【出会った本のレビュー】2026年9月
📖名探偵ジェリコ/ウィリアム・ハッセー(文春文庫 2026/8/5 発売)
名探偵ジェリコのキャラに爆死! 今年もっともエグみが強い作品、奇抜なミステリーを欲している人は読み逃せません。
舞台はイギリスの見世物小屋。そこで起こる事件を追うのが、主人公のジェリコです。元刑事、元受刑者、同性愛者、そしてトレーラーハウスで無為な日々を送る男。もう設定だけでどんな人なのか気になってしかたがない。
そんなジェリコが吐き出すセリフには迫力があって、まるで映画を観ているような臨場感がある。そしてロマンスの描写もかなり生々しく、感情の揺れがダイレクトに伝わってくるんすよね。彼の魅力に惹かれるというより、気づいたら物語の中に吸い込まれている感じがします。
そして事件も強烈。猟奇的でかなり刺激の強い犯罪が次々と登場。正直、そんなエグい話なんかいと思う場面も多い。でもただショッキングなだけではなく、その背景までしっかり描かれているからこそ、事件の重さがずしんと残るのです。
ミステリーとしても終盤は見事な展開。大胆なことを仕掛けてくるので驚かされますが、振り返ってみるとちゃんと筋道が通っている。えっ、マジで!?からのなるほどっが気持ちいいんです。
いつもと違う、ちょっと尖ったミステリーを読みたい人にはおすすめ。クセの強い主人公とハードコアな事件。これは今後も続きが気になるシリーズです。
📖犯人は現場に首だけ戻る/倉知淳(実業之日本社 2026/7/16 発売)
なぜ死体が切断されているのか…? ベテラン本格ミステリー作家の真骨頂、骨太すぎる謎解きにびっくり!
本格ミステリーの魅力を、これでもか!というくらい詰め込んだ一冊。連作短編集で、全部で4つの謎解きを楽しめるのですが、まず目を引くのがタイトルの珍妙さ。そして装画もグロ可愛いという、なんともクセ強な雰囲気。登場人物も事件もひとクセあって、読み始めからニヤニヤしてしまいます。
探偵役の二人も、かなり変わったコンビ。会話を聞いているだけでも楽しくて、気軽に読めるのがいいところ。でも久世は完全に常識外れなのに、洞察力は抜群という天才肌。彼が真相を語り始めると、そこまで分かるのと何度も驚かされます。
そして本作の最大の特徴が、どの事件にも「遺体の切断」が登場すること。首、腕、足、そしてバラバラ死体。普通ならなぜそこまで?と思うところですが、もちろん切断にはちゃんと論理的な理由があります。
個人的に一番好きなのは、二作目の「腕」ですね。手がかりはちゃんと提示されているのに、そこから真相を見抜くにはかなりの想像力が必要です。動機も単純なものではなく、発想の凄さに脱帽です。
奇抜でちょっとヘンテコ、でも謎解きは超本格。肩の力を抜いて楽しみながら、最後にはなるほどと唸らされる。ミステリーファンはかなり楽しめる一冊だと思いました!
📖囁く逆婿 怪民研に於ける記録と推理/三津田信三(KADOKAWA 2026/7/24 発売)
民俗学の題材に物語が繰り広げられる怪民研シリーズの最新作、友人から亡くなった姉の婚礼に出て欲しいと依頼され…
三津田信三先生の「怪民研シリーズ」最新作。今回も、ホラーとミステリーのバランスが絶妙です!
今回のテーマは「冥婚」。亡くなった人を結婚させるという風習で、中国や台湾では知られていますが、日本にも似た風習があるそう。宗教や民俗学が絡んだ背景も興味深く、こんな風習があるんだと勉強にもなります。
主人公の瞳星愛は、友人の姉の婚礼儀式のために実家を訪れ、そこで恐ろしい事件に巻き込まれることに。村の人々や刑事とともに謎を追うのですが、過去の事件や複雑な人間関係まで絡んできて、どんどん不穏な空気に。
そして、やっぱり怖い! 静かな暗闇に誰かいる?と思わせるような描写がリアルで、まるで自分がその場にいるような臨場感。
もちろん怖いだけではありません。怪奇現象のように見える出来事も、最後には論理的に解き明かされていきます。天弓馬人による多重推理も見事で、納得させられました。
個人的に一番怖かったのは、実は事件そのものより動機。人は追い詰められると、ここまで考えてしまうのかと思うとゾッとしますね。
思い込みや執着が強くなると、知らないうちに視野が狭くなってしまうことってあります。自分の正しさだけにとらわれず、いろんな角度から物事を見ることの大切さも感じました。怖いけど、謎解きもしっかり楽しめる。今回も大満足の一冊です。
📖呪詛遊戯/市川憂人(中央公論新社 2026/8/21 発売)
「呪詛」という罰にまみれながら、最凶の謎に挑め! ディストピアSF&特殊設定本格ミステリー。
舞台は現実とは少し違うパラレルワールド。どこかレトロフューチャーな雰囲気もあって、幻想的なのに不気味。市川憂人先生らしい、独特の世界観にまず引き込まれます。
なかでも強烈なのが「呪詛」という設定。多くの登場人物が、視覚や聴覚、味覚、四肢機能など、身体の一部にさまざまな制限を抱えています。しかも、その呪詛が物語の中で思いもよらない形で事件に絡んでくる。
さらに失踪、殺人、特殊なアイテムまで登場して、もう大混乱!いったい何が起こってるのーって、こちらの頭もフル回転ですよ。
でも、ただ奇抜なだけじゃないのがすごいところ。ちゃんと伏線が張られていて、終盤の謎解きではなるほどーって唸らされます。複雑に見えた設定が、きれいにつながっていく気持ちよさは、本格ミステリーならでは。
そしてもうひとつ印象に残ったのが「呪詛」をめぐる人々の価値観。信仰や思い込み、執着が人を縛り、ときには誰かを傷つけてしまう。その怖さは、決してファンタジーだけの話ではありません。
自分の考えに夢中になるほど、周りが見えなくなることってありますよね。だからこそ、ひとつの価値観にとらわれず、いろいろな角度から物事を見ることの大切さを感じました。
📖ペーパー・リリイ/佐原ひかり(集英社)
夏が終わる前に読もうっ! 天真爛漫で自分に正直な杏と、真面目で融通がきかないキヨエの凸凹コンビの逃避行。
夏が終わる前に、ぜひ読んでおきたい一冊。ちょっと息苦しい毎日から、ふっと飛び出したくなるような、爽やかなロードノベルです。
主人公は、天真爛漫で自分に正直な杏と、真面目で融通のきかないキヨエ。性格も考え方も正反対のふたりが旅に出るのですが、この凸凹コンビのやりとりがとにかく楽しい!
言い合いをしているだけなのに、思わず笑ってしまったり、「わかる、そういうことあるよね」と妙に共感してしまったり。ふたりの会話を追っているうちに、いつの間にかこちらまで旅に参加しているような気分になります。
旅の途中では、個性的な人物たちも次々に登場。物語はどんどん賑やかになり、海へ向かう旅の開放感も相まって、ページをめくるほど「私もどこかへ行きたい!」という気持ちが強くなっていきます。
そして、この作品で特に印象に残ったのが「愛情」の描き方。愛情は、ただ優しく与えるだけではありません。与えることも、受け取ることも、時には身を削ることもある。人と人との間を行き交う愛情には、本当にいろいろな形があるんだなと考えさせられました。
忙しい毎日に少し疲れたとき、知らない場所へ旅するような気分を味わいたいときにぴったり。夏の終わりに、心を少しだけ軽くしてくれる一冊です。

