災 劇場版 考察|「原案:5月」は人の名前ではありません。5人だった監督集団は、いま2人です。説明はどこにも見つけられませんでした
※この記事は『災 劇場版』の結末には触れません。触れるのは、公式のクレジットとインタビューと映画祭の記録に書いてあること、それと私が自分で数えたものだけです。
配給が出しているこの映画のスタッフ表に、こういう1行があります。
原案:5月
人の名前ではありません。「5月」は、この映画を作った監督集団の名前です。
そして同じスタッフ表の、別の行にはこう書いてあります。
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗
2人です。
この人たちの前作『宮松と山下』(2022年)では、同じ行に3人の名前が並んでいました。さらに前、まだ「5月」という名前になる前に撮った短編では、5人でした。
5人が、3人になり、いま2人になっています。
そして、そのことを説明した文を、私はどこにも見つけられませんでした。公式サイトにも、配給の資料にも、映画祭の資料にも、監督ふたりのインタビューにもありません。それどころか、劇場版の公開から4か月後に出た雑誌の記事は、いまも「通常3名」と書いています。
今日はその話をさせてください。
公式の予告編です
先に、断定しないことを書いておきます
この記事の立場を、先に書いておきます。
- この記事が根拠にするのは、公開されているクレジット、監督ふたりのインタビュー、映画祭と映倫の記録、それと自分で数えた数字だけです。印象では書きません
- 「人が減ったから作品が弱くなった」とは書きません。その2つはつながりません。実際、いちばん大きな映画祭に行っているのは2人になってからです
- 「誰かが辞めた」「仲違いした」とも書きません。そう書かれた記録を、私は見つけていません
- 作り手が何を考えていたかは、本人が言葉にしたところまでしか書きません。言っていないことを埋めません
断定するのは、自分でページを開いて、保存して、数えたものだけです。数え方は記事の終わりにまとめて置いてあります。

人数を、クレジットで数えました
「たぶん減っている」では記事になりません。数えました。全部、公開されているクレジットです。
① 2014年『八芳園』(短編・カンヌ国際映画祭 短編コンペティション部門ノミネート)
制作に関わった平瀬謙太朗さんが主宰するクリエイティブスタジオ「CANOPUS」の作品ページに、クレジットがそのまま載っています。
Direction, Script, Editing : 佐藤 雅彦, 大原 崇嘉, 関 友太郎, 豊田 真之, 平瀬 謙太朗
CANOPUS 短編映画「八芳園」ページ
5人です。佐藤雅彦、大原崇嘉、関友太郎、豊田真之、平瀬謙太朗。監督も脚本も編集も、5人の連名になっています。
② 『どちらを』(短編・カンヌ国際映画祭 短編コンペティション部門 正式招待/日本公開2019年4月6日)
同じ CANOPUS のページです。
Direction, Script, Editing : 佐藤 雅彦, 川村 元気, 関 友太郎, 豊田 真之, 平瀬 謙太朗
(中略)
Music : 豊田 真之
CANOPUS 短編映画「どちらを」ページ
やはり5人。ただし中身がひとつ入れ替わっています。大原崇嘉さんの名前が消えて、川村元気さんの名前が入りました。
そしてもうひとつ、あとで効いてくるので拾っておきます。豊田真之さんは、この時点ですでに「監督のひとり」と「音楽」を兼ねています。
③ 2016年『父 帰る(候補者No.1-No.63)』(短編・34分)
制作を担当した太陽企画の告知に、クレジットが出ています。
『父 帰る』(2016年/34分) ※弊社制作担当作品 監督:佐藤雅彦、関友太郎、豊田真之、平瀬謙太朗
太陽企画のニュース(2019年4月5日)
4人です。ここで大原崇嘉さんの名前が消えています。
④ 2021年『散髪』(短編・主演 市川実日子/クレルモン・フェラン国際短編映画祭 正式招待)
監督・脚本:佐藤雅彦氏/関友太郎氏/平瀬謙太朗氏
太陽企画のニュース(2021年12月22日)
3人になりました。豊田真之さんの名前が、監督の行から消えています。
⑤ 2022年『宮松と山下』(長編1作目)
配給ビターズ・エンドの資料に載っているクレジットです。
監督・脚本・編集:関友太郎 平瀬謙太朗 佐藤雅彦
企画:5月
3人のままです。
⑥ 2025年『災』(連続ドラマW・全6話)と 2026年『災 劇場版』
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗
音楽:豊田真之
原案:5月
2人です。佐藤雅彦さんの名前が、監督の行から消えました。
⑦ 2026年『泉京香は黙らない』(NHK総合/5月4日放送)
脚本・演出:関友太郎 平瀬謙太朗
P.I.C.S. 作品ページ
やはり2人です。
並べるとこうなります。
- 『八芳園』(2014年) … 5人(佐藤・大原・関・豊田・平瀬)
- 『父 帰る』(2016年) … 4人(佐藤・関・豊田・平瀬)
- 『どちらを』(2018年) … 5人(佐藤・川村・関・豊田・平瀬)
- 『散髪』(2021年) … 3人(佐藤・関・平瀬)
- 『宮松と山下』(2022年) … 3人(関・平瀬・佐藤)
- 『災』(2025年)/『災 劇場版』(2026年) … 2人(関・平瀬)
- 『泉京香は黙らない』(2026年) … 2人(関・平瀬)
まっすぐ減ってはいません。5人から4人になり、また5人に戻り、そこから3人、3人、2人、2人。作品ごとに動いています。
そして、12年間ずっと名前が残っているのは、関友太郎さんと平瀬謙太朗さんのふたりだけです。直近3作は、その2人だけで撮られています。

ただし、途中で名前が変わっています
ここは正確に書きます。上の7本が全部「5月」名義だったわけではありません。
『宮松と山下』の公式サイトにある監督紹介と、CINEMORE に載っている関友太郎さん・平瀬謙太朗さんの経歴欄に、はっきり書いてあります。
2012年 東京藝術大学大学院 佐藤雅彦研究室から生まれた映画制作プロジェクト(略)短編映画『八芳園』(略)カンヌ国際映画祭短編コンペティション部門から正式招待。続く短編映画『どちらを』(18/主演・黒木華)にて、再びカンヌ国際映画祭短編コンペティション部門から正式招待。20年、監督集団「5月」発足。その後、短編映画『散髪』(21/主演・市川実日子)がクレルモン・フェラン短編映画祭から正式招待。
『宮松と山下』公式サイト Director 欄
20年から監督集団「5月」のディレクターとして、映画やドラマをはじめとした映像作品の監督を務める。
関友太郎の経歴/CINEMORE
