【海外競馬】「欧州の競馬場」のイデア
先週、凱旋門賞を観戦するためだけにパリに日帰りで赴き、ロンシャンで日本人に囲まれながら、「ああ、日本の競馬場ってこんな感じだよな」と妙な郷愁に駆られました。渡英当初はいろいろなものが新鮮に映り、諸々の不満要素がその陰に覆い隠れていたのですが、最近じわじわ浮かび上がってきて、早く日本に帰りたいです。夏の酷暑は御免ですが。。。
いずれにせよ、私の欧州滞在期間はもう長くはなく、元来出不精な方なので、このパリ遠征がおそらく人生最後の海外競馬観戦となったと思われます。昨年の渡英からこれまで、ロンシャン、アスコット、チェルトナム、エイントリー、ニューマーケット、チェスター、エプソム、サンダウン、ヨーク、そしてドンカスターと英国を中心に欧州10か所の競馬場を訪れる機会に恵まれました。
特に英国では、日本と異なり、「主要な競馬場の多くが単一の主催者によって管理されている」わけではないため、それぞれの競馬場にそれぞれの特色があるのですが、それらをいっしょくたにしたときのぼやっとした「欧州競馬場像」を、JRAの競馬場と比較したときの特徴について、徒然と書き残しておきます。
◎コースの多様さ
まず、なんといってもそのコースの多様さは特筆に値します。もちろん、日本にも面白いコースはあります。中央競馬の中だけでも、京都の3~4角のアップダウンや、新潟の千直、障害にも目を配ればたすきがけコースまで、観客を飽きさせないために様々なバリエーションを用意してくれています。しかし、結局は楕円型のくびきに囚われたものと言っていいでしょう。
ニューマーケットの逆L字型、アスコットのおにぎりフォルム……。このような直感に反した愛らしい形状のコースに出会えるのは欧州ならではという印象があります。特にニューマーケットは、ウイポで初めて見てなんじゃこりゃとなり、このコースで4000mが施行できると聞いて嘘だろとなり、そして実際に訪れてそのだだっ広さに圧倒される三段構えで本当に気に入りました。

また、チェスターやエプソムなど、一部の競馬場には壁がなく、入場料を一セントも払わずに競馬を観戦することができます。逆に、競馬場側からの観戦風景も、周辺の景色を取り込んだ雄大なものとなります。

◎馬との距離の近さ
過去の訪問レポでもたびたび指摘しているところでありますが、馬との距離が異様に近いのもうれしい点です。返し馬用に外ラチ沿いに馬道を用意したり、表彰式を広いパレードリング(パドック)で行ったりと、観客を喜ばせようという、主催者側の積極的な姿勢が伝わってきます。

もちろん、JRAのレースでも返し馬で外ラチを回してくれる騎手はいますので、コースの最前列に陣取れば馬との距離が近くなるタイミングはあると思われます。しかし、この客同士のポジション争いは特にGI開催日には熾烈を極めます。
一方で欧州では、後述のチケットの高さにも起因すると思われますが、観客がそもそも少なく、その少ない観客もせっせと場所取りをするようなクラスの人間ではないので、私のような卑しい人間はぬるっとゴール前の最前列に陣取ることができ、結果として馬との距離が日本にいる頃よりも近くなる、という側面もあると思います。
△チケットと敷居の高さ
一方で不満点としては、やはりチケットの高さが挙げられます。JRAの主要4場は200円で入場でき、数千円足せば指定席まで確保できるのに対し、英国では入場するだけで1万円程度かかってしまいます。こればかりは為替や当地の物価の影響もあるので、安易な単純比較ができるものでもありませんが、それにしても高いです。
チケットの高さに伴って、敷居も高くなっています。明確なドレスコードでスーツ・革靴が指定されている競馬場は案外まれですが、みんなスーツで来るので結局ドレスコードがあるのと変わりません。チケットの格に応じて施設内がエンクロージャーで区切られているせいもあってか、導線もひどいもので、パドックとコースを革靴で一日行き来していると、それだけで次の一週間は足に違和感を抱えて過ごすことになります。
私はもう「この限られた期間で大きな中距離レースを全部見るぞ」という意気込みで訪れているのでいいですが、これが毎回となると流石に苦しいので、日本でこの形式だったら、競馬文化がここまで大衆に根付かなかった気さえします。
△情報の少なさ
単に不慣れなだけという説もありますが、例えば現役の重賞好走馬について、過去の戦績(Form)を確認するためにRacing Postなどのサイトを覗いても、近走以外は有料会員限定であったり、血統表を辿るのがこの上なく不便であったりなど、事前の情報収集に大きな苦労を伴いました。
GI馬等ある程度著名な馬に関してはJRA-VANや個人サイトに日本語でまとめてくださっているものがあり、このあたり大変重宝しましたが、いずれにせよ、未勝利はもちろん未出走馬に至るまでありとあらゆる日本馬について、無料で5代血統表等の情報を掲載してくれるnetkeiba様のインフラは本当に偉大だなと実感限られたとなりました。
その他
他に良い点としては、イベントが充実しているところが挙げられます。やはりチケットが高い分、余興も充実させなければ集客が見込まれないのでしょう。レース終了後のライブイベントが大宗で、私はこの手のイベントに全く興味がないのですが、唯一惹かれたのはエイントリーで開かれたコースウォークです。
日本でも開催最終日のレース後に馬場を開放していますが、その後にグランドナショナルで使われるコースの一部を午前中に開放するというところが太っ腹でした。日本ほど繊細な馬場管理をしていない、ということの裏返しかもしれませんが、事前に観客もスクリーニングを行うことで、レース中に中継映像を眺めながら「ああここはさっき通った●番障害か」とイメージを膨らませることができるので、面白い取組みだなと思いました。

