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決まった時間に働けない人のキャリア設計――家族のケアをしながら働く5年が、「根張り期間」になるまで

序章|小学校に上がれば、もっと働けると思っていた


校門前でしゃがみこんでしまったわが子に「学校まで来れたなんてすごいやん。今日はここまでにしとく?」と声をかける。けれど、頑なにその場を離れようとしない。

がんばりたいけれど学校に入れない。必死に葛藤しているわが子の背中をさすりながら、「申し訳ありません」と私はスマホでメッセージを入力し始める。打ち合わせ時間を遅らせてもらうために。
でも、まだ間に合うかも……と、入れかけたメッセージを消す。

子どものことに集中したい。とはいえ、仕事の責任だってある。葛藤しているのは私も同じだった。



私には二人の子どもがいます。

「下の子が小学校に上がりさえすれば、もっと仕事時間を増やせるはず」。
彼らが小さかった頃は、そう自分に言い聞かせながらなんとか仕事を続けてきました。

ところが、現実は逆でした。

下の子は小学1年生で不登校になり、仕事時間は激減。私の目論見ははずれてしまいました。

それまでの私にとって「不登校」は、学校に「行くか・行かないか」「行きたいか・行きたくないか」の2択でしかありませんでした。実際はもっと幅のある、そして日によって揺らぎが大きい状態でした。

共通していたのは「この時間は必ず働ける」が、親に成立しなくなること。
私にとって一番負担感が大きかったのは、仕事時間が減ったことではなく、「働ける時間が読めない」ことだったのです。


子どもが不登校になった当時、私は企業に属さないフリーのファイナンシャルプランナー(FP)でした。

ライフプランを作成し、人生を数字で可視化します。そうすると、漠然としていたお金の不安が、たとえば「90歳時点で家計はマイナス1,900万円」といったように数字で把握できるようになるのです。
どれだけマイナスの額が大きくても、不安が具体化される安心感のほうが勝る人が多い印象でした。
不安が具体的な課題になれば、何かしら手立てはあると思えるからです。

もちろん、人生はライフプラン通りにはいきません。それでも、一度見通しを立てておけば、想定外の出来事が起きたときに、その影響を冷静に把握できます。


人生設計が崩れたとしても、それで終わりではない。そこから立て直せばいい。
クライアントに伝えていたことを自分がこんな形で体現することになるとは思いませんでした。


わが子が学校に行けなくなったとき。私は、自分だけが追い詰められたように感じていました。
けれど、文部科学省によると令和6年度の不登校児童生徒数は353,970人。実際にはこの数字には反映されない、居場所を見つけるためのサポートが必要な子どもたちがさらに大勢います。
そして、その子どもたちの数だけ親がいます。少なくない親が、同じ問いを抱えているはずです。子どもにケアが必要なら、自分のキャリアは諦めるしかないのか、と。


親なら子どものことを最優先すべきという周囲の(時には自分自身からの)プレッシャーを感じながら、自分のキャリアを守るため、そして生活の土台となる「収入」を欠かさないために、試行錯誤をしている人たちがいます。私もその中の一人です。


不登校に限らず、介護や病気などで、誰でも「働きたいのに働けない側」に回る可能性があります。そんなときに必要なのは、気合いではなく変化に柔軟に対応できるキャリア設計です。


この記事は、決まった時間に働けなくなった元FPの私が、家計管理の考え方を「時間」に転用し、自分に合った働き方を組み立て直した記録です。




第1章|働きたいのに働けない。ボトルネックはどこ?


