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私の好きな旦那さん




「お前を助けることはない」
そう、旦那さんに言われたことがある。


付き合いたて。
どこからどう見ても、ラブラブだったのに。



ある日、なぜかこんな話になった。

もしも、目の前に二隻の船があって
片方には家族が乗っている。
もう片方には私が乗っている。

どちらか一隻しか助けられないとしたら。


「どっちを助ける?」


彼女が聞く質問としては、
なかなか面倒くさい。


でも当時の私は、期待した。


「もちろん、君を助けるよ」


だって、あなたの猛アピールで
付き合ったんだもんね。


ところが彼は、迷わなかった。


「家族の船」


…ぇ。
いやいやいや。

そこは私でしょ?


たとえ、嘘をついたとしても
目の前にいるのは彼女だけ。


今日の平和を守るべきじゃないの?



彼は嘘がつけない。



二人で暮らすには
十分な広さの、小さなアパート。

だけど、その言葉は、部屋を広く感じさせた。





お盆と年末年始は
別々に過ごしていた。



お盆はそれぞれ帰省し
ご先祖様へのお墓参り。

年末年始、私は友人と初詣。

彼は5日間、帰省していた。



「連絡するね」


そう言って出かけていくのに、
帰省中に連絡がきたことは一度もない。



帰る日の直前に、
「今から帰るね」と連絡がきて驚いた。



彼は家族と過ごすとき、
私のことを普通に忘れる人だった。 

でも私は責めない。
そして彼も、「忘れてた」と隠さない。




何年かが過ぎ、
私たちは結婚した。


婚姻届を出した日。


彼が、私に言った。


「これからは、一番に助けるね」


あの日
「お前を助けることはない」と言った人が


今度は、何があっても一番に助けると言った。





あれから、もうすぐ10年。


広すぎる家で、5人で暮らしている。

彼は、迷うことなく、私を助ける。

もちろん、
子どもたちも大切な家族。


可愛いし、守りたい存在。


でも旦那さんは言う。

「子どもたちが一番になることはない」


一番は、私。


子どもたちにも
「パパの一番はママだ」とはっきりと言う。


彼は、子どもたちはいつか大きくなって、
自分の人生を歩いていくと言う。

だから自分も、「パパ」だけではなく、
自分の人生を生きる。



今はもう、付き合いたての頃みたいに
どこからどう見てもラブラブ、ではない。


でも、
夫婦の時間を大切にしてくれる。


お小遣いで、焼肉も食べさせてくれる。


そして、
「好きなことをして生きていて」と言ってくれる。


私はこの言葉が好きだ。

私が私らしくいることまで
大切にしてくれているように思うから。


『お前を助けることはない』

今では、あの言葉に何より深い愛を感じる。


(1000文字)



あとがき


文藝大賞2026。

「私の好きな〇〇」をテーマに、
1000文字エッセイを書いた。

私がnoteの中で自由に生きていることは、
旦那さんも知っている。

「ねぇねぇ、『私の好きな〇〇』でエッセイを書いたんだけど、〇〇を当ててみて!」

めんどくさい妻の質問に、 

彼は迷うことなく、
「俺でしょ?」と言った。


大正解。

でも、なんだか悔しいので聞いてみた。

「他には?」

「えー、俺以外? noteか!」

お見通しすぎて笑った。

まだ下書き状態のエッセイを、
強制的に読ませることにした。


どんな反応をするかな、と少しワクワクした。


読み終えた彼は、
「全部、本当の話じゃん」と笑った。


「どうやら私も、嘘がつけなくなったみたい」

そう言うと、
彼は冷蔵庫から冷えたビールを出してきた。


そして二人で、乾杯した。


そのあとも私は、
「サムネが決まらない!」と悩んでいた。

すると旦那さんから、一枚の画像が送られてきた。

10年前に、
私がツムツムメーカーで作った二人の画像。

……まだ持ってたんかい。笑

サムネは、これにしようと思う。。。

#文藝大賞2026
#エッセイ部門

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