「3万円損した」
と考えるかもしれない。
でも、
「大型犬という言葉には反応する」
「温水シャワーへの反応は弱い」
「庭への反応が非常に強い」
ということが分かれば、次の商品を改善できる。
3万円でその情報が取れたなら、
そのテストには意味がある。
だから新しい事業では、
売上だけでテストを評価してはいけない。
「このテストから何を学べたのか」
も見る必要がある。
「失敗しない」より「安く失敗する」
新しいことを始める時、失敗をゼロにするのは難しい。
むしろ、ほぼ不可能だと思う。
だから、
失敗しないことを目指すのではなく、失敗した時の損失を小さくする。
そして失敗から何かを学ぶ。
1000万円投資して、
「やっぱり売れませんでした」
では痛すぎる。
それなら、その前に10万円、30万円、100万円という小さな実験を重ねた方がいい。
そして確信が高くなったところで、1000万円を投資する。
これは慎重すぎるという話ではない。
むしろ、
大きく動くために、小さく確かめる
という考え方だ。
統計学は、数字を計算するだけのものではない
これまで僕は、統計学というと、
平均を出したり、
グラフを作ったり、
難しい計算をしたりするものだと思っていた。
でも最近は、それだけではないと思っている。
統計学は、
「よく分からない世界で、どう判断するか」
を考えるための道具でもある。
例えば、
「この商品は売れるか?」
と聞くのではなく、
「今ある情報では、どのくらい売れそうか?」
と考える。
そして、
「次に何を知れば、その判断がもっと良くなるか?」
と考える。
さらに、
「今の確信度なら、いくらまで投資していいか?」
を考える。
この3つがつながる。
可能性を考える。
情報を集める。
考えを更新する。
投資額を変える。
統計学を意思決定の中に入れるとは、こういうことなのだと思う。
これを実際に不動産の仕事の中で考えてみる、そうするとお医者さんの様な問診をして解決策を決める、問診型不動産会社にもつながるのではと考える様になった。
最近、僕は「問診型不動産会社」という考え方を色々と検討している。
病院のお医者さんのように、まず相手の話を聞く。

どこに困っているのかを探す。
同じ困りごとを持っている人が他にもいるのかを見る。
そして、小さく商品にする。
実際に試す。
反応を見る。
改善する。
つまり、
話を聞く
↓
困りごとを見つける
↓
こうすれば解決できるのではないかと考える
↓
小さく試す
↓
結果を見る
↓
考えを修正する
↓
もう一度試す
という循環になる。
問診することにも意味がある。
実験することにも意味がある。
失敗することにも意味がある。
全部、
「今より少し現実を正確に知るため」
にやっている。
経営とは何だろう
今のところ、僕の中では経営をこう考えるとしっくりくる。
経営とは、未来が分からない中で、現実から少しずつ学びながら、お金や人をどこに使うか決め続けること。
最初から正解を知っている必要はない。
予想する。
小さく試す。
結果を見る。
違ったら直す。
うまくいったら少し大きくする。
また結果を見る。
その繰り返しだ。
そして重要なのは、
自分の最初の考えを守ることではなく、現実に合わせて考えを変えられること
なのだと思う。
統計学というと難しく聞こえる。
ベイズという名前も難しく聞こえる。
でも根っこの考え方は意外と単純だ。
「今の自分の考えは仮のものだ。新しい事実が出たら、ちゃんと考え直そう」
ということだ。
これは数字の技術というより、
不確実な世界とうまく付き合うための姿勢
なのかもしれない。