1.「家にいる」だけではケアできない


子どもが小学校に入学した当時、コロナ禍の影響で、FPとしての仕事はほぼオンラインに移行していました。だから、当初はなんとかこのまま仕事は続けられるだろうと思っていました。
けれど、子どもはまだ1年生。画面の向こうにいる数百人に向けて講師として話をしていようが、家計相談で深刻なお悩みを伺っていようが、不安になると仕事部屋に入ってきてしまうのです。

オンラインで仕事相手と繋がっているときは、いつ子どもが部屋に入ってくるかと常にハラハラしていました。そうなると、どうしたって集中力は削がれてしまいます。

さらに、講師業や相談業は、約束した時間には必ず画面の前に座っていなければいけません。当時の状況では、それが思っていた以上に難しかったのです。


学校に行けなくなってすぐの時期、子どもはとても不安定です。一度、不安定な状態になると、落ち着くまで何時間も見守りが必要になることがありました。この時期は、子どもと同じ空間にただいればいいわけではありませんでした。子どもが不安を感じたときにすぐに触れられる、すぐに話ができる環境をつくる必要があると私は感じました。


理解のあるクライアントさんも多く、日程調整に快く応じていただいたこともありました。けれど、どうやらこの状況は長く続きそうだとわかったとき、「これはもう無理だ」と悟ったのです。

クライアントに迷惑をかける申し訳なさや、仕事に集中できないことへの葛藤もありました。何より、私の仕事の性質上、安心してサービスを受けていただける環境を提供できないのであれば、無理に続けるべきではない、そう判断しました。


子どもの性格や仕事内容、仕事場の環境にも大きく左右されるとは思います。ただ、私の場合はもう無理だった。そして、ここから私の働き続けるための試行錯誤がはじまりました。



2.実務から離れると、専門性は薄れていく


FPの仕事には、講師業・相談業のほかに、執筆業があります。
時間の融通が利かない仕事は難しいけれど、執筆業であれば締切に間に合いさえすれば大丈夫。これなら、子どもの状況に合わせて書けるだろう、と思っていました。
けれど、時間が確保できればうまくいく、そう簡単な話ではありませんでした。


相談業をやめて割とすぐ、感覚が鈍っていることに気がつきました。原稿を書いているとき、以前なら迷うことなく書けた制度の数字がすぐに出てこない。もちろん調べて書くことはできます。けれど、クライアントと直に向き合っていたときの感覚とは明らかに違っていました。制度改正の情報を追いきれない、何よりリアルなクライアントの声がどんどん想像できなくなっていったのです。

お金に関する記事はFPのほかに、ライターが書くこともあります。FPの資格を持っていて、文章力もある、そんなライターが短納期で高クオリティの原稿を書けるのに、それでも私が依頼をいただけたのはなぜか。それは、私がFPとしてお金の悩みを持っている人のリアルな声を知っていたからだと思っています。


「相談業を辞めても執筆は続けてもらって大丈夫」。そう言っていただける編集者さんもいました。けれど、相談業から離れた時点で、私自身はFPを廃業したつもりでした。そんな私が自分の都合のいいときにだけ、FPの肩書を使い続けることには違和感があったのです。




3.足りないのは稼働時間ではなく「約束できる時間」


FPの肩書きは手放したものの、書くことはFP時代にも夢中になれることでしたし、今の自分の生活に合っていることはわかっていました。そこで私は、FPではなくライターとして書く道へ。とはいえ、書くことだけで収入を得るには、ある程度の「量」が必要でした。


子どもが不登校になってから、3年が経とうとしていました。完全不登校を経て、私と一緒なら数時間は学校の別室で過ごせるようになり、一時期は私が廊下で見守りながら教室で授業を受けられたこともありました。

「今日は別室登校ならできそう」
「5時間目だけ行ってみる」
「給食の前には帰りたい」

これは、子どもが自分なりに考えた「今の自分にできること」。この精一杯の意思表示に、できるだけ応えたいと思いました。けれど、その日・その瞬間によって子どものニーズは変わります。
まったく元気がなく家に閉じこもっていた頃を思うと、喜ばしい状況です。けれど、仕事のやりくりの難易度は格段に上がりました。

