中西大輔『進化心理学概説』(ミネルヴァ書房)を読んで〜読書感想文〜
突然ですが、縁あって『進化心理学概説』をありがたく頂戴することができましたので、感想文を書こうと思います。今、進化心理学がアツいです。

一読した感じの本書の特徴としては、一般的に「進化論」として誤解されている部分をあぶり出し、その誤解を解いて進化論ではこのように議論されているという点を解説していくというところにあると思った。
また、ゲーム理論や意思決定理論、ナッシュ均衡など社会科学分野にもつながる議論へと発展させており、進化論といえば生物学と言ったところが、心理学、ひいては社会学や倫理学など人文学へアクセスしやすい内容となっているところが本書の美徳ではないかと思った。今日びいかにも人文学的な本でもダメだが、自然科学に閉じている書物も難しいものがあり、こうした文理融合型の書籍は一つの基礎教養としての地位を保持するような、そういうことになっているのだと思う。そういう意味では、本書の構成の仕方は出版人としても参考にせざるを得ないところだろう。
さらに本書の特徴として特筆すべきは、進化心理学系の書籍で手薄になりがちな文化伝達・社会的学習(10章・11章)まで網羅している点である。ここはオイシイところだろう。
次に興味深かったのは、感情・嫉妬(7章)、プロスペクト理論・ヒューリスティックス(13章)の適応的意義についてである。一見「非合理」に見える人間の感情や判断バイアスが、人類史の環境においてどのような課題を解決するための設計だったのかという視点がひじょうに勉強になった。
それ以上の詳しい内容についてはすでに本書についてのマガジンがあるので私が事細かに解説する必要はないだろう。
一点、進化を扱うにあたって当然注意しておかなければならないのは、「自然主義的誤謬」の話というところだが、「である」から「べきである」を導出できないというのは厳密に言えば「ヒュームの法則」と言われるものである。だが、先日どこぞの進化論系学会で混同されていたように、進化心理学でも自然主義的誤謬とヒュームの法則は一々分けて表記しないのであろう(しているのもあったし、厳密には「ヒュームの法則」で行って欲しいと思う)。まあそれはともかく内容に入っていくと、進化論でこうだから、という説明によって、社会規範・道徳規範がこう「すべし」という風にはならないということ、これは大事である。進化論的説明を含めて、こうした生物学的事実によって人間行動を説明するのは一種の「自然主義」と言われるところだろうが、「規範」の問題とは区分けすべきであろう。逆に、本書で親切なのは「道徳主義的誤謬」ということも説明されており、道徳的にはこう「すべき」なのだから人間本性の説明にはならない、というのも避けたほうがいいということだ。自然主義の立場からすると、自然科学的知見をもっと活用したほうがいいということになろうし、筆者もそれについては何ら異論はない。単純に説明対象の領域の混同だけ避ければいいということである。
参考:ヒュームのIs-Ought問題(通称「ヒュームのギロチン」)
いずれにせよ、本書は当該分野の類書と比較してみても、大きく逸脱したところはないように思われるし、また、進化心理学という分野における要点は過不足なく押さえられているように思われるため、概説書としては最初に手に取って読んでいいものではないかと。
さらに詳しく知りたい人のための文献
進化論
長谷川寿一ほか(著)『進化と人間行動』第3版、東京大学出版会、2026年
スティーブ・スチュワート=ウィリアムズ(著)『宇宙の広さを知ったサルー心と文化の進化論ー』みすず書房、2025年
小田亮(著)『進化心理学ー進化の視点から心を探るー』新曜社、2026年
進化論と哲学
松本俊吉(編著)『進化論はなぜ哲学の問題になるのかー生物学の哲学の現在ー』勁草書房、2010年
日本科学哲学会(編)、横山輝雄(責任編集)『ダーウィンと進化論の哲学』勁草書房、2011年
キム・ステレルニー(著)『進化の弟子ーヒトは学んで人になったー』勁草書房、2013年
エリオット・ソーバー(著)『進化論の射程ー生物学の哲学入門ー』春秋社、2024年(旧版2009年)
