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寝たのに、回復していない。睡眠時間だけでは説明できない疲労の話。

7時間半寝た。
昨日は酒も飲んでいない。
夜更かしもしていない。
スマートウォッチを見ると、睡眠時間もそれなりに確保できている。

それなのに、朝、身体が重い。

目は開いている。
仕事にも行ける。
でも、何かが戻っていない。
こんな朝がある。

逆に、6時間半くらいしか寝ていないのに、妙に身体が軽い朝もある。
ここで、少し変なことに気づく。
私たちはいつから、「何時間寝たか」で、どれだけ回復したかを判断するようになったのだろう。

「7時間寝れば大丈夫」は、半分しか答えていない

まず、睡眠時間は重要だ。
これは間違いない。
American Academy of Sleep Medicine(AASM)とSleep Research Society(SRS)のコンセンサスでは、成人は健康維持のため、習慣的に7時間以上の睡眠をとることが推奨されている。
慢性的に睡眠時間が不足すれば、身体にも認知機能にも影響が出る。
だから、「睡眠時間なんて関係ない」という話ではない。

むしろ逆だ。
時間は必要だ。

ただし、時間だけでは、睡眠のすべてを説明できない。
実際、AASMの議論でも、睡眠には時間だけでなく、タイミング、規則性、質など複数の側面があることが指摘されている。
睡眠時間は、睡眠という現象を測るための、一つの数字にすぎない。

眠っていた時間と、回復した時間は同じなのか

たとえば、23時30分に寝て、7時に起きた。
計算上は7時間30分だ。

でも、その7時間30分がずっと同じ状態だったわけではない。
人の睡眠は、一晩中均一ではない。
浅い睡眠もある。
深い睡眠もある。
REM睡眠もある。
そして途中で、本人が翌朝覚えていないような短い覚醒が入ることもある。

つまり、
「ベッドにいた時間」
「眠っていた時間」
「身体がどう眠っていたか」

は、同じではない。

睡眠を途中で繰り返し分断する実験では、総睡眠時間だけでは捉えにくい翌日の覚醒度やパフォーマンス低下が観察されてきた。
睡眠は、ただ時間を積み上げれば完成するものではない。
その時間が、どうつながっていたか。
そこにも意味がある。

「寝たのに疲れが取れない」には、名前がある

睡眠医学には、non-restorative sleep(非回復性睡眠)
という言葉がある。

かなり直訳的に言えば、
「寝たはずなのに、回復した感じがしない睡眠」

研究上の定義には議論があり、これだけで一つの病気を意味するわけではない。
それでも、睡眠時間が一見足りているのに、
「朝、すっきりしない」
「寝た感じがしない」
「疲れが残っている」
という主観的な経験そのものは、睡眠研究でも扱われている。
つまり、「8時間寝たのだから、疲れているはずがない」
とは言えない。

時計と身体の感覚が一致しないこと自体は、珍しい話ではない。

朝の重さは、「昨夜の評価」だけではない

ただ、ここでもう一つ注意したい。
朝起きてすぐ身体が重いからといって、
昨夜の睡眠が悪かった、と即断することもできない。
人には、sleep inertia(睡眠慣性)と呼ばれる現象がある。
目を覚ました直後、
脳も身体も瞬間的に完全な覚醒状態へ切り替わるわけではない。

しばらく、眠気が残る。
判断が鈍い。
身体が動きにくい。
そんな移行時間がある。
特に、どの睡眠段階から起きたか、睡眠不足があったかなどによって、その程度は変わる。

だから、起きた瞬間の「だるい」だけで、
昨夜の睡眠全体を評価するのは少し早い。
身体に完璧なやる気スイッチはない。
眠りから覚醒へも、移行する時間がある。

スマートウォッチは、「身体そのもの」ではない

今は睡眠を数字で見ることができる。
睡眠時間。
覚醒時間。
心拍数。
睡眠ステージ。
スコア。
これは便利だ。
自分では気づかなかった傾向が見えることもある。
ただ、数字を見ることと、身体を知ることは同じではない。
そもそも家庭用ウェアラブルの睡眠推定は、医療機関で行われる睡眠検査そのものではない。
そしてもっと単純な話として、
睡眠スコアが90点でも、本人が回復していないと感じる朝はあり得る。