収入確保にはまとまった執筆本数が必要。けれど、複数案件のインタビュー日程や納期調整を不確定な稼働時間内で行うことは難しく、またしても行き詰まりを感じたのです。


朝、外に出ると、当たり前のように登校している子どもたち、当たり前のように出社している大人たちがいました。

私も仕事のことだけを考えられる時間がほしい。
行きたい取材にどんどん手を挙げられたら、どんなに刺激的な現場に立ち会えるのだろう。
どうして他の人にとっては当たり前のことが自分には難しいのか。
社会から取り残されたような、孤独感を味わうこともありました。


書く仕事は続けたい。書くことへの興味は尽きないし、もっとたくさん取材をして、もっとたくさん書いて、もっとたくさんの人に届く文章が書けるようになりたい。
なのに、私は自分の時間の使い方を自分で決めることができない。

どうしてもやりたかった仕事を稼働時間が固定されていたから見送ったし、夜中の3時まで画面に向かうこともあれば、3時にコソコソと起き出して原稿を書くこともありました。どうにかして、働き続けたかった。


閉塞感はあったものの、それでも必ず、いつか自分に合う働き方は見つかるはずだと思っていました。
働き方を向き不向きではなく、「構造」で考えていたからです。

書く仕事がしたい。
これを単に向き不向きで考えるなら、決まった時間に働けない今の私には向いていないと、諦めるしかありません。けれど、構造が合わないだけなら、私が働ける構造の書く仕事を見つければいいのです。


問題は、私の体力でもやる気でも、スキルでもありません。そして、子どもが不登校だということでもありません。
本当の問題は、決まった時間に働けなくても続けられる構造の働き方に辿り着けていないことでした。

今、振り返ると、「見つかるまで探すだけ」と試行錯誤を当たり前のことと思えていたからこそ、この5年を「根を張る期間」にできたのかもしれません。




4.私が見つけた「想定外」を吸収できる働き方


決まった時間に働けなくても続けられる構造のカギは「納期スパン」でした。

一日中仕事ができる状況であれば、稼働時間に応じたスケジュールを事前に組むことができます。けれど、稼働時間が確定しない状況では、その日に何時間働けるかは、終わってみなければわかりません。ここが一番大きなネックとなります。


子どもの状況によって、平日の日中に稼働時間が確保できない日が2〜3日続くと、短納期案件が重なっている場合は途端に立ち行かなくなります。この問題を解決できる、納期のスパンが長い書く仕事が、「ブックライティング」でした。

ブックライティングとは、書籍に載せる内容を著者に取材し、文章にまとめる「聞き書き」のことをいいます。
書籍によって違いはありますが、取材はだいたい3〜5回。この決まった時間を確保さえすれば、あとは数週間〜約1カ月かけて、コツコツ自分のペースで書き進めることができます。
平日日中の稼働時間が思うように取れなかったときには、夜間や週末の時間を使って挽回することができるのです。


取材日程の調整は必要ですが、複数の案件を抱えて多くの関係者と日程調整するのではなく、同じメンバー間での調整なので、調整しにくさはぐんと減ります。
毎週・毎月、どれだけイレギュラーな予定が入るかわからない状況は子どもへの負荷が大きいけれど、「今月、この日とこの日だけは母は不在です」と事前に伝えられるので、子どもの負担も最小限に抑えられます。


中断してもいい。すぐに再開できる。仕事時間を分散できる。
ついに私は、今の自分に合った働き方を見つけられたのです。


ここに辿り着くまで、うまくいかない日もたくさんありました。睡眠不足でイライラして家族にあたってしまうこともあったし、どんどん活躍の場を広げる人たちを羨ましく思うこともありました。けれど、「ボトルネックを見つけてやる!」その気持ちだけは持ち続けてきました。


働きたいのに、思うように働けない。そんな制約のある環境への漠然とした不満を持ち続けていても問題は解決しないことはわかっていました。だから私は、なぜ働けないのか、その原因を特定し、ボトルネックを避ける働き方を選び直し続けました。

