小説『死せるアラサー、生ける後輩を走らす』#18(最終話)
#18 死せるアラサー、生ける後輩を走らす(最終話)
こんなんだから、普段から軽く見られて、ヤル気が無くて適当だって言われるんだよな。
でも、先輩は俺の事を『軽いけど正直だし軽薄じゃない』って言ってくれた。
なのに、ここでこのまま先輩一人に責任背負わせるのって、それこそ軽薄じゃないのか?
俺の事を認めてくれていた先輩にそんな仕打ちなんて、俺にはどうしてもできない。
そもそもの話だけど、昨日の夜、結論を出さずに今日に持ち越したのだって、たぶん最初から結論は決まってて、そのための覚悟をする時間が欲しかったんだよな。
でも、先輩の言葉のおかげで、覚悟か決まったわ。
「わかりました、先輩。結婚しましょう。妊娠のことは、判明するまでにゆっくり時間をかけて考えましょうか」
「んん?どういうこと?妊娠が判明する前に結婚するってこと?」
「そうです。あとになって、妊娠してたから結婚なんて恰好悪いじゃないですか。これは、避妊しなかったことへの俺の責任の取り方です」
「ホントに?」
「ええ、もちろんっす。それに、酔っぱらっていようが、すでに俺は先輩のこと貰うって宣言してますからね。今更っすよ」
「ホントにホントに結婚してくれるの?」
「だからそう言ってるじゃないっすか」
「ホントに大丈夫?無理してない?」
「無理してようがなんだろうが、時にはやせ我慢してでも恰好つけるのが男って生き物っす。大船に乗ったつもりで任せてください」
「ううう・・・バカ!」
「エェ・・・喜んでもらえると思ったのに、怒るんですか?」
「喜んでるわよ!嬉しいに決まってるじゃん!」
「よっしゃ!これで先輩のおっぱい揉み放題!」
「だから、どうしてこういう時でもひと言多いの!」
「あ、はい」
「ホントにもう!私の感動、全部台無しだよ」
結局、日曜の夜も先輩の部屋に泊まり、今度はお互いに素面のまま熱い夜を過ごした。もちろん、先輩のあの豊満なおっぱいを心ゆくまで堪能したのは、言うまでもあるまい。
そして翌日、月曜の朝。
二人で揃って出勤すると、朝イチで上司である課長に入籍することを報告し、その日の仕事終わりに二人で市役所へ寄って婚姻届を貰ってきた。
しかし、結婚を決めたからといって、話は簡単に済むものでもない。
どうせ会社では、俺は軽くて適当なヤツだと思われていたから平気だが、先輩は普段から美人社員として注目を浴びていたし、彼氏との破局も伏せていたため、周りの同僚たちからは色々と邪推されて、二股だのなんだのと騒がれた。
でも先輩は、そんなことは全く気にしていないようだった。
「めっちゃ誤解されてるっぽいから、ちゃんと説明したほうがいいんじゃないっすか?」
「言いたい人には言わせておけばいいわよ。桃田君も気にしなくてもいいからね?そんなことより!ちゃんと週末空けておいてよ?今度は、桃田君のお部屋に泊まるんだからね!」
「あ、はい」
あのガラスのアラサーだった先輩が、嘘のように打たれ強くなっていた。
元々しっかりした人ではあったし、やはり、『女は強し』ということか。
週末、俺の部屋に先輩が泊まりにきたときに婚姻届の記入を済ませ、証人をお願いする都合で先輩の実家にも電話で報告した。
そして、更に翌週の土曜。
軽いヤツだと見られないようにキチンとおめかしして、先輩の実家に挨拶に伺った。
そこでも、年下との交際期間0日での婚約ということで、かなり白い目で見られたが、先輩の言葉で、ご両親は結婚を認めてくれた。
「交際期間とか年齢の問題じゃないから。桃田君がいなかったら、私が私らしくいられないの。桃田君は私の心と体を救ってくれた大切な恩人だから。この先の人生、この人と一緒に歩むって決めたから」
「うーん・・・まぁ、正月に帰ってきた時に比べて、美紀の表情もずいぶん柔らかくなったようだし、いいんじゃないか」
「そうね。せっかく30手前で掴んだチャンスだものね」
「桃田君。美紀のことで色々と苦労をかけると思うけど、よろしくお願いします」
「あ、はい!お任せください!先輩!認めてもらえてよかったっすね!」
「あ、うん。なんだか、軽いなぁ」
「ええ、軽いわね。でも若い子は、それくらいじゃなくっちゃね」
「本当に大丈夫か?」
こうして、先輩との結婚を無事に認められたので、翌日には入籍だけは済ませ、以降は毎週末お互いの部屋に泊まっては熱い夜を過ごし、同居の準備も着々と進めた。
そして、あの日から2ヵ月後、先輩が体調不良を訴えた。
当然、二人の頭に浮かんだのは、あの日の情事。
二人で会社帰りにドラッグストアへ寄り、妊娠検査薬を購入して、先輩の部屋へ。
トイレに入った先輩を待つあいだのドキドキ感は、経験したことのないものだった。ちなみに、あの日以来、トイレを使ったら便座を降ろす習慣は身についていた。
落ち着かなくて、部屋でウロウロして待っていると、先輩がトイレから出てきた。
「どうでした?」
「うん、やっぱりデキてた。ごめん」
「なんで先輩が謝るんですか!ある意味、予定通りじゃないっすか!ここは喜ぶところっすよ!」
「だってぇ」
あの日からの俺たちは、ただ欲情を貪っていただけではない。妊娠の可能性をずっと考え、何度も話し合い、時にはぶつかり、時には労わり、そして『デキていたら、産もう』という結論に至っていた。
「そっかぁ、俺もパパかぁ。結構嬉しいかも」
「ホントに喜んでくれるの?」
「もちろんっすよ。先輩こそ嬉しくないんすか?」
「・・・嬉しい、かな」
「でしょ?だったら、一緒に喜びましょうよ!」
「うん・・・そうする」
「全然嬉しそうじゃねー!」
「ううう、わだじもうれじいよ~!」
「あ、また泣いてる。ホント先輩って、泣き虫っすね」
「またひどごどおおい!でもありがどお~!」
そして、その週の週末。今度は、俺の実家に先輩を連れて帰省した。
しかし、俺の実家では。
「テェメェ!ろくに結婚の報告よこさねーで、おまけによそ様のお嬢さんを孕ませやがって!なにかんがえてやがんだぁ!」
待っていたのは、姉ちゃんの鉄拳制裁だった。
お終い
