【5分でわかる】リスティング広告とは?「指名広告はCPAが安い」の罠
Googleで商品名を検索すると、一番上に広告が表示されることがあります。
しかも検索したのが、
「〇〇株式会社」
「〇〇カード」
「〇〇ホテル」
のような、その会社やブランドそのものの名前だったとしてもです。
こうした指名検索に対するリスティング広告は、広告運用では非常に良い数字が出ることがあります。
クリック率は高い。
コンバージョン率も高い。
CPAも安い。
すると、
「指名広告は非常に効率の良い広告です」
と評価したくなります。
ただ、ここには一つ大きな罠があります。
ブランド名をわざわざ検索した人は、その広告がなくても買っていたのではないでしょうか。
今回はリスティング広告の基本から、指名広告のCPAがなぜ良く見えやすいのか、そして実際に広告効果を調べた研究まで、初学者向けに整理します。
リスティング広告とは
リスティング広告とは、Googleなどの検索エンジンでユーザーが検索した言葉に応じて表示される広告です。
Googleでは「検索広告」「検索キャンペーン」などと呼ばれており、ユーザーがキーワードに関連する語句を検索したとき、検索結果の近くに広告を表示できます。
たとえば、
「横浜 ホテル」
と検索した人へホテルの広告を出したり、
「クレジットカード おすすめ」
と検索した人へカード会社が広告を出したりします。
検索という行動には、その人が今何を探しているのかという情報があります。
だからリスティング広告は、テレビCMのように広い人へ広告を出す方法とは違い、すでに特定の商品やサービスを探している人へ接触しやすい広告です。
そしてリスティング広告のキーワードには、大きく分けて考えたい二種類があります。
一つは、
「クレジットカード おすすめ」
のような一般的な検索。
もう一つが、
「〇〇カード」
のように自社のブランド名を直接検索する指名検索です。
今回考えたいのは、後者です。
なぜ指名広告はCPAが良くなりやすいのか
CPAとは、1件の購入や申込を獲得するために使った広告費です。
たとえば10万円の広告費で20件申し込みがあれば、
10万円 ÷ 20件 = CPA 5,000円
です。
指名検索では、このCPAがかなり安くなることがあります。
理由は難しくありません。
ブランド名を知っている。
しかも、そのブランド名をわざわざ検索している。
つまり、その時点ですでにブランドとの距離がかなり近い人です。
「クレジットカード」
と検索する人より、
「〇〇カード 申込」
と検索する人の方が、そのカードを申し込む確率が高いのは自然です。
すると広告管理画面では、
指名広告 → 高いコンバージョン率 → 安いCPA
という、とても美しい数字が並びます。
問題は、
CPAが安い理由が、広告の説得力なのか、それとも広告を出す前から購入確率の高い人を捕まえているだけなのか
ということです。
eBayが指名広告を止めてみた
この問題について有名なのが、eBayで行われた大規模なフィールド実験です。
Thomas Blake、Chris Nosko、Steven Tadelisらは、eBayの検索広告を実際に停止する実験を行い、検索広告の因果的な効果を調べました。
結果はかなり刺激的でした。
研究では、通常の観測データから計算した検索広告の収益性は、実験によって測った因果効果より大幅に高く見えることが示されました。
特にeBayというブランド名を含む指名キーワード広告では、短期的な効果を測定できなかったと報告されています。
なぜでしょうか。
「eBay」と検索した人の検索結果には、広告がなくてもeBayの自然検索結果が表示されます。
広告を止めても、その人が少し下にある自然検索結果をクリックしてeBayへ来るのであれば、広告費を使って一番上に広告を出した意味は小さくなります。
広告管理画面では、
「広告をクリックして購入した」
と記録されます。
でも広告がなくても、
「自然検索をクリックして購入していた」
かもしれない。
これは前回のリターゲティング広告とまったく同じ構造です。
広告経由で売れたことと、広告によって売れたことは違います。
ただし「検索広告は無駄」と結論づけるのも早い
ここまで読むと、
「では指名広告は止めればいい」
と思うかもしれません。
話はそれほど単純ではありません。
Google自身も、検索広告を停止したときに自然検索がどこまで代替するかを調べています。
2011年にGoogleの研究者らが数百件の検索広告停止事例を分析した研究では、平均すると検索広告のクリックの89%以上は、広告を止めても自然検索クリックでは補われなかったと報告されています。
eBayの結果とは、かなり印象が違います。
ただし、この研究を読むときには一つ留意点があります。
研究主体が、検索広告そのものを提供・販売するGoogleであることです。
これは研究結果が間違っているという意味ではありません。論文として方法や結果を確認する価値はあります。
一方で、検索広告の増分価値が高いという結論はGoogleの事業利益とも方向性が一致します。そのため私は、こうした研究については研究主体も確認し、eBayのような別の実験結果と合わせて判断した方がよいと思っています。
