短編|足跡の行く先 #シロクマ文芸部
海といえば青だけれど、浅瀬の色はうっすらと緑がかっていると知ったのは、アイツと海に行ってからだった。
一緒に出かけた先に海があって、当然入る予定じゃなかったから水着なんてなくて。
わたしは砂浜に入る前のコンクリートの所で海を眺めてるだけだったけど、アイツはあっさりと靴と靴下を脱ぎ捨てて砂浜を踏んでいた。
「あんた、タオル持ってんの?」
「あ。……まー、どうにかなんだろ!」
バカじゃないのか。帰りはバスだというのに、わたしは裸足のアイツの横を歩かないといけないかもしれない。そんなの恥ずかしすぎるので断固拒否したいところだ。
——だというのに。
「? 行かねぇの、海」
アイツが振り返って、不思議そうに聞いてくるから。たったそれだけの理由で、サンダルを脱ぐわたしも大概バカに違いない。
……一応言い訳をすると、ちゃんとタオルはもっている。
「砂浜とか久しぶりに歩く」
「俺も。足跡残ってんだけど!」
「そりゃ残るでしょ。むしろ残らなかったら怖いわ」
足の裏で細かい砂を踏む。沈んだ分だけ指の間や甲に感じる砂に最初はゾワッとしたものの、数歩歩けば慣れてしまった。
先を見れば、アイツはわたしの数歩先を歩いている。そして足元を見れば、わたしよりひと回りぐらい大きそうな足跡があった。
「……でっか」
「早く来いよー!」
思わずつぶやくわたしの声をかき消すように、アイツが呼ぶ。顔を上げれば、いつのまにかズボンを膝までまくりあげたアイツが波を蹴っていた。
「アンタ、帰りどうする気なわけ。それ」
「んー、自然乾燥!」
「ひとりで帰ってよね」
「ひどくね?」
「考えなしのアンタのが酷いわ」
はーぁ。特大のため息をつきながら、砂を蹴り上げるようにして足を進める。砂の色が黒い濡れたものへと変わって、砂の質感も少し固い泥くらいになった。
——と、いうのに。結局足を止めずに、アイツに並ぶように立つわたしはバカなのだろう。
ザァァ、と。波が引いたかと思えば寄ってくる。足首まで濡れたかと思えば、一気にふくらはぎの中程まで来るのだから油断できない。
スカートを濡らせば冷たいことは間違いなくて、両手で端を摘むようにして持ち上げる。
視界の先にある海は真っ青なのに、足元にほど近い所は淡い緑を帯びている。そのことを疑問に思っていると、不意に名前を呼ばれる。
「なに?」
「気持ちいいだろ、海」
そうやって、アイツがわらう。歯を見せるようにして笑うアイツに、わたしは結局なぁんにも言い返せない。
「……そうね」
小さく同意するわたしの声に重なるように、波が寄ってくる。
ザァァ、と勢いのある音がいつまでも耳に残った。
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