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「参加できる場所」は、どうやって見つける?──知的障がいのある子どもの地域スポーツ参加を考える

「学校では卓球を楽しんでいる。地域でも続けさせたいけれど、どこを探せばいい?」

「一般のスポーツクラブに相談してもよいのでしょうか」

「知的障がいのある人向けのスポーツ活動の方が安心ですか?」

「指導者には、どこまで伝えればよいですか?」

「保護者が毎回付き添わないと参加できないのでしょうか」

「学校を卒業した後も、スポーツを続けられる場所はあるのでしょうか」

第37回では、知的障がいのある子どものスポーツ選びについて、

「できる競技」を探すのではなく、「本人が分かって楽しめる活動と環境」を探す

ことを考えました。

しかし、

「このスポーツ、好きかもしれない」

と分かった後には、もう一つ大きな課題があります。

どこで続けるのか。

学校なら、先生がいる。

時間割がある。

場所が決まっている。

本人の特徴を知っている人がいる。

でも地域スポーツでは、

自分で場所を探し、

申し込み、

移動し、

初めての指導者や仲間の中へ入っていく必要があります。

さらに、

  • 毎週通えるか

  • 送迎できるか

  • 費用を負担できるか

  • 本人に合う指導が受けられるか

  • 長期的に続けられるか

という生活上の条件も加わります。

つまり、

スポーツができることと、地域でそのスポーツを続けられることは別の課題

です。

2024年のスコーピングレビューでも、知的障がいのある人の地域スポーツ・レクリエーションへの包摂を進める取り組みとして、本人への働きかけだけではなく、指導者や周囲の知識・態度、組織間の連携、人間関係づくり、活動・環境の調整、組織方針、本人との協働など、複数レベルの取り組みが整理されています。PubMed

第38回では、

「受け入れてくれる場所を見つける」から、「本人が地域でスポーツを続けられる条件をつくる」へ

視点を広げて考えていきます。


「参加できるクラブ」は、競技名だけでは分からない

たとえば本人が、

「卓球を続けたい」

と言ったとします。

大人は、

「卓球教室を探そう」

と考えます。

でも、同じ卓球でも環境は大きく違います。

A教室

20人。

一斉指導。

2時間。

試合中心。

B教室

6人。

個別の声かけあり。

1時間。

初心者中心。

Cクラブ

競技志向。

大会出場を目指す。

Dサークル

週1回。

余暇として楽しむ。

競技は同じでも、本人にとっての難しさはまったく違います。

だから地域スポーツでは、

「何の競技か」だけでなく、「どんな環境で行われているか」

まで見ます。


「このスポーツが合わない」ではなく「この環境が合わない」ことがある

一度、地域の水泳教室へ行った。

人数が多い。

先生の説明が速い。

活動の順番が分からない。

本人は途中でプールから出た。

すると、

「水泳は合わなかった」

と思うかもしれません。

でも学校の水泳では、自分から何度も水へ入る。

それなら、

水泳そのものが嫌

ではなく、

その教室の人数や指導方法が合わなかった

可能性があります。

一つの場所で難しかったからといって、その競技全体を候補から外さなくてよいのです。


地域スポーツでは「競技 × 人 × 場所」で考える

スポーツ選びを、

卓球
水泳
陸上

と競技名だけで整理すると、情報が足りません。

少なくとも、

競技

何をする?

指導者

どう伝える?

集団

何人?

場所

音や広さは?

時間

何分?

参加目的

余暇?競技?

まで見ます。


まずは「本人がまた行きたいか」

地域スポーツで最初に確認したいのは、

本人自身がもう一度参加したいと思っているか

です。

上手にできたか。

先生から褒められたか。

保護者が良い教室だと思ったか。

それだけではありません。

本人が、

「また行く」

と示しているか。

言葉で難しければ、

  • 写真を選ぶ

  • スポーツバッグを持ってくる

  • その曜日になると準備する

  • 活動終了後も道具へ戻る

などの反応も見ます。


「楽しかった?」だけでは分からないこともある

「楽しかった?」

と聞くと、

「楽しかった」

と答える。

でも翌週は行きたがらない。

そんなことがあります。

だから、

「また行く?」

と、次の行動に近い質問もしてみます。

さらに、

何が楽しかった?

