企業文化は、会社を辞めても残るのか。組織文化ガチャSSRのOBを調べてみた
前回、「組織文化ガチャ」という記事で「組織の重力」について書きました。
人は放っておけば、遠くにいる顧客より近くの上司を見る。長期的な価値より今期の数字を優先する。会社全体より自部署の事情を気にする。だから、外を向き続ける組織を作るには「顧客第一」と掲げるだけでは足りず、人間が自然に流される方向に逆らう仕組みが必要なのではないか。
では、その仕組みを本気で作っている会社では、何が起きるのでしょうか。
私が組織思想として好きなP&GとAmazonを調べていて、一つ気になることがありました。
企業文化が本当に人へ浸透したなら、その会社を辞めた後にも残るのではないか。
そこで公式サイトだけでなく、両社のOB・OGが退職後に何を語っているかまで調べてみました。
会社を辞めた人に、何が残っているか
企業文化の浸透というと、「企業理念を知っていますか」「価値観に共感していますか」と現役社員へ聞くのが一般的です。
ただ、現役社員はまだその会社から評価される立場です。
それなら、もう評価される必要のないOB・OGを見る方がおもしろいのではないか。しかも古巣について質問されたときではなく、別の会社で経営や仕事を語っているときに、同じ価値観が自然に出てくるかを見る。
私は今回、これを仮に「文化の残存性」と呼ぶことにしました。学術的な指標ではなく、あくまで今回の記事で置く仮説です。
調べてみると、P&GとAmazonでは、残り方に少し違いがありました。
Amazonは「意思決定のOS」が残る
Amazonには「リーダーシップ・プリンシプル」と呼ばれる16の行動原則があります。
「顧客への徹底的なこだわり」「当事者意識」「最高水準へのこだわり」「異議を唱え、決まったらやり切る」などです。
すごいのは、これを掲げるだけではなく、採用にもかなり強く埋め込んでいることです。
Amazonの採用では複数人による面接に、採用部署から独立した「バーレイザー」が参加します。役割は、目の前の部署が人を欲しがっているかではなく、Amazon全体の長期的な基準で候補者を見ることです。公式資料では採用判断に拒否権を持つことまで説明されています。
しかも目標は「今の社員と同程度なら採る」ではありません。採用するたびに基準を押し上げることです。
現場は人が欲しい。面接官の評価も高い。それでも長期的な基準を満たさないなら採らない。
文化を守るために、目の前の合理性を捨てられる仕組みまで作っている。
ここにAmazonの本気を感じます。
そして退職後のOBにも、その考え方が残っています。
元幹部のColin Bryar氏とBill Carr氏は、退職後に『Working Backwards』を出版し、顧客から逆算する考え方や、善意ではなく再現可能な「仕組み」で組織を動かす方法を体系化しました。
元Worldwide Consumer CEOのJeff Wilke氏も、退職後にリーダーシップ・プリンシプルについて語り、全社員が同じ原則を使うことにこだわったと振り返っています。
Amazonでは、価値観だけでなく、「どう考え、どう意思決定を仕組みにするか」というOSまで残っているように見えます。
P&Gは「世界を見るレンズ」が残る
P&Gは少し違います。
私は以前から、日本のP&G出身者の発信を見ていて不思議に思っていました。マーケティングに関する主張は違っても、根底の仕事観が妙に似ているのです。
消費者を見る。目的から考える。事実を見る。自分で責任を持つ。人を育てる。
そこで海外のOB・OGまで広げてみました。
P&GからUnileverを経てLogitech CEOになったHanneke Faber氏は、2025年のインタビューでも、P&G時代に学んだ「Consumer is Boss(消費者がボス)」がずっと自分に残っていると語っています。そして現在の経営について話すときにも、利用者や消費者を起点に考える姿勢が自然に出てきます。
元P&G CEOのJohn Pepper氏も、欧州9か国を率いた経験を振り返り、国ごとの文化は違っても、P&Gの企業目的・価値観・行動原則にはそれらを超える共通性があったと語っています。
国が違う。時代もブランドも違う。その後に働いた会社も違う。
それでも、消費者、目的、誠実さ、当事者意識、人材育成といった方向へ何度も戻ってくる。
Amazonが「意思決定のOS」だとすれば、P&Gでは「何を見るべきか」という世界を見るレンズが残っているように私には見えました。
なぜ、ここまで残るのか
P&Gの採用制度を見ると、その理由の一部が見えてきます。
P&Gジャパンは、企業目的・価値観・行動原則への共感と実践を「大変重要な採用基準」と明記しています。面接も世界共通の基準で行われ、その評価基準は入社後の査定や能力開発にも使われます。
さらに管理職は原則として内部から昇進させる「内部育成・内部昇進」です。
