小説『死せるアラサー、生ける後輩を走らす』#13
#13 昨夜の真相
先ほどまで、我儘言い放題で大騒ぎしてたのに、俺が質問した途端、先輩は大人しくなった。その表情は、俺とは目を合わせず、なにかを思案しているようだ。
「今まで二人きりで食事も飲みにも行ったことなかったから、昨日が初めてでしたよね?」
「・・・」
「女同士だとプライドとか見栄があるから、失恋とか結婚とか、そういう話はかえってしづらいのはなんとなく想像できるんですけど、年下の男である俺よりはまだ話しやすくないですか?」
「・・・」
俺が語りかけると押し黙ってはいるが、なにか言いたげにも見える表情だ。
でも、すっかり攻守が入れ替わった。
「昨日の事、朝から思い出そうとずっと考えてたんですけど、先輩は俺に色々愚痴を聞かせて、それを聞いた俺が調子のいいこと言ってたって言ってましたけど、2軒目に行ってからのことで俺が憶えているのは、仕事の愚痴を言い合いながら先輩が俺にやたらと酒を勧めてたことなんですよね。普通、愚痴る側がベロベロになるまで酔って、愚痴に付き合うほうが介抱したりしません?でも俺のほうが飲まされて酔っ払って『25なのに彼女なしで~』とか愚痴を零してたと思うんですよ。なんか、俺のわずかな記憶と先輩の言うことが逆なんですよね」
頭の中で整理しながら順番に話すと、自分でも疑問点が浮かび上がってくるのが分かる。
「それで、彼氏と別れた話は『言われてみれば、そんなこと話してたかな?』程度にはうっすら憶えているんですけど、話すのは2度目だって言ってた実家のこととか全然記憶にないんですよ。俺の酔いがかなりまわってから話したんじゃないですか?もしかして、俺をベロベロに酔わせてから愚痴を聞かせるのが目的でした?」
「ど、どうして、そう思うのよ」
「酔った時の自分のことは分かんないすけど、たぶん・・・泥酔状態で破局だとか実家でつらかった話を聞けば、同情して慰めたり調子がいいこと言って励ましたりするんじゃないすか?それが狙いでした?」
「・・・そんなの、知らない」
なにか企む意図が見え隠れするけど、所詮お酒絡みの話。確たる証拠なんて無いし、先輩も素直に認めたりはしないか。
「どちらにしても、酔って口説いてやっちゃった俺が悪いのは変わらないし、ただ、責任のことを考えると、まずは、昨夜自分がなにを言って、どうしてエッチまでしたのか知りたいだけなんですけどね。ラブホに行かずに先輩の部屋に来てるのも、なんか引っかかるし」
「別に、誰でもいいわけじゃないし、桃田君なら安心して愚痴れると思っただけよ」
「俺のこと、そんなに信頼してくれてたんですね。飼い犬ですもんね」
「そ、それは桃田君が全部忘れてるから!ついカッとなっただけよ!本心で飼い犬だなんて思ってない!」
「忘れてたのは申し訳ないっすけど、そこまで飲ませたのは先輩っすよ」
「そ、それは悪かったわよ」
「ホントは、俺をベロベロになるまで酔わせてこの部屋に連れ込んだのも、失恋とか実家のこととかで寂しくて、わざとそうしたんじゃないですか?」
パチン!
「バカにしないで!」
エェ・・・思いっきりビンタされた。でも、確かに今のはひと言余計だったな。
「だってしょうがないじゃない!寂しかったんだもん!ナリフリ構ってる余裕なんてないわよ!」
あ、余計なひと言だと思ったら、図星だったんだ。
「そうだよ!桃田君だから誘ったんだよ!最初から桃田君が目的だったよ!セックスだって最初からするつもりだったわよ!」
「えぇ!?そこも先輩からだったの!?だからラブホじゃなくて先輩の部屋なの???」
「だって・・・ラブホなんてイヤだもん」
つまり、俺を酔わせて泥酔させて、この部屋に連れ帰って事に及んだと。
「でも、なんで俺なんですか?イケメンじゃないし軽いし、仕事でも別にエリートってわけじゃないし、自分でも先輩ほどの美人に選ばれる理由がさっぱり分かんないっす」
「・・・年下だからよ」
「え?年?」
「そうよ。見返したかったのよ」
「んん???見返す?誰を? って、あ、もしかして、元カレですか?」
「だって、悔しいじゃない!若い女に浮気されて、まるで私が捨てられたみたいになってさ!だったらこっちだって若い男の子の彼氏作ってやる!って思うじゃん!」
いや、思わねーよ。
「そんなことで、俺だったのか・・・ははは」
「違うの!本当に誰でもよかったわけじゃないの!桃田君だからなの!私は桃田君を選んだの!」
そんなこと言われても、全然うれしくないな。なんとも言えない気分だ。
そりゃ、先輩ほどの美人でエロイ体してるお姉さまにベロベロになるまで酔わされて誘われたら、やっちゃうわな。だって、あのおっぱい揉んでみたいし。全然憶えて無いけど。
って、待てよ?
避妊無しもか!?
「あの、念のために確認なんですけど、朝起きてすぐにゴミ箱確認したら、コンドームとか無かったんですけど、避妊してないっすよね?それも先輩の意向で?」
「あ・・・いや、その、うん」
「それもだったかぁ」
体中の力が抜けて、先ほどからノドが乾いて仕方ない。
立ち上がってキッチンに行くと、勝手に冷蔵庫を開けて缶ビールを1本拝借して、その場で開けて、ゴクゴクと喉を潤した。
ここまで現実逃避して考えないようにしていたけど、避妊なしでしている以上は妊娠の可能性があるわけで、酔ってたとはいえ自分から避妊なしで迫ったのなら、自業自得で覚悟するべきだと思う。でも、ベロベロに酔わされて判断できない状態にされて、先輩の意図で避妊なしってことは、俺を逃げられないようにするためなのだろう。それで俺が責任負うハメになるのは納得できない。
と言いたいが、子供の命の話となると、そういう次元で言っていい話じゃないと思う。
キッチンからチラリと先輩へ視線を向けると、床に座り込んで放心している。
その姿を見ていると、なんかもう、俺が酔っ払って押し倒してやっちゃったって話のほうが、よっぽど気が楽だわ。
冷蔵庫から缶ビールをもう1本取り出すと、それを持って先輩のところへ戻り、「喉、乾きますよね」と言って先輩の前に置いて、あぐらで座って自分のビールをあおった。
『#14 再び夜を共に』につづく。
