ポケカ投資ってマジで儲かるの?
「副業、なにやればいいんだろう」
そこから始まった。
本業はある。ただ、このまま何もしないのはまずい気がする。かといって何をやればいいのか分からない。副業の記事を読み漁っては、どれもピンと来ずに閉じる。「副業 初心者 おすすめ」で検索して出てくるものは、だいたい全部知っているのに、ひとつもやっていない。そういう時期が、しばらく続いた。
そんな時にポケカ投資が目に入った。カードが値上がりしているらしい、という話は前から聞いていた。
場所は取らない。数万円から始められる。株より値動きが分かりやすそうに見える。
あと、単純にカードが綺麗だ。最近のポケカは金色のレリーフ加工が入っていて、角度を変えると光る。あれを「資産」と呼ぶのは少し照れるが、少なくとも眺めていて楽しい資産ではある。
やってみるか、と思った。
そして、有料noteに課金した
調べ始めてすぐ、この界隈には情報発信者がいることを知る。
タイトルは「あのカードを仕込め」「〇〇日後に買え」といった調子で、肝心の銘柄は伏せられている。値段は、飲み会一回より安く、たいていは映画一本より高い。月額のメンバーシップもある。
この伏せ方は、よくできている。銘柄を隠すのは商売として当然だ。ただこの形式には、それとは別の効果もある。〇〇の中身さえ分かれば済む、という気持ちにさせる。伏せられているものは、たいてい実際より偉く見える。
で、払った。
しかも、1本ではない。発信者を替え、切り口を替え、何度か買っている。白状すると、2本目を買うときの指は、1本目よりだいぶ軽かった。一度財布を開くと、二度目のハードルは劇的に下がる。これはカード投資の学びではなく、人間の学びである。
言い訳をさせてもらうと、理屈は通っていた。自分にはカードの目利きがない。ずぶの素人には、これから出る商品の何が人気になって何がならないのか、まるで見分けがつかない。だったら分かっている人に教えてもらうのが早い。
そしてこの理屈は、私が考えたものですらない。700年前に決着がついている。
『徒然草』に、仁和寺の法師の話がある。長年の念願だった石清水八幡宮への参拝をようやく果たしたのに、本殿が山の上にあることを知らず、麓の付属施設だけを拝んで「思ったより地味だったな」と満足して帰ってしまう。兼好法師の結びはこうだ。
「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」
ちょっとしたことにも、案内人はいてほしいものである。——鎌倉時代の坊さんが山を登り損ねているのだから、令和の素人がカードで迷子になるのも、まあ、伝統である。
案内人にお金を払うのは、恥ずかしいことではない。ここまでは、今でも正しかったと思っている。
間違っていたのは、その次だ。銘柄さえ分かれば、あとは買うだけだと思っていた。
先達は、道順を教えてくれる。ただし、出発時刻までは教えてくれない。
推奨されたカードを、実際に追ってみた
ある有料記事が、5月に1枚のポケモンカードを推していた。「30周年に向けて仕込め」「発売当初から爆発的な需要で高騰し続けている」「直近で海外からの買い圧が上昇している」という趣旨だ。
なるほど、と思った。素直な読者である。
そのカードのPSA10(最高評価の鑑定品)の相場を、推奨日から追いかけてみた。
・2025年7月 → 32,000円
・2026年4月中旬 → 86,999円(ピーク)
・2026年5月中旬 → 80,000円(推奨が出たのは、ここ)
・2026年6月上旬 → 73,600円
・2026年7月中旬 → 69,100円
・2026年8月上旬 → 65,300円
3ヶ月で18.4%下がっていた。
しかも同じ期間、未鑑定の「生」の買取価格は25,000円で横ばいだった。つまり下がったのはカードそのものの値段ではない。PSA10であることのプレミアムだけが縮んでいた。
理由はすぐ分かった。このカードのPSA10は、すでに45,999枚あった。出せば86.9%が10で返ってくる。希少でも何でもない。宝くじというより、ほぼ当たりくじである。
そして相場のピークは4月中旬、推奨が出たのは5月中旬。買い圧のピークが過ぎた後だった。
1件では何も言えないので、5弾ぶん追った
ここで「やっぱり詐欺じゃん」と言うのは早い。1件は1件でしかない。
