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藪の中のLAメタル(1)ハリウッドの✖✖✖の巣窟の章 ──『NÖTHIN’ BUT A GOOD TIME — THE UNCENSORED HISTORY OF THE ’80s HARD ROCK EXPLOSION』を読む

1980年代に爆発的人気を得たアメリカのハードロックシーンの裏側を、関係者への徹底したインタビューで再構成したノンフィクション。
Tom Beaujour(トム・ボージュール)+Richard Bienstock(リチャード・ビーンストック)による『NÖTHIN’ BUT A GOOD TIME — THE UNCENSORED HISTORY OF THE ’80s HARD ROCK EXPLOSION』(2021)は、アメリカで刊行直後から話題となり、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー入りを果たしました。

✳︎アイキャッチ画像出典:マクミラン社公式サイト

刊行から4年経った今、私はようやく読み始めました。ペーパーバックが手元に届くまでのあいだ、YouTubeで当時のニュースクリップを見たり、Spotifyの関連ポッドキャストを少し聴いたりしながら期待をふくらませていました。

まずこの本を手に取ると、200人を超える登場人物と535ページという分厚さに圧倒されます。ニュースやポッドキャストでも、この人数と分厚さには必ず触れられていました。
表紙はとても派手で、サブカル的なヘアメタル本のようにも見えます。しかし中身は、80年代アメリカン・ハードロックシーンの盛衰の歴史的背景が、膨大な証言から立ち上がってくる重厚なドキュメントで、決して軽い読み物ではありません。
ハリウッドのクラブで胎動した熱狂が、いかにして全米規模のムーブメントへと変貌していったのか——そのプロセスが、当事者たちの声によって丹念に描かれています。

私自身、高校時代はLAメタルど真ん中の青春を過ごし、イングヴェイはもちろん、ラットなどもよく聴いていました。唯一ライブに行ったのもラットの追加公演で、その頃の自分の記憶も自然と蘇ります。
派手な装丁と内容の深さ、そのギャップもまた、この本の魅力のひとつだと感じます。

本稿では、このリアル“藪の中”のような証言集を、私自身の青春時代の記憶と重ねながら読み解いていきます。第1回は、ハリウッドのクラブ文化がうごめく混沌の章から。

この章のタイトル“1. The pussy-plucking-posse pocket of Hollywood”ですが、どうもダブルミーニングを含んでいるらしい。LAメタルを語る本書にふさわしい出だし。純真な高校生だった当時の私がこの本を読んだらどう感じるだろう...

なにしろ分厚い本なので、1章ずつ、ゆっくり読んでいくことになると思います。

🔷この本の語りの構造とこの章の読みどころ

この本の魅力は、証言の積み重ねそのものが物語を形づくっていく構造にあります。
多くの証言者=登場人物が同じ時代・同じ場所を語るけれど、語り口も温度も立場も異なる──そこから浮かび上がる“全員少しずつ違う真実”。これはまるで、芥川龍之介『藪の中』のような多焦点構造です。真相はひとつではなく、むしろ読者の側に解釈を委ねてくる。そのスタイルがLAメタルの混沌と熱狂と嫉妬を立体的に再現しています。

この章で鍵となるのは、3つのクラブの対比です。

◎Whisky a Go Go(ウィスキー)
ジミ・ヘンドリックス、クリーム、レッド・ツェッペリンらも演奏した伝統と格式のある由緒あるクラブ
ミュージシャンにとっては特別なステージ。

◎Starwood(スターウッド)
やや荒れた空気をまとったワイルド・ウエスト(なんでもありの無法地帯*章末に註釈)的な存在。実力者もいればクセの強い連中も集まる場所。しかしプロ意識は強い。

◎Gazzarri’s(ガザリズ)
章タイトルのダブルミーニングが示すように、より混沌とエネルギーが渦巻く、若いバンドと若い客が入り混じる独特の熱狂がある空間。
ヴァン・ヘイレンはブレイク前は「Gazzarri’s band」と言われていて微妙に格下に見られていた気配を感じます。

この3つのクラブは、のちにLAメタルが肥大化していく基盤となった生態系のようなものです。
ガザリズで人気が出たバンドはスターウッドへ、そして最終的にはウィスキーへ──というわけではなく、それぞれに異なる文化圏があった。まさに音楽シーンの小さな階級社会が描かれています。
以下に引用するケリー・ガルニの証言からは、観客層・文化圏・クラブごとの階層感が存在していたことが伝わります。

And Van Halen was down the street at Gazzarri's, which in the '80s became a very popular heavy metal club but back in the '70s was more of a college-kid hangout. It was a different type of person that came to see us at the Starwood.

KELLY GARNI (bassist,  Quiet Riot / p.10) ペーパーバック版による

「ヴァン・ヘイレンは通りを下ったガザリズにいた。そこは80年代には人気のヘヴィメタルのクラブになったけれど、70年代当時はもっと大学生のたまり場のようなところだった。スターウッドに僕たちを見に来る客層とはタイプが違っていたんだ。」


🔷ヴァン・ヘイレンをめぐる人間模様

この章の中心的存在はやはり ヴァン・ヘイレン。

・Gazzarri’sでの圧倒的な熱量
・デイヴ・リー・ロスとオーナーの個人的な親密さ
・ロドニー・ビンゲンハイマーがスターウッドにヴァン・ヘイレンを引っ張ったこと
・そこへKISSのポール・スタンレーとジーン・シモンズが訪れ、エディを見抜いてしまったこと→ヴァン・ヘイレンのピックアップ

こうした証言を点で並べるのではなく、作者はまるでパズルのピースのように順序よく配置して、読者が気づくように導いている。その構造が実に巧妙だと思いました。

そして証言者の温度差も最高にドラマティック。

・素直にエディを天才と認める派
(スティーブン・パーシー〈Ratt〉、ボビー・ブロッツァー〈Ratt〉、ミック・マーズ〈Mötley Crüe〉 など)

・「いや、ランディ(・ローズ)の方がテイストフル、ジョージ(・リンチ)の方が ヘヴィ」と語る派

・どうしてもヴァン・ヘイレンの成功を受け入れられない派

読んでいると、ヴァン・ヘイレンの“成功を受け入れること/受け入れられないこと”という個々人の意識が、“独自路線で生き残るか/エピゴーネン化するか”、の分岐点になっていたようにも見えてきます。

エディの天才を素直に認めた人ほど、ヴァン・ヘイレンとは被らない路線へ舵を切り、認められなかった人ほど、自分の立場の正しさを証言の中で強調する──。
その人間模様が本当に面白く、興味深いものでした。

🔷この章のまとめ

LAメタルが生まれる前夜の“沸点直前”を証言で編み上げた章でした。

・3つのクラブ文化の違い
・ヴァン・ヘイレンの登場と周囲の衝撃
・その裏にある嫉妬と羨望
・そして、証言を通じて立ち上がる群像劇

読めば読むほど、この混沌のエコシステムからなぜあのムーブメントが生まれたのかが自然と見えてくる。
まさに藪の中的構造が効いていて、読者自身が点と点をつないでいく快感がある章でした。

では次回は“2. Dinosaur Music”を読みます。もう少しお待ちください。

【章末註釈】ワイルド・ウエスト(無法地帯)について

サンセット・ストリップ周辺は現在ウエストハリウッド市に属していますが、同市が成立したのは1984年。それ以前は行政区分が曖昧で、警察権限も十分に機能していませんでした。1970〜80年代初頭にクラブ文化が爆発的に成長した背景には、こうした行政の空白地帯的な状況があったと言われています。

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