それはまさに、ライフプランでお金の不安を可視化し、課題を解決していくプロセスそのものでした。


状況は変化し続けます。「これでいける!」と思った働き方があっという間に合わなくなることもありました。それでも、変化への対処の仕方が身についていたから、新たなボトルネックを見つけて、再調整することができました。


不安や不満を具体的な課題へ。そうすれば、解決策が見えてくる。
家計管理で身につけた考え方が、キャリアの問題を解くヒントを教えてくれたのです。


第2章|数字で「働く」を再設計する


1. 制約があっても続けられる働き方を選び直す


フリーランスで働く人にとって、働き方を考えることは売上の立て方を考えることに直結します。

自分が「ほしい」利益をベースに売上目標を設定するのが王道の考え方。
そこから逆算して、月の売上・必要な仕事量を見積もります。ただ、「ほしい」をベースにすると、どうしても売上目標は高くなりがちです。
背伸びをした目標は、稼働時間がしっかり確保できる場合には奮起する原動力になりますが、私には理想と程遠い現実を実感する数字でしかありませんでした。


稼働時間が確保できる人にとっては、「もっと働く」は可能な戦略かもしれません。けれど、私の場合は無理に仕事を増やせば、子どもの急な変化に対応できなくなります。

実際、稼働時間を増やそうすると、子どもが自分の気持ちを整える時間を私は待つことができなくなりました。声かけに余裕がなくなり、どんどん自分自身も追い詰められていきました。

それでも、なんとか稼働時間を増やし、行動量を増やさなければ! そんな固定観念は私の中に居座り続けました。一定の稼働時間があることを前提に作られた、世の中に溢れる働き方論や稼ぎ方論しか知らなかったこともその原因だったと思います。


子どもを言い訳にはしたくない、少しでもみんなに追いつかなければ、そんな切迫感で苦しくなっていきました。
当然です。現実を無視した目標は、達成できるはずがありません。
日々の稼働時間が読めない私にとって、高すぎる目標はただ焦りを生み、精神的な余裕を失わせるだけでした。


前提条件がまるで違う、一般的なやり方は私には合わない。そんな当たり前のことをまずは自分自身に納得させることから、働き方の見直しは始まりました。

私に必要だったのは、正しい働き方に自分を合わせることではなく、今の自分に合わせて、続けられる働き方を設計し直すことだったのです。




2.「ほしい利益」ではなく「必要な利益」から考える


どんな働き方であっても、目標がなければ働き方に迷いが生じます。
私は「ほしい」利益ではなく、「必要な」利益から売上目標を設定しました。

生活費(家計に入れるべきお金)・社会保険料・税金・経費、これらをざっくりと見積もり、死守しなければならない「最低必要売上」を把握しました。

最低必要売上=生活費(家計に入れるお金)+社会保険料+税金+経費

経費は実際に動いてみなければわからない部分も多くあります。けれど、実は読める経費もあるのです。

資格維持のための更新料、Web会議システムや文字起こしツールなどの利用料、AIやクラウドサービスの利用料など。金額がわかっている経費は意外と多くあります。
この固定経費は売上の増減に関係なく、自分にとっては必ず必要な経費で、私の場合は年間15万円ほどになります。

把握しづらいのは、売上や活動内容に応じて変動する経費です。
書籍代や出張交通費、会議費、スキルアップのための研修費など、いくらかかるかはわからない経費も一旦仮で予算化してしまいます。予算化するメリットは、経費のかけ過ぎに気づきやすくなることです。

自分が設定した予算以上に経費を使うと、売上も目標以上を達成しないと立ち行かなくなります。
経費の予算化は月単位でアラートを鳴らす役割も果たしてくれるのです。


生活費にいくら必要なのかは人によって大きく違います。
家計の状況が把握できていなければ、具体的な金額は設定しづらいかもしれません。けれど、経費同様、まずは仮でいいから数字にしてみるとイメージしやすくなります。ご自身の状況にあわせて、たとえば月10万円もしくは20万円で計算してみるといいでしょう。


