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小説『死せるアラサー、生ける後輩を走らす』#17

#17 一夜の核心

 朝食のあと、『お茶でも飲んで、ゆっくりしましょう』とお喋りを始めてから、すでに1時間は経過していただろうか。俺も先輩も本音トークで、腹を割って話していた。そのおかげか、先輩はもう泣くことはなかったし、言いづらいことも正直に話してくれていると思う。
 しかし、酔って憶えていない俺自身は、聞けば聞くほど、悶えたくなるようななんとも言えない羞恥心に襲われていた。

 そして、ついに核心に触れることに。

「なんか、その先は聞きたくないような・・・」

「聞いてよ!ここからが大事なんだから!それでねそれでね!私が『じゃあ、桃田君が私のこと、貰ってくれる?』って聞いたら、『マジっすか!?俺が貰っていいんすか!?ちょーラッキー!あざーっす!』って言ってくれたんだよ!?」ふふふ

 先輩は俺の物真似を交えながら、ついにあの夜の俺の発言を話してくれた。

「うわぁ・・・自分で言うのもあれですけど、超軽いっすね、俺」

「うん、めっちゃ軽かった。でもね、即答してくれたのが嬉しかったの。普段以上に軽いのに、それが嬉しかったなぁ。桃田君にして正解だったって思い始めたの、あの時からだと思う」ふふふ

「それで、『大船に乗って~』って話に繋がるんすね」

「うん。『でも私、桃田君より3つも年上だよ?』って聞いたら、『3つくらい全然よゆーっす!大船に乗ったつもりで俺に任せてください!』って言ってくれて、それまで、まだ迷いとかあったけど、その言葉で『今夜、桃田君に抱かれよう』って腹が決まったんだよね」

「つまり、あの夜のトリガーは、俺が引いてたってことですか・・・」

「あ!別に桃田君のせいにするつもりじゃないんだからね!桃田君が本音で話してくれてるから、私も正直に話してるだけで・・・」

「ええ、それは分かってますよ。そうしてほしくて、俺も正直に話してますからね」

 それにしても、ある程度は想像していたけど、想像以上に調子にのってるな、俺。
 俺史上最悪の軽さだ。

「それで、バーのあとはどうだったんですか?すぐにこの部屋に移動したんですか?」

「うん。桃田君、ベロベロに酔ってたからタクシーで私の部屋に連れて帰ってね、そこからはもうお互いが止まらない感じだったね」

 今後の事を考える上で、俺が一番知りたかったのは、ここからの話。
 お互い独身の男と女である以上は肉体関係があってもおかしくないし、これっきりになるのも今後もっと関係を深めるのも、俺たちの自由意志だと思う。
 でも、避妊せずに、もし妊娠でもしていたら、そんなことは言ってられない。それこそ、責任の話だ。責任を押し付け合うではなく、また『自分が悪いから』と一方だけが負う話でも無いと思っている。
 だからこそ、俺は事実を知りたい。責任を取りたくないのではなく、その覚悟を決めるために。

「話しにくいかもしれないですけど、ここでのことも話してくれますか?」

 落ち着いた口調を意識してお願いすると、俺のトーンが変わったことに気付いたのか、先輩は視線を真っすぐ俺に向けて、「うん、わかった」と短く返事をした。
 そして、湯呑を口に付けてから一呼吸おいて、元カレとの話から語り出した。

「2年くらいになるのかな、元カレとはずっと前からレスだったんだよね。でも、学生時代から付き合ってたし、これまでにも結婚の話とかしてたから、レスでも結婚したらまた戻るって考えてたんだよね。でも実際は、浮気して若い女で発散してただけで、すでに私は女として見られてなかったの」

 うわぁ、それはまたキツイな。
 2年レスで、そのあいだ自分は我慢してたのに相手は他の女で発散って、発狂するレベルだぞ。

「プライドも女としての自尊心も、なにもかもボロボロで悔しくて、だから必死だった。それで完全に自分を見失って『私も年下の男を捕まえてやる!』って、それくらい必死だったの」

「俺は男だから、先輩のつらさとか女としての自尊心とか、全てを理解することは無理ですけど、そう考えてしまうほど追い込まれてたというのは分かります」

「でも、だからこそ、桃田君に抱かれて救われたの。やっと自分を取り戻せる。これで立ち直れるって」

「避妊しなかったのはどうしてですか?」

「桃田君はすごく酔ってて、たぶん避妊のことは頭に無かったと思う。私は頭の片隅にはあったけど、それよりも、抱いてもらえる喜びというか焦りで、『避妊なんてどうでもいいから、早く抱いてほしい!』って感じだったかな」

「そうですか・・・先輩が俺の逃げ道を塞ぐために、意図的に避妊しなかったわけじゃなくて、状況的にそのまま突っ走った感じなんですね」

「そうなんだけど、でも、それは最初だけだったね。2回目以降は完全に開き直って、『1回しちゃったら、2回も3回も同じ』って、結局一度も避妊せずに続けてた」

「え?1回だけじゃなくて何回もしたんです?」

「うん。桃田君、すごかったもん。私、若かった頃でもそんなに求められたことないくらいヘトヘトになるまで、桃田君が何度も何度も求めてくれたんだよ?おかげで女としての喜びとか自尊心とか承認欲求とか、あと性欲とか今までのうっぷん全てが満たされたんだよね。だから私も『桃田君を喜ばせたい』って気持ちが湧いて、元カレにもしたことないようなことたくさん頑張ったもん。男の人に対してそんなこと思う感覚もすごく久しぶりで、それくらい桃田君とのあの夜は、私にとって大切なものになったかな」

 そう話す先輩は、その時の様子を思い出しているのか、ちょっと嬉しそうな表情を浮かべている。でも、だからこそ、そこまで満たされた気持ちのまま寝たのに、目が覚めたら全部忘れられてたって、そりゃ腹立つよな。って

「いやいやいや、先輩の欲求不満が満たされた話はおいといて、俺が気にしてるのは避妊しなかったことですよ!」

「ああ、うん。妊娠してたら堕胎するよ。これ以上、桃田君に迷惑かけるつもりは無いから、心配しないで」

「いやだから、そうじゃなくて、俺にだって責任あるし、どうするべきか俺にも考えさせてくださいよ。話を聞いてる限りじゃ、酔っぱらった勢いだけでやって、避妊しなかった責任は完全に俺にもありますよ」

「じゃあ、桃田君はどう責任とるつもりなの?結婚してくれるの?妊娠しちゃったら結婚?妊娠してなかったらなにもなし?私は、もうこれ以上こんなふうに桃田君を追い詰めるような真似はしたくない。桃田君には感謝してるし、純粋な気持ちで桃田君とイチから関係を築きたいの。避妊をしなかったのは私の落ち度や意思でもあったし、そのことで桃田君を縛りたくない」

 うーん・・・ここにきて、振出しに戻ったような、先輩が意固地になってしまったというか。

「桃田君が真剣に考えようとしてくれるのは、すごく嬉しいよ。昨日までの私だったら、なんの疑いも持たずに、桃田君に甘えると思う。でも、そんな私だから、自分のしていたことに気付いたらすごく後悔したの。だから、これは私が自分で責任取ります。取らせてください」

 女性にここまで言わせて、情けないな、俺。
 俺は、こんなことを言わせるために、本音で腹を割って話してたんじゃないはずだ。

『#18 死せるアラサー、生ける後輩を走らす(最終話)』につづく。

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