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マーケティング部の仕事はなぜ減らないのか

「この商品の売上が未達です」

「なぜ売れなかったんだ? 原因を分析して」

「原因が分かったら、広告やキャンペーンで対策を考えて」

こんな会議は、多くの会社で普通に行われていると思います。

売上が悪ければ原因を分析し、打ち手を考える。ごく真っ当な仕事の進め方です。

でも、この進め方を商品ごとに毎回繰り返していたら、マーケティング部の仕事はなかなか減りません。

商品Aが未達なら、Aの原因を分析する。商品Bが未達なら、今度はBについて考える。

商品が弱かったのか。価格なのか。認知なのか。広告なのか。流通なのか。

原因らしきものが見つかったら、広告、キャンペーン、SNS、CRM、Web改善などの打ち手を考える。

つまり商品が増えるたびに、

結果を見る → 原因を探す → 仮説を立てる → 打ち手を考える

という仕事も増えていきます。

私自身、以前はこうした仕事をかなりやっていました。

しかし途中から、考え方を変えました。

売れなかった後に「なぜ?」と考えるのではなく、売上を左右しそうな変数を先に測り、予測しておけばいいのではないか。

発売後は、予測と実績を比べて、どの変数が想定からズレたのかを見る。

そうすれば、「なぜ売れなかった?」から毎回考え始める必要はありません。

実際に私は、この考え方を仕事に取り入れた結果、仕事に使う時間と広告予算に余裕を作りながら、売上を伸ばすことができました。

サマリ

「原因を分析しろ」から仕事を始めると、仕事は増え続ける

売上という数字は、最後に出てきた結果です。

その手前には、いくつもの要因があります。

そもそも商品を欲しいと思う人がどれくらいいるのか。商品を知ってもらえたのか。価格は受け入れられたのか。買える場所に商品があったのか。在庫は十分だったのか。広告は予定通り届いたのか。

こうした変数を整理せずに売上だけを見ると、未達になった瞬間にすべてが原因候補になります。

「認知が足りなかったのではないか」

「商品力が弱かったのではないか」

「広告クリエイティブが悪かったのではないか」

「価格が高かったのではないか」

どれもあり得ます。

だから会議をする。データを集める。追加調査をする。仮説を出す。そして対策を考える。

これを商品が売れなかったたびに繰り返せば、当然マーケティング部は忙しくなります。

私は、マーケティングという仕事そのものが多いというより、毎回同じ種類の問題をゼロから解いていることが、忙しさを生んでいる場合もあると思っています。

ヒントになったのは、P&Gの需要予測だった

この考え方のヒントになったのが、P&Gで培われた需要予測の考え方でした。

森岡毅さんと今西聖貴さんの『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』では、市場調査や数学を使って需要を予測し、戦略の成功確率を高める考え方が紹介されています。

私がおもしろいと思ったのは、未来を当てること以上に、売上が生まれる構造を変数に分けて考えることでした。

P&G自身も2009年の年次報告で、商品・コンセプト・価格を競合環境の中で評価する独自指標「Weighted Purchase Intent(加重購入意向)」を利用していたことを説明しています。

ただし、一つの購入意向スコアだけで未来が分かるわけではありません。

P&Gはその後、単一のWeighted Purchase Intentから、技術テスト、ブラインドテスト、家庭内パネル、実市場の商品レビューなどを組み合わせる「body of evidence」という評価方法へ移行しています。

私もP&Gの仕組みをそのまま再現したわけではありません。

「結果が出てから原因を探すのではなく、重要な変数を先に定義して測っておく」という発想を、自分の現場で使える形に作り直しました。

商品が出る前に「原因候補」を測っておく

私がまず力を入れたのは、商品企画段階のリサーチでした。

発売前に商品のコンセプトを提示し、購入意向を測ります。

購入意向とは、その商品を「買いたい」と思う程度を調査した数字です。

もちろん、「買いたい」と答えた人が全員買うわけではありません。実際の購買には価格、競合、流通、広告など、さまざまな要因が影響します。

それでも、同じ方法で複数の商品を継続的に測れば、商品の相対的なポテンシャルを見る材料にはできます。

私は過去の商品について、購入意向、認知、広告投資、売上などの関係を見ながら、新商品の売上を予測する仕組みを作りました。

すると発売前に、

「この商品評価なら、これくらいのポテンシャルがありそうだ」

「この広告投資なら、この程度まで届けられそうだ」

「この条件なら、売上はこのくらいになりそうだ」

という仮説を置けるようになります。

さらに、この結果を広告予算の優先順位にも使いました。

すべての商品を平等に広告で押すのではなく、商品のポテンシャルも見ながら、限られた広告予算をどこへ使うか決めるようにしたのです。

重要なのは、予測をピタリと当てることではありません。

予測を作ることで、

「この売上になるためには、何がどの程度必要だと自分たちは考えているのか」

という前提が数字として残ります。

これが、発売後の仕事を大きく変えました。

発売後は「なぜ?」ではなく「どこがズレた?」を見る

発売後にも、購入意向や広告認知を測りました。

たとえば発売前には、商品の購入意向から十分なポテンシャルがあると判断し、広告投資によって一定水準まで認知を取れると予測していたとします。

ところが、売上は未達だった。

以前なら、

「なぜ売れなかった?」

から議論が始まります。

でも、事前に変数を置いていれば問いを変えられます。

「どこが想定からズレた?」

広告認知が想定を大きく下回ったなら、まずコミュニケーション側を調べる。

逆に広告認知は想定通りなのに、発売後の購入意向が想定を下回ったなら、商品、価格、コンセプト、訴求などを優先して見る。

購入意向も広告認知も問題ないのに売上だけが低いなら、配荷、在庫、購入導線など別の要因を疑う。

ここで一つ、実務上の問題があります。

広告認知や購入意向をきちんと調査しようとすると、結果が出るまで時間がかかります。

しかし、発売直後に売上が悪ければ、何週間も調査結果を待っているわけにはいきません。

そこで私は、速報値と本調査を分けて考えていました。

デジタル広告なら、広告管理画面からリーチやフリークエンシーなどを早い段階で確認できます。

テレビCMならPRPなども使えます。PRPは個人全体視聴率を積み上げた「延べ視聴率」であり、ユニークなリーチそのものではありませんが、予定していた量を届けられているかを見る速報的な指標にはなります。

