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紅狐艶録 #002

『雪国』/Snow Country-川端康成-

── 一行で言うなら

徒労と知って、なお指を伸ばす。その指先の冷たさを、人は美と呼ぶ。

 
雪に閉ざされた温泉宿。

都の遊び人が、土地の芸者のもとへ通う。

表向きは、ただそれだけの話。 だがこれは、

男が
硝子越しにしか女を見られぬ物語だ。

触れて、なお遠い。


雪は、距離の別名である。

 島村は、見る男である。

実物を知らぬ西洋舞踊を論じ、

汽車の窓に映る娘の貌に見惚れる。

駒子は、注ぐ女である。日記を綴り、身を削り、
報われぬと知りつつ愛を絶やさぬ。

川端はこれを「徒労」と名づけた。

報われぬからこそ、それは透きとおる。

雪国の白は、清潔ゆえに残酷だ。

熱い肉も、冷えた鏡の中では一片の景色に化ける。

官能とは肌の温度ではない。
届かぬ距離である。

この一冊が、それを証している。


 覚えておくがよい――

汽車の窓、
娘の瞳に野山の灯がともる、あの場面を。

黒目の奥で光が一瞬妖しく明滅する。
あれこそ、この小説の発火点だ。

あなたは、

報われぬと知りながら誰かに注いだことがあるか

その徒労を、惜しいと思ったか、

美しいと思ったか。

駒子の日記は、その問いそのものの形をしている。

 

首筋を汗が伝う夜に、頁を開け。

じっとり濡れた肌のまま雪の中へ入れば、駒子の冷たい白さが、

熱を持った皮膚に貼りつくように

滲みてくる。


── 紅狐、化かされたふりをして読んだ。

朗読版は、雪の静けさがかえって濃く立ちのぼり、
声で読むとまた別の熱を放つ。

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