そこで切り口を変えた。ポケモンカードには MUR という最高レアリティがある。これを対象に、5つの弾を横断して同じ条件で検証した。
「発売日に買い、最速で鑑定に出し、戻ってきたらすぐ売る」。実際の価格データで計算すると、こうなった。

5戦3勝2敗。平均で1枚あたり +71,545円。
儲かっている。しかも小さくない。
ただし5回に2回は負けているし、勝った額の幅が大きすぎる。同じ手法で+21万と▲3万が並ぶのは、手法というより運の記録に見える。
(もうひとつ正直に言うと、そもそも発売日にそのカードを買えるのか、という問題も別にある。数字は目安として見てほしい。)
やっているうちに気づいた。これ、株だ。
数字を並べているうちに、見覚えのある形が出てきた。
ピカチュウは、トヨタである。
誰もが知っていて、市場全体が上がれば当然のように上がる。下値も堅い。ただし10倍にはならない。ポートフォリオの芯にはなるが、これで人生は変わらない。
レックウザは、キオクシアである。
海外人気で買われる。だから海外の需給で乱高下する。実際、今年7月末に出たメガレックウザexのSARは、発売日に111,000円で取引され、3日後には72,000円になっていた。3日で35%。半導体株かと思った。
そして、サーナイトは万年割安株である。
検証では▲20,502円で負けた銘柄だ。ところが同じカードのPSA10相場を長い目で見ると、こうなっていた。
・2026年2月下旬 → 82,500円
・2026年3月下旬 → 119,000円
・2026年4月中旬 → 182,000円
2ヶ月で2.2倍。
発売直後に買って即鑑定に出した人は負け、放置していた人は倍にした。同じカードで。
株で言えば、決算に反応せず万年放置だった銘柄が、ある日テーマに乗って一気に見直される、あれだ。「何を持っていたか」ではなく「いつ持っていたか」で結果が反転している。
需給で決まる。海外資金が動かす。王道は連れ高し、テーマ株は跳ね、放置株はいつか見直される。カードの相場は、驚くほど株式と相似形だった。
一番驚いたのは、PSA10のほうが速く落ちること
界隈でよく聞く話がひとつ崩れた。
「PSA10にすれば価値が上がる」。少なくとも新しい弾では、成り立たない。
メガゲッコウガex MUR で見てみる。

鑑定品のほうが速く落ちている。
同じ弾のSARはもっと極端で、最初のPSA10が取引されたのが4月9日の150,000円。その日が天井だった。一度も超えないまま8月には46,900円。▲68.7%。
理由は単純だ。鑑定品はゼロから増えていく。最初の1枚は希少だが、3ヶ月後には数千枚ある。
株で言えば、これはPERの縮小である。業績が変わらなくても、人気が剥がれれば倍率は落ちる。カードの場合、その「人気」の正体が希少性で、鑑定に出す人が増えるほど自動的に薄まっていく。自分で自分の倍率を下げにいく構造になっている。
「鑑定に出せば価値が上がる」のではなく、「最初に出した数人だけが希少性の値段で売れる」が正しい。
ただし、株と決定的に違う点がふたつ
ひとつ目。株は利益を生む。カードは何も生まない。
トヨタは車を売って配当を出す。株価が半分になっても、いつか戻る理屈がある。カードにそれは無い。EPSがゼロで、PERだけがある株みたいなものだ。支えているのは「欲しい人がいる」の一点で、そこが消えたら下も無い。
エミン・ユルマズ氏がよく使う「エブリシング・バブル」という言葉がある。低金利のあいだ、株も不動産も金もカードも、仲良く手をつないで上がってきた、というやつだ。潮が引くなら、何も生まないやつから先に空気が抜けるはずだ。カードは、かなり前のほうに並んでいる。しかも列の先頭で、金色に光りながら並んでいる。
カードは、所詮は紙である。
ただフェアに言うと、この紙はしぶとい。ポケカは1996年発売で、もう30年。30年ものあいだ毎年新しい子どもが遊びはじめる商品というのは、バブルの一言で片づけるにはそれなりに強い。
ふたつ目。しかも、盗まれる。
先日、あるインフルエンサーが空き巣に入られ、2,000万円相当のカードが盗まれたという話があった。心よりお見舞い申し上げます。
株は盗まれない。証券口座に泥棒は入らないし、火事でも焼けないし、湿気でも反らない。トヨタ株が梅雨で反ったという話を、私は聞いたことがない。
カードはそうではない。紙である以上、燃えるし、濡れるし、日に焼けるし、持っていかれる。