もう一つ重要なのは、Google研究が検索広告全体を幅広く扱っているのに対し、eBayでは特にブランドキーワードで非常に小さい効果が確認されたことです。
つまり、
「検索広告は効くか」
という大きすぎる問いではなく、
「このブランドの、このキーワードへの広告は何件の増分を生んでいるのか」
まで分けて考える必要があります。
指名広告には「防衛」という別の価値もある
指名広告にはもう一つ論点があります。
自社が広告を出さなければ、競合企業が自社ブランド名に広告を出すかもしれません。
たとえば、
「Aホテル」
と検索した画面の一番上に、
「Bホテル」
の広告が出ている。
その結果、本来Aホテルへ行くはずだった人の一部がBホテルへ流れる可能性があります。
ブランドキーワード広告について行われたBingの大規模実験でも、自社の自然検索とのカニバリゼーションだけでなく、競合広告の存在によってブランド広告の価値が変化することが分析されています。
だから、
「自然検索で1位だから指名広告は全部無駄」
とも言い切れません。
競合がほとんど広告を出していない市場なら、指名広告の増分は小さいかもしれない。
一方、競合が大量に自社ブランド名へ入札しているなら、検索結果上部を守る防衛的な価値があるかもしれません。
大事なのは、
CPAを見ただけでは、そのどちらなのか分からない
ことです。
私なら「広告を止めたら何件減るか」で判断する
では指名広告をどう評価するのか。
私は管理画面のCPAだけで判断しません。
できるなら、一部地域や一定期間などで指名広告を停止し、
広告を出した場合と、出さなかった場合で、最終的な購入や申込がどれくらい変わるか
を確認します。
広告を止めて有料検索からの購入が100件減っても、自然検索から90件増えたなら、本当の減少は10件です。
逆に自然検索ではほとんど補えず、全体として80件減ったなら、広告には大きな増分価値があったことになります。
見るべきなのは、
有料検索のコンバージョンではなく、事業全体で何件増えたか
です。
これはeBayが実際に検索広告を停止して効果を測った発想とも同じです。
そして指名広告の効果は、ブランドの強さ、自然検索順位、競合広告、カテゴリー、デバイスなどによって変わるはずです。
だから、
「指名広告は絶対に出すべき」
でも、
「指名広告は全部無駄」
でもありません。
自社で実験する。
これが一番確実です。
「CPAが安い」は、広告効果の証明ではない
リスティング広告は非常に便利です。
ユーザーが何かを探している瞬間に広告を出せる。
特に指名検索は購買確率の高い人へ届くため、CPAも非常に良く見えることがあります。
でも、
広告効果が高いからCPAが安いのか。もともと買う人を捕まえているからCPAが安いのか。
これは管理画面だけでは分かりません。
eBayの実験では指名検索広告の短期的な増分効果がほぼ確認されなかった一方、Googleによる検索広告停止研究では、多くの検索広告クリックが増分だという結果も出ています。
研究結果が違うからこそ、答えはシンプルです。
自社の場合を測ればいい。
指名広告を評価するときは、
「CPAはいくらだったか」
だけではなく、
「この広告を止めたら、会社全体の売上は本当に何件減るのか」
まで見る。
リスティング広告は、検索した人を捕まえる技術です。
しかし、
捕まえたから売れたのか、捕まえなくても売れたのか。
ここを分けるだけで、広告を見る目はかなり変わると思います。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
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検索広告はオン・オフや地域差を使った実験を比較的行いやすい領域です。なぜ私はデジタルマーケティングの価値を「実験しやすさ」に置いているのかをまとめています。
参考URL
Google 広告ヘルプ「Google 検索ネットワークについて」
https://support.google.com/google-ads/answer/1722047?hl=ja
Blake, Nosko, Tadelis「Consumer Heterogeneity and Paid Search Effectiveness」NBER
https://www.nber.org/papers/w20171
Google Research「Incremental Clicks: The Impact of Search Advertising」
https://research.google/pubs/incremental-clicks-the-impact-of-search-advertising/
Google Research「Search Ads Pause Studies Update」
https://research.google/blog/search-ads-pause-studies-update/
Simonov, Nosko, Rao, Li「Competition and Crowd-Out for Brand Keywords in Sponsored Search」
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=2668265