私も以前は「売上目標は毎月100万円!」と理想を掲げていたこともありましたが、今は売上目標=最低必要売上です。ただし、これは必達目標。

逆算ではなく、積み上げで売上目標を設定すると、根拠がはっきりしている分、目標の納得感も違います。そして、「ここをクリアすれば今は十分」そう思える無理のない基準があると、漠然とした焦りは減っていきます。


私は現在、長期スパンのブックライティングを軸にしながら、スポットでのWebや紙媒体での執筆も組み合わせて働いています。

決まった時間に働くことが難しい一方で、売上目標は必ず達成しなければならない。だからこそ、働き方を組み合わせて、それぞれのリスクを補い合うことを意識しています。


お金の流れを整理して不安を減らす。
私が今までずっとやってきたことは、時間の流れにも同じように当てはまることに気がつきました。




3. 時間にも固定費・変動費・特別費がある


売上目標がコンパクトになったとはいえ、時間確保の悩みが減るわけではありません。
自分の時間の使い方を自分でコントロールできない。この感覚は、どうしても私を疲弊させました。

子どもと玄関にたどり着くまでに30分の日もあれば、2時間かかる日もあります。往復徒歩30分の場所を日によっては3往復することもあります。お昼ごはんのラーメンを鍋からどんぶりに移したまさにそのとき、お迎え要請の電話が鳴ることもあります。

最初は、「突発的なことが多すぎて、とても計画なんて立てられない!」と思っていました。けれど、お金と同じように、時間も「固定費」「変動費」「特別費」にわけて考えてみることにしたのです。そうすると、読めない時間を織り込んでスケジュールを立てる突破口が見えてきました。


今の私にとって、時間の「固定費」「変動費」「特別費」はこのようなイメージです。


家計管理の3分類を、時間管理にあてはめる

固定費
毎日・毎週・毎月、一定時間を確保する必要がある時間
<例>
・家事
・睡眠
・子どもの送迎
・通院、スクールカウンセリング

変動費
日によって必要時間が増減し、スケジュールを圧迫する時間
<例>
・子どもの行動支援
・子どもの付き添い時間

特別費
不定期だが、発生する前提で備えておく必要がある時間
<例>
・急なお迎え要請
・子どもの居場所探しや施設見学、面談
・環境変化による順応期間

「固定費」は暮らしの土台。ここを無理に圧縮しようとすると健康や家族の安心が崩れてしまうので、最初にしっかりと確保します。


「変動費」は「あるかどうかわからない」からストレスになるので、前もって多く見積もって固定費化してしまいます。もし想定していた時間より短く済めばラッキー。さらに気持ちに余裕を持つことができます。


「特別費」は家計管理でも一番キモとなるところです。
特別費のほとんどは突発的にかかる費用ではなく、必要になるだいたいの時期や金額がわかっている支出です。ただ、不定期だから、準備する優先順位が下がってしまいがちなのです。この特別費をしっかり備えられると、不安の少ない家計になります。


では、時間はどう備えるのか? 
時間はお金と違って貯めておくことができません。「今日は余裕があるから、この時間を来週に回そう」ができないのです。しかも、時間がないから困っているのに、備えるために日々余裕をもったスケジューリングなんてできるはずもありません。

それでも、心づもりだけはできます。子どもの様子を観察していると、お迎え要請が多い時間帯や不安定になるときの行動パターンが見えてきます。呼び出しが多い時間帯には、打ち合わせなど人との約束事は極力入れないようにしています。また、春は、環境に変化が生じやすい季節なので、いつもより仕事量を減らしておくことはできます。