保管、保険、防犯。現物資産にはこのコストがついてくる。ポートフォリオに1,000万円ぶんのカードがあるというのは、家に1,000万円ぶんの紙束があるということでもある。
私はまだ数万円の話をしているので他人事に近いが、ここは規模が大きくなるほど効いてくるはずだ。
で、結局どうなのか
儲かる。ただしタイミングがすべて。
3勝2敗がそれを表している。手法は同じなのに、弾によって結果が反転する。しかも売り時を逃すと利益が消える。メガゲッコウガex MUR は4月中旬に売れば+15.9万円、8月まで持つと+2.0万円。利益の87%がタイミングだった。
ここでも兼好法師が先回りしている。木登りの名人の話だ。弟子が高い枝にいるあいだ、名人は何も言わない。ところが軒の高さまで下りてきたところで、はじめて「あやまちすな」と声をかける。危ないのは、いちばん高いところではない。もう大丈夫だと思ったあたりで、人は落ちる。
+15.9万円から+2.0万円までの道のりは、まさにその高さである。私は「まだ上がるかも」と思いながら、軒の下まで下りてきていた。
発信者の言っていることは、嘘ではない。
根拠にしているのは主に海外の買い圧力と海外人気で、これは相場を動かす要因として実際に正しい。役に立たない情報ではない。
ただし「買い圧が高い」と「今が買い時」は別だ。あのカードがまさにそうだった。買い圧が上がっているということは、すでに大勢が買った後でもある。
だから、黙って言われた通りに買えば儲かる、という類のものではない。
これが一番言いたいことだ。
課金したことは、後悔していない
はっきりさせておきたい。
お金を払ったこと自体は、後悔していない。
情報量は多かったし、内容も雑ではなかった。何より、ずぶの素人だった自分には、どのカードが注目されているのかを知る手段が他になかった。
そして——銘柄が分かったからこそ、その後の価格を追いかけて、こうして検証することができた。課金していなければ、この記事自体が存在していない。有料noteに課金して、その有料noteの答え合わせを無料で公開しているのだから、我ながら商売が下手である。
目利きの部分には、確かに価値がある。
間違っていたのは、期待の大きさのほうだ。
私は「銘柄が分かれば勝てる」と思っていた。実際に勝敗を分けていたのはタイミングで、そこまでは書かれていない。教えてもらえるのは「何を」であって、「いつ」ではない。
払った額は、高くなかった。高かったのは、それで全部済むと思っていた自分の期待値のほうだ。
副業を探している人へ
これを書きながら、ひとつ思い当たったことがある。
私は副業を探していたあいだ、ずっと「何をやるか」を探していた。ポケカ投資に手を出した時も、探していたのは「どのカードか」だった。
でも実際に結果を決めたのは、どちらも「いつ」のほうだった。
「何を」を探している間は、まだ安全なのだ。始まっていないから、失敗もしていない。記事を読み漁っている時間は、何かをやっている気分にもなれる。「いつ」を決めた瞬間に、はじめて損が出る。
だから人は「何を」を延々と探す。私がそうだった。しかも何度も課金しているので、「何を」に関してはやたら詳しい。詳しいだけで、儲かってはいない。
課金して買えたのは「何を」だった。「いつ」は、自分で数字を見るしかなかった。そして数字を見るのに必要だったのは、才能でも目利きでもなく、表を1枚つくる手間だけだった。
先達はあらまほしき事なり。ただし、あらまほしいだけで、十分ではない。仁和寺の法師に足りなかったのは案内人だが、私に足りなかったのは、案内された山を自分で登る気のほうだった。
次は、そこから始めようと思っている。
最後に、身も蓋もないことを書いたので、ひとつだけ弁明しておきたい。
紙だ紙だと連呼したが、私はカードそのものは好きだ。メガレックウザexの、あの金色に光るやつは、値段を抜きにしても普通にかっこいい。パックを開ける時に少し息を止めるのも、たぶん一生治らない。
投資として見るとシビアな話になるけれど、そもそもあれは、綺麗だから欲しいものだった。それを忘れると、たぶん儲からないし、何より楽しくない。
※本記事の価格は、スニーカーダンク・ポケカチ等の公開データを2026年8月時点で確認したものです。投資判断は自己責任でお願いします。
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