【5分でわかる】リターゲティング広告とは?「追いかけたから売れた」は本当か
ネットで靴を見たあと、別のサイトを開いたら、さっき見ていた靴の広告が出てきた。
そんな経験はないでしょうか。
これが、代表的なリターゲティング広告です。
一度自社サイトに来た人へもう一度広告を出せるため、まったく知らない人へ広告を出すより購入につながりやすく、CPAも良くなりやすい。広告運用では非常によく使われる手法です。
ただ、私はリターゲティング広告を見るとき、一つ注意したいことがあります。
その人は、追いかけたから買ったのでしょうか。
すでに商品を知り、自分からWebサイトまで来ていた人です。
広告を出さなくても、翌日もう一度検索して買っていたかもしれません。
今回はリターゲティング広告の基本から、なぜ成果が良く見えやすいのか、そして本当に広告効果を判断するには何を見るべきなのかまで、初学者向けに整理します。
リターゲティング広告とは
リターゲティング広告とは、過去に自社のWebサイトやアプリなどへ接触した人へ、再び広告を配信する手法です。
たとえばECサイトへ来て商品ページを見たものの、購入せずに離脱した人がいたとします。
その人へ後日、GoogleやMetaなどを通じて商品広告を見せる。
「あの商品、まだ気になるな」
と思い出してもらい、もう一度Webサイトへ戻ってもらうわけです。
Google広告では現在、「リマーケティング」という旧来の呼び方から「Your data」などの表現へ変更が進んでいますが、Webサイト訪問者やアプリ利用者など、過去に自社と接点を持った人へ広告を届ける機能は現在も提供されています。Metaでも、Webサイト訪問者などからカスタムオーディエンスを作り、リターゲティングできます。
非常に合理的な広告に見えます。
すでに商品へ興味を示した人なのですから、購入する可能性も高そうです。
そして、まさにそこに一つ目の罠があります。
なぜリターゲティング広告はCPAが良く見えやすいのか
CPAとは、1件の購入や申込を獲得するために使った広告費です。
100万円使って100件購入されたなら、CPAは1万円です。
広告運用ではCPAが低いほど「効率が良い」と評価されることがあります。
では、昨日たまたま自社サイトへ来た100人と、商品ページを何度も見てカートにまで入れた100人なら、どちらへ広告を出した方がCPAは低くなりそうでしょうか。
おそらく後者です。
しかし、それは必ずしも広告そのものが優秀だからではありません。
そもそも対象者の購入確率が違います。
リターゲティング広告は「商品に興味がある可能性が高い人」を対象にできるため、通常の広告より良い数字が出るのはある意味当然です。
エーレンバーグ・バス研究所も、細かなターゲティングによる広告は、もともと購入確率の高い人へ配信することで高いROIを示しやすい一方、それが企業全体として高いリターンを意味するとは限らないと指摘しています。
ここで、
CPAが低い=その広告が大きな効果を生んだ
と考えると危険です。
「広告経由で売れた」と「広告が売った」は違う
たとえばリターゲティング広告に100万円を使い、100件の購入が計測されたとします。
CPAは1万円。
一見すると、非常に分かりやすい成果です。
でも、広告を一切出さなかったらどうなっていたでしょうか。
仮に100人のうち80人は広告がなくても購入していて、リターゲティング広告によって新しく増えた購入が20人だけだったとします。
管理画面では100件売れていても、
広告によって増えたのは20件
です。
この違いは非常に重要です。
広告を見たあとに購入したことを、広告へ成果として割り当てる考え方をアトリビューションと呼びます。
一方、
「広告がなかった場合と比べて、何件多く売れたのか」
を見るのがインクリメンタリティ、つまり増分効果です。
私が広告で知りたいのは、後者です。
「追いかけた結果、その人が買った」と「追いかけたから、その人が買った」は違います。
リターゲティング広告は、この二つを特に混同しやすい広告だと思っています。
本当に効果を知りたいなら「追いかけない人」を作る
では、広告が本当に購入を増やしたかはどう確認すればいいのでしょうか。
理想的には、リターゲティング対象者をランダムに二つへ分けます。
一方には広告を出し、もう一方には出さない。
その後の購入率を比較します。
たとえば広告を出したグループの購入率が20%、広告を出さなかったグループが18%なら、広告による増分は単純化すれば2ポイントです。
広告を見た人の20%が買ったからといって、「広告で20%を獲得した」とは考えないわけです。
こうした比較対象を持つ考え方は、広告の因果効果を測る基本です。
以前、Web広告とテレビCMを比較した記事でも、私は広告を出す前に「広告がなかった世界と比較できる設計を作る」ことが重要だと書きました。リターゲティング広告も同じです。公開中の記事では、リターゲティング広告を一定期間止めることも増分確認の一例として挙げています。
管理画面を見るだけでは、反実仮想は分かりません。
広告効果を測りたいなら、「広告を見せなかった世界」を意図的に作る必要があります。
リターゲティングばかり最適化すると、未来の顧客が消える
もう一つ気になるのが、リターゲティング広告への予算配分です。
広告管理画面だけを見ていると、購入確率の高い人へ広告を出すほど数字は良くなりやすい。
商品ページ訪問者。
カート投入者。
過去購入者。
ブランド名を検索した人。
こうした人たちへ予算を寄せれば、CPAや広告費用対効果は改善するかもしれません。
でも、全員に共通することがあります。
すでにブランドへかなり近い人です。
マーケティングファネルでいえば、下の方にいる人たちです。
