7年通った美容院を変えた話_後編|エッセイ
後編だけど
この話は後編だけど、別にここから読んでも大丈夫です。冴えない25歳の男性が、勇気を出して7年通った美容院を変えました。というだけのお話です。
では、どうぞ。
表参道の美容院
見事なハリケーンパーマを手に入れた私は
その凄惨に蠢く巻き糞を鎮めるため、
ほっとぺっぱあびゅうてぃに齧り付くことになる。
こんなはずじゃないんだ。
僕は自分の天然パーマを活かしたかっただけなんだ。
決してお互いのフィールドの
魔法・罠カードを手札に戻したかったわけじゃない。
どうか扱いやすく…自然に…
自然でおしゃれなナチュラルパーマに…。。。
絶望の最中、
とあるコピーに目が留まる。
「乾かすだけでキマる髪」
「シティに馴染む、ナチュラルパーマ」
「クセを活かした本格ヘアー!」
指が止まった。
せせらぎの如く、耳に流れる三拍子。
私は表参道にある美容院を見つけていた。
「ぼ、ぼくが求めていたのはこれだあ!!」
Tokyo cityに馴染みたいし、
ナチュラルでオシャレなパーマも欲しい。
そしてそれが乾かすだけでキマるなんて、、、
こんなに頼もしいことはない。
「クセを活かした本格ヘアー!」だけはよく意味が分からなかったがもうそんなことは関係ない。
私は急いで予約し、シティに馴染む自分を夢想した。
当日
私はパーマ落としを付けられ頭上の天災を押しのけた。
久しぶりに表れた天然は、うらぶれた微笑を浮かべていた。
「わたしは君に裏切られた」そう言っているみたいだった。
表参道の美容院には心から感謝している。
※ここから先は、「M/PRINCESS PRINCESS」を聴きながら読んでいただきたい。
そこで出会った美容師さんは私に「正しい髪の乾かし方」を教えてくれた。私の癖毛を活かすために、髪の付け根を撫でながら乾かしたほうが良いこと。気になる箇所は伸ばしながら乾かすと少し癖がマシになること。私が夢想するナチュラルパーマになるために、本当に様々な工夫を凝らしてくれた。
私はその美容院に通うことにした。
7年間。
色々なことがあった。
初めてまともに付き合ったと言える彼女と出会いたての頃、
「実は同じ美容院に通っていた」という話で盛り上がったことがある。
その美容院こそが、ここだった。
美容師さんも僕も、同じ古着屋さんに通っていた。
僕が2万円以上する古着を買った時、
周りの人に笑われ、傷ついた事を覚えている。
「そんな服が2万円するの!?」と友達に言われた次の日。
性懲りもなく同じ服を着て美容院に着いた僕に、
「ばらさん、わかってますねえ~!」
と言ってくれたのも、その美容師さんだった。
リバーシブルの服は実質半額だと言って、よく笑い合った。
高価な古着の購入を我慢できないと言い合った。
新しく買った服は
必ずその美容師さんに見せに行くようになった。
年の離れた兄のような存在だった。
それは言い過ぎかもしれない。
月一くらいでよく会う人だった。
こんな日がくると思わなかった。
大抵の終わりがそうであるように、
僕と美容師さんの終わりにも前触れはなく
ドラマのような展開もなかった。
星が森へ帰るように、美容師さんはこう言った。
「申し訳ないんすけど、
来月でここ、辞めちゃうんですよね。」
えっ
「地元に戻って美容師やろうと思って。」
じもとっ!?
「地元、福岡なんですよね」
ふくおか…
黄色い鳥が飛んでいた。
ソフトバンクホークスの鳥だった。
今、名前が気になって検索したのだけど、
この福岡ソフトバンクホークスの鳥は、
「ハリーホーク」と言うらしい。
自己紹介の一番下に、
「アイスクリーム、ポップコーンが好き。
実は、泳げない。」と書いてあった。
鳥なんだから意外じゃねえだろ。と思ってしまった。
そんなことはどうでもいい。
かくして僕は、
7年通い詰めた美容院から飛び立つことになる。
(もう、Mを止めてよい)
探さなければいけない。
青春を苦しめたこのパーマを、扱いきれる美容師を。
私の頭に青く滾った春雷を、受け止めてくれる逸材を。
代官山の美容院
私は自分に自信がない。
心が弱く、内から滲み出る弱さを
強い単語で隠そうとしてしまう。
「代官山」
表参道は嫌だった。元カト✂️を思い出してしまうから。
促音だけを振り切った私は、代官山を選んだ。
また、強い単語を頼った。
予約はスムーズだった。
結局美容師さんとの相性なんじゃな~~ぃ?
イメージ伝えれるか次第なんじゃな~~ぃ?
結局会話でなんとかなるっしょ~~〜〜??
と
人は人間関係が9割とでも言いたくなるような思考で、僕は割と適当に次の美容院を決めた。
学生から大人へと歩を進める7年の間で学んだことは、「ハッキリとした挨拶とちょっとの会話さえしっかりしておけば、大体のことはなんとかなる。」ということであった。
散髪当日
代官山の表通りから裏道へ入り、
恐ろしく小綺麗な坂を上った先にその美容院はあった。
小さな一軒家をそのまま美容院にしているその場は、
文字通りアットホームな雰囲気に包まれていた。
もらった…!
私はそう確信した。
代官山という、ハイカラマウンテンに向かう私は二つの武器を備えていた。
一つ目は「挨拶」
僕は基本的に、
突発的に人に聞こえる音量の声を出せない。
電車内で席を譲る時も、
聞こえるか聞こえないか位のちっさな声で
「あっ…どぞっ…」とだけ言って、恥ずかしくなり、
その場からスススッ…と立ち去ってしまう。
発声練習が必要なのだ。
だからこそ、
練習してきたのだ!挨拶を!!
シャワーを浴びながら井上陽水の少年時代を熱唱してきた私の喉は、完璧にウォーミングアップを終えていた。
これで、初対面の美容師さんに「挨拶がちっさい変な奴」と思われる心配はない。
素晴らしい挨拶の準備は完璧だった。
二つ目は「お洋服」
私はこれまでの人生で、
二度ドレスコードに反したことがある。
その話はまた後でできればと思うが、
ともかく服装というものは大事なのである。
人は見た目が9割。(えっ)
そんなこんなで僕はスポーティー古着スタイルで勝負に出ることにした。
9月とは思えない肌寒さのその日は、
今秋初めての長袖長ズボンしちゃいました♡
と言うのにぴったりな気候だった。
私は、ウィンドブレーカーのようなツルツルシャカシャカ素材の海外スポーツチームの長ズボンに、これまたツルツルシャカシャカではあるものの、秋にも着れる程度の薄手なナイロン素材の長袖を合わせた。
お気に入りのたけえニューバランスを履いた私は、
これまた完璧であった。
代官山に居ても恥ずかしくない服装。
ハッキリとした声で挨拶もできる。
これで、大丈夫。
頼もしい武器を抱え、私は美容院へと足を踏み入れた。
入店
「こんにちは~」
こンにちはぁ…
少し失敗した。
入り口のすぐ脇に受付があり
自身の視野の外から挨拶を受けた私は、
用意していた声の半分くらいの声量で挨拶を返してしまった。
挨拶をしてくれた女性は、受付に佇むアシスタントの方だった。
13時から予約してた、ばら、です。
「ばらさんですね、今スタイリストが来るので
そちらの椅子にかけてお待ちください。」
良かった、本番はこれからだ。
アシスタントさんには「声ちっさ」と思われたかもしれないが、髪を切ってくれるスタイリストさんにはっきりと挨拶ができれば上出来だ。
僕はもう一度気合を入れなおした。
入り口の少し奥にトイレがあり、
その脇に恐らくスタイリストさんの控室と思われる部屋があった。
お客さんは店内に1人だけ。
座席は全部で3つだけ。
美容師さんはその場に2人いて、とても落ち着いた雰囲気で談笑をしながら施術を行っている様子が見えた。
とても良い雰囲気だった。
もらった…!
私はそう確信した。
ふいに、少し奥の扉が開いた。
中から、大竹しのぶのような、お洒落でとても良い仕事をしそうな女性がこちらに歩いてきた。
アシスタントの女性が、「こいつ、任せますネ」と言わんばかりに会釈した。
まさしく大竹しのぶのような短髪の似合う女性に、
メンズカットも上手そう!!安心して任せられる!
と嬉しい気持ちになった僕は、カバンを持って立ち上がり
「こんにちは~!」とハッキリとした声で挨拶をした。
完璧な発声だった。
素晴らしい第一印象を与えることに成功した。
はずだった。
大竹しのぶは、
溌溂とした挨拶をした僕を不思議そうに一瞥し、そのまま店内へと歩いて行った。
その場の空気がスローモーションになり、
女性の残像が何重にも重なって見えた。
肢曲…?
女性はそのまま、ゆっくりと店内の座席に腰を下ろす。
座席に、腰を、下ろす。
美容院という場でその仕草が許されるのは、
散髪に来たお客様だけである。
僕は全てを理解した。
彼女はスタイリストではない、客だ。
僕は今、お客さんにハッキリとした声で挨拶をした
不思議な新規客だ。
美容院で店員と客を間違えるなんて…
無印良品じゃあるまいし…
愕然としたまま腰を下ろした僕は、
後から来たスタイリストのお姉さんの挨拶に
こんちわ…。
と、か細い声を発することしかできなかった。
受付に佇むアシスタントの女性だけが全てを知っていた。
ハキハキ挨拶作戦は、見るも無惨な失敗に終わった。
施術へ
スタイリストさんはとても良い人で、
話をする内に、僕の心は少しずつその輪郭を取り戻していった。
癖毛の悩みを一通り聞いてくれたスタイリストさんは、
「何とかする」と心強い言葉を伝えた後
「とりあえずシャンプーとマッサージしましょうか(^^♪」と僕をシャンプー台へと導いた。
「それじゃ、お願いします。」
声が聞こえる。
「はい」
そう言って、僕を引き継いだ担当者は、
先ほどの全てを知っている
「受付にいたアシスタントの女性」だった。
最悪だ…。(全て僕が悪い)
目の前が真っ暗になりそうだった。
目元だけをタオルで隠し、
シャンプー&頭皮マッサージが始まった。
先程の全てを知られている僕は、「お湯加減大丈夫ですか?」等の全ての問いに、小さく「はい…」と答えることしかできなかった。
情けない。僕の7年間は失われた歴史として教科書に載るだろう。
ホットタオル失礼しますね~と言いながら
アシスタントさんが僕の首から頭上に向けてタオルをぐるっと巻いていく。
想像以上の気持ちよさに、全身の力が抜けて、僕は一旦すべてを「どうでもいいこと」と考えることができた。
何もしてなきゃ大丈夫か。
そう思った。
頭皮マッサージが始まった。
側頭部を痛気持ちい位の強さで揉みこまれる。
普段自分でほぐすことのない筋肉が、柔らかくほぐされていく感覚はご褒美と言えるくらいの快感だった。
次に、脳天。
ツボがありそうな頭のてっぺんを、
力いっぱいグッ、グッ、グッと押し込まれる。
グッ、グッ、グッ。
グッ、グッ、グッ。
ズルズルズル。
気づいた時には、もう遅かった。
代官山というおしゃれタウンに対抗するため、
上下ナイロン製の服を着てきた私は、椅子の上に滞在し続けるための「最低限の摩擦係数」を持ち合わせていなかった。
あっ
と一声上げる間に、
僕はシャンプーチェアからずり落ちた。
あっ、堕ちた。
そう思った。
あ!ごめんなさい!
…
申し訳ないんですけど上がってきてもらえますか?
そう言われた私は、小さい声で返事をし、力いっぱいにシャンプーチェアを握りしめながら、もう落とされまいと踏ん張った。
僕はすべてを
「どうでもいいこと」と考えることができた。
先程とは全く違う、至極マイナスな思考の中で。
踏ん張りながら僕は、レインボーの「手術台の角度が定まらず、何度も患者を手術台から叩き落すコント」を思い出していた。
目元に置かれたタオルは、
僕の涙は隠せても
恥ずかしさで朱色に染まる僕の顔と
思い出し笑いでニヤける僕の口元は隠せなかった。
全部どうでもいいから帰りたいなあ。と思った。
シャンプーが終わり、髪を切る。
出来上がった髪の毛は、
この記事のサムネにしている。
友達に送り付けた際には、
「↖️⬅️↙️」とだけ返信が来た。
髪形を、矢印で表現されたのは初めてだった。

家族LINEに、
「美容院変えてきました」というメッセージと共に写真を送った際には、母親から、「これはどっちの写真?」という御返事をいただいた。
どゆこと?と思った読者も多いと思う。
つまりは、
「これは美容院に行く前の写真?それとも行った後?」という意味である。
そりゃあんた…。変えてきましたって言ってんだから、行った後に決まっているでしょうに…。
信じられないの出来上がりにショックを覚えたのか、もしくは「美容院に行った後に髪が伸びてしまう」というヘアジャミン・バトン現象に息子が悩まされていると考えたのか、知る由はない。(たぶん知る必要もない。)
ともかく今回も、僕の髪の毛はいじられる結果となってしまったし(美容師さんはベストを尽くしてくれていたから100%僕の化け物くせ毛が悪いのだけど)、僕のくせ毛格闘記はこれからも続いていくということだ。
少し話を戻す。
施術中、美容院の周りをよく木村拓哉が散歩しているという話を聞いた。
美容院を出た後、僕はとりあえず美容院の周りを4周した。
が、木村拓哉には会えなかった。
いつか会えたらいいな…。
そう思いながら、僕は代官山を後にした。
拓哉はまだ、程遠い場所にいる。
ばら