「5月」が発足したのは2020年です。
つまり、5人や4人が並んでいた短編は「c-project」という別の名義のものでした。2012年に佐藤雅彦研究室から生まれたプロジェクトです。
線を引き直すと、こうなります。
- c-project 時代(2012年〜)… 5人 → 4人 → 5人 → 3人
- 「5月」設立(2020年)以降 … 3人 → 2人 → 2人
「同じ集団が5人から2人になった」ではありません。「人数が動きながら10年続いたところで名前を付け直し、そこから3人、2人になった」です。
それでも、いま2人であることは変わりません。そして2人になったことを説明した文が無い、という事実も変わりません。

この線は、本人に否定されました
ここで名前そのものを調べにいって、自分の見立てが正面から潰されました。先に書いておきます。
前身の「c-project」の「c」には、はっきりした由来があります。
その活動はカンヌ(Cannes)の頭文字から取って「c-project」と名付けられた。
nippon.com「映画『宮松と山下』:海外からも注目、新感覚の3人組監督集団「5月」とは?」(2022年12月1日/取材・文:松本卓也)
「c」はカンヌです。そして実際、この人たちは短編2本でカンヌの短編コンペティション部門に入っています。
カンヌ国際映画祭は、毎年5月に開かれます。だから私は「c-projectの次に付けた名前が『5月』なら、カンヌの月だろう」と考えました。きれいにつながります。
同じ記事の中で、佐藤雅彦さんがその読みを名指しで否定していました。
アイデアというのは橋がないところからジャンプするしかないんです。「5月」という名前に理由なんてありません。カンヌ映画祭が5月だからとか、理由を付ければみんな安心する。「えー、そんなことで安心するんだ」って思いますね。そうじゃないんですよ。「5月」という名前が持つすごい力、これは説明できないんですね。「それどこから出た?」とかじゃないんですよ。「いきなり」なんです。
佐藤雅彦/nippon.com(2022年12月1日)
「カンヌ映画祭が5月だから」という説明を、名前を付けた本人が先回りして潰しています。しかも、私がやろうとしたのとまったく同じ形で。
この線は成り立ちませんでした。そのまま書いておきます。
そして、この否定のしかたは、この集団のやり方そのものです。先に理由があって形が決まるのではない。先に形があって、理由は後から付く。「災」というテーマが後付けだったことも、ジャンル名が「苦し紛れ」だったことも、あとで出てきます。全部同じ順番です。

「5月」は、屋号ではなく会社です
もうひとつ、調べて分かったことがあります。「5月」は株式会社です。
自社サイト(gogatsu.jp)の会社概要に、こう書かれています。
株式会社5月/gogatsu
2020年、「c-project」の母体となっていた有限会社TOPICS/株式会社CANOPUSの映画・映像企画部門から独立し、「株式会社5月」設立。
株式会社5月 公式サイト
つまり「原案:5月」というクレジットは、同人ユニットの名前ではなく、法人名です。読みは gogatsu。事業内容は「映画・ドラマ・映像の企画/制作」と「映像に関する教育事業の企画/運営」の2つ。
そのうえで、この会社のサイトには、メンバーの氏名も人数もどこにも書かれていません。全9ページを開いて確かめました。
もうひとつ、気になることがあります。この会社のサイトに載っている映画は『宮松と山下』までで、『災』も『災 劇場版』も載っていません。
これを「隠している」とは書きません。更新していないだけ、という可能性がいちばん高いと思います。書いておくのは、いちばん新しい代表作が、自社サイトに無いという事実だけです。

抜けた人が、どこに行ったかを追いました
「減った」で終わらせると、辞めた話に見えてしまいます。そうではありませんでした。ひとりずつ見ます。
佐藤雅彦さん。関さんと平瀬さんが東京藝術大学大学院にいたときの指導教員です。『宮松と山下』の公式サイトでは「東京藝術大学名誉教授」と書かれています。数多くのCMと、教育番組『ピタゴラスイッチ』を手がけてきた人です。すべての出発点である「c-project」は、この人の研究室から生まれました。
2021年の『散髪』にも、2022年の『宮松と山下』にも名前が入っています。『災』から入っていません。入らなかった理由の説明は、公式サイトにも、配給の資料にも、監督ふたりのインタビューにも見つかりませんでした。
見つかったのは、この一文だけです。
ちなみに『宮松と山下』の共同監督は、2人の「東京藝術大学大学院映像研究科」時代の恩師である佐藤雅彦氏。
MOVIE WALKER PRESS(2026年2月23日)
過去形で説明されているだけで、今回いない理由には触れていません。
川村元気さん。『どちらを』のときだけ、監督の連名に名前があります。この人はいま自分で映画を撮っています。そして平瀬謙太朗さんは、その川村元気さんの監督作『百花』と『8番出口』に、共同脚本として参加しています。
自分の根底は〝プランナー〟だと語る彼はクリエイティブスタジオ「CANOPUS」を主宰し、川村元気の『百花』『8番出口』では共同脚本として企画構築に深く関わった。
Pen Online「【監督集団・5月】物語より先に〝手法〟をつくる」(2026年6月22日/文:森直人)
連名からは離れていますが、仕事は続いています。関係が切れたのではなく、どちらの名前で並ぶかが変わっただけです。
豊田真之さん。ここがいちばん面白いところなので、節をひとつ使います。
大原崇嘉さん。2014年の『八芳園』にだけ名前があります。次作『父 帰る』(2016年)では、もう名前がありません。いちばん早く連名から外れた人です。
この人がいま何をしているかは、分かりました。美術作家で、プログラマーです。
大原 崇嘉 Takayoshi Oohara/非常勤講師 - 2年生担当/2020年度着任
1986 神奈川県生まれ/2010 武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業/2012 東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了
美術作家。プログラマー。
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 教員紹介
本人のサイトの経歴を見ると、映画についての記載は受賞欄の1行だけでした。
2014 「八芳園」第67回カンヌ国際映画祭〈短編コンペティション部門ノミネート〉
