安曇に呼ばれて〜第4章「北アルプスに導かれ、再会から生まれたローカルガイドの芽 」
1.安曇の風、幼なじみとの再会

都会での暮らしに区切りをつけ、安曇(あずみ)の地へと足を運んだのは、幼いころの合宿や山への憧れが導いたものだった。
新たな生き方を見つけるため、思い切って移住を決意した勇気が、この地での物語の始まりとなる。
到着早々、昔からの幼なじみとの再会が待っていた。
十数年ぶりの対面。
一瞬の沈黙の後、互いの緊張を解きほぐしたのは、短い言葉とぎこちない微笑み。
寡黙な印象の彼だが、会話を重ねるうちに意外な饒舌さを見せる一面も。
尋ねれば農業に近い暮らし、手仕事、様々なスノースポーツまで、多岐にわたる"遊び"を極めていることが伝わってくる。
「山も嫌いじゃないよ。興味ある。」
その何気ない一言に、安堵にも似た温かさが胸に広がる。
安曇の自然を全身で謳歌する彼の姿からは、新たな暮らしへの大きな刺激とヒントが感じられた。
雪板やスノスケなどマニアックなウィンタースポーツにも精通している様子。地元の環境と見事に融合して生きる姿に、移住という選択の確かさが実感される。
2.北アルプス初挑戦、常念岳から蝶ヶ岳へ

移住の大きな目的の一つは、北アルプスの山々と本格的に向き合うこと。
安曇という地の利を活かし、初めての北アルプス登山にふさわしいルートを丹念に調査。
ガイドブックやウェブサイト、数々の山行記録を渉猟した末に選んだのが、三股ルートから常念岳へ登り、蝶ヶ岳へと周回する日帰りコース。
健脚向けのハードなコースではあるものの、丹沢の山々で体を鍛え、トレイルランニングも続けてきた足腰なら、ちょうど良い距離感と標高差だと判断した。
ヤマレコなどの山行記録サイトで調査すると、このコースは決して初心者向けではなく、急な登りや長時間の行程を要する健脚向けのハードなルートだと分かった。
しかし多くの経験者の記録には「体力があれば日帰りでも十分可能」「丹沢主脈縦走程度の体力があれば問題ない」という情報も見られた。
丹沢の山々で何度も厳しい登りを経験し、週末には常にトレイルランニングで体を鍛えてきた自分なら、このチャレンジングなコースも克服できるはずだ。
累積標高差約2,000m、歩行距離約16km、推定所要時間10時間以上というスペックも、これまでの山行経験から照らし合わせて無理のない範囲だと判断。
天候変化への対策や適切な水分・エネルギー補給計画も入念に立て、北アルプスデビューにふさわしい挑戦として準備を進めていった。
3.天空の稜線、常念岳で魂が震える

いよいよ出発の日。
早朝の三股登山口は闇に包まれ、うす暗い樹林帯を慎重に進む。
樹林帯を抜けると、槍ヶ岳や穂高連峰がその峻厳な姿を徐々に現し始める。圧倒的な威容と美しさに息をのみながら歩みを進めると、視界が一気に開け、北アルプス特有の鋭い稜線が眼前に迫る。
「これが北アルプスの稜線か……」
初めて間近にする天空の回廊に、心が熱く高鳴る。
常念岳の頂からは、槍ヶ岳、穂高岳…名だたる峰々が連なる絶景が広がる。
蝶ヶ岳へと続く稜線では、雲海が足元に広がり、深い谷とともに壮大なスケールに圧倒される。
足は疲労を訴えつつも、自らの力でここまで到達したという達成感が胸の奥から込み上げてくる。
都会での鬱屈とした日々、過去の葛藤…それらすべてが些細なことに思えるほど、雄大な稜線は深く、優しく、心を包み込む。
丹沢でのトレーニングが、この瞬間のために存在したかのように思えた。
4.白銀のHAKUBA、Japow(ジャパウ)の浮遊感

季節が移り変わり、北アルプスが厳冬期を迎える頃。
本格的な冬山登山には熟練の経験や特殊装備が必要となる。
まだその域に達していないながらも、スノーボードやバックカントリーなど雪国ならではの遊びに心が向き始める。
HAKUBA周辺は世界中の滑り手を魅了する"Japow(ジャパウ)"の聖地としても名高い。
Japow(ジャパウ)とは、日本の極上のパウダースノーを指す言葉で、「Japan(日本)」+「Powder(パウダー)」 を組み合わせた造語。
特に北米やヨーロッパのパウダースノーフリークの間で人気だ。
雪ひとつとっても、寒気が強く入った日の雪はものすごく細かい、まさにパウダーそのもの。
都会の感覚だと、見た目が大きな雪片(水分を多く含んだ雪)が降れば積もると思っていたから、「こんな細かい粒子で本当に積もるのだろうか」と最初は半信半疑だった。
しかし、その細かい雪が何時間も延々と降り続けば、あっという間に驚くほどのボリュームとなる現実に目を見張る。
気がつけば膝上、時には腰まで届く深雪の世界が出現する。
ひとたび滑り出せば、その浮遊感は想像をはるかに超える。
さらりと軽いパウダースノーに身を委ねると、視界は一瞬、真っ白な世界に包み込まれる。
スノーボードでのパウダーラン体験は、あっという間に病みつきとなった。幼なじみは雪板やスノスケを華麗に乗りこなすが、自分はまだこれらのマニアックな雪遊びには手を出せていない。
それでも、その姿を見ていると、足が地面から解放された状態で雪上を漂うような感覚、まるで雪の上を浮遊するような不思議な魅力に、いつか挑戦したいという思いが募る。
5.遊びの達人、深まる地元との絆

