読書記録|保健室経由、かねやま本館
もし、つらいとき。 この世界にいることが、少ししんどくなったとき。 目の前に「別世界へ続くトンネル」が現れたら……あなたは足を踏み入れますか?
今回ご紹介するのは、松素めぐりさんの 『保健室経由、かねやま本館。』
舞台は、不思議な世界にある湯治場。 悩み多き中学生だけが辿り着ける、特別な温泉宿です。
学校に突如現れた「第2保健室」。 そこにいるのは、古びた白衣を着た老婆。
「銀山(かねやま)だよ。」
そう名乗る銀山先生のいる保健室から、やがて不思議なトンネルが現れます。 「行ってみるかい?」 その言葉に、主人公は思わず足を踏み入れてしまうのです。
昨日まで笑い合っていた友だちの冷たい視線。 居場所を見失い、ただ逃げたくなっていた主人公にかけられた言葉。
「お前さんには、正しい休息が必要だよ。」
トンネルの先に広がっていたのは、 心と体を癒すための湯治場「かねやま本館」。 ただし、ここには他の温泉とは違う決まりがあります。
——入る温泉は、自分で選べない。 ——その人の心に合った湯が呼んでくれる。
つまり、その日の心にぴったりの温泉に導かれるという、不思議な仕組みなのです。
この場所に集まるのは、全国の中学校から迷い込んだ、傷つき疲れた子どもたち。 彼らは温泉に浸かりながら、自分自身とゆっくり向き合っていきます。
特に印象的だったのは、温泉のあとに必ず行われる「振り返りの時間」。 休憩処で、自分の感情や出来事を丁寧に言葉にしていく姿に、静かな静けさと温もりを感じました。
最初はうまく話せなかった子どもたちも、 少しずつ、自分の言葉で本音を語るようになります。 涙を流しながら、揺れながら、それでも確かに前へ進んでいくのです。
しかし、この湯治場に入れる回数には限りがあります。 いつかは必ず、現実へ戻らなければいけない。
「私は、この場所に救われた」 そう言って旅立つ友。 後を追う主人公は、 "救われた場所を手放す勇気"を知り、 まっさらな自分として現実世界へ帰っていきます。
この物語がすばらしいと感じたのは、 温泉が悩みを魔法のように「消す」のではなく、 自分で答えに辿り着くための場所であること。
人が前に進む力は、誰かに与えられるのではなく、 自分の中から生まれるのだと、静かに教えてくれる物語でした。
作中には、心に残る言葉も散りばめられています。
「必要な出会いは、ジタバタしなくてもちゃんとやってくる」
「疲れたときは、しっかり休む。 おいしいものを食べる。 元気が出たら、また頑張る。 それを繰り返して、人は生きていける。」
もし現実世界にも、かねやま本館のような場所があったなら。 私はきっと、何かから逃げるように飛び込むでしょう。 でもきっと、回を重ねるうちに "逃げるため"ではなく "自分と向き合うため"の場所になっていくのだと思います。
主人公たちがそうであったように。
疲れた心に、静かに寄り添ってくれる一冊。 読めば、自分だけの大切な言葉が見つかるかもしれません。
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📘 紹介した本 📘
松素 めぐり 著
『保健室経由、かねやま本館。』
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今回の記事は、読み切りに入れますが、続きを読んだら、シリーズの方でまたご紹介します!
