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研究と実践のはざまで。スタートアップで心理職として働くということ / アウェアファイをつくる人々 vol.2


みなさん、こんにちは!
私たちは、最先端のAIテクノロジーと、科学的エビデンスに基づいた認知行動療法などを掛け合わせ、メンタルヘルスの新しい実践を模索しているスタートアップ、株式会社Awarefy(アウェアファイ)です。
「アウェアファイをつくる人々」連載の第二回に登場するのは、アウェアファイのコア領域である「こころ」の専門性を担う、ふたりの心理職。
「臨床でもアカデミアでもない場所で、心理職はどんなふうに働いているの?」「専門性を持つがゆえの葛藤やジレンマは、どう乗り越えているの?」そんな問いに、ふたりの実践から迫ります。

  • スタートアップ運営に専門家の知見を取り入れたいが、イメージが湧かない

  • 研究者としてのキャリアに迷い、事業会社で働く可能性を探っている

  • 現在スタートアップで働いており、専門家としての葛藤を感じている

そんな方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
お話を聞いたのは、アウェアファイの研究活動を推進しながら、福祉施設「アウェアファイ リワーク」で提供するプログラム開発にも関わる高階さんと、プロダクトチームの一員として、心理の専門性を活かしたAI機能の設計やアプリの企画に携わる武井さん
異なる領域を越境しながら、専門性と向き合い続けるふたりの日々を聞きました。


参加者プロフィール

高階 光梨(Hikari N. Takashina)
アウェアファイ リサーチチーム所属
シニア・リサーチャー / 公認心理師

関西学院大学 文学研究科で修士号(心理科学)を取得。やまうちクリニック カウンセラー、国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター 非常勤職員、同志社大学 臨床研究員、千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター 特任研究員等を経て、2024年より株式会社Awarefy シニア・リサーチャー。これまで、抑うつ症状や不安症に対する認知行動療法の有効性検証や、デジタルデバイスを用いた認知行動療法の社会実装のための研究等に従事。著書に『遠隔心理支援スキルガイド:どこへでもつながる援助』(分担執筆,誠信書房)、『不安症のエクスポージャー療法:原則と実践』(共訳,創元社)など。
https://researchmap.jp/Hikari-TAKASHINA

武井 友紀(Yuki Takei)
アウェアファイ プロダクト開発チーム所属
公認心理師・臨床心理士

早稲田大学大学院 人間科学研究科で修士号を取得。心療内科での勤務を経て、株式会社Awarefyに一人目の心理師として入社。toC事業部に所属し、AIメンタルパートナーアプリ「アウェアファイ」の企画・開発に携わる。現職に加え、医療機関にて成人を対象とした心理支援業務を行っている。


あこがれの存在から、背中をあずける同僚へ ー ふたりの歩み。

ー  社内ではすっかりお二人との協働が当たり前になっていますが、外から見ると「心理職って何をしているの?」と不思議に思う方も多いかもしれません。ふだんはどんな業務に取り組んでいるのか、簡単に教えてください。

武井:2021年にアウェアファイで一人目の心理職として入社して以来、プロダクトチームの一員としてアプリの機能企画・開発・改善に関わっています。とくに、 AIチャットをはじめとするAIの機能の設計や、心理の知識を活かして「どんな機能や提案がユーザーさんの日々の生活の支えになるのか」を考える仕事が多いです。肩書きは心理職ですが、チームのひとりとして、専門性をどう活かすかを日々試行錯誤しています。

高階:私は、提供しているサービスやプロダクトの「安全性」と「有効性」を担保するために、科学的な検証や設計に取り組んでいます。たとえば、認知行動療法に基づく心理支援の枠組みや、AIを活用した新しいアプローチが、理論的にきちんと成り立っているかを確認する役割です。リスクの観点からアドバイスをしたり、企画段階から他職種と一緒に考えることもあります。ここ最近は、開所したばかりのリワーク施設(アウェアファイ リワーク)のプログラム設計などに時間を割くことも多いですね。
最近だと、産業医科大学や新座すずのきクリニックとの共同でアプリと対面支援を組み合わせた休職されている方向けのハイブリッド・リワークプログラムの研究を実施したりしています。
研究詳細 https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000063000

ー  それぞれ、学会登壇や論文執筆(高階さん)、臨床での対人支援(武井さん)なども合間をぬって続けていて。「何人いるんだ…?」と社内でもよく言われています。

高階:やりたいことは山ほどあるんですが、時間がまったく足りません…!