リターゲティングだけを最適化し続けると、まだブランドを知らない人や、半年後に商品を必要とする人への広告予算が削られていく可能性があります。
これはブランド成長という観点では問題です。
エーレンバーグ・バス研究所は、広告では既存の購入確率が高い層だけではなく、ライトなカテゴリー購入者を含めて広くリーチすることの重要性を強調しています。狭いターゲティングはROIを良く見せても、ブランドが多くの購入者へ浸透する機会を減らす可能性があります。
私は以前、Googleの広告戦略について考えた記事でも、短期の広告効率を上げるほど「今日買わない未来の顧客」が広告配信から外れてしまう可能性を書きました。
つまり、
リターゲティング広告は、すでに存在する需要を効率よく回収することには向いています。
しかし、それだけで将来の需要まで作れるとは限りません。
私ならリターゲティング広告をこう使う
ここまで読むと、
「リターゲティング広告はやめた方がいいのか」
と思うかもしれません。
私はそうは考えていません。
商品を検討した人が、たまたま忙しくて購入を中断した。翌日広告を見て思い出し、そのまま購入した。
こうした取りこぼしを減らす効果は十分考えられます。
問題は、リターゲティング広告をマーケティング戦略の中心に置くことです。
私なら、まず役割を限定します。
リターゲティング広告は、すでにブランドへ接触した人への再接触や、購買機会の取りこぼしを減らす手段として使う。
そのうえで、可能な範囲でホールドアウトなどを使い、本当にどれだけ増分を生んでいるのか確認する。
そして同時に、まだブランドを知らない人や、今は購入を検討していない人へ広く届ける広告にも投資する。
この役割分担が必要だと思っています。
下部ファネルの効率と、市場全体へのリーチは別の仕事です。
CPAが良いからといって、すべての広告予算をリターゲティングへ寄せる必要はありません。
「追いかけたから売れた」は、本当か
リターゲティング広告は非常に便利です。
一度サイトへ来た人へ、もう一度広告を届けられる。
購入確率が高い人へ配信しやすいので、CPAも良く見えやすい。
だからこそ、数字を見るときには一つ問いを加えたいと思っています。
この広告を出さなかったら、本当に売上は減っただろうか。
広告のあとに何件売れたのかではなく、
広告によって何件増えたのか。
そして、その短期的な効率を追うことで、新しい顧客へ届く機会を失っていないか。
ここまで見ると、リターゲティング広告の評価は少し変わります。
追いかけた人が買ったことは観測できます。でも、追いかけたから買ったとは限りません。
リターゲティング広告ほど、「広告経由の成果」と「広告による成果」を分けて考えたい広告はないと思っています。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
詳しい自己紹介はこちら。
自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています
この記事がおもしろかったら、スキで教えてください。
おすすめ記事
「CPAが改善しました」を信じる前に。広告代理店のカモにならないための増分CPA
CPAが下がったことと、広告による売上増分が増えたことは同じではありません。今回のリターゲティング広告の罠を、CPAという指標から詳しく考えた記事です。
Web広告は、本当にテレビCMより効果が高いのか?
広告管理画面の数字ではなく、「広告がなかった世界」と比較することの重要性を、Web広告とテレビCMの比較から考えています。リターゲティング広告の停止実験についても触れています。
デジタルマーケティングの本当の価値は実験にある
デジタル広告の強みは、細かなターゲティングそのものより、安く・速く実験できることではないか。今回の増分測定の前提になる考えをまとめています。
参考URL
Google Ads Help「About your data segments」
https://support.google.com/google-ads/answer/2453998
Google Ads Help「About audience segments」
https://support.google.com/google-ads/answer/2497941
Google Ads Help「About your data segments for Search ads」
https://support.google.com/google-ads/answer/2701222
Meta Business Help Center「Learn about website custom audiences」
https://www.facebook.com/business/help/610516375684216
Meta for Business「Retargeting: How to Advertise to Existing Customers」
https://www.facebook.com/business/goals/retargeting
Ehrenberg-Bass Institute「Advertising Got Micropersonal – And We Don't Care」
https://marketingscience.info/news-and-insights/advertising-got-micropersonal-and-we-dont-care
Ehrenberg-Bass Institute「In 2017, Reach Was The Buzzword」
https://marketingscience.info/news-and-insights/2017-reach-buzzword
