見出し画像

僕がペーパーバックを読み始めたわけ⑯

 もう7月かとおどろくが、私はジェイムズ・ティプトリー・JRの傑作選“HER SMOKE ROSE UP FOREVER”(ARKHAM HOUSE, 1990年)をずうっと読み続けている。いまはティプトリー最大の武器である「男と女」ものの感想を書くのにプレッシャーを感じている。
 ティプトリーのこの一連の作品のやっかいさは、やばいレベルの男女の分断を描き、その切れ味がよすぎて「この現実」を(性の片側で)ばっさり問われることにあると思う。しかも、ティプトリーが覆面作家として性を越えた感じも抱き合わせでフクザツなのだ。
 “THE WOMEN MEN DON'T SEE”(1973年)を読もう。舞台はユカタン半島。オフで釣りを楽しむために飛行機をチャーターしようとするドン・フェントン。望みの便がなく、先約ありの飛行機に同乗させてもらうと、そこには静かな女性2人がいる。
 物語はこのドンの視点から語られる。ドンは見かけの普通さはあくまで表向きで、政府の裏の仕事についているらしくタフネスがある。だから、飛行機がエンