適正価格の付け方
商品やサービスの「適正価格」は、いくらなのだろうか。
原価に30%の利益を加えた金額だろうか。
競合他社の平均価格だろうか。
顧客が「高い」と言わずに買ってくれる金額だろうか。
それとも、会社が必要な利益を確保できる金額だろうか。
おそらく、どれか一つだけでは決まらない。
適正価格は、誰にとって適正なのかによって変わるからである。
顧客にとっては安くても、会社が赤字になる価格がある。
会社に十分な利益が残っても、顧客が価値を感じず、誰も買わない価格もある。
顧客と会社の両方が納得していても、競合と比較したときに見劣りし、新しい顧客に選ばれないこともある。
適正価格は、一つの正解ではない。
ただし、「人によって違います」で終わらせると、価格について何も決められなくなる。
そこで、適正価格を三つに分けて考えてみたい。
顧客にとっての適正価格、市場にとっての適正価格、会社にとっての適正価格である。
この三つのバランスが取れて、初めて価格は長く成立する。
価格は、価値を数字で表したものである
価格とは何か。
難しく考えれば、原価、市場、需要、競争、ブランドなど、さまざまな要素が関係している。
しかし、顧客の立場から簡単に言えば、価格はその商品から得られる価値、つまり効用をお金で表したものである。
効用というと少し難しく聞こえるが、要するに、その商品によって顧客が何を得られるかという話である。
時間を短縮できる。
手間を減らせる。
売上を増やせる。
失敗を防げる。
不安を減らせる。
気分がよくなる。
便利になる。
見た目がよくなる。
自分ではできないことを代わりにしてもらえる。
顧客は、材料や作業時間だけにお金を払うのではない。
商品を購入した結果、自分にどのような変化が起きるのかにお金を払っている。
たとえば、深夜に自宅の鍵をなくした人が鍵屋に支払うのは、鍵を開ける作業時間だけではない。
玄関の前で途方に暮れている時間を終わらせることに支払っている。
Webサイト制作を依頼する会社も、ページの枚数だけを買っているわけではない。
問い合わせを増やしたい。採用応募を増やしたい。営業資料の代わりになるものが欲しい。会社の信頼性を伝えたい。古いサイトを見た顧客に不安を与えたくない。
こうした変化を期待して、お金を払っている。
価格とは、商品の中に入っている材料の値段だけではない。
その商品が顧客に与える変化を、数字で表そうとしたものである。
ただし、その価値はすべての人に同じではない。
だから、価格を決める前に、まず決めなければならないことがある。
まず、誰を顧客と定義するのか
価格を決めるとき、多くの会社は、いきなり金額を考え始める。
競合はいくらか。
原価はいくらか。
月に何件売ればよいか。
もちろん、それらも必要である。
しかし、その前に考えるべきことがある。
誰を顧客と定義するのか。
同じ商品でも、誰が使うかによって価値は変わる。
たとえば、一人の作業時間を毎月1時間減らせるシステムがあるとする。
社員が5人の会社なら、減らせる時間は月に5時間である。
社員が500人の会社なら、単純に考えて月に500時間になる。
同じシステム、同じ機能でも、顧客が受け取る価値は同じではない。
月額10万円という価格を、5人の会社は高いと感じるかもしれない。
一方、500人の会社にとっては、十分に安い可能性がある。
どちらが正しいという話ではない。
対象顧客が違えば、適正価格も変わるという話である。
個人経営の飲食店と、全国に店舗を持つ会社では、Webマーケティングに使える予算も、得られる効果も違う。
予約を月に5件増やしたい店と、問い合わせを月に500件増やしたい会社では、必要な仕組みも違う。
すべての顧客にとって適正な価格を作ろうとすると、結局、誰にも合わない価格になりやすい。
小さな会社には高すぎる。
大きな会社には内容が足りない。
安さを求める顧客には余計なサービスが多い。
手厚い支援を求める顧客にはサポートが少ない。
だから、価格を決める前に顧客を決める必要がある。
自社の商品は、誰の、どのような問題を解決するのか。
その顧客は、その問題を解決することに、どのくらいの価値を感じるのか。
価格の話は、そこから始まる。
顧客にとっての適正価格
顧客にとっての適正価格は、比較的分かりやすい。
その商品から得られる価値より、支払う価格の方が安いと感じられることだ。
