VOCから始まった開発は、なぜ迷走したのか?~ひよっこPMMに突き付けられた要望と価値の壁~
こんにちは。auコマース&ライフ(以下auCL) サービス・プロダクトマネジメント部でPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)をしている服部です。

PMMの重要な役割の一つに、「プロダクトの価値を正しく定義し、営業と開発の橋渡しをしながら、顧客へ届ける(Go-To-Market)」があります。
その過程で最も難しいのが、営業側から上がってくる「顧客の生の声(VOC)」と、プロダクトが提供できる「実際の価値」にギャップがあるときです。
私たちが「検索広告」のとある機能における要件定義で経験した、「正義の衝突」と、そこからPMMとして学んだ「健全な期待値調整」についてお話しします。
VOCからはじまった、機能改善計画
きっかけは店舗さま向けのアンケートで寄せられた、複数の設定に関するお困りごとでした。
「〇〇がないから商品を入札できない」
営業部門はこのお声に応えるべく「他社のように〇〇という機能を追加して入札ハードルを下げ、出稿数を増やそう!」という方針を立て、ベンダー様との要求整理・要件定義を推進していきました。
一見、顧客ハードルを取り除く素晴らしいGTM施策に見えます。しかし自社プロダクトの構造上の問題から大きな歪みがあることにこのときはまだ気がついていなかったのです。
それって真に店舗さまの課題解決になるの?
要件定義が進み、いざ発注を行うための社内レビューに持ち込んだ際、CPOからのひとこと
「それって真に店舗さまの課題解決になるの?」
思わずハッとさせられました。
言い訳をするなら、私を含めプロダクト側のメンバーは前任から引き継いですぐのひよっこばかりだったこと、本案件についても実施が決まってからのアサインだったこと、そして「要件定義も広告サービスの経験が長く店舗さまに近い営業部門の方がサービスへの理解度が高い」という思い込みです。そのため、なんとなく決められたことを「うんうん、そういうものなのね。」と疑いもせずに進行しておりました。
プロダクトの価値を正しく定義する役割であるPMM自身がその役割を放棄していたのです。ここから私たちがこのプロダクトを通して何を店舗さまにお届けしたいかを言語化し、周囲との調整の旅がはじまったのです。
衝突①:営業の「受注論理」 vs PMM/開発の「顧客体験論理」
大幅な方向転換とスケジュールの引き直し、再度の要件定義の必要性など、機能提供は当初より大きく遅れることになりました。
となると当然営業側からも不満は起こります。
営業サイドの正義
粒度が粗くてもいい。「〇〇がないから商品を入札できない」という最初の壁を壊し、まずは出稿してもらうこと(提案のきっかけ・武器を作ること)が最優先だ
プロダクトサイドの正義
精度が粗く、結果として店舗さまのROAS悪化や無駄なコスト増につながるのであれば、解約やサービスへの不信感に直面する。過度な期待値醸成は避けるべきだ

営業は「迷いを払拭して出稿へ導くこと(0→1)」を重視し、PMMは「期待値どおりの成果を出し、長く使い続けてもらうこと(サクセス)」を重視していたのです。
どちらも「店舗さまに価値を届けたい」という想いは同じでありながら、「どのフェーズの価値(オンボーディング vs 成果創出)」を語っているかがズレていたことが衝突の原因でした。
衝突②:ベンダー様の「仕様達成論理」 vs PMM/開発の「成果検証論理」
本プロジェクトをご支援くださっているのは、VOCの精査・優先順位付けから要件定義・開発までを伴走いただいているベンダー様です。
複数ある開発案件の中で、本件のテーマは「店舗さまの入札工数削減と適正な設定支援」でした。
しかし、ここにも隠れた「正義の認識相違」がありました。
ベンダーサイドの正義
〇〇という機能を正しく構築・納品すれば、入力や設定の工数が減り目的は達成される
プロダクトサイドの正義
結果として店舗さまの成果につながり、運用が楽になる「有意な〇〇」でなければ、いくら仕様どおりに作っても本当の工数削減にはならない

ベンダー様は「〇〇という機能があれば目的は達成する(アウトプット)」と考え、PMMは「機能によって店舗さまに成果と本質的な工数削減が生まれること(アウトカム)」をゴールとしていたのです。
私たちが求めていたのは、「店舗さまが成果につながる実感を持って使える機能」でした。
ここで問題になるのが当社のプロダクト構造です。独自構造の都合上、他社と似たような機能を追加しても、それが自社において「店舗さまにとって有意な機能」になるとは限りません。
かつ、今回の要件では「提示する数値や機能が本当に店舗さまにとって有意か」をリリース前に検証(テスト)する体制も組み込めていませんでした。
「作ったけれど効果が出ない」リスクを回避するため、ベンダー様とのプロジェクトも一度立ち止まり、仕切り直しを決断しました。
私がこのプロジェクトからPMMとして学んだ3つのこと
CPOの「それって真に店舗様の課題解決になるの?」という一言から始まった今回のプロジェクト見直し。
「引き継ぎ直後」「知識のある営業・ベンダーにお任せ」という受け身の姿勢だった私たちが、この正義の衝突と仕切り直しを通して得た大きな学びは3つあります。
①「他者依存」を捨て、プロダクトの価値責任(主導権)を持つ
営業やベンダー様の知見を尊重することは大切です。しかし、「専門家が言っているから」「決まっていたことだから」と意思決定を他者に委ねてしまっては、PMMの役割を果たせません。「この機能は本当に顧客の成果につながるか?」という問いの矛先を、誰よりもまず自分自身に向け続ける覚悟が必要だと痛感しました。
②VOC(声)を鵜呑みにせず、自社の「構造」と「真のNeed」に翻訳する
「〇〇がない」という声(Want)に対して、他社と同じ機能をそのまま作る(対症療法)のではなく、「なぜそれが必要なのか?自社のプロダクト構造で本当に機能するのか?」を深く見極める重要性を学びました。顧客の声をそのまま機能化するのではなく、自社の強みと制約に合わせた「真の解決策」へ翻訳することこそがPMMの価値です。
③各ステークホルダーの「正義」をアラインメントする
営業: 提案のきっかけを作り、一歩踏み出させたい(0→1)
ベンダー様: 要求された仕様を期日通りに正しく作り上げたい(アウトプット)
PMM/開発: 期待通りの成果を出し、長く使い続けてほしい(アウトカム)
全員が「店舗さまのため」を想いながらも、見ている時間軸とゴールがズレていました。PMMの真の役割は、どれかの正義を否定することではなく、全員の目線を「店舗さまのサクセス」という1点に揃え直す(アラインメントする)ことだと知りました。
おわりに
今回の仕切り直しは、スケジュール遅延という意味では痛みを伴う決断でした。そしてこの記事が世に出る頃にも、私は痛いよ痛いよと言いながら走り続けているでしょう。記事に起こすとこんな初歩中の初歩もできていなかったのかと恥ずかしくなりますが…。
しかし、これは私が受動的な進行役(ファシリテーター)から、プロダクトの「価値の定義者」へと一歩踏み出すための、チームにとって欠かせないプロセスだったと感じています。
私たちは「機能を作る」ことがゴールではありません。
これからも、営業・ベンダー・プロダクトチームの全員が同じ「店舗さまの成功」に向かって走れるよう、PMMとして真の課題解決に向き合い続けていきます。

お客さまにとっても、店舗さまにとっても、もっともっとよくなるこれからのau PAY マーケットに、ぜひご期待ください。
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