そのあとは、美術作家としての個展とアーティストユニットの活動が並んでいます。直近は2026年の個展「スクリーンの肉」。映画から離れて、別の場所で作り続けている人でした。

豊田真之さんは、いまも編集にダメ出しをしています
豊田真之さんは、短編3本(『八芳園』『父 帰る』『どちらを』)で監督・脚本・編集の連名に入っていた人です。2021年の『散髪』でその行から消えて、いまは「音楽」としてクレジットされています。
肩書きだけ見ると、監督チームから外れて音楽の担当になった、という話に見えます。そう単純でもありませんでした。
まず、さっき書いたとおり、『どちらを』の時点で音楽もこの人がやっています。音楽の担当になったのではなく、監督の行から名前が減って、もともと持っていたもう一方の肩書きだけが残った、という形です。
この変化については、『災 劇場版』の公式サイトに一文だけ説明があります。この記事で見つけた「人が動いたこと」への言及は、公式のなかでこれ1本だけでした。
1986年、神奈川県出身。東京芸術大学大学院映像研究科修了、CANOPUS 所属。映像ディレクターを経て、幼少期から続けていた音楽に転向していき、映画やドラマの劇伴やCM音楽、TV番組のテーマソングなどを数多く制作。(略)短編映画『どちらを』や『宮松と山下』をはじめ、これまでの「5月」の作品のほぼすべての音楽を手掛けている。
『災 劇場版』公式サイト STAFF 欄
「映像ディレクターを経て、音楽に転向していき」。たった一行ですが、これが答えでした。辞めたのではなく、担当が変わっただけです。
ただし、本人がこの転向について語った記録は見つけられませんでした。音楽担当としてのインタビューが1本ありますが、そこでも監督だった話は出てきません。
そして、そもそも同期です。
豊田さんとは大学院の同期で、これまでもずっと一緒に作ってきました。今までと同じように脚本を読んでもらい、浮かんだイメージのままに何曲か作ってほしいとざっくりとした感じで始まりました
関友太郎監督/音楽・豊田真之+監督登壇 Q&Aトークイベント(2026年3月16日・池袋シネマ・ロサ/配給ビターズ・エンドのレポートより)
そして本人はこう言っています。
ダメ出しをたくさんされました(笑)大学院の同期なので良い意味で気遣いはなかったですね
豊田真之/同上
ここまでなら、気心の知れた音楽家の話です。ところが、逆向きにもダメ出しが飛んでいます。
劇場版の編集で行き詰まったときの話を、関監督がこう明かしています。
音楽を担当している豊田真之にも見てもらったら、「大切な作品だと思うから言うけど、このままじゃダメだと思う」と言われたりして…(笑)。だから何か閃いてこの形になったのではなく、ずっと戦い続け、巡り巡って今の形に着地した感じです。
関友太郎監督/CINEMORE「Director's Interview Vol.537」(2026年2月23日/取材・文:香田史生)
音楽の担当者が、映画の編集そのものに「このままじゃダメだ」と言っています。そしてその意見が、完成形に効いています。
肩書きの上では2人の映画です。手を入れている人は、2人ではありません。
ちなみに豊田さんは、この作品でメインテーマだけで20曲、ドラマ版と映画版を合わせると約40曲を試作しています。死体が映る場面にかかる「body」という曲は、7人ぶんの声を重ねて作られています。曲名は『スタンド・バイ・ミー』の原作小説『The Body』から取ったと本人が説明しています。
普段はNHKのEテレなどで教育的な歌を作ることも多いので、こんなに怖い音楽を作るのは初めてでした。
豊田真之/同 Q&Aトークイベント
「5月」という名前だけが、クレジットに残っています
人数は減りました。名前は残っています。しかも、残り方が変わっています。
- 『宮松と山下』(2022年)… 企画:5月
- 『災』/『災 劇場版』(2025年・2026年)… 原案:5月
「企画」が「原案」になりました。どちらも、監督の行とは別の行に立っています。
つまりこの2本は、「5月という集団が作った映画」ではなく、「5月という集団が出した案を、そのうちの2人が撮った映画」という形でクレジットされています。
これを「集団が実質的に解散した」と読むこともできます。でもそうは書きません。根拠が足りないからです。書けるのは、クレジットの行が分かれているというところまでです。
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この節に出てきた『宮松と山下』は、まだ3人だった時代の長編です。同じ主演(香川照之)で、同じ集団で、監督の行に名前が3つ並んでいます。見比べたい方はこちらから。
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同じ雑誌の同じ連載が、4年で書き方を変えています
いちばん分かりやすい記録が、CINEMORE(シネモア)というサイトの「Director's Interview」という連載にありました。同じ媒体が、同じ連載で、この監督たちを2回取り上げています。
どちらの題も、2026年の記事のページ下部にある「あわせて読みたい」の欄に、サイト自身の表記でそのまま並んでいます。
2022年11月16日/Vol.259
『宮松と山下』監督:関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦(監督集団「5月」)観客に新たな映像体験を
2026年2月23日/Vol.537
『災 劇場版』関友太郎監督&平瀬謙太朗監督 ドラマから映画へ、確信をくれた『ガンダム ジークアクス』
3人の名前と「監督集団「5月」」が並んでいた見出しが、4年後には2人の名前だけになっています。「5月」の文字が消えています。
記事に付いているタグも見ました。Vol.537 のタグは「災 劇場版/関友太郎/平瀬謙太朗/香川照之/中村アン/竹原ピストル/松田龍平/藤原季節/坂井真紀/WOWOW」。ここにも「5月」はありません。
媒体が意図的に外したのかどうかは分かりません。分かるのは、同じ連載の見出しが、人数の変化をそのまま写しているということだけです。
いまも「3名」と書いている媒体があります
いっぽうで、こういう記述もあります。2026年6月22日に公開された Pen Online の記事です。
5月●平瀬謙太朗(左)、関友太郎(右)、佐藤雅彦の3名によって結成された監督集団と称するユニット。
Pen Online(2026年6月22日)
同じ記事の本文にも、こうあります。
監督集団「5月」。その名義は通常3名──関友太郎、平瀬謙太朗、そして佐藤雅彦──による共同制作体を指す。ひとつの作品で全員が監督を担う、異色のユニットだ。今回話を聞いたのは関と平瀬のふたり。
同上