つまり、

まず早く取れる代理指標で大きなズレを検知し、後から広告認知や購入意向の本調査で答え合わせする。

という二段階にします。

デジタルのリーチが計画の半分しか取れていないなら、認知調査が終わるまで待たなくても広告側を調べ始められます。

一方、配信量やPRPがほぼ予定通りなら、単純に「広告量が足りない」と決めつけず、その後の認知や購入意向を見る。

変数だけでなく、「いつ、その変数を観測できるのか」まで決めておく。

これも、原因分析を仕組みにするうえで重要でした。

原因分析はなくならない。でも、探索範囲は狭くできる

もちろん、認知が低かったと分かっても、そこで原因分析が終わるわけではありません。

なぜ認知が取れなかったのか。

リーチ不足なのか。媒体選定なのか。クリエイティブなのか。競合の出稿増なのか。

この第二階層では、マーケターが個別に考える必要があります。

だから、この仕組みで「打ち手まで自動的に決まる」と考えるのは正確ではありません。

変えられるのは、人間が考えるべき範囲です。

「商品を変える?」 「値下げする?」 「広告を増やす?」 「SNSをやる?」 「キャンペーンをやる?」 「店頭施策を変える?」

と、すべてについてアイデアを出す必要はない。

今回は認知の問題なら、認知が想定に届かなかった理由に集中する。

購入意向なら、商品やコンセプトを中心に考える。

流通なら、買える状態を改善する。

マーケティングには創造性が必要です。

だからこそ、毎回すべての原因候補について創造性を使うのはもったいない。

仕組みで除外できる領域は除外し、本当に考える必要がある問題にだけ人間の時間を使う。

これが私の考える効率化です。

全部想定通りなのに売れなければ、モデルの外を見る

もう一つ、この仕組みを使ううえで注意したいことがあります。

自分たちが事前に測った変数の中に、本当の原因があるとは限りません。

競合が突然大規模なキャンペーンを始めた。想定外に棚から落ちた。天候が変わった。景気が変わった。カテゴリーそのものの需要が急変した。

モデルの外にある要因は必ず存在します。

だから私は、モデルを万能な原因発見装置だとは考えていません。

むしろ、

主要な変数がすべて想定通りなのに、売上だけが大きく外れたら、「自分たちが見ていない何かがある」と考える。

これも重要なシグナルです。

普段は主要変数から探索範囲を狭める。

それでも説明できないときだけ、モデルの前提そのものを疑ってゼロベースで探索する。

すべてを予測することが目的ではありません。考えなければならない範囲を減らすことが目的です。

予測は「やめる判断」を守るためにも使える

事前に数字を置くことには、もう一つ実務上のメリットがあります。

売れなかった商品ほど、追加投資を止めにくいことがあります。

すでに開発費を使った。在庫もある。多くの関係者が携わっている。場合によっては、経営層が強く期待している商品かもしれません。

こうなると、

「ここまでやったのだから、もう少し広告を入れよう」

「キャンペーンを追加すれば何とかなるのではないか」

という判断が生まれやすくなります。

いわゆるサンクコストです。

もちろん、数字を置いたからといって組織の力学がなくなるわけではありません。

それでも発売前に、

「この条件なら広告投資を増やす」

「ここを下回ったら投資を抑える」

「広告は予定通り届いたのに商品評価が伸びなければ、追加出稿より商品側を見直す」

といった判断基準を持っておけば、

「何となく救う」ための追加施策には抵抗しやすくなります。

予測は売上を当てるためだけではありません。

追加投資する判断と、やめる判断の両方を守るためにも使えます。

これは、マーケティング部の仕事を本当に減らすうえでかなり重要だと思っています。

ただし、測ること自体を仕事にしてはいけない

ここまで書くと、

「では、あらゆる項目を発売前に調査すればいい」

と思うかもしれません。

それも違います。

事前測定を増やしすぎれば、今度はリサーチそのものが仕事になります。

100万円の意思決定をするために500万円の調査をしていたら意味がありません。

重要なのは、意思決定を変える可能性が高い変数を優先して測ることです。

私のように過去データがあり、複数の商品を継続的に扱える環境なら、購入意向、認知、広告予算、売上などを蓄積してモデル化できます。

一方、小規模な事業で毎回大規模な定量調査をする必要はありません。

最低限、

この商品を欲しいと思う人はどれくらいいそうか。
どれくらいの人に情報を届けられそうか。
その人たちは実際に買える状態にあるか。

この3つについて仮説値を置くだけでも、発売後の分析は変わります。

商品ポテンシャル、届く量、買える状態。

過去実績、小規模な調査、広告データ、販売データなど、使える情報から仮説を置けばいい。

事前リサーチにもコストはかかります。

だから、

事前に測るコストと、間違った投資判断によって失う時間・予算を比較して、測る範囲を決める。

ここまで含めて仕組みです。

仕事と広告予算を絞りながら、売上は伸びた

私はこの仕組みを作ってから、売上が悪い商品をすべて広告で救おうとすることをやめました。

商品企画段階でリサーチする。

商品のポテンシャルを見て投資の優先順位を決める。

発売前に売上を左右する変数へ仮説を置く。

発売後は、まず速報値でズレを見る。

その後、購入意向や広告認知を測って答え合わせする。

主要変数で説明できなければ、モデルの外を見る。

そして、追加投資する基準だけではなく、縮小する基準も持つ。

すると、効果が期待しにくい商品のために、延々と原因を分析し、追加施策を考え続ける仕事が減りました。

広告予算にも余裕が生まれ、仕事の時間にも余裕ができました。

それでも売上は伸びました。

もちろん、この仕組みだけが売上増加の原因だったとは断定できません。市場環境や他の施策など、さまざまな要因が影響します。

それでも私の実務では、以前より少ない工数と広告予算で運用しながら、より大きな売上を作れる状態へ変えることができました。

マーケティング部の生産性を高めるというと、私たちは「仕事を速くする方法」を考えがちです。

AIで分析を速くする。資料作成を自動化する。会議を短くする。広告運用を自動化する。

もちろん、それらも有効です。

でも、

「売上が未達だ。原因を分析しろ」

「原因が分かったら、打ち手を考えろ」

という仕事を毎回ゼロから始めている限り、仕事はなかなか減りません。

原因分析を速くするのではなく、原因を探しやすい状態を先に作っておく。

売上を左右する主要な変数を定義する。

測る。

予測する。

早く取れる数字からズレを確認する。

必要な場所だけ深く調べる。

それでも説明できないときだけ、モデルの外へ探索を広げる。

予測とは、未来を当てるためだけのものではないのだと思います。

未来について自分たちが何を前提にしているのかを明らかにし、外れたときに次に考えるべき場所を教えてくれるものです。

マーケティング部の生産性を上げるとは、たくさんの仕事を速くこなせるようにすることではない。

考えなくてもいい範囲を、仕組みで減らしていくこと。

その分だけ、本当に考える価値のある問題に時間を使う。

私は、その方がマーケターにとっても、会社にとっても、そしてより良い商品を受け取る消費者にとっても健全だと思っています。

プロフィール

マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。

詳しい自己紹介はこちら。

自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています

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参考URL

森岡毅・今西聖貴『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』
KADOKAWA

The Procter & Gamble Company 2009 Annual Report
Weighted Purchase Intentについて、商品・コンセプト・価格を競合環境の中で評価する指標として説明されています。

https://materials.proxyvote.com/Approved/742718/20090814/AR_45142/images/PG-AR2009.pdf

The Procter & Gamble Company 2017 Annual Report
Weighted Purchase Intentという単一評価指標から、技術テスト、ブラインドテスト、家庭内パネル、実市場レビューなどを組み合わせる評価への移行について説明されています。

https://s204.q4cdn.com/332108499/files/doc_financials/2017/ar/5ead807c-6109-1acd-ddbb-2fa702f11dc0.pdf

P&G 2021 Annual Report — Superiority: a higher standard of excellence
複数のテスト、データ、レビュー、市場測定を組み合わせる「body of evidence」の考え方が説明されています。

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