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PIXEuropeー欧州の光集積回路開発を支える仕組み

近年、光集積回路(Photonic Integrated Circuit:PIC)は、データ通信、センシング、量子技術など幅広い分野で注目を集めています。

欧州では、こうした光集積回路の研究開発と産業化を支援するため、European Chips Act の枠組みの中で複数のパイロットラインが整備されています。その一つとして整備されたのが、PICを対象としたパイロットライン「PIXEurope」です。

PIXEuropeは2025年に開始された比較的新しい取り組みですが、その背景には、JePPIX、ePIXfab、PIXAPPといった欧州の既存PIC開発支援基盤の蓄積があります。また、20機関・11カ国が参加する大規模なコンソーシアムとして構成されており、単一の研究施設とは異なる特徴を持っています。

本稿では、PIXEuropeの成立経緯を簡潔に整理したうえで、参加機関の役割や構成を俯瞰しながら、その全体像を見ていきます。

1 PIXEuropeの成立経緯

光集積回路(PIC)分野では、欧州において以前から複数の研究・開発支援基盤が形成されてきました。代表例として、オランダのJePPIX、ベルギーのePIXfab、アイルランドのPIXAPPが挙げられます。

  • JePPIX(オランダ)
    InP系PICを中心とした設計支援、共同試作(MPW)

  • ePIXfab(ベルギー)
    シリコンフォトニクス(SiPh)の製造アクセス、共同試作(MPW)、設計支援

  • PIXAPP(アイルランド)
    光集積回路の実装、光学アライメント、信頼性評価

これらのプラットフォームは、それぞれ異なる役割を担っていました。また、これらに関わっていた機関の一部(imec、TU/e、Tyndall など)は、現在のPIXEuropeにも参加しています。

2023年9月には European Chips Act が発効し、実施機関として Chips Joint Undertaking(Chips JU)が定義されました。この枠組みの中で複数のパイロットライン整備が進められ、2024年にはPICを対象とするパイロットライン公募が実施されました。

その後、2024年12月にPIXEuropeコンソーシアムが第5のパイロットラインとして選定され、2025年6月に Horizon Europe プロジェクトとして正式に開始されました。2026年現在、デモンストレーター開発や産業エコシステム構築が進められています。

2 PIXEuropeの構造

PIXEuropeの特徴は、単一の研究施設ではなく、欧州各地に分散する研究機関や大学を接続した「分散型パイロットライン」である点にあります。

企業は各機関に個別にアクセスするのではなく、PIXEuropeの中央窓口を通じて相談を行います。相談内容に応じて調整チームが必要な工程を整理し、適切な参加機関へ案件を割り当てる構造になっています。

図1 PIXEuropeにおける産業向け光集積回路(PIC)開発支援サービス

図から分かるように、PIXEuropeでは大きく以下の工程が提供されています。

  • 共同研究
    応用研究や概念実証、産業課題に応じた技術検討

  • 設計
    光回路設計、シミュレーション、設計最適化

  • 製造
    各種フォトニクスプラットフォームによるチップ製造

  • 実装
    光学アライメント、パッケージング、組立

  • 評価・試験
    光学特性評価、電気特性評価、信頼性試験

参加機関はスペイン、オランダ、ベルギー、フランス、アイルランド、フィンランドなど欧州各地に分散しており、それぞれが異なる技術領域を担当しています。

この構造により、企業は設計から製造、実装、評価までを一貫した流れの中で利用できるようになります。PIXEuropeの価値は個別の設備そのものだけでなく、こうした分散した技術基盤を統合的に利用できる点にあります。

おわりに

光集積回路(PIC)の開発は、従来の電子回路(エレクトロニクス)とは異なり、光(フォトニクス)の物理特性を扱うため、極めて難易度が高いとされています。

材料技術だけでなく、ナノ単位の精度が要求される加工技術も必要です。さらに、1ミクロン(1000分の1ミリ)未満の位置精度が求められる高度な実装・パッケージング技術が必要であり、これらすべてを単一の研究施設で賄うことは容易ではありません。

PIXEuropeが、欧州各地に分散する大学、研究機関、応用研究機関を接続し、企業が一つの窓口から利用できる形で提供する分散型基盤として構築されていることは、この技術的な困難に対応する現実的なアプローチとして大きな意味を持ちます。

PIXEuropeは、光集積回路の研究開発基盤であると同時に、欧州に蓄積されたフォトニクス技術を産業利用へ接続するためのインターフェースとして位置付けることができます。

今後、実際の利用事例や成果が蓄積されることで、この分散型モデルの有効性がより明確になっていくのかもしれません。

参考資料
PIXEurope
https://pixeurope.eu/

JePPIX
https://www.jeppix.eu/

PIXAPP
https://pixapp.eu/

Start of PIXEurope, a 400M€ initiative that aims to accelerate photonic chip development in Europe(ICFO News)
https://www.icfo.eu/news/2546/start-of-pixeurope-a-400m-euro-initiative-that-aims-to-accelerate-photonic-chip-development-in-europe/


English version (PDF)


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