「通常3名」。そして「今回話を聞いたのは関と平瀬のふたり」。
『災』のクレジットに佐藤雅彦さんの名前はありません。この記事が出たのは、劇場版の公開から4か月後です。
これも「間違い」とは書きません。「5月」というユニットの定義としては3名で正しく、この作品の監督としては2人、という両方が成り立ちます。書いておくのは、同じ時期に「3名」と「2人」が並んで流通しているという事実です。
そして、その説明はどこにもありません。公式サイトにも、配給の資料にも、映画祭の資料にも、「今回は2人で撮りました」と書いた文を、私は見つけられませんでした。
香川照之が「3人目の監督」と呼ばれています
ここで話がつながります。
主演の香川照之さんは、『宮松と山下』に続いて2作連続の主演です。その現場について、関監督がこう話しています。
香川さんはカットがかかる度に僕たちのもとに来て、一緒にモニターを確認しながら今の演技を振り返ったり、新しいパターンを提案してくれたり。多くの役者さんは芝居が終わったらそのまま芝居場で僕たちの演出を待っていらっしゃるので、香川さんは3人目の監督のようで本当に面白かったです
関友太郎監督/監督トークイベント(2026年2月2日・Webムー編集長 望月哲史氏と/配給ビターズ・エンドのレポートより)
「3人目の監督」。
監督が3人いた時代がついこの間まであった集団で、2人になったあとに、主演が「3人目」と呼ばれています。
これを「佐藤雅彦の抜けた席に香川照之が座った」と読むのは、行き過ぎです。そうは書きません。関監督が言っているのは、現場での関わり方が濃かった、という褒め言葉です。
それでも、「3人目」という数え方が自然に出てくること自体は、この集団の作り方をよく表していると思います。人数が固定されていないユニットなんです。
『宮松と山下』のときも、香川さんは同じことをしていました。
お芝居した後に香川さんから「今のは宮松じゃなかったね」とお声がけ頂き、撮り直すということが何度もありましたね。
平瀬謙太朗/シネフィル(2022年11月16日)

この集団は、物語より先に「手法」を決めます
なぜ人数が動くのか。作り方を見ると、少し分かります。
僕たちはいつも「物語」から映画をつくるのではなく、映画の「構造」や「映像手法」から発想して、「どんな物語ならば、その表現を最大化できるか」という逆の順番で作っています。
平瀬謙太朗監督/CINEMORE Vol.537(2026年2月23日)
順番が逆です。先に手法があって、あとから物語が決まる。この考え方は、指導教員だった佐藤雅彦さんから来ています。
私はやっぱり新しい企画手法を見てほしいです。それこそが「5月」が掲げてきた"手法がテーマを担う"なので。
佐藤雅彦/シネフィル(2022年11月16日)
「手法がテーマを担う」。これが「5月」の名義が指しているものです。人ではなく、やり方です。
だから、やり方が引き継がれていれば、人数が変わっても名前は残る。「原案:5月」という1行は、たぶんそういう意味です。
そう考えると、辻褄は合います。ただし、これは私が並べた話です。「人が減っても手法が残るから名義を残している」と誰かが言った記録は、ありません。
テーマもジャンルも、後から付いています
「手法が先」というのが本当かどうかは、本人たちの説明の中に証拠があります。
まず、テーマです。
僕らは映像の手法や構造から考えるのが好きで、本作も、5、6個のバラバラの舞台があり、どの舞台にも1人だけ同じ男が出てきて、その後に大変なことが起こる、という構造のアイデアから始まりました。実は"災い"というテーマは後付けでした
関友太郎監督/背筋さん登壇 大ヒット御礼トークイベント(2026年3月7日公開のレポート)
題名になっている「災」が、後付けです。
タイトルを決める時に初めて"災い"というキーワードが出てきて、「僕らが描けばいいのはこれなんだ」と方向性が固まって。それまでは香川照之さん演じる男を100%殺人鬼のつもりで考えていたのですが、そこから「思いもよらぬ人生を壊していくものの現象、象徴」として演じてもらおうと、企画が動き出しました
平瀬謙太朗監督/同上
主役の男は、途中まで殺人鬼でした。題名が決まった時点で、殺人鬼から「現象」に変わっています。
次に、ジャンルです。
最後にジャンル名を付けるタイミングで「ホラーでもないし、普通のサスペンスでもないし…」と苦し紛れにつけたのが、「サイコサスペンス」だったということです。
平瀬謙太朗監督/CINEMORE Vol.537
「苦し紛れ」。宣伝で使われているジャンル名を、作った本人が苦し紛れだったと言っています。
構造が先、テーマが後、ジャンル名が最後。この順番が、本人の口から3回とも同じ形で出てきます。

★同じ「どこを見ると2回目に化けるか」だけを、100本ぶん並べた記事があります。この記事と同じ読み方を、邦画・洋画100本に当てはめたものです。
劇場版には、脚本がありません
もうひとつ、手法の話です。
『災 劇場版』は、全6話・約6時間のドラマを2時間に組み直したものです。ただし「短縮版」ではありません。
映画版を作る際に簡単なプロットは作りましたが、脚本というものは存在せず、ドラマで撮った素材だけを見て繋いでいきました。1ヶ月半くらいは編集しましたね。
関友太郎監督/CINEMORE Vol.537
脚本が無い映画です。素材だけを見て組み立てた、と本人が言っています。
同じ理屈も語られています。
通常、映画の編集は脚本を見ながら繋いでいきますが、今回は「映像の素材」が全てある。その映像を「原資」として見ながら、カットやシーンの繋がりを作っていくことができる。そのことで、今まで見たことのないリズムやトーンが生み出せるのではないかと。つまり、文字による構成に頼らずに映画を作ることができると思ったんです。
同上
そしてここで、また人数の話が出てきます。
これは今までの「5月」の活動における共同作業の経験に基づいています。他の人の意見によって、「そんな繋ぎ方があったんだ」という発見をすることがこれまで多々ありました。
同上
5人でやっていた時代の経験が、2人になった今の編集方法の根拠になっています。減った人たちは、やり方の中に残っている、という言い方もできます。
背中を押したのは、意外な作品でした。
編集を始まる前に、劇場版の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-(以下、ジークアクス)』(25)を観たんです。あれもTVシリーズを映画用に再編集している作品ですが、TVシリーズの物語を頭からダイジェスト的に見せるのではなくて、まるでコラージュするように組み上がっていて面白かった。(略)それで「やっぱり出来るんだ。これをやればいいんだ!」と。