時間は貯められないから、家計のように確実に備えることはできません。けれど、予測できることに、できる範囲で備えることはできます。
「あるかもしれない」と最初から想定しておくだけでも随分と気持ちは楽になります。


家計管理では先取り貯蓄が基本ですが、時間に関しては、まず支出分を先取りします。そのうえで残った時間を、仕事の時間として使います。
今の私の生活は、仕事時間を優先的に確保しようとすると、どこかで必ず破綻するからです。


時間を「固定費」「変動費」「特別費」の3つにわけて整理しても、使える時間が劇的に増えたわけではありません。けれど、想定外をできる限り少なくしたことで、時間に振り回される感覚が減っていきました。




4.計画は「達成する」ためではなく「修正する」ために立てる


「計画通りになんていくわけないのに、ライフプランを立てる意味ってあるんですか?」
FP時代、私がライフプランを立てる重要性を熱く語ると、そう質問されることがありました。

「人生は計画通りに進まない」それはその通りです。
そもそも自分の計画通りに進む人生なんておもしろくありません。
それでもライフプランを立てるのは、思い通りにいかないとき、想定外の大きな変化があったときに計画との差分がわかると対処がしやすいからです。


基準があるから、自分の現在地がわかるし、目指す方向も見失いません。計画自体に魅力を感じなくなることもあるかもしれない。それも計画という具体的な基準があるからこそ、自分の変化に気づきやすくなります。

計画通りに生きることが目的ではなく、自分の目指す方向に進みやすくするために計画は立てるのです。

では、今の私にとっての「基準」は何か。それはライフプランではなく、Googleカレンダーです。
「固定費」「変動費」を「繰り返し登録」して、自分が実際に仕事に使える時間を可視化しています。
カレンダーに登録する前、毎日の稼働時間は2時間くらいな気がしていました。とにかく「時間がない!」と思っていたのです。けれど、実際は、たしかに2〜3時間しか働けない日もありましたが、多い日は5〜6時間確保できることが見えてきました。そう、使える時間は案外あったのです。


可視化する前の私は、「決まった時間に働けない自分にはまとまった仕事を受ける資格がない」と必要以上に思い込んでいました。人はネガティブな感覚に引っ張られます。「時間がない」と感じ続けると、実際以上に「時間がない人」の思考になっていくのです。
けれど、使える時間を数字で把握すると、「この範囲なら責任を持って仕事を受けられる」と冷静に判断できるようになっていきました。それは、働くことへの自信を取り戻す作業でもありました。


自分の時間を可視化することで、問題は仕事時間の少なさではなく、あくまで「決まった時間に働けないこと」なのだと、現状を正確に理解することができました。


私自身、まさか自分がブックライターになるなんて、子どもが不登校になった5年前には想像もしていませんでした。そもそもブックライターという職業があることすら、知らなかったくらいです。それでも、今いる環境で、自分のスキルで、人の役に立てて報酬を得られることは何かを考え、やってみて、ここまで辿り着きました。今では、この仕事に辿り着けたことが本当にラッキーだったと思うほどです。


計画を「必ず実現しなくてはいけない」と思っていると、それが叶わないとすべてを手放したくなります。叶わない現実を恨めしくも思うかもしれません。けれど、計画が「軌道修正を手助けしてくれる」と思えば、計画通りにいかないことに落ち込む必要はありません。またそこからリスタートすればいいのです。




5. 未来をつくる時間を削ると、人は希望を失う


時間に不足感があると、目の前の暮らしをまわすことだけに時間を使ってしまいがちです。けれど、「今」のことにだけ時間を使っていては、キャリアを変化に対応させることは難しいかもしれません。

子どもが大変な思いをしているのだから。
ただでさえ仕事時間が少ないのだから。
家のことだって後回しにしていることが多いのだから。

時間を「今」やるべきことだけに使う理由はいくらでも見つけられます。それでも、未来をつくる時間を持つことを私は大事にしたいと思っています。


ライターの働き方が私のこれからの軸になると思えば、すぐにあらゆる情報を収集しました。ブックライティングが自分の働き方に合っていると思えば、第一人者からスキルを学ぶため、東京まで通いました。

