しない しない 夏
高円寺の2階にある大好きな酒場で大好きなホッピーを飲みながら、赤提灯越しに行き交う人たちをほろ酔いで眺める。
嗚呼。わたしもあの人と夜中にコンビニ行って手を繋いで歩いたっけ。
ふたりで缶チューハイを片手にミュージックストリート見てたっけ。
気づいたら涙がぼろぼろ出てきて、酔いも相まって馬鹿みたいに涙が止まらなくなって、
「畜生。」て小さく呟いた。
どうしても飛び越えられない大きな水たまりみたいで、抱えきれないほどのたくさんの思い出を、笑ったときのあの顔を、声を、手の柔らかさを、彼の服を借りたら少し香るあの大好きな柔軟剤の匂いを、どうやって、どうしたら飛び越えられるのか分からなくって。
分からないから
「畜生。」て呟いた。
ホッピーを飲みながら号泣している女であるわたしは、涙を片手でぬぐって、ポーチからかがみを出して、少し腫れた目を、濡れた睫毛を、とりあえずセーフの顔であるかを確認して、チークをこっそり塗り直して、
もう一度呟く。
「恋をするしかないな。」
………
シロクマ文芸部さんのお題から創作するというものに参加をさせていただきました。
お題「水たまり」