を具体的に見ます。


本人が好きなのは「競技」なのか「一部分」なのか

たとえば水泳。

本人が好きなのは、

泳ぐこと?

水へ入ること?

タイムを測ること?

友達と行くこと?

コーチと競争すること?

同じ「水泳が好き」でも、意味が違います。

ここが分かると、次の場所選びに使えます。


「地域スポーツへ参加する」を分解してみる

地域スポーツは、実際に身体を動かす時間だけではありません。

たとえば週1回の卓球なら、

  1. 日程を確認する

  2. 着替えを準備する

  3. 会場へ移動する

  4. 受付をする

  5. 更衣する

  6. コーチの説明を聞く

  7. 練習する

  8. 順番を待つ

  9. 片づける

  10. 帰宅する

があります。

つまり、

60分の練習へ参加するために、その前後にも多くの活動がある

のです。


練習はできるけれど「通うこと」が難しい場合もある

本人はスポーツを楽しんでいる。

でも、

毎回車で片道60分。

平日19時開始。

帰宅21時。

翌日は学校。

これでは継続が難しいかもしれません。

スポーツ庁の2026年度事業でも、障がいのある子ども・若者の地域スポーツ環境を持続的に運用する課題として、移動手段の確保や経済的負担が明示されています。文部科学省


「良いクラブ」より「続けられるクラブ」

非常に専門的な指導。

設備も充実。

でも片道2時間。

月4万円。

家族が毎週付き添う。

これが本人と家族にとって持続可能かは別問題です。

一方、

自宅から15分。

少人数。

本人も楽しんでいる。

指導者も必要な調整をしてくれる。

こちらの方が、長く続けられることもあります。


「今参加できる」だけでなく「半年後も続けられる?」

地域スポーツでは、

1回参加できた

だけではなく、

生活の中に入るか

を見ます。

学校。

放課後活動。

食事。

入浴。

睡眠。

兄弟姉妹。

保護者の仕事。

スポーツは生活の一部です。


スポーツ参加に家族の影響もある

知的障がいのある子どもの身体活動については、本人だけでなく家族に関連する要因も研究されています。家族要因を整理したシステマティックレビューもあり、身体活動を本人だけの問題として捉えない必要があります。PubMed

特に子どもの時期は、

行きたいと思えば一人で行ける

とは限りません。

送迎。

申し込み。

費用。

付き添い。

情報収集。

家庭の支援が必要になります。


でも「親が頑張れる限り続ける」にしない

本人が大好きだから、

保護者が毎週2時間送迎。

練習中もずっと横にいる。

帰宅後に夕食。

翌朝は早い。

数か月ならできるかもしれません。

でも、

5年後も同じ方法で続けられるか

を考えます。


保護者が「専属支援者」になっていないか

地域スポーツで、

「知的障がいがありますので、お母さんも練習中ずっとついていてください」

となることがあります。

初めは必要な場合があります。

でも長期的に、

  • 順番を教える

  • コーチの指示を翻訳する

  • 道具を用意する

  • 他児との調整をする

  • 休憩を判断する

すべて保護者が担う。

これでは、本人のスポーツ参加が、

保護者が毎回支援できること

に依存します。


支援を「家族だけ」から少しずつ広げる

たとえば最初は、

家族

今日の練習順を説明する。

その後、

コーチ

練習順をホワイトボードへ書く。

さらに、

本人

自分で確認する。

こうして、

保護者がしていた支援を、本人とスポーツ環境へ少しずつ移す

ことを考えます。


「保護者なしで参加できる」を急がない

もちろん、

来週から一人で

と急に変える必要はありません。

初めての場所。

初めての人。

本人にも安心できる人が必要なことがあります。

最初は一緒。

次に体育館の端。

その後ロビー。

必要なら戻る。

段階的に考えます。


本人自身ができることも増やす

地域スポーツへの参加技能は、

投げる。

走る。

泳ぐ。

だけではありません。

たとえば、

「分かりません」

と言う。

「もう一度見せてください」

と伝える。

「休みたい」

と伝える。

自分のバッグを持つ。

コーチへ挨拶する。

これも、長く地域でスポーツをするための力です。


「分からない」と言えることは大切な技能

知的障がいのある子どもに、

説明が分かるようにする

ことは大切です。

同時に、

分からないときに助けを求められるようにする

ことも重要です。

最初は、

大人が、

「分からない?」

と聞く。

本人がうなずく。

次に、

「もう一回」

と言う。

というように広げます。


指導者へ何を伝える?