平瀬謙太朗監督/CINEMORE Vol.537

題名の1文字は、字典から引かれています
細かいところですが、拾っておきます。
ドラマ版のスタッフ表の最後に、こういう1行があります。
番組ロゴ参考資料:『字通』(平凡社刊)
『字通』は、白川静の漢字字典です。題字を作るのに、字源の辞典を参考資料としてクレジットに載せています。
そのうえで、監督がこう説明しています。
『災』という漢字自体が、川の氾濫と火を表す象形文字。人間が制御できないものの象徴として意識しました。
平瀬謙太朗監督/背筋さん登壇 大ヒット御礼トークイベント
後付けだったはずのテーマが、1文字の字源のところまで掘られているということです。後付けだから浅い、という話ではありませんでした。
この映画を持ち込んだのは、テレビ局ではありません
もうひとつ、あまり書かれていないことがあります。
WOWOWさんからお声がけいただいたわけではなく、我々で企画を作り、香川照之さんに演じて頂くことまでセットにして、「香川さんとこういう作品を作るのはいかがでしょうか」と、連続ドラマのフォーマットで持ち込みました。自主的な活動から生まれています。
平瀬謙太朗監督/CINEMORE Vol.537
局からの発注ではなく、監督側の持ち込みです。主演のキャスティングまで込みで。
そのドラマは、第42回ATP賞テレビグランプリで「総務大臣賞」と「ドラマ部門 最優秀賞」をW受賞しています。日本民間放送連盟賞でも優秀賞を受けています。
持ち込んだ企画が、賞を取って、映画になって、スペイン語圏最大の映画祭のコンペティション部門に行きました。

映画祭は、1段上がっています
サン・セバスティアン国際映画祭には、2作連続で行っています。ただし部門が違います。
- 『宮松と山下』(2022年)… New Directors部門(新人監督の部門)
- 『災 劇場版』(2025年)… コンペティション部門
ワールドプレミアの様子は、配給のレポートに書かれています。
コンペティション部門のメイン会場KURSAAL1(クルサール1)の1800席以上を埋め尽くしたみっちり満席の会場!
配給ビターズ・エンドのレポート(2025年9月24日)
人生で最高で最大の上映体験でした。終わった後の鳴りやまない拍手は凄く驚きました
関友太郎監督/同上
そして、結果は無冠でした。
映画祭の公式サイトにある受賞一覧を全部見ました。金貝賞から工業賞・観客賞・並行部門の賞まで、62作品が並んでいます。日本の作品は1本もありません。
これは負け惜しみでも批判でもありません。コンペティション部門に入ること自体が、New Directors 部門からの1段上がりです。そのうえで、賞は取っていない。両方書いておきます。
映画祭の公式ページでの表記は、こうです。
SAI / SAI: Disaster/Yutaro Seki, Kentaro Hirase/Japan 128 m.
第73回サン・セバスティアン国際映画祭 公式サイト
ここでも「5月」は出てきません。監督は Yutaro Seki と Kentaro Hirase の2名だけです。
映画.comは、「5月」を2人の名前に置き換えています
もうひとつ、クレジットの話です。
配給が出しているスタッフ表は、こうでした。
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗
原案:5月
いっぽう、映画.comの作品ページのスタッフ欄は、こうなっています。
監督 関友太郎 平瀬謙太朗
原案 関友太郎 平瀬謙太朗
脚本 関友太郎 平瀬謙太朗
編集 関友太郎 平瀬謙太朗
映画.com『災 劇場版』作品ページ(2026年8月29日に取得)
「原案:5月」が、「原案:関友太郎 平瀬謙太朗」になっています。
集団の名前が、2人の個人名に置き換わりました。同じページの解説文には「監督集団「5月」の関友太郎と平瀬謙太朗が」とちゃんと書いてあるので、知らないわけではありません。データベースの欄には、人名しか入れられなかったのだと思います。
これを「映画.comの誤り」とは書きません。書いておくのは、集団の名前がひとつ、静かに個人名2つに直されている、という事実だけです。そして直された結果は、この記事がずっと言ってきたことと同じ形になっています。
観た人が使った言葉を、147件ぶん数えました
ここまで全部、作り手の側の話でした。観た人の側も数えました。
2026年8月29日に、映画.comのユーザーレビューを全ページ保存しました。147件(本文だけで57,795字)。本文と題名を機械で検索しています。同じ語が1件のなかに何回出ても1件と数えます。
取り出しが壊れていないことは先に確かめました。「香川」は115件、「映画」は69件、「男」は39件が出ます。何を入れても0件になる数え方ではありません。
まず、この記事がずっと書いてきた「集団」の話です。
- 「監督集団」「5月」のどれかを書いた人 … 4件(2.7%)
- 「関友太郎」「平瀬」のどれかを書いた人 … 3件(2.0%)
- そもそも「監督」という語を使った人 … 14件(9.5%)
- 前作『宮松と山下』に触れた人 … 7件(4.8%)
そして、いちばん書かれていたのはこの人です。
- 「香川」を書いた人 … 115件(78.2%)
観た人にとって、これは香川照之の映画です。147人のうち4人しか、監督の集団のことを書いていません。
私がこの記事で3,000字使って追いかけてきた「5月」の話は、観客の97%には見えていません。そこは正直に置いておきます。

「群像劇」と書いた人は、0件でした
もっと分かりやすい数字が出ました。
関監督は、劇場版の設計をこう説明しています。
映画版では、まず群像劇としてバラバラの舞台が5~6個出てきて、観客はその関係性に意味を見出そうとするはずですが、見ていくと同じ男が全ての舞台に出てくる。(略)かなり不気味な群像劇となっていくわけです。
関友太郎監督/CINEMORE Vol.537
「群像劇」と書いた人は、147件で0件でした。
同じように、公式が押していたことも数えました。
- 「サイコサスペンス」と書いた人 … 6件(4.1%)
- 「ホラー」と書いた人 … 17件(11.6%)
- 「サン・セバスティアン」または「映画祭」を書いた人 … 0件
つまり、こうなっています。
- 作り手が「苦し紛れに付けた」と言っているジャンル名(サイコサスペンス)より、誰も名乗っていない「ホラー」のほうが3倍近く書かれています
- スペイン語圏最大の映画祭のコンペティション部門に正式招待された、という宣伝の核が、147件で1件も出てきません
- 監督が構造の説明に使っている「群像劇」という語も、0件
