…白の余白 空席
空席の8月
8月が終わる。
カレンダーを一枚めくれば、 それだけのことなのに。
なぜだろう。
夏の終わりだけは、 少しだけ「別れ」に似ている。
そんな気持ちになる。
誰かがいなくなるわけでもない。 大切なものを失うわけでもない。
それなのに、 8月31日の夜には 胸のどこかに空席ができる。
たぶん僕は、 夏と別れているわけじゃない。
夏の中にいた、 あの頃の自分と別れているのだと思う。
笑顔で、汗をかきながら歩いた坂道。
眩しすぎて目を細めた、近すぎる空。
目を見開いて、青いかき氷を一気に流し込んだ午後。
理由もなく、 少しだけ寂しくて、遠くへ追いかけたくなった、夕方の潮騒。
いつもと変わらない、そんな何気ない瞬間たちが、 気づかないうちに 「今年の夏」になっていた。
8月は、 いつだって少しだけ忙しく急いでいる。
来たと思ったら、 もう帰り支度をしている。
だから僕は、 最後になって慌てる。
まだどこかへ行きたい。
まだ一緒に遊びたい。
まだ夏を好きでいたい。
そんな言葉を抱えたまま、思い出の風と一緒に、 8月を見送る。
けれど、 別れは終わりではないから。
8月が過ぎても、
あの日の青は記憶にしっかりとのこっている。
夏の匂いを思い出せる。
目を閉じ、あの空を、 もう一度見上げることができる。
季節は去っていくけれど、 過ごした時間まで 連れて行ってしまうわけではないから。
だから今日は、 8月に「さよなら」を言おうと思う。
少し寂しいけれど。
ちゃんと寂しがれるほど、 この夏が好きだったのだから。
また来年、 同じような青空の下で会えるだろう。
けれど、 知っているよ。
同じ8月には二度と会えない。
だからこそ。
振り返らずに去っていく8月の背中へ、 今年だけの言葉を届けたい。
ありがとう。
楽しかったよ。
まだ少し、 行かないでほしいけれど。
それでも、 またね。
8月。
ああ、夕陽が柔らかい。
今年の夏を、 ちゃんと好きでいられてよかった。

見つけてくれてありがとうございました
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