初めて地域クラブへ相談するとき、

「知的障がいがあります」

と伝えるだけでは、指導者は具体的な支援方法を判断できません。

診断名よりも、

その子がスポーツへ参加するために必要な情報

を伝えます。


伝えたいのは「できないこと」だけではない

たとえば、

本人がやりたいこと

「試合が好きです」

分かりやすい説明

「一度に一つの指示だと分かります」

見本

「口頭説明より一回やって見せてもらうと始めやすいです」

順番

「名前カードがあると自分で確認できます」

好きなこと

「得点を数えるのが好きです」

困ったとき

「分からなくなると立ち止まります」

休憩

「5分程度静かに休むと戻れます」

といった情報です。


「知的障がいなので優しくお願いします」では足りない

「優しく」は大切ですが、具体的ではありません。

それより、

「長い説明だと途中から分からなくなるため、最初は一つずつ説明してください」

の方が使いやすい。


本人の強みも伝える

「毎回同じ練習順なら自分で準備できます」

「一度覚えたことは繰り返しやりたがります」

「数字が好きなので得点があると理解しやすいです」

こうした情報は、指導者が活動を組み立てる手掛かりになります。


1枚の「スポーツ参加情報シート」

地域スポーツへつなぐなら、情報を1枚程度にまとめると共有しやすくなります。

本人がしたいこと

卓球の試合をしてみたい。

好き

ラリー回数、得点。

分かりやすい方法

短い説明+実演。

集団

6人程度なら活動しやすい。

順番

名前カードがあると自分で確認可能。

困ると

その場で止まる。

そのとき

次の活動を一度見せる。

本人が言えること

「もう一回」「休む」。

家族からお願いしたいこと

本人へ直接説明してほしい。

こうすれば、

障がいの説明書

ではなく、

スポーツ参加のための情報

になります。


本人抜きで「本人の説明」を作らない

可能な範囲で、

「これ、コーチに言っていい?」

と本人へ確認します。

言葉だけで難しければ、

写真や実際の場面を使います。

年齢が上がれば、

自分で説明する部分

も増やせます。


「一般の地域クラブ」と「障がいのある人向け活動」、どちらがよい?

第37回でも触れましたが、

どちらが上ということはありません。

本人の目的によります。


一般の地域クラブ

利点として、

  • 自宅近くにある可能性

  • 地域の仲間と参加できる

  • 幅広い競技レベル

  • 大会や地域活動へつながる

ことがあります。

一方、

  • 集団人数が多い

  • 一斉指導

  • 指導者の障がい理解に差がある

場合もあります。


知的障がいのある人を対象としたスポーツ活動

たとえばSpecial Olympicsでは、継続的なトレーニングと競技の機会が提供されています。日本では各地区組織が参加相談の窓口となっており、コーチ育成も行われています。ソン

競技会では、可能な限り同程度の競技能力となるよう、性別・年齢・競技能力などによるディビジョニングも行われています。ソン


ユニファイドスポーツという選択

Special Olympicsのユニファイドスポーツ®では、知的障がいのあるアスリートと知的障がいのないパートナーがチームメイトとして一緒にスポーツをします。年齢・競技能力が近い参加者でチームを構成し、スポーツ経験を共有することが基本です。ソン