武井:アプリの仕事と臨床、それにプライベートのバランスをうまく取るのが目標なんですけど、私もなかなかできていないですね。バランス取りたい!

ー  そもそもお二人は入社前から近い領域で活動されていたと思いますが、もともと面識はあったのでしょうか?

武井:実は、高階さんが講師をされていたワークショップに、私が受講者として参加したことがあるんです。それくらい、当時から私にとっては雲の上のあこがれの存在。なので、高階さんが入社されると聞いたときには、チームメンバーに「みなさん、自分の所属する野球チームに大谷翔平選手が移籍してくると思ってください」と言ったくらいです(笑)。良い意味で、とんでもないことになったなと思いました。

ー  武井さんから見た「高階さんのすごさ」ってどんなところにありますか?

武井:もう、私がいうまでもなく業界内では有名だと思うんですが、端的に言うと“二刀流”なところです。ご自身で研究される際のテーマ設定や方法論の組み立て、考察の深さも圧倒的なんですが、それだけじゃなくて、他の方や団体と協働するときのプロジェクトマネジメント力や調整力も本当にすごくて…。片方でも一流なのに、両方できるって、本当に稀有な存在だと思っています。

高階:恐縮です…。本当に、自分の専門性なんてまだまだで、足元にも及ばないすごい先生方がたくさんいらっしゃいます。周りの皆さんの知見をお借りしながら、どうにか進めている感じです。もっと鍛錬しなきゃ…と日々思っています。

ー  二刀流だから大谷翔平選手のたとえだったんですね! 確かに高階さんは、ひとりで黙々と執筆や設計をされている時とMTGの進行をされている時で、まったく違う表情をされていて、その切り替えが鮮やかですよね。逆に、高階さんから見た武井さんは、いかがですか?

高階:私も、入社前から武井さんのお名前や素晴らしい評判を耳にしていました。臨床のご経験が豊富で、「科学者―実践者モデル(Scientist-Practitioner Model)」という、心理職に求められるスタンスをまさに体現されている方です。
私自身も少しだけ臨床に関わっていたことがありますが、臨床モードから他の業務モードに切り替えるのって、本当に難しいんですよね。その点、武井さんはずっと対人支援を続けながら、他の業務も高いクオリティでこなされていて、しかも今も定期的にSV(スーパービジョン ※1)を受けて鍛錬を重ねていらっしゃる。本当に尊敬しています。
あと、「do no harm」(※2)の精神を何よりも大切にされていて、誠実に自身の役割を全うしたいという思いは私も共通しているので、一人じゃないんだと心強さを感じています。

※1 スーパービジョン…対人援助職者が、より経験豊富な専門家から指導や助言を受けることで、自身の専門性を向上させるための訓練のこと
※2 do no harm…医療や心理現場の従事者の中で大切にされる考え方。「害をあたえてはならない」の意

武井:臨床も仕事もまだまだ未熟な点が多いですが、高階さんにそう言っていただけるなんて…とても励みになります。心理職として悩んだときに相談できることの安心感もありますし、高階さんの姿勢に触れるたびに、「私ももっと頑張ろう」と自然と思えるんです。日々、たくさんの刺激をもらっています。

これまでの「常識」が通用しない環境で、問い直される専門性

ー  入社したばかりの頃は、どんなふうに感じていたのでしょうか?

高階:心理職としても研究者としても、まだまだ未熟な自分が、本当に事業会社で価値を出せるのだろうか…という葛藤がすごく大きかったです。

武井:わかります。私も最初は戸惑いが多かったです。大学院や実習で学んだことが、そのまま活かせるわけではないので…。新しい環境に合わせて、知識やスキルを翻訳し直す必要があるんだな、と感じましたね。

高階:「心理の専門家とは、かくあるべき」という思い込みに、自分で自分を縛ってしまっていた時期もあって。今振り返ると、もっと柔軟でよかったなと反省することも多いです。武井さんは一人目の心理職だったわけですし、本当にご苦労があったんじゃないかと思います。

武井:私の場合は新卒入社だったので、「そもそも“仕事”って何?」というところからのスタートでした(笑)。何かうまくいかなかったときに、それが心理職としての違和感なのか、社会人としての未熟さなのか、自分でもよくわからなくて。でも、だからこそ柔軟に対応できたところもあるのかな、と今は思っています。

高階:いやいや、それは武井さんのしなやかさがあってこそですよ。武井さんが最初にアウェアファイに「心理の専門家と働く」というカルチャーを築いてくださっていたおかげで、私も安心して飛び込むことができました。本当にありがたかったです。

ー  そこから今に至るまで、おふたりの中でどんな変化がありましたか?