未来をつくる時間を確保してきたからこそ、40代後半からのキャリアチェンジが少しずつでも形になっているのだと思っています。


時間に追われ、不安を抱え、それでもなんとか毎日をまわす。「ちょっと疲れたな……」そう思うときもあります。
そんなときに、「次はこんなことをやってみたい」「あんなところに行ってみたい」と、未来に楽しみがある。そして、可能性は未知数すぎるけれど未来の自分にワクワクできる。それは「希望」になります。

だから私も、未来をつくる時間を「固定費」として、日々、ねじ込んでいます。


人は時間がないから希望を失うのではない。未来をつくる時間を削るから、希望を失う。私はそう思うのです。




終章|人生の根張り期間を味わう


希望を持ち続けたいのは私だけではありません。もちろん子どもにだって、子どもにこそ、未来への希望を持ち続けてほしい。

いわゆる「普通の学び方」を選ばない、一般的な進学ルートに馴染まない子どもが、自分らしく学べる場所を確保するには、想定以上のお金がかかる場合も。
子どもの選択肢を増やすためにも、私は働くこと、稼ぐことを諦めたくありません。


決まった時間に働けない時期を私は「根張り期間」だと思っています。
「いまだ!」というタイミングに思い切り働くための、必要な時間。
そう思うと、限られた時間でも、できる限りの栄養をごくごく吸収しようと貪欲になるのです。

とはいえ、貪欲であることと、無理をすることは違います。
家族も大事。自分の人生も大事。両方を守る力を育むための「根張り期間」なのです。


私の場合、運やタイミングもあったと思います。信頼して仕事を任せてくださる方がいなければ、自分ひとりではどうにもなりませんでした。

もちろん、誰もがブックライターになれば、決まった時間に働けない問題が解決する、と言いたいわけではありません。
それでも、そのときどきの環境に合わせて修正し続ける。そうやってしなやかに、今の自分にキャリアを合わせる術を身につけられたら、想定外の変化を必要以上に恐れなくて済むようになります。


私がライティングを担当した書籍が出版社から送られてきたとき、奥付に載っている私の名前を子どもに自慢げに見せました。
「見て、見てー!」と言った私に、「おー、すごいね」と棒読みの薄いリアクション。少しがっかりはしたものの、子どもと一緒に泣いたり、傷ついたりしながら、それでも諦めずに積み重ねてきた時間が、今の仕事につながった。そのことが、うれしくて、誇らしくて、そっと本棚に飾りました。

その日の夜、寝る前に子どもが飾っていた本を持ってきて、「この本、サポートルームに持っていっていい?」と聞いてきたのです。「えー、それは恥ずかしいわぁ〜」と答えたものの、すごくすごくうれしかった。
しぶとく働くことを諦めずにいてよかったと、試行錯誤してきたこの5年間へのご褒美をもらえたような気持ちでした。


もしかしたら赤ちゃんのとき以上に子どもとがっつり向き合い、それでも仕事を諦めたくなくて模索し続けた5年でした。
根張り期間は外から見るとあまり変化がないように見えるかもしれません。けれど、頑丈な根がなければ、大きな変化に耐えることも、自分らしく伸びていくこともできません。この5年で、私の根っこは確実に太くなりました。


子どもが成長し、できることが増えてきたとはいえ、根張り期間はまだもう少し続きます。
働きたいのに働けない。この気持ちがゼロになるわけではありません。けれど、しぶとく諦めない、この粘り強さを手に入れられたことは私にとって、とてもとても大きな財産です。


いつからでも、何度でも修正しながら前に進めばいい。今はそんなふうに思いながら、毎日、文章を書いています。


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