本人が、

友達と一緒に競技したい

のであれば、こうした活動も選択肢です。


でも「障がい者スポーツの場だから合う」とは限らない

知的障がいのある人を対象としている。

だから必ず本人に合う。

とは言えません。

競技。

人数。

コーチ。

時間。

本人の好み。

によります。

逆に、一般クラブでも非常に参加しやすい場所があります。


大事なのは「ラベル」ではなく実際の参加環境

だから見学や体験では、

「障がい者対応可能ですか?」

だけではなく、

「普段は何人で練習しますか?」

「最初に練習順を説明しますか?」

「分からない子には実演してもらえますか?」

「途中で休んで戻ることはできますか?」

のように聞くと、実際の環境が分かります。


地域の相談先は一つではない

地域でスポーツを探す場合には、

  • 一般のスポーツクラブ

  • 総合型地域スポーツクラブ

  • Special Olympics地区組織

  • パラスポーツ関係団体

  • 自治体のスポーツ教室

  • 特別支援学校を拠点とした活動

  • 福祉施設等の地域開放型活動

など、複数の入口があります。


日本でも「地域で続ける仕組み」を整備する動きが進んでいる

スポーツ庁は2026年度、障がいのある子ども・若者が地域で継続してスポーツに親しめる機会を確保するため、

  • 特別支援学校を拠点としたクラブ

  • 総合型地域スポーツクラブ

  • 社会福祉施設

  • 放課後等デイサービス

などを活用して、本人の希望に合わせた運動・スポーツ参加と継続を支える地域モデルづくりを進めています。文部科学省

さらにこの事業では、障がいのある子ども・若者だけが参加する活動に限定せず、障がいの有無や年齢にかかわらず一緒に活動する取り組みも対象にできることが示されています。文部科学省


「学校卒業後」を考える

学校では、

体育。

部活動。

学校行事。

があり、一定の身体活動機会があります。

でも卒業すると、

自動的に用意されているスポーツ機会

が減ることがあります。

だから、

高校卒業時に初めて地域スポーツを探す

より、可能であれば学校時代から地域の活動へ触れておくことには意味があります。


「学校ではできる」を地域へ持ち出す

学校で、

卓球が好き。

と分かった。

なら、地域の卓球へ。

学校で、

4人ならゲームへ参加できる。

と分かった。

なら、その情報も地域へ伝える。

学校で、

見本があると理解できる。

と分かった。

なら、それも伝える。


学校と地域をつなぐのは「診断情報」だけではない

知的障がいがあります。

だけでなく、

学校ではどうすれば参加できているか

を地域へつなぎます。

これは非常に実用的です。


でも学校の方法をそのままコピーする必要はない

学校では写真カード。

地域ではコーチが実物を見せるだけで分かる。

それでよい。

大切なのは、

同じ支援方法

ではなく、

本人がどういう情報を使うと参加しやすいか

を共有することです。


体験会は「入会テスト」ではない

地域のスポーツを体験すると、

保護者も、

ちゃんとできるかな

と緊張します。

でも体験会は、

本人がクラブに適応できるか

だけを確認する場ではありません。

本人とクラブがお互いに合うか確認する場

です。


本人だけでなく「クラブ側」も観察する

体験会では、

本人

何を楽しむ?

コーチ

分からないとき、説明方法を変える?

仲間

自然に一緒に活動できる?

活動構造

待ち時間は?

環境

騒音や情報量は?

を見ます。


コーチが「本人へ直接話しているか」

保護者へ、

「次はこれをやらせてください」

とだけ話す。

ではなく、

本人へ、

「次はこれやってみよう」

と話しているか。

小さなことですが重要です。

本人が、

一人のスポーツ参加者として扱われているか

を見るポイントになります。


「できないとき」の対応を見る

最初の説明ではできなかった。

そのとき、

「難しいですね」

で終わるのか。

それとも、

一回見本を見せる。

ボールを変える。

距離を変える。

のように方法を変えてくれるか。

継続するうえでは重要です。


「受け入れ可能」と「参加可能」は違う

クラブから、

「障がいがあっても入会できます」

と言われた。

これは大切です。

でも、

実際にその子がスポーツへ参加できるか

は別に見ます。


ただ所属しているだけになっていないか

毎週行く。

でも、

  • 保護者とだけ練習

  • 他の子はゲーム

  • 本人は端で別メニュー

  • 大会には参加できない

ということもあります。

場合によってはその方法が適切ですが、本人が何を望んでいるかを確認します。


「参加」を出席だけで測らない

2025年のシステマティックレビューでは、障がいのある子ども・若者のスポーツ・身体レクリエーションへの参加を評価する際、**attendance(出席)とinvolvement(活動への関与)**を区別する必要性が整理されています。PubMed

たとえば、

毎週4回参加。

これはattendance。

でも、

自分から道具を取る。

コーチへ質問する。

仲間とプレーする。

得点を気にする。

これはinvolvementです。


「月4回通った」だけでは分からない

本人が、

その場所でスポーツをしている

かを見る。

自分の役割がある。

選択がある。

挑戦がある。

そこまで含めます。


地域スポーツで「友達ができる」ことを期待しすぎない

スポーツには人とのつながりがあります。

Special Olympicsや他のスポーツプログラムを含む研究では、知的障がいのある人とない人の間に友情が形成された例も報告されています。PubMed

しかし、その関係がスポーツプログラムの外の地域生活へ広がることは少なく、スポーツプログラムが地域参加・包摂全体を改善するというエビデンスは限定的でした。PubMed