高階:一番大きな変化は、「この人たちは、自分の肌感覚や懸念、意見をちゃんと受け取ってくれる」と思えるようになったことですね。仲間を信頼できたことで、安心して声を上げられるようになりました。そして、その意見を取り入れてもらった企画が、実際にユーザーさんのもとに届く経験も重ねられて、「未熟な自分にもできることがあるかもしれない」と、少しずつ自信につながっていきました。

武井:わかります...! 私も、チームのみんなが本当に真剣に耳を傾けてくれるという実感があります。

高階:たとえば、マーケティングのチームが考えてくれる「ユーザーに刺さる」表現って、私たちが心理職や研究者として教育されてきた“常識”とは、少し違うこともあります。でも、だからこそビジネスとして届くんだなと学ぶことも多くて。異なる職種の方たちと対話するなかで、自分の考え方が少しずつほぐれて、変化していく感覚があります。

武井:それは本当にありますね。立場や役割によって「何を優先するか」は違っても、「ユーザーさんのメンタルヘルスのために、よりよいものをつくりたい」という根っこの部分は共通している。だからこそ、お互いに工夫しながら「どうすれば専門性を損なわずに、もっとわかりやすく、届きやすくできるか」を一緒に考える。その繰り返しの中で、正解のない問いに向き合い続ける力や、サービスを持続可能な形にしていく視点など、私自身にもビジネス的な視座が育ってきたと感じています。

ー  スタートアップで求められることと、心理士としての在り方には、必ずしも重なる部分ばかりではないということですね。特に「スピード感」の違いは、顕著なのではないでしょうか?

武井:はい、それは本当に感じます。正直、いまだにこのスピードにちゃんと乗れているとは言いきれなくて…。

高階:私もです(笑)。ただ、最初の頃と比べると、スピード感を心地よくおもう瞬間も増えてきました。うまく乗れたときは、気持ちいいなと思います。

武井:「これは納得しきれていないけど、急いで進めなきゃいけない…」みたいに、割り切れずに葛藤することもあります。でも、そういうときにちゃんと話し合える場があって、意見を言ってもスルーされない・邪魔者扱いされないという安心感があるので、乗り越えられるんです。

高階:わかります。心理職だけでなく、エンジニアやセールスなど、異なる専門性を持つメンバーが多様に集まっているので、自然と価値観の違いを尊重するカルチャーが根づいているんですよね。「言えないこと」が溜まりにくいから、衝突があってもチームでちゃんと乗り越えていける感覚があります。

”アカデミアか臨床か” ではない、オリジナルな道を探して。

ー  お二人のキャリアは、外から見ると唯一無二の道を順調に歩んでいるようにも見えますが、よくある「研究か臨床か」で悩まれたこともありますか?

武井:いつも悩んでいます。今なんて「二兎を追う者は…」どころではなく、事業という三兎目とも向き合っていますし。

高階:うさぎがいっぱい(笑)。私は「こころ」に関わる専門家として、研究と臨床を完全に切り離すのは難しいと考えていて。今は「研究3:臨床2:開発5」くらいのバランスなんですが、その時々の自分のワクワクする比重を探しながら、少しずつ新しい道をつくっていけたらなと思います。

武井:確かに。直接の対人支援をしていない時でも、アプリ開発などの業務の中で「心理士としての専門性が活きているな」と感じる瞬間はすごく多いです。知識や技能をどういう環境・形で出力するかは本当にいろんな形があるなと思いますし、大変だけど面白いです!