逆もある。
ここで重要なのは、数字を、身体より上に置かないことだ。

回復は、夜だけで起きているわけではない

さらに考えてみる。
朝の身体は、昨夜だけでできているわけではない。
前日の運動。
長時間のデスクワーク。
仕事の緊張。
食事。
飲酒。
体調。
そして、その前の日までに積み上がった睡眠不足。
そうしたものを抱えた身体が、夜を越えて朝になる。
だから、7時間寝たという事実だけを切り取って、
「なぜ疲れが取れないんだ」と考えても、答えが見つからないことがある。
睡眠は重要だ。
でも睡眠は、24時間から切り離されたものではない。

昼と夜は、同じ身体の中で続いている。

「休んだ」🟰「回復した」ではない

ここが、この話で一番面白いところだと思う。
私たちは、休んだ時間を数えることはできる。
8時間寝た。
30分昼寝した。
週末は何もしなかった。

でも、回復した量は、時計では測れない。
これは睡眠だけではない。
椅子に座っているからといって、身体が休んでいるとは限らない。
ソファでスマートフォンを見ているからといって、頭が休んでいるとも限らない。
逆に、散歩している時間に、妙に頭が軽くなることもある。
「何をしていたか」と、「身体がどういう状態だったか」は、
必ずしも一致しない。

休息は、行動の名前ではなく、身体の状態なのかもしれない。

「もっと寝ればいい」の前に

もちろん、睡眠不足なら寝た方がいい。
そこを哲学でごまかす必要はない。

ただ、十分な時間を確保しているのに、毎日のように強い眠気や疲労感が残る。
大きないびきを指摘される。
睡眠中に呼吸が止まっていると言われる。
朝の頭痛が続く。
日中、仕事や運転に支障が出るほど眠い。
そういう場合は、単なる「睡眠の質」の問題として自己流で片づけず、医療機関に相談した方がいい。
睡眠時無呼吸症候群をはじめ、睡眠を妨げる要因が隠れていることもある。
ヘッドスパで診断する領域ではないし、マッサージで治療するものでもない。

ここは、きちんと分けて考えたい。

身体は、「何時間休んだか」を知らない

時計は、23時30分から7時までを、7時間30分と数える。
でも身体は、時間を数字として経験しているわけではない。
眠り、
覚醒し、
体温が変わり、
神経活動が変化し、
また朝へ向かっていく。

だから、睡眠時間は大切だけれど、睡眠時間だけを見て、
自分の回復まで理解した気になるのは少し早い。

昨日と同じ7時間でも、今日の身体は昨日と同じではない。
朝に確認するべきなのは、「何時間寝たか」だけではなく、
「今、自分はどう起きているか」
なのかもしれない。


30秒でわかる|寝たのに疲れが取れないのはなぜ?

睡眠時間は回復に重要ですが、睡眠は「何時間寝たか」だけでは決まりません。
睡眠の連続性、タイミング、睡眠不足の蓄積、体調など複数の要素が関係します。また、十分寝たように見えても「回復した感じがしない」非回復性睡眠という経験は睡眠研究でも知られています。
ただし、起床直後のだるさは睡眠慣性による一時的な場合もあります。
十分寝ても強い疲労や日中の眠気が続く場合は、自己判断せず医療機関へ相談してください。


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老化というと、何かが失われていく話に聞こえる。
でも40歳の身体は、本当に20歳の身体が少し古くなっただけなのだろうか。
次は、「年齢」と「身体の現在地」について考えます。


REFERENCES

・Watson NF, et al. Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: A Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society. J Clin Sleep Med. 2015;11(6):591-592.
・Wilkinson K, Shapiro C. Nonrestorative sleep: symptom or unique diagnostic entity? Sleep Med. 2012;13(6):561-569. PMID: 22560828.
・Stone KC, et al. Nonrestorative sleep. Sleep Med Rev. 2008;12(4):275-288. PMID: 18539057.
・Bonnet MH. Does sleep fragmentation impact recuperation? A review and reanalysis. J Sleep Res. 1999/2000. PMID: 10646163.
・Tassi P, Muzet A. Sleep inertia. Sleep Med Rev. 2000;4(4):341-353. PMID: 12531174.

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。強い日中の眠気、慢性的な疲労、いびき、睡眠中の無呼吸などが気になる場合は、医療機関へご相談ください。



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