「スポーツをすれば社会参加できる」と単純には言えない

だから、

友達づくりのためにスポーツへ

だけではありません。

本人がそのスポーツ自体を楽しめることも重要です。

一方で、

いつもの仲間に会う。

名前を呼ばれる。

一緒に練習する。

という経験が、地域での所属感につながることはあります。


「所属」とは何だろう

毎週同じ時間に行く。

コーチが、

「おはよう」

と名前を呼ぶ。

自分のラケットを出す。

いつもの仲間がいる。

自分の順番を確認する。

終わったら片づける。

この積み重ねで、

「通わせてもらっている場所」から「自分が行く場所」へ

変わっていきます。


地域スポーツのゴールは「受け入れてもらうこと」ではない

障がいのある子でも参加できますか?

は大切な入口です。

でも、その先に、

この場所で本人は一人の参加者になれるか

があります。


本人が自分の役割を持てるか

卓球なら、

自分のラケット。

自分の相手。

自分の試合。

水泳なら、

自分のレーン。

自分の記録。

サッカーなら、

自分のチーム。

自分のポジション。

本人自身に活動との関係があります。


「大会に出る?」も本人と考える

地域スポーツを続けていると、

大会に出てみませんか?

と誘われることがあります。

大会は新しい経験になります。

でも練習とは違い、

  • 知らない会場

  • 知らない相手

  • 待ち時間

  • 審判

  • 得点

  • 順位

が加わります。


練習でできる=大会でもできる、ではない

競技技能は同じでも、

環境への対応

が増えます。

最初は、

観戦。

小規模大会。

短い試合。

という段階もあります。


Special Olympicsでは継続的なトレーニングと大会がつながっている

スペシャルオリンピックス日本では、日常の継続的なトレーニングと、その成果を発表する競技会がスポーツ事業として位置づけられています。ソン

大会を目標にすることが本人の動機になる場合には、そうした仕組みを活用できます。


でも大会を目指さなくてもよい

本人が、

週1回泳ぐのが好き。

それでよい。

家族と自転車が好き。

それでもよい。

競技大会へ出ることをスポーツ参加の最終目標にする必要はありません。


「続ける」は同じ競技を続けることだけではない

小学生では水泳。

中学生では卓球。

高校生ではボウリング。

卒業後はウォーキングとフィットネス。

それでも、

身体活動のある生活を続けている

と言えます。


一つのクラブを辞めても「失敗」ではない

本人が、

もう行かない

と言った。

それを、

継続力がない

とすぐ考えません。


何が分かった?

競技は好き。

でも人数が多いのは嫌。

コーチは好き。

でも2時間は長い。

試合は好き。

でも待ち時間が嫌。

その情報が次の選択に使えます。


「やめる」も自己決定の一つ

始める。

続ける。

休む。

やめる。

別の活動へ行く。

また戻る。

地域スポーツでは、これらすべてが本人の活動選択です。


継続だけを成功にしない

5年間続けた。

でも本人はずっと嫌だった。

より、

1年やった。

「今度はダンス」

と本人が選べる方が、長期的には意味があることもあります。


地域スポーツ参加の10項目チェック

体験から継続を考えるときには、次のように整理できます。

  1. 本人はまた行きたい?

  2. 競技そのものを楽しんでいる?

  3. 活動内容を理解できる?

  4. 分からないとき支援してもらえる?

  5. 集団人数は本人に合う?

  6. 実際に身体を動かす時間は十分?

  7. 途中で休んで戻れる?

  8. 家族の送迎・費用は続けられる?

  9. 本人自身が少しずつ参加を管理できる?

  10. 困ったとき相談できる人がいる?