作り手が使う言葉と、観た人が使う言葉が、ほとんど重なっていません。
ついでに、届いていたほうも書いておきます。
- 「怖」を含む人 … 36件(24.5%)
- ドラマ版・WOWOWに触れた人 … 65件(44.2%)
- 「編集」「構成」「繋ぎ」のどれかを書いた人 … 25件(17.0%)
- 「音楽」「劇伴」「サントラ」のどれかを書いた人 … 23件(15.6%)
- 「意味がわからない」系の言い方をした人 … 27件(18.4%)
編集と音楽は、届いています。この映画でいちばん特殊なのは「脚本なしで、素材だけを見て組み直した編集」と「40曲試作した音楽」でした。そこは17%と16%の人が名指ししています。集団の話(2.7%)より、ずっと多い。
評価は、はっきり割れています
点数の分布も出しておきます。映画.comの147件です。
- 5.0点 … 10件(6.8%)/4.5点 … 9件(6.1%)/4.0点 … 25件(17.0%)
- 3.5点 … 40件(27.2%)/3.0点 … 29件(19.7%)
- 2.5点 … 9件/2.0点 … 9件/1.5点 … 3件/1.0点 … 8件/0.5点 … 4件
4.0点以上が44件(29.9%)、3.0点以下が62件(42.2%)。平均は3.2です。
いっぽう Filmarks は、同じ日に見て 3.6(3,685件)でした。件数が25倍あって、点は0.4高い。サイトが変わると評価も変わります。だから「この映画の点数は◯◯だ」とは書けません。書けるのは「映画.comの147件ではこうだった」というところまでです。
ついでに、Filmarks がこの作品に付けているジャンルは「ホラー」でした。公式は一度も「ホラー」と名乗っていません。
低いほうが多い映画です。そして「意味がわからない」系を書いた人が18.4%いる。
ここで、監督ふたりが最初に決めたことを思い出してください。
僕ら監督自身も、"ある男"は何者かわからないという設定をまず決めました
平瀬謙太朗監督/監督トークイベント(2026年2月2日)
いちばん怖いのはこの人が何考えているかわからない、という"わからなさ"がある状態かな、と二人で話していて
関友太郎監督/同上
「わからない」は、狙いです。そして観客の18.4%が「わからない」と書いて、42.2%が3.0点以下を付けています。
これを「狙いどおりだから成功」とは書きません。「わからなさ」を狙うと点が割れる、という当たり前のことが数字で出ている、というところまでです。
映倫の記録に、この映画の1行があります
公的な記録も見ておきます。映倫(映画倫理機構)の審査作品検索です。
- 審査日 … 2025年8月19日
- 題名/区分 … 災 劇場版 / PG12(区分は画像で表示されるので、画像のalt属性まで見て確認しました)
- 映倫番号 … 125237
- 申請者〈配給〉… AOI Pro.〈ビターズ・エンド〉
指定理由の欄には、全文こう書かれています。
交わることのない罪なき6人の日常に、いつの間にか紛れ込んでいるひとりの男。そして6人の人生になんの前触れもなく“災い”が降りかかる……。サスペンス。違法薬物の吸引の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。(2時間8分)
映画倫理機構 審査作品検索/映倫番号125237/審査日2025年8月19日/2026年8月29日取得
ここでも、呼び名がもう1つ増えます。映倫の記録では「サスペンス。」です。
作り手が「苦し紛れに」付けたのが「サイコサスペンス」、Filmarks が付けているジャンルは「ホラー」、映倫の記録は「サスペンス」。同じ1本に、3つの名前が付いています。
もうひとつ。審査日の2025年8月19日は、日本公開(2026年2月20日)の半年前、サン・セバスティアンでのワールドプレミア(2025年9月23日)の約1か月前です。映画祭に持っていく時点で、日本の審査はもう通っていた、ということになります。

興行の数字は、ある時点で止まっています
数字も追いました。途中で途切れます。
配給が出した最後の数字は、2026年3月16日のイベントレポートにあるこれです。
2/20(金)~3/4(水)までの 13 日間で、興行収入が 5000 万円を突破し大ヒットを記録している本作
配給ビターズ・エンドのレポート(2026年3月16日)
この「5,000万円」以降の数字は、見つけられませんでした。
- 配給の公式note を全90本さかのぼって確認しましたが、3月16日以降に『災』の記事はありません
- 興行通信社のミニシアターランキング(週末動員TOP5)を2026年2月22日の週から4月12日の週まで1週ずつ見ましたが、一度もランクインしていません(TOP5しか公表されていないので、入らなかったことしか分かりません)
- 映画.comのニュースも全4件で、興行の続報はありません
「非公表」と書くのは言いすぎです。「探したが、公表されているものを見つけられなかった」が正確です。

そのあと、Netflixで1位になっています
そして、いちばん新しい数字がこれでした。
『災 劇場版』は2026年8月20日からNetflixで配信されています。Netflix が公式に出している週間TOP10の生データ(全世界・全国の週次順位が入ったファイル)から、日本の行だけを抜き出しました。
- 2026年8月17日〜23日の週/日本/映画部門 … 1位(ランクイン1週目)
- 同じ週/日本/TV部門 … 8位(ドラマ版「災」/ランクイン1週目)
配信開始のその週に、映画部門で1位です。しかもドラマ版も同じ週にTV部門8位で入っています。
ここで、さっきの数字を思い出してください。劇場では13日間で5,000万円、ミニシアターのTOP5には一度も入らず、147件のレビューのうち映画祭に触れた人は0件。その映画が、配信では初週で1位です。
同じ作品でも、届く場所と規模がまるで違う。この記事で追いかけてきた「呼び名が揃わない」という話と、たぶん同じ根っこだと思います。誰に向けた何なのかが、最初から一意に決まっていない映画です。
自分の説に、反論を3つぶつけます
自分で思いつく反論を、先に潰しておきます。潰せないものは、潰せないと書きます。
反論①「監督集団の人数が作品ごとに変わるのは、普通のことでは」
そのとおりだと思います。
映画の作り手は作品ごとに組み替わります。連名の監督が減ることも、珍しくはないでしょう。だから私は「異常だ」とは書いていません。
書いているのは、この集団が「ひとつの作品で全員が監督を担う」ことを売りにしてきたという点です。Pen Online の表現を借りると「ひとつの作品で全員が監督を担う、異色のユニット」。その「全員」が何人なのかが、作品ごとに変わっています。そして「原案:5月」という行だけが、人数と関係なく残り続けている。