ー  悩みつつも、これまでいた世界を飛び出してよかったことがたくさんあるんですね。

高階:もちろん「あちらを立てればこちらが立たず」みたいな葛藤はありますが、信頼できるチームと連携することで、スピード感を担保しつつ、信頼性をできる限り損なわずに価値を届けられるようになってきました。さらに、社会実装のなかで見えてくる課題や問いを、研究の仮説に落とし込むという良いルーティンも少しずつできてきたと思います。

武井:アカデミアや臨床の枠の外に出てみるからこそ、出会える人や、耳に届く声があるんですよね。たとえば、心理支援についての世の中のイメージとか、他のあらゆるサービスと並べてみたときの心理支援の特性とかって、従来の枠の中ではあまり意識してこなかったかもしれません。今はその距離があるからこそ、見えることがあります。

高階:本当にそうですね。私自身、武井さんのそばで働くことで、「もっと臨床経験を積みたい」という気持ちが強まりました。実際に、リワークで少しずつその実践ができているのはとてもありがたい環境です。

武井:私も高階さんの姿を見て、「もっと研究者としても鍛錬したい」と刺激を受けています!

高階:実際に、武井さんは先日の人工知能学会全国大会でも素晴らしい発表をされていて…! 抄録も公開されているので、ぜひみなさんに読んでいただきたいです。

武井:ありがとうございます。でも本当に、チームの知見や支えがあってこそです。それに高階さんもよくおっしゃいますが、これまでアカデミアや臨床で築き上げられた“枠”や“型”に対しての敬意は忘れないようにしたいです。これまで積み上げてこられたものを真摯に学びつづけながら、どうやってそれをサービスに組み込んでいけるかを、これからも考えていきたいですね。

ー  さて最後に、ご自身の専門性を「どう社会に届けていくか」という点において考えていることを聞かせてください。

高階:私は常に「届け先、つまり社会にとって“良い影響がある可能性の高いもの”を、誠実に届けたい」と思っています。特に、今私たちが取り組んでいるのは、メンタルヘルスという繊細な領域でありながら、AIという先端技術を活用し、スタートアップというスピード感ある現場で社会実装していくという、非常にチャレンジングな取り組みです。その分リスクも伴うし、倫理的な配慮も不可欠です。でもだからこそ、前例がないなかで、現場と科学の知見のあいだを丁寧に翻訳して、届け方を工夫していく必要があると思っています。

武井:本当にそうですよね。私は、「ユーザーさん自身の人生のリソースになるような支援」につながることをいつも意識したいと思っています。アウェアファイの活動が、人生の大きな転機の中で、ちょっとでも背中を押せるような存在になれたら嬉しいし、そのためには「大事なところを毀損せず、でもビジネスとしても成立する良いもの」を、妥協せずに形にしていきたいです。

高階:まさにそれは実装科学の視点ですよね。私はその領域にも研究者として関わってきたので、実装のプロセスそのものを学問としても捉えながら、社会のなかで回る形にしていく。そしてその実践からまた新たな問いや知見が生まれ、次の研究へとつながっていく。そんなよい循環をつくっていけたらと考えています。

武井:そう聞くと、ますますワクワクします。私はアウェアファイで働く中で、本当に多くのすばらしい心理の専門家に出会いました。アカデミアや臨床の第一線で活躍されている方々、かつてアウェアファイに関わってくださった心理士のみなさんも含めて、リスペクトできるロールモデルがたくさんいます。もし今、研究者や臨床家の方でキャリアに悩んでいる方がいたら、「こうじゃなきゃいけない」って狭めなくても大丈夫なんだよ、と伝えたいです。どんな場所にいても、きっと出会える仲間や先輩がいるし、自分に合った形で社会に貢献できる道があると思います。

高階:すてき! 枠にとらわれず、でもその枠の持つ意味や歴史に敬意を払いながら、自分の専門性をどう活かすかを問い続ける。そのプロセスを面白いと感じる方にはぜひスタートアップの世界に入ってきていただきたいですし、私自身もそうありたいです。

ー  お二人のお話から、「専門性を持って生きる」ということの自由さと責任、そしてその面白さがひしひしと伝わってきました。アカデミアでも臨床でもない、越境のフィールドで奮闘するお二人の姿は、心理職を志す方はもちろん、キャリアの在り方に悩むすべての方にとってのヒントになるはずです。ありがとうございました!


アウェアファイ心理チームによる研究活動はこちらからもご覧いただけます。 


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