すべて満点である必要はありません。

どこを調整すれば続けられそうか

を見るためのチェックです。


地域スポーツ体験メモ

たとえば、

活動

卓球教室

本人

「また行く」を選択。

楽しんでいたこと

ラリー回数を数えること。

集団

8人。

問題なし。

説明

口頭のみでは開始しにくい。実演後は可能。

順番

ホワイトボードで確認可能。

コーチ

本人へ直接説明。

活動量

60分中、約40分は実際に練習。

疲労

帰宅後30分休憩。夕食・睡眠に大きな変化なし。

移動

片道20分。

家族

週1回なら継続可能。

次回

本人から「もう一回見せて」を伝える練習をする。

こう書けば、

「体験会は成功」

だけより、次に何をすればよいか分かります。


3か月後にも同じチェックをする

最初は良かった。

でも3か月後、

最近行きたがらない。

ということがあります。

クラブ側が変わったかもしれません。

人数が増えた。

練習が試合中心になった。

コーチが変わった。

本人の生活も変わった。


「一度合った場所はずっと合う」とは限らない

子どもは成長します。

本人の興味も変わります。

だから、

参加環境も定期的に見直す

ことが必要です。


Research Note|スポーツプログラムへ参加すれば、地域参加も広がるのか

知的障がいのある人にとって、スポーツは地域参加の重要な機会になり得ます。

しかし、

スポーツプログラムへ参加すれば、そのまま地域社会への包摂が広がる

とは言い切れません。

2021年のシステマティックレビューでは、知的障がいのある人を対象とした身体活動・スポーツプログラムが地域参加や包摂へ及ぼす影響を検討し、9論文・7つの独立した研究が含まれました。Special Olympicsを含むいくつかのプログラムでは、知的障がいのある人とない人との友情形成などが報告されましたが、それらの関係がより広い地域生活へ広がることは少なく、地域参加・包摂そのものを改善するというエビデンスは限定的でした。PubMed

さらに2024年のスコーピングレビューでは、地域のスポーツ・レクリエーション活動へ知的障がいのある人を包摂するための取り組みとして、

  • 知識・認識・態度を変える

  • 組織同士が連携する

  • 人間関係を形成する

  • 活動や環境を調整する

  • 組織方針を整える

  • 知的障がいのある本人と一緒に活動をつくる

といった方法が整理されました。PubMed

このレビューで特に重要なのは、

本人への支援だけでは地域参加は成立しない

という点です。

コーチ。

クラブ。

施設。

地域組織。

それぞれに変えられるものがあります。

一方、2025年の障がいのある子ども・若者のスポーツ参加評価に関するシステマティックレビューでは、参加を測る際に、

attendance=参加頻度・出席

と、

involvement=活動への関与

を区別する必要性が整理されています。PubMed

つまり、

毎週クラブへ行けた

だけでは不十分です。

本人は、

自分で活動を始めているか。

道具を使っているか。

友達やコーチと関わっているか。

活動に意味を感じているか。

まで見る必要があります。

日本でも、2026年度のスポーツ庁事業では、障がいのある子ども・若者について、本人の希望に合わせた地域スポーツの参加だけでなく継続までを目的としてモデル構築が進められています。文部科学省

