Arc column vol.187【問いを渡せる指導者に】
Arc column vol.187【問いを渡せる指導者に】2026/9/6(日)
■指導者の仕事は、答えを教えることではなく、答えにたどり着くための問いを渡すこと
指導者をしていると、「教えなければ」という気持ちになることがありますよね。
選手が間違えていたら正しい答えを伝える。
うまくいかなければ、どうすればいいのかを教える。
迷っていれば、指導者が答えを示す。
もちろん、それも指導者の大切な役割です。
ただ、いつも指導者が答えを与えていると、選手は少しずつ「自分で考える」という機会を失ってしまいます。
「どうしたらいいですか?」
そう聞かれたとき、すぐに答えを教えるのではなく、
「あなたはどう思う?」
「なぜそう考えた?」
「他にどんな方法がある?」
「その選択をしたら、次に何が起こる?」
と問いを返してみる。
問いかけには、相手自身に考えさせる力があります。そして、自分で考え、判断し、行動し、その結果を振り返る。
この繰り返しが、主体性や判断力を育てていくのです。
特に、野球のように状況が常に変化する競技では、「正解を覚える」だけでは対応できません。
例えば、無死一塁というよくある場面でも一瞬の中で考えることがたくさんあります。
点差、イニング、打者の調子、相手投手、次の打者、走者の状態、守備位置など、さまざまな情報によって、その時の判断は変わります。
だからこそ大切なのは、「何を選んだか」だけではありません。
「なぜ、その選択をしたのか」を自分の言葉で説明できることです。
その判断の根拠をしっかり説明できることがとても重要です。
ただし、ここで一つ注意したいことがあります。
それは、「答えを教えないこと」と「放任すること」は違います。
経験の浅い選手や小学生や中学生などくらいの年代の選手に、何の知識も与えず「自分で考えろ」と言っても、質の高い判断は難しいです。
考えるための材料がなければ、考えようがないからです。
だから指導者は、必要な知識や技術を教える。
そして、その上で考える機会をつくる。
「教える」と「考えさせる」は、どちらか一方ではありません。
教えることと、問いを渡すことを使い分ける。
それが指導者にとって必要な力なのだと思います。
また、もう一つ大切なのが、「結果」と「判断」を分けて考えることです。
自分で考えて選択した結果、失敗することもあります。逆に、何も考えずに指示通りにやった結果、うまくいくこともあります。
だから、
「成功したから正しい」
「失敗したから間違い」
とは限りません。
「なぜその判断をしたのか」
「そのとき、何を見ていたのか」
「他にどんな選択肢があったのか」
「次に同じ状況になったらどうするのか」
そこを一緒に振り返ることが、次の判断に繋がります。
そして、これは「選手に責任を押し付けること」とも違います。
「自分で考えろ」と言って、失敗したら「自分で決めたんだから」と突き放す。それでは、主体性ではなく責任転嫁になってしまいます。
自分で決めていい。
でも、その決断を一緒に振り返る責任は、指導者も持つ。その関わりがあってこそ、選手は安心して自分で考え、挑戦できるのです。
指導者は、選手よりも多くの経験を持っています。
だからこそ、自分なりの答えはあると思います。
「こうすればいい」と言えば、早いし、失敗も減らせるかもしれません。
それでも、あえて一歩引いて問いを渡す。
その先に、選手自身が答えを見つける瞬間があります。
指導者がいればできる選手ではなく、指導者がいない場所でも考え、判断し、行動できる人を育てる。それが、指導の一つのゴールなのではないでしょうか。
指導者の仕事は、すべての答えを教えることではありません。
必要なときには答えを教える。
必要なときには一緒に考える。
そして、必要なときには問いを渡す。
その繰り返しの中で、少しずつ「自分で答えを出せる人」を育てていく。
「答えを教える」のではなく、「答えにたどり着くための問いを渡す。
今、自分は答えを与えすぎていないだろうか。
そんな問いを、私自身も持ち続けたいと思います。
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佐藤 旭