10万円を支払うことで、30万円の損失を防げる。
月額5万円を支払うことで、毎月10時間の作業を減らせる。
100万円のWebサイトによって、採用や営業の問題が改善される。
顧客がそのような価値を感じられるなら、価格は適正になり得る。
ただし、実際に30万円の価値があれば、それだけで売れるわけではない。
顧客が、その価値を理解している必要がある。
売り手が「この商品には100万円の価値があります」と考えていても、顧客に伝わっていなければ、顧客にとっての価値は存在しないのと同じである。
少なくとも、購入の判断には使われない。
ここは、Webマーケティングとも深く関係する。
企業側は、自社の商品について詳しく知っている。
どのような工程で作っているか。
どこに手間をかけているか。
他社と何が違うか。
どのような失敗を防いでいるか。
問題が起きたとき、どこまで対応するか。
しかし、顧客から見えているのは、商品名、短い説明、写真、料金くらいかもしれない。
売り手にとっては明らかな価値でも、顧客には見えていないことがある。
その状態で「この価格は適正です」と言っても、顧客は納得できない。
顧客にとっての適正価格を作るには、価値そのものだけでなく、価値の説明も必要になる。
商品を改善することと、商品の価値を伝えることは別である。
良い商品でも、価値が伝わらなければ売れない。
反対に、説明だけが上手でも、中身に価値がなければ長くは続かない。
顧客にとっての適正価格とは、商品の価値が価格を上回り、さらに顧客自身がそれを理解できる状態である。
市場にとっての適正価格
顧客が価値を感じれば、それだけで価格が成立するのだろうか。
ここで競合との比較が入ってくる。
顧客は、自社の商品だけを見て購入を決めるわけではない。
他社の商品と比較する。
別の方法で代替できないか考える。
自分でできないか考える。
今回は何も買わず、問題を放置するという選択肢まで含めて検討する。
たとえば、同じようなWeb制作サービスが二つあるとする。
A社は100万円で、調査、文章作成、撮影、公開後の改善支援まで含まれている。
B社は50万円だが、文章と写真は顧客が用意し、公開後の支援は含まれていない。
価格だけなら、B社の方が安い。
しかし、自社で文章や写真を用意できない顧客にとっては、A社の方が適しているかもしれない。
反対に、社内に制作担当者がいて、必要な部分だけ外注したい会社なら、B社の方が合理的である。
市場にとっての適正価格は、単純に競合より安いことではない。
価格と提供される価値のバランスが、ほかの選択肢と比べて優れていることである。
競合より高くても、それ以上の価値があるなら選ばれる可能性がある。
競合より安くても、品質やサポートに不安があれば選ばれないこともある。
ここで大切なのは、競合の価格だけを調べないことである。
何が含まれているのか。
誰を対象にしているのか。
どこまで責任を負うのか。
顧客側にどのくらいの作業が残るのか。
実績や信頼にどのような違いがあるのか。
価格と価値を一緒に比較する必要がある。
市場には相場がある。
相場から大きく離れれば、売りにくくなる。
しかし、相場の真ん中に合わせれば、必ず適正になるわけでもない。
競合他社も、十分な利益を出せているとは限らない。
業界全体が長い間価格を上げず、社員の低賃金や長時間労働によって価格を維持している可能性もある。
市場相場は無視できない。
だが、相場は答えではない。
顧客が比較するための基準の一つである。
市場にとって適正であるとは、競合と同じ価格であることではない。
競合や代替手段と比較して、価格と価値のバランスに選ばれる理由があることである。
会社にとっての適正価格
顧客が価値を感じ、競合と比べても魅力的であれば、適正価格が完成する。
そう言いたいところだが、もう一つ確認しなければならない。
その価格で、会社を続けられるかどうかである。
顧客から見れば安くて魅力的で、競合よりも内容が充実している。
問い合わせも多く、契約も取れる。
しかし、売るたびに利益がほとんど残らない。
社員が残業しなければ納品できない。
新しい人を採用できない。
設備やシステムを更新できない。
問題が起きたときに対応する余裕もない。
それでは、会社にとって適正な価格とは言えない。
売れているから正しいとは限らない。
安くて内容が充実していれば、売れるのはある意味で当然である。