そこがねじれている、というところまでです。
反論②「佐藤雅彦は指導教員なんだから、教え子が独立すれば名前が外れるのは自然では」
その可能性がいちばん高いと思います。
出発点は佐藤雅彦研究室のプロジェクトで、関さんと平瀬さんは当時その研究室の側の人でした。2020年に会社として独立して、長編を1本撮って、次からは2人で撮っている。教え子が独り立ちしていく、ごく普通の経過です。
だから「外された」とも「揉めた」とも書きません。
ただ、それなら一言そう書けば済むはずです。「今回は関と平瀬の2名で監督しました」と。それがどこにも見当たらないので、Pen Online のように「通常3名」と書く記事が2026年になっても出てきます。書いていないことによって、読む人が誤解できる状態が続いている。そこだけが事実です。
反論③「クレジットを数えただけで、内側のことは何も分かっていないのでは」
これがいちばん強い反論です。そして、潰せません。
私が見ているのは、外に出ている紙の上の名前だけです。誰がどれだけ手を入れたかは、クレジットからは分かりません。
むしろこの記事の中に、その反証があります。豊田真之さんは「音楽」としかクレジットされていませんが、編集に「このままじゃダメだ」と言っています。香川照之さんは俳優としてクレジットされていますが、「3人目の監督のようで」と呼ばれています。
クレジットの人数と、実際に作っている人の数は、一致していません。
だから本文でも、「2人で作った映画だ」とは書いていません。書いたのは「監督としてクレジットされているのは2人」というところまでです。そこは意図的に区別しています。
※以下は楽天のアフィリエイトリンクです(PR)。
この映画そのものの円盤やサウンドトラックは、楽天で見つけられませんでした(2026年8月29日に実測。出てくるのは題名の似た別作品だけです)。あったのは、原作にあたるドラマ版でした。全6話・約6時間。この記事にずっと出てきた、劇場版の「素材」の側です。
連続ドラマW 災 DVD-BOX
9,379円(税込)・送料無料・在庫あり(2026年8月29日に商品ページで確認)

同じ書き方を、別の作品でもやっています
- 8番出口 … この『災 劇場版』の監督のひとり、平瀬謙太朗さんが共同脚本で参加している作品です。同じ人が、別の名義でどう関わっているかが見えます
- レンタル家族 … 「クレジットに出ている名前を、片っ端から数える」というやり方が同じ回です
- 容疑者Xの献身 … こちらも連続ドラマの劇場版です。しかも、この記事と同じで「論争になった記録を全部保存して数える」というやり方で書いています
- ラヴ上等 … この記事の最後に出てくるNetflix日本1位の、もう一方の例です。劇場の数字と配信の数字がどれだけ違うかを、同じように追いかけています
※この記事にはアフィリエイトリンク(楽天)を含みます。
数えた式を置いておきます
あとから同じ数字を出せるように、数え方を書いておきます。
- クレジットの人数=各作品の公開されているスタッフ表を、そのまま数えました。『八芳園』『どちらを』は CANOPUS(平瀬謙太朗が主宰するスタジオ)の作品ページの「Direction, Script, Editing」の行。『父 帰る』『散髪』は制作を担当した太陽企画のニュースの「監督」「監督・脚本」の行。『宮松と山下』『災』『災 劇場版』は配給ビターズ・エンドの資料の「監督・脚本・編集」の行。『泉京香は黙らない』は P.I.C.S. の作品ページの「脚本・演出」の行です。連名に並んでいる名前の数を数えただけで、誰がどれだけ関わったかは数えていません
- 映画.comのレビュー=作品ページ(eiga.com/movie/104365/)のユーザーレビュー全147件を2026年8月29日に取得(/review/all/1/ 〜 /8/ の8ページ、1ページ20件・最終ページ7件)。数える対象は本文+題名で、本文だけで57,795字。1件のなかに同じ語が何回出ても1件と数えます
- 点数=各レビューの題名の先頭に付いている数値をそのまま拾いました。147件すべてから取れています
- 「監督集団「5月」に触れた人」の判定=「監督集団」「5月」「5月」のいずれかを含むもの。4件
- 「群像劇」の判定=「群像」を含むもの。0件。「群像劇」という4文字ではなく「群像」の2文字で引いて0件です
- 「サン・セバスティアン」の判定=「サンセバスチャン」「サン・セバスティアン」「サンセバスティアン」「映画祭」のいずれか。0件
- 陽性対照=「香川」115件・「映画」69件・「男」39件が出ることを先に確かめてから、0件や4件の数字を書いています
- 映倫=審査作品検索を「災」で引いて、該当行をそのまま写しました。区分は画像で出るので、`img` の `alt` 属性まで見て PG12 を確認しています
- サン・セバスティアンの受賞なし=公式サイトの第73回受賞一覧のページを保存し、全文を「Japan」「Sai」で検索して0件であることを確認しました(賞は全部で62件)
- Netflix=Netflix公式が出している週間TOP10の生データ(全世界・全国の週次順位が入った `all-weeks-countries.tsv`)を落として、`Japan` の行だけを抜き出しました。2026年8月23日の週が、8月29日時点でいちばん新しい週です
- 株式会社5月のサイト=サイトマップから全9ページを出して、1ページずつ開いて確認しました
- スクリプトは `count_reviews.py` に置いてあります。保存したHTMLから、同じ数字が何度でも出ます
現物に当たれていないもの
確かめられなかったものを、書いておきます。
- 「5月」という名前の由来。本人が語った記録を見つけられませんでした。「c-project」の「c」がカンヌの頭文字であることまでは分かっています
- 佐藤雅彦さんが『災』の監督に入っていない理由。公式にも、監督ふたりのインタビューにも、説明が見当たりませんでした。「探したが無かった」です。本人に確認したわけではありません
- 大原崇嘉さんのその後。2014年の『八芳園』のクレジット以降を追えませんでした
- クレジットの人数と、実際に手を入れた人数の関係。本文に書いたとおり、この2つは一致していません。私が見ているのは紙の上の名前だけです
- 劇場用パンフレット。背筋さんが「物語と否定する物語」という文章を寄せているところまでは分かっていますが、現物は読んでいません