雪と遊びにのめり込むうち、改めて気づかされるのは幼なじみの多彩さ。
彼は自慢するわけでもなく、当たり前のように雪板を乗りこなし、天候や地形、地元特有のルールを踏まえた的確なアドバイスを惜しみなく伝える。
「風向きからして、あそこはパウダーが溜まりやすい」
「あの斜面は雪崩の危険があるから要注意」
といった具合に、普段は口数少ない彼が、要所要所で示す知識の深さは、何よりも心強い存在となる。
さらに彼のつながりを通じて、地元のガイドやエキスパートたちとの交流も広がっていく。
冬山専門のガイド資格を持つ人や、バックカントリー歴数十年というベテランまで、それぞれが個性的で奥深い知識を備えている。
彼らとの語らいはまさに目から鱗の連続。
「そんな楽しみ方があったのか」
「安全管理はそこまで徹底するものか」と、新たな発見の日々が続く。
未知なる"山の世界"が、無限に広がっていることを実感する日々となる。
6."コアなローカルガイド"、構想の始まり

北アルプスの登山やJapowの世界を体験するたびに、「この素晴らしさをもっと多くの人に知ってほしい」と感じる。でも正直なところ、「あまり知られすぎないでほしいな」という複雑な思いもある。
知る人ぞ知る山や、マニアックな雪遊びなど、独特な地域文化がたくさん眠っている。こうした「ここだけの楽しさ」を守りながらも、訪れる人には自然や地域との関わり方やローカルルールをしっかり伝えていけるコアガイドサービスを作ってみたい。
安曇野〜小谷村周辺は縄文文化や安曇族の歴史が濃く残っていて、ただ自然を楽しむだけじゃなく、昔のロマンを感じながら旅ができる場所。アウトドアと地域の歴史を組み合わせた、新しいタイプのガイドプログラムを考えるのもワクワクしている。
AIが日常になる時代だからこそ、人はよりリアルな体験を求めていくんじゃないだろうか。画面越しの情報に費やしている分、実際に現地に行って風を感じたり、匂いや音に包まれながら土地の歴史を直接知った時の感動はやっぱり格別だ。みんな「空気がおいしい」っていう。縄文遺跡巡りや地元ならではの遊びを楽しむその瞬間が、絶対に忘れられない特別な時間になる。
これから、そんな地域ならではの遊びや文化をもっと掘り下げて記事にしていく予定。夏は透明度抜群の青木湖でシットカヤックやSUP、登山やハイキングに縄文遺跡をプラスしたり、春は山菜採りと郷土料理を楽しんだりと、季節ごとの魅力をどんどん伝えていきたい。
もちろん、ガイド資格取得や安全管理、地域との連携など、やるべきことはたくさんある。それでもやっぱり、「実現したい」という気持ちは日に日に強くなっている。この土地だからこそ感じられる特別な魅力を、多くの人に味わってもらいたいと思っている。
あとがき
北アルプス初挑戦、常念岳から蝶ヶ岳への忘れがたい山旅。そしてJapowとの衝撃的な出会い。
それらを経て心に芽生えた「ローカルなコアガイド」という新たな夢。
しかし、現時点ではまだ構想段階。
安曇での生活を安定させるためには、地域経済との関わり方、収益モデルの構築など、現実的な課題をクリアしていく必要がある。
次なる歩みとして、幼なじみがこれから手掛けるマクラメ作品や農産物の販売に関わり、地元産品をどんな人々に届けるかを具体的に考え始めることになるだろう。
さらに、「ツアーアウトドアガイド×地域の歴史ロマン」という新たな可能性の扉も開かれようとしている。
ここでしか生まれない遊びや体験、文化を掘り起こし、安曇らしさを届けていきたい。
こうして安曇での日々は、ゆっくりと、しかし確実に動き始めた。
頼りになる幼なじみとの再会、心震わせた常念岳への山旅、国内屈指のパウダースノーがもたらす冬の歓び。
すべてが繋がり、新たな一歩を踏み出すための、確かな"道しるべ"となっていく。
次回が、「安曇に呼ばれて」の一旦の最終章となる予定だ。お楽しみに。
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