顧客にとって都合がよすぎる条件を出せば、注文は増える。
問題は、その注文を受け続けた会社がどうなるかである。
予定表は埋まっている。
電話も鳴っている。
社員は忙しそうに働いている。
事務所のプリンターから見積書が次々に出てくる。少し離れた席では、誰かが昼食を食べながら顧客に返信している。
会社には活気があるように見える。
しかし、利益が残っていない。
忙しさによって、価格設定の失敗が隠れているだけかもしれない。
会社にとっての適正価格には、必要な利益が含まれていなければならない。
ここでいう利益は、経営者が自由に使う余分なお金という意味ではない。
利益は、会社を続けるための余力である。
社員の賃金を上げる。
人を採用する。
教育を行う。
設備を更新する。
商品を改善する。
セキュリティを強化する。
問題が起きた顧客に補償する。
売上が一時的に落ちても、会社を維持する。
こうしたことには、お金が必要である。
今月の原価を払えるだけでは足りない。
将来も同じ商品を提供するために必要な利益まで確保できて、初めて会社にとって適正な価格になる。
三つの適正価格が重なる場所を探す
ここまでの話を整理すると、適正価格には三つの条件がある。
顧客にとっての適正
商品から得られる価値が、支払う価格を上回っている。
または、顧客自身が上回っていると感じられる。
市場にとっての適正
競合商品や代替手段と比較したとき、価格と価値のバランスに選ばれる理由がある。
会社にとっての適正
商品を提供するための費用を回収し、必要な利益を確保しながら、無理なく事業を続けられる。
この三つが重なる価格を探す。
顧客にとって適正でも、会社が赤字になるなら続かない。
会社にとって適正でも、競合と比べて価値が低ければ売れない。
市場で選ばれていても、顧客が期待した価値を得られなければ、いずれ評判が悪くなる。
適正価格とは、最も安い価格でも、最も高い価格でもない。
顧客、市場、会社の三つが無理なく成立する価格である。
ここで重要なのは、「三つの希望を完全に満たす」という意味ではないことである。
顧客は、できるだけ安く買いたい。
会社は、できるだけ多くの利益を残したい。
競合も、顧客を獲得するために商品を改善し、価格を変えてくる。
全員が完全に満足する一点を見つけるのは難しい。
だから、正解を一点で探すのではなく、三つが成立する範囲を探す。
その範囲の中で、どの顧客を選び、どの価値を提供し、どのくらいの利益を残すかを決める。
価格設定とは、数字当てではない。
事業の形を決めることである。
適正価格を決められないとき、問題は価格以外にある
三つの条件を並べてみても、どうしても価格が決まらないことがある。
顧客が払える価格まで下げると、会社に利益が残らない。
会社に必要な利益を加えると、競合より大幅に高くなる。
競合に合わせると、社員が無理をしなければ提供できない。
このような場合、値段の付け方が下手なのではないかもしれない。
商品の価値、対象顧客、生産性、原価構造など、価格以外の場所に問題がある可能性がある。
たとえば、次のような問題である。
顧客が感じる価値が小さい
顧客を広く設定しすぎている
価値を必要としていない人に売っている
商品の価値を説明できていない
競合との違いがない
個別対応が多すぎる
無料業務が多い
提供に時間がかかりすぎる
営業や納品の方法が非効率である
原価が高すぎる
対象顧客の予算と商品内容が合っていない
価格表を何度書き直しても三つの条件が重ならないなら、数字ではなく商品設計を見直す必要がある。
価値が足りなければ、商品を改善する
顧客が価格以上の価値を感じていないなら、商品を改善する必要がある。
機能を増やすことだけが改善ではない。
顧客の手間を減らす。
利用方法を分かりやすくする。
問い合わせへの返信を早くする。
導入後の流れを整理する。
成果をレポートで見えるようにする。
失敗しやすい場所を事前に説明する。
保証や責任範囲を明確にする。
顧客が本当に困っている問題に、商品内容を近づける。
少ない追加コストで、顧客が感じる価値を高められることもある。
また、価値はあるのに伝わっていない可能性もある。
その場合は、商品そのものではなく、説明を改善する。
Webサイトに料金だけを掲載しても、顧客は価格の妥当性を判断できない。
何が含まれているのか。
どのような人に向いているのか。
購入すると何が変わるのか。