- 公式X(@SAI_disaster)のタイムライン。ログインしないと投稿が読めないので、開いていません。3月16日以降に興行の数字が投稿されている可能性は、消せていません
- 『散髪』のクレルモン・フェラン国際短編映画祭 公式カタログ。映画祭側のページに辿り着けませんでした。監督3人という数字は、制作会社(太陽企画)とクラウドファンディングの記載から取っています
- 豊田真之さんが「監督から音楽へ」を自分の言葉で語った記録。公式サイトの「映像ディレクターを経て、(略)音楽に転向していき」という一文以外に見つかりませんでした
- c-project の活動開始年。「2011年から」(クラウドファンディングの記載)と「2012年」(公式サイト)で食い違っています。この記事では公式サイトの2012年を使いました
逆に、書かなかったこと
- 結末。この記事では触れていません。触れなくても成立する話だったからです
- 「5月」が解散した、あるいは事実上終わっているという結論。材料がありません。名義は今も使われています
- 「佐藤雅彦が外れた理由」。本人も公式も語っていないので、埋めていません
- 「大原崇嘉さんが映画をやめた」という書き方。いま美術作家として活動していることは分かりましたが、映画から「離れた」と本人が言った記録はありません
- 「人数が減ったから作品が変わった」という読み。書けば通りますが、比べる方法がありません
- 香川照之が「3人目の監督」の席に座った、という読み。関監督が言っているのは現場の関わり方の話で、それ以上ではありません
- 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』との作品同士の比較。平瀬監督が参考にしたと言っているところまでで、画面を突き合わせてはいません
拡散は大歓迎です
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作品情報
- 『災 劇場版』/2026年2月20日公開(新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか)
- 2026/日本/カラー/DCP/5.1ch/128分/PG12
- 監督・脚本・編集=関友太郎、平瀬謙太朗/原案=5月/音楽=豊田真之/撮影=國井重人
- 出演=香川照之(ある“男”)、中村アン(堂本翠)、竹原ピストル、宮近海斗、中島セナ、松田龍平、内田慈、藤原季節、じろう(シソンヌ)、坂井真紀/安達祐実、井之脇海
- 劇場版企画プロデュース=日枝広道/プロデューサー=西憲彦、高江洲義貴、伊藤太一、近藤あゆみ、定井勇二
- 配給=ビターズ・エンド/制作プロダクション=AOI Pro./劇場版製作幹事=電通/製作著作=WOWOW
- 原作にあたるのは「連続ドラマW 災」(全6話/2025年4月6日〜5月11日/WOWOWプライム・WOWOWオンデマンド)。ドラマ版の音楽は加藤賢二・豊田真之、番組ロゴ参考資料は『字通』(平凡社刊)
- 第73回サン・セバスティアン国際映画祭 コンペティション部門 正式招待(2025年9月/ワールドプレミア)
- ドラマ版=第42回ATP賞テレビグランプリ「総務大臣賞」「ドラマ部門 最優秀賞」W受賞/2025年日本民間放送連盟賞 番組部門 優秀賞
- 区分=PG12(映倫番号 125237/審査日 2025年8月19日/申請者〈配給〉AOI Pro.〈ビターズ・エンド〉)
- 原案の「5月」=株式会社5月(2020年設立/東京都品川区/読み gogatsu)
- 評点=映画.com 3.2(147件)/Filmarks 3.6(3,685件)。いずれも2026年8月29日に確認
- Netflix日本の週間TOP10(2026年8月17日〜23日)=映画部門1位/TV部門8位(ドラマ版)
この記事で確認に使ったもの
- 配給ビターズ・エンドのイベントレポート4本(note)… サン・セバスティアン ワールドプレミア(2025年9月24日)/監督トークイベント(2026年2月3日)/公開記念舞台挨拶(2026年2月21日)/背筋さん登壇 大ヒット御礼トークイベント(2026年3月7日)/音楽・豊田真之+監督 Q&Aトークイベント(2026年3月16日)。引用はページに載っている文面をそのまま引きました
- CINEMORE「Director's Interview Vol.537」(2026年2月23日/取材・文:香田史生)… 関友太郎・平瀬謙太朗インタビュー(全4ページ)。同誌の Vol.259(2022年11月16日)と見出しを比べています
- Pen Online「【監督集団・5月】物語より先に〝手法〟をつくる」(2026年6月22日/写真:湯浅亨/文:森直人)
- シネフィル(2022年11月16日)… 『宮松と山下』の関友太郎・平瀬謙太朗・佐藤雅彦インタビューと、同作のクレジット
- CANOPUS の作品ページ… 短編『八芳園』『どちらを』のクレジット(Direction, Script, Editing の行)
- 『宮松と山下』公式サイトの Director 欄(「20年、監督集団「5月」発足。」の記述)
- 映画.comの『災 劇場版』作品ページとユーザーレビュー全147件(2026年8月29日取得)
- AOI Pro. と WOWOW のリリース(ATP賞受賞、ドラマ版と劇場版のスタッフ表記)
- nippon.com「映画『宮松と山下』:海外からも注目、新感覚の3人組監督集団「5月」とは?」(2022年12月1日/取材・文:松本卓也)… 名前の由来を本人が否定している記事
- 株式会社5月 公式サイト(gogatsu.jp)… 全9ページを確認。会社概要と作品ページ
- 武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科の教員紹介と、大原崇嘉本人のサイトの経歴
- 太陽企画のニュース(2019年4月5日/2021年12月22日)… 『父 帰る』『散髪』のクレジット
- P.I.C.S. の作品ページ… 『泉京香は黙らない』のクレジット
- 映倫(映画倫理機構)審査作品検索… 映倫番号125237の行と指定理由の全文
- 第73回サン・セバスティアン国際映画祭 公式サイト… 作品ページと受賞一覧(全62作品)
- Netflix公式の週間TOP10データ(`all-weeks-countries.tsv`)から日本の行を抽出
- ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)公式の第42回受賞作品一覧
- MOVIE WALKER PRESS(2026年2月23日)ほか監督インタビュー4本
- Filmarksの作品ページ(平均点・件数・ジャンル表記)
