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「これはブランディング広告だから、売上にはすぐ効かない」は本当か?

「この広告、売上に効いていませんよね」

そう指摘したとき、こんな説明を聞いたことはないでしょうか。

「これは商品を売るための広告ではなく、ブランディング広告です」

「短期的な売上ではなく、長期的なブランド価値をつくっています」

もちろん、広告の効果がすべて翌日の売上に表れるわけではありません。購買頻度が低い商品であれば、広告を見てから実際に買うまで数カ月かかることもあります。企業のイメージやブランドの記憶をつくる活動を、短期の購入件数だけで評価するのも適切ではありません。

しかし、「ブランディング広告だから売上には効いていない」という説明には、少し違和感があります。

長期的に売上を生む広告は、短期的には何も起こしていないのでしょうか。そもそもマーケティングとブランディングは、本当に「短期」と「長期」で分けられるものなのでしょうか。


マーケティングは短期、ブランディングは長期?

マーケティングとブランディングの違いを調べると、よく次のように説明されています。

マーケティングは、目の前の商品を売るための短期的な活動。ブランディングは、顧客からの信頼や好意を育てる長期的な活動。

直感的にはわかりやすい説明です。しかし、この分類には無理があります。

米国のマーケティングに関する代表的な学術・実務団体であるAmerican Marketing Associationは、マーケティングを、顧客などにとって価値のある提供物を「創造し、伝達し、届け、交換する」ための活動やプロセスと定義しています。

この定義には、広告だけでなく、商品開発、価格、流通、販売、コミュニケーションまで含まれます。マーケティングは短期的に商品を売る手法ではなく、商品が売れる仕組み全体をつくる仕事です。

一方、ブランドとは、自社の商品を他の商品から識別するための名称、デザイン、シンボルなどを指します。ブランディングは、そのブランドを覚えてもらい、競合と識別できる状態をつくる活動と考えられます。

したがって、両者は同じ階層の概念ではありません。

マーケティングが「売れ続ける仕組みをつくる活動全体」だとすれば、ブランディングはその目的を達成するための手段の一つです。

商品を改善することも、買える場所を増やすことも、価格を調整することもマーケティングです。そのなかで、ブランドを思い出し、気づき、正しく識別してもらうための活動がブランディングです。

短期と長期で対立させるより、「全体と手段」として捉えた方が、実務で何をすべきかが見えやすくなります。

長期に効く広告は、短期にも何かを起こしている

南オーストラリア大学にあるマーケティング研究機関、Ehrenberg-Bass Instituteの研究者らは、広告への接触と実際の購買を同じ人について追跡できる「シングルソースデータ」を使った研究を整理しています。

そこで示された経験的一般化、つまり複数のデータで繰り返し観察された傾向の一つが、次のものです。

広告が長期的に売上へ効くためには、まず短期的に効いている必要がある。

この研究では、広告によって生じた効果が半分程度に弱まるまでの期間は、典型的には3〜4週間とされています。広告によって高まった購買確率は、同じ強さのまま永遠に残るわけではありません。

これは、ブランド広告を出した翌日に必ず売上が増えるという意味ではありません。

人によって商品を買うタイミングが異なるためです。広告を見た翌日にそのカテゴリーの商品を買う人もいれば、翌月に購入機会が訪れる人もいます。住宅や自動車のように購買頻度が低いカテゴリーでは、実際の購買がさらに先になることもあります。

広告は「短期用の種」と「長期用の種」を別々にまいているのではありません。同じ広告によって生じた変化が、消費者ごとの購買機会に応じて異なる時期に表面化している可能性があります。

長期効果は、短期効果と無関係な魔法ではないのです。

短期的にブランドを思い出す確率が上がった。店頭でパッケージに気づきやすくなった。購入候補へ入りやすくなった。その変化が、時間差で購買として観測されると考えた方が自然です。

「売上に出ていない」と「効果がない」は違う

ただし、短期の売上データで差が確認できなかったからといって、広告効果がゼロだと断定することもできません。

購買件数が少なければ、実際には効果があってもデータ上で見つけられないことがあります。競合の値下げ、天候、季節性、販売店舗数、欠品などによって、広告による売上変化が隠れる場合もあります。

広告を見た人と見ていない人を単純に比較する方法にも注意が必要です。広告を見た人は、もともとその商品への関心が高かった可能性があるため、両者の売上差をすべて広告の効果とは判断できません。

問題なのは、効果を確認できなかった瞬間に「ブランディング広告だから」と説明を終えてしまうことです。

売上まで時間がかかるなら、その途中で何が変わるはずなのかを定義する必要があります。広告を覚えている人の割合だけでなく、商品を買う場面でブランドが思い出される確率、ブランド名やパッケージを正しく識別できる割合、購入候補への入り方などを測るべきです。

長期的な売上を主張するなら、その売上につながる途中の変化が起きているかを確認する。それがなければ、「長期的に効いている」という説明は、いつまでも反証できない便利な言葉になってしまいます。