ほかの方法と何が違うのか。
なぜその価格なのか。
これらを伝える必要がある。
商品の価値を高めることと、価値を伝えることは別である。
どちらが不足しているのかを確認しなければならない。
生産性が低ければ、提供方法を変える
顧客は十分な価値を感じている。
市場でも選ばれている。
それでも利益が残らないなら、生産性に問題がある可能性がある。
一件ごとの個別対応が多すぎるのかもしれない。
毎回、最初から資料を作っているのかもしれない。
営業担当者が無理な条件で受注し、現場が無料対応で埋め合わせているのかもしれない。
商品数やプラン数が多すぎて、社内の管理が複雑になっているのかもしれない。
この場合、単純に価格を上げるだけでなく、提供方法を変える必要がある。
業務を標準化する
テンプレートを作る
受付や案内を自動化する
個別対応と標準対応を分ける
無料業務を有料オプションにする
修正回数を決める
対象顧客を絞る
採算の合わないプランを廃止する
営業、契約、納品の流れを整理する
顧客にとっての価値を下げずに、提供コストを下げられれば、顧客と会社の適正価格が重なりやすくなる。
価格の問題に見えて、実は業務設計の問題だったということはある。
価値を作れないなら、やめる判断も必要である
商品を改善する。
価値の説明を見直す。
対象顧客を変える。
提供方法を効率化する。
それでも、顧客が感じる価値より、提供するための費用の方が大きい商品がある。
必要な価格では誰も買わない。
顧客が買える価格では、会社が赤字になる。
効率化しても利益が出ない。
この状態で商品を残し続けると、ほかの商品や社員の利益によって赤字を補うことになる。
戦略的に赤字商品を残す場合もある。
入口商品として新しい顧客を集め、別の商品で利益を得る。ほかの商品を販売するために必要なサービスとして提供する。そのような理由が明確なら、赤字でも意味があるかもしれない。
しかし、理由もなく赤字商品を続けるのは、顧客のためでも社員のためでもない。
「昔から提供しているから」
「一定の顧客がいるから」
「やめると言いにくいから」
それだけで続けている商品もある。
顧客にとって十分な価値を作れず、会社にとっても利益が残らないなら、その商品は改善する必要がある。
改善しても成立しないなら、提供そのものをやめる判断も必要である。
すべての商品を残すことが、顧客第一主義ではない。
価値の低い商品を惰性で続け、その負担を社員やほかの顧客に回す方が問題である。
結論:適正価格とは、三つのバランスが取れた価格である
適正価格は、一つの正解ではない。
しかし、好きなように決めてよい数字でもない。
まず、誰を顧客とするのかを決める。
次に、その顧客が商品から得る価値、つまり効用を考える。
顧客が得る価値より価格が安い、または安いと感じられるなら、顧客にとって適正になり得る。
そのうえで、競合商品や代替手段と比較する。
価格と価値のバランスに選ばれる理由があれば、市場にとって適正になり得る。
最後に、その価格で必要な利益を確保し、社員に無理をさせず、商品を提供し続けられるかを確認する。
それが成立すれば、会社にとっても適正である。
つまり適正価格とは、次の三つが重なる価格である。
顧客が、支払う金額以上の価値を感じる
市場で比較されたとき、価格と価値のバランスに選ばれる理由がある
会社が必要な利益を確保し、無理なく提供を続けられる
この三つが重ならないなら、価格だけを何度も変更しても解決しない。
価値が足りないのかもしれない。
対象顧客が間違っているのかもしれない。
価値が伝わっていないのかもしれない。
生産性が低いのかもしれない。
原価構造に問題があるのかもしれない。
適正価格をうまく決められないことは、単なる値付けの失敗ではない。
商品や事業の問題を知らせる警告でもある。
価値が足りなければ、商品を改善する。
生産性が低ければ、提供方法を変える。
対象顧客が違うなら、売る相手を見直す。
価値を作れず、改善しても持続可能にならないなら、その商品をやめる。
価格は、商品に最後に貼り付ける数字ではない。
顧客にどのような価値を与え、市場で何と比較され、会社がどのように利益を残すのか。その事業全体を数字にしたものである。
適正価格が見つからないとき、問題は値札の数字ではないかもしれない。
値札の後ろにある商品そのものを、もう一度見直す必要がある。