競馬場そのもの、に関してではないですが、欧州競馬の細かい不満点として、番組バランスのいびつさについても触れておきます。よく指摘される点としては、三冠の価値が低下している(特にセントレジャーはオブライエン師以外の有力調教師が誰もこだわっていなさそう)というものがありますが、それに至るローテーションの不可解さにも言及しなければなりません。
英国では、競走馬をレーティングによりクラス分けしており、JRAにおける収得賞金によるクラス分けとやや異なります。後者は基本的に勝利数ごとのクラス分けとなるため、直観的に、綺麗に条件戦を組むことができそうな気がしますし、実際JRAの番組編成・馬房管理は、(細かな指摘はあれど、)おおむね上手く回っているように思われます。他方で、レーティングによる制御は、レースごとの評価に依存するため、直観的にも難しそうですし、実際に番組編成のバランスの悪さが指摘されています。
上述の「情報の少なさ」にも通ずるところがありますが、レーティングが中途半端に上がってしまった場合、ある時期に適鞍がなくなってしまい、ドバイ等より情報が収集しにくい地域に遠征する有力馬が出てきてしまうという現象が見られます。
日本も外厩の発達等により、クラシック王道路線が古き良き時代から変化してきていますが、それ以上に意味の分からない馬柱になってしまっており、やや予想が難しくなっています。
また、馬場等を理由とした気軽なスクラッチも不満要素です。この後2走して亡くなったため、結果としてなんとも言えなくなりましたが、ダービーを観戦した際、二冠が期待されていたルーリングコート号が当日出走取消しを行ったのは非常に残念でした。他方で、JRAが、故障等の場合を除いて原則としてスクラッチを認めないという厳格な姿勢を馬主や調教師に対して取り続けられているのは、彼らの徹底した馬場管理に対する自負があるからであって、自然な地形の上に成り立っている欧州の競馬場にこのレベルの馬場管理を望むのは難しいですし、それにもかかわらずスクラッチ文化をやみくもに批判するのも酷な話だとは理解しています。
執筆していると思ったよりも不満点の方が強調され過ぎたような気もしますが笑、いずれにせよ、欧州競馬観戦は総じて楽しいものでした。観光客として訪れる分には、むしろ最初に挙げたようなコースの多様さ・雄大さに圧倒され、その雰囲気を楽しむことができると思います。
どこの競馬場にもそれぞれの特色があり、毎回違った体験をすることが出来ました。ドラクロワ号、オンブズマン号、カランダガン号といった今の欧州中距離路線を代表する有力牡馬(騙馬)を、これでもかというくらい間近で見ることができたのは、欧州ならではの経験でした。
以前のnoteでも少し触れていますが、装いさえ気を付ければ、所作は何にも指摘されないので、もし機会と、十数時間のフライトに耐えられる健康な肉体とがあれば、気軽に訪れてみてもよいのではないでしょうか。私はもういいかな笑。日本馬による凱旋門賞の初制覇をTVで見届けるのが今後の欧州競馬の楽しみになりそうです。今回はその日でなかっただけ。試行回数を重ねればいつか必ず夢は叶う(あるいは、呪いは解ける)と信じてます。