その活動場所も、

  • 特別支援学校

  • 総合型地域スポーツクラブ

  • 社会福祉施設

  • 放課後等デイサービス

など複数に広げられています。さらに、移動や経済的負担といった、スポーツそのものではない継続障壁まで検討対象となっています。文部科学省

これは非常に重要です。

地域スポーツ参加を、

「本人がスポーツをできるか」

だけで考えない。

そのスポーツを生活の中で続けられる地域環境があるか

まで見る。

そして、もし環境がなければ、

本人の能力不足

ではなく、

地域側の参加機会の不足

として考える必要があります。

地域スポーツ参加を支えるには、

本人の技能を伸ばすことと、

本人が参加できる地域をつくること

の両方が必要です。


BEABLE Memo|「受け入れてくれる場所」から、「自分の場所」へ

地域スポーツを探すとき、

保護者は、

「知的障がいがあっても受け入れてもらえますか?」

と聞きます。

もちろん、その確認は必要です。

でも、参加が始まったら、次の問いへ進みたいと思います。

「この場所で、この子は一人のスポーツ参加者になれているだろうか?」

保護者の横でだけ練習する。

コーチはいつも保護者へ説明する。

本人は誰の名前も知らない。

それでも「受け入れてもらっている」とは言えます。

でも、少しずつ、

コーチが本人の名前を呼ぶ。

本人が自分のラケットを出す。

自分の番を確認する。

「もう一回」と言う。

負けて悔しがる。

次の練習日を覚える。

そんな経験が増えると、

その場所は、

「障がいのある自分を受け入れてくれる場所」

だけではなく、

「自分がスポーツをしに行く場所」

になっていきます。

それが地域参加なのだと思います。

だから、保護者がすべての支援を担い続けなくてもよい形を少しずつ考える。

コーチへ支援方法を伝える。

本人が使える写真やスケジュールを用意する。

本人自身も、

「分からない」

「休む」

「もう一回」

を伝えられるようにする。

支援をなくすことが目的ではありません。

支援が、本人の参加を支える仕組みとして地域に残ること

が大切です。

そして、

続かなかったときも、

「また続かなかった」

で終わらせない。

何が分かった?

人数?

時間?

指導者?

競技?

待ち時間?

移動?

そこから次を選ぶ。

一つのクラブを辞めても、

スポーツとの関係まで終わりにしなくてよい。

水泳をやめて卓球へ。

卓球からダンスへ。

大会競技から余暇活動へ。

変わっていい。

地域スポーツのゴールを、

「一つの競技を辞めずに続けること」

だけにしない。

本人が、

「これは好き」
「これは違う」
「またやりたい」
「今日は休む」
「次はこれをやってみたい」

と、自分の身体活動を選び続けられる。

そして、

地域の中に、

「自分がまた戻ってこられる場所」

を持てる。

そこまでを、知的障がいのある子どもの地域スポーツ参加として支えていきたいと思います。


Today’s Perspective

子どもの地域スポーツを探すとき、次の問いを一つ加えてみてください。

「このクラブは障がいのある子を受け入れてくれるかな?」だけでなく、
「この場所で、この子自身がスポーツ参加者になれるだろうか?」

そして、体験会でうまくいかなかったら、

「このスポーツは難しいかな?」だけでなく、
「競技ではなく、どの参加条件が難しかったのだろう?」

と考えてみます。

人数?

指示?

待ち時間?

時間帯?

コーチ?

移動?

一つ変えたら、同じスポーツを続けられるかもしれません。

地域スポーツは、

「入れる場所を探すこと」から、「続けられる場所を一緒につくること」へ。

そこまでを考えてみてください。


まとめ

今回は、知的障がいのある子どもの地域スポーツ参加について考えました。

まず大切なのは、

スポーツができることと、地域でスポーツを続けられることは同じではない

ということです。

競技技能があっても、

  • 通える場所がない

  • 集団人数が多すぎる

  • 指導方法が分からない

  • 家族の送迎が難しい

  • 費用が大きい

  • 活動時間が生活に合わない

なら、継続は難しくなります。

逆に、運動技能がまだ十分でなくても、

本人がやりたい。

少人数なら分かる。

指導者が活動を調整してくれる。

生活の中で無理なく通える。

のであれば、参加しながら技能を高めることもできます。

地域スポーツは、

本人 × 競技 × 指導者 × 仲間 × 場所 × 生活

の組み合わせで考えます。

2024年のレビューでも、知的障がいのある人の地域スポーツへの包摂を支えるためには、本人への支援だけではなく、周囲の知識・態度、組織連携、人間関係、活動・環境調整、組織方針、本人との協働などが必要と整理されています。PubMed

だから、

本人をクラブに適応させる

だけではありません。

クラブ側にも変えられるものがある

と考えます。

また、参加を見るときには、

通っているか

だけではなく、

本人が実際に活動へ関わっているか

を見ます。PubMed

コーチへ何を伝えるかについても、

「知的障がいがあります」

だけではなく、

  • 何をやりたいか

  • どんな説明なら分かるか

  • 順番をどう確認できるか

  • 何が好きか

  • 困ったときどうなるか

  • 休憩方法

を具体的に伝えます。

そして、その情報を保護者だけが永遠に担うのではなく、

コーチ
環境
本人

へ少しずつ移していきます。

Special Olympicsの継続的なトレーニングや競技、ユニファイドスポーツも地域参加の選択肢です。ソン

一般の地域クラブも選択肢です。

どちらが優れているとは言えません。

本人が、

何をしたいか。

どんな場所なら分かるか。

どんな仲間とやりたいか。

どのくらい競技を深めたいか。

によって変わります。

そして日本でも2026年度、スポーツ庁が、特別支援学校、総合型地域スポーツクラブ、福祉施設、放課後等デイサービスなどを活用し、障がいのある子ども・若者本人の希望に合わせて地域スポーツへ参加・継続できるモデルづくりを進めています。文部科学省