価値観も含めて採る。共通基準で仕事をする。その基準で育成・評価する。育った人が管理職になり、次の世代を育てる。
文化を一度教えるのではなく、文化が次の文化を生む循環になっている。
Amazonも方法は違いますが、本質は似ています。
企業文化を研修やポスターの問題にせず、誰を採るか、何を評価するか、どう意思決定するかという日常の仕組みにまで落としている。
だから会社を離れても残るのかもしれません。
文化の最終テストは「退職後」なのかもしれない
もちろん、今回の調査だけで「P&GやAmazonでは文化が全社員に浸透している」とは言えません。
公開発信するOB・OGには著名人が多く、古巣の文化を好意的に捉えている人ほど発信しやすいという偏りもあります。そもそも採用時点で会社の価値観に合う人を選んでいる効果もあるでしょう。
確認できたのは、年代、国、職種、その後の会社が違う複数のOB・OGから、似た判断基準が繰り返し観測できたというところまでです。
それでも、企業文化を見る新しい視点にはなると思います。
文化浸透の最初の段階は、価値観を知っていること。
次に、その価値観を使って仕事をすること。
そして最終的には、会社を離れても同じような基準で判断すること。
そこまで行けば、もう「会社から言われた価値観」ではありません。
その人自身の仕事観になっています。
企業文化の本当の浸透度を知りたければ、現役社員に理念を聞くだけではなく、その会社を辞めた人の中に何が残っているのかを見る。
P&GとAmazonを調べて、そんな仮説を持ちました。
次は、Amazonの異常なほど徹底した採用の仕組みと、P&Gで世代や国を超えて似た仕事観が再生産される理由を、それぞれ詳しく掘ってみたいと思います。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。 事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。 このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
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参考URL
Amazon|リーダーシップ・プリンシプル https://www.amazon.jobs/content/en/our-workplace/leadership-principles
Amazon|バーレイザーを使った採用プロセス https://www.aboutamazon.com/news/workplace/how-amazon-hires
AWS Executive Insights|Amazonにおける人材とイノベーション https://aws.amazon.com/executive-insights/content/the-human-side-of-innovation/
Amazon|元Amazon幹部による『Working Backwards』の紹介 https://www.aboutamazon.com/news/workplace/an-insider-look-at-amazons-culture-and-processes
The NFX Podcast|Jeff Wilke インタビュー https://podcast.nfx.com/episodes/jeff-wilke-PsOiruVf/transcript
P&G|企業目的、価値観、行動原則 https://jp.pg.com/policies-and-practices/purpose-values-and-principles/
P&G Careers Japan|新卒採用選考プロセス https://www.pgcareers.com/jp/ja/recent-grad-hiring-process
P&G Careers|採用アセスメントの考え方 https://www.pgcareers.com/us/en/assessment-overview-design
Fortune|Logitech CEO Hanneke Faber インタビュー https://fortune.com/2025/11/26/logitech-ceo-hanneke-faber-tech-artificial-intelligence-gaming-leadership-next/
Mercer Island Group|元P&G CEO John Pepper インタビュー https://migroup.com/blog/retired-pg-ceo-john-pepper-discusses-his-1980-document-characteristics-of-successful-pg-managers/