長期のブランド成長をつくるのは広告だけではない

「マーケティングは短期、ブランドは長期」という分類には、もう一つ問題があります。

長期的な売上をつくるのは、広告やイメージ形成だけではありません。

マーケティング研究者のAtaman、Van Heerde、Melaは、フランスの25カテゴリー、70ブランドについて、5年間の広告と販売データを分析しました。

その結果、投資を増やしたときに売上がどれだけ変化するかを示す「売上弾力性」は、短期と長期の効果を合わせると、商品が1.37、流通が0.74、広告が0.13、値引きが0.04でした。たとえば弾力性が1なら、投資を1%増やしたとき、売上もおよそ1%増える関係を意味します。

この数値を、すべての市場へそのまま当てはめることはできません。それでも、長期的にブランドを育てる主役が広告だけではないことはわかります。

商品を改善する。買える店舗を増やす。欠品を減らす。用途に合ったサイズや形態を用意する。こうした活動も、時間をかけてブランドの売上へ影響します。

特に新しいブランドを対象とした別の研究では、流通の広さが成功に大きく関係し、流通と商品への投資は、値引きや広告より大きな売上増加と関連していました。

ブランドを長期的に成長させたいなら、きれいなブランドムービーをつくるだけでは不十分です。思い出してもらえても、買える場所になければ売れないからです。

ブランディングは、思い出され、識別される確率を高める

Ehrenberg-Bass Instituteは、ブランドの成長に必要な条件を「メンタル・アベイラビリティ」と「フィジカル・アベイラビリティ」という二つの考え方で整理しています。

メンタル・アベイラビリティとは、商品を買う場面で、そのブランドが思い出されたり、目に入ったときに気づかれたりする確率です。

フィジカル・アベイラビリティとは、必要な場所、価格、形態、数量で、そのブランドを実際に買える確率です。簡単に言えば、「頭に浮かぶこと」と「本当に買えること」の違いです。

マーケティングは、この両方を幅広い顧客に対して高め続ける活動と考えられます。

ブランディングが主に担うのは、メンタル・アベイラビリティと識別性です。ブランド名、ロゴ、色、形、キャラクター、音などを一貫して使い、商品を買う場面とブランドの記憶を結びつけます。

一方、販売店を増やす、在庫を確保する、購入までの手続きを簡単にするといった仕事は、主にフィジカル・アベイラビリティを高めます。

両者は対立しません。広告で思い出されても買えなければ売れず、広く販売されていても存在に気づかれなければ選ばれません。

マーケティングとは、思い出される確率と買える確率を高め、売れ続ける仕組みをつくること。ブランディングとは、そのなかでブランドが記憶され、識別される確率を高める活動です。

「ブランド広告だから」で議論を止めない

広告効果研究者のLes BinetとPeter Fieldによる『The Long and the Short of It』は、広告や販促を短期的な成果だけで評価する危険性を示した有名な分析です。

ただし、彼らも短期と長期のどちらか一方を選ぶべきだとは言っていません。目の前の購入を促す活動と、将来も選ばれやすいブランドをつくる活動を、どう両立させるかを論じています。

本来は予算配分や評価期間を考えるための議論が、いつの間にか「マーケティングは短期、ブランディングは長期」という概念の分類に置き換わってしまったのかもしれません。

広告を短期の売上だけで評価してはいけません。しかし、売上に効いていない広告を、ブランディングという言葉だけで守るべきでもありません。

その広告によって、誰の、どの記憶を、どう変えるのか。その変化は、どのような購買場面で売上につながるのか。売上が出るまで時間がかかるなら、途中にある変化をどう確認するのか。

そこまで説明できて初めて、「長期的なブランド投資」と呼べるのではないでしょうか。

次に「これはブランディング広告だから、すぐに売上へ効かなくてもいい」と聞いたら、否定する必要はありません。

代わりに、一つだけ聞いてみてください。

では今、顧客の頭の中で何が変わっているのでしょうか。

プロフィール

マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。

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自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています

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参考URL

American Marketing Association
What is Marketing? — The Definition of Marketing
https://www.ama.org/the-definition-of-marketing-what-is-marketing/

American Marketing Association
Branding
https://www.ama.org/topics/brand-and-branding/

Newstead, Taylor, Kennedy & Sharp
The Total Long-Term Sales Effects of Advertising: Lessons from Single Source
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.2501/S0021849909090308

Ataman, Van Heerde & Mela
The Long-Term Effect of Marketing Strategy on Brand Sales
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1509/jmkr.47.5.866

Ataman, Mela & Van Heerde
Building Brands
https://doi.org/10.1287/mksc.1080.0358

Ehrenberg-Bass Institute
What happens when brands stop advertising?
https://marketingscience.info/news-and-insights/what-happens-when-brands-stop-advertising

Ehrenberg-Bass Institute
What is the effect of advertising on mental market share?
https://marketingscience.info/news-and-insights/what-is-the-effect-of-advertising-on-mental-market-share

IPA
The Long and the Short of It: Balancing Short and Long-Term Marketing Strategies
https://ipa.co.uk/knowledge/publications-reports/the-long-and-the-short-of-it-balancing-short-and-long-term-marketing-strategies

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