地域スポーツ参加を、

本人と家族だけが頑張って場所を探す問題

にしないことも重要です。

地域側にも、

参加できる選択肢を増やす責任がある

と考えます。

そして最終的に目指したいのは、

本人が、

自分の道具を準備する。

コーチへ聞く。

休む。

試合に出る。

今日はやめておく。

違う競技へ移る。

また戻る。

というように、

自分の身体活動へ少しずつ自分で関わっていくこと。

そのスポーツが、

「参加させてもらう場所」から、

「自分が地域の一員として戻ってこられる場所」

になっていく。

そこまでを、知的障がいのある子どもの地域スポーツ参加として考えていきたいと思います。


次回|第39回

次回は、ここまでのSeason 3を一度つなげます。

「できない」を一つの理由で説明しない──知的障がいのある子どもの運動・体育・スポーツ参加を事例から考える

一人の架空事例を通して、

  • 「できない」と課題理解

  • 言葉・見本・模倣

  • 反復と定着

  • 運動遊びと自己選択

  • 集団運動と順番・ルール

  • 学校体育

  • スポーツ選び

  • 地域スポーツ参加

を、一つの生活の中につなげます。

たとえば、

学校体育では「運動が苦手」と見られていた子どもが、
実は「何をすればよいか分かる条件」が整うと身体を動かせて、
その中から好きな活動を見つけ、地域のスポーツへつながっていく。

そんな過程を考えます。

Season 3を通して扱ってきた、

「この子に何ができないのだろう?」だけではなく、
「何が分かれば、どんな環境なら、この子は自分の身体を使えるのだろう?」

という問いを、実際の支援場面へ落とし込んでいきます。


参考文献・参考資料

  • Ristevski E, McCook F, Thompson S, et al. Initiatives to facilitate the social inclusion of people with intellectual disability in physical activities with others in community-based sporting, recreation and leisure activities: A scoping review. J Appl Res Intellect Disabil. 2024;37(3):e13238. 地域スポーツ・レクリエーションへの包摂に向けた取り組みとして、知識・態度、組織連携、人間関係、活動・環境調整、組織方針、本人との協働などを整理。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38622495/

  • Clutterbuck GL, Wen E, Petroccitto S. Assessment of Sport and Physical Recreation Participation for Children and Youth with Disabilities: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2025;22(4):557. 障がいのある子ども・若者のスポーツ参加評価について、attendanceとinvolvementの両面を含めて検討。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40283783/

  • Thomson A, Bridges S, Corrins B, et al. The impact of physical activity and sport programs on community participation for people with intellectual disability: A systematic review. J Intellect Dev Disabil. 2021;46(3):261–271. スポーツ・身体活動プログラムと地域参加・包摂の関係を整理し、プログラム内での友情形成等はみられるものの、より広い地域参加への波及については限定的なエビデンスと報告。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39818558/

  • Hao Y, Razman R. Family factors associated with physical activity in children with intellectual disability: A systematic review. J Intellect Disabil. 2025;29(1):194–213. 知的障がい児の身体活動と家族要因との関連を整理。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36172939/

  • 公益財団法人スペシャルオリンピックス日本.スポーツ事業. 継続的なトレーニング、競技会、コーチ育成、ユニファイドスポーツ等を展開。
    https://www.son.or.jp/business/

  • 公益財団法人スペシャルオリンピックス日本.スペシャルオリンピックス日本について. 競技会でのディビジョニング等を紹介。
    https://www.son.or.jp/about/

  • 公益財団法人スペシャルオリンピックス日本.ユニファイドスポーツ®. 知的障がいのあるアスリートと知的障がいのないパートナーが同じチームでスポーツを行う取り組み。
    https://www.son.or.jp/business/unified/

  • スポーツ庁.令和8年度「パラスポーツ推進プロジェクト(地域における障害のあるこども・若者の運動・スポーツ活動環境の整備支援事業)」. 特別支援学校、総合型地域スポーツクラブ、社会福祉施設、放課後等デイサービス等を活用し、本人の希望に合わせた地域スポーツへの参加・継続モデルの構築を目的とする。
    https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/boshu/detail/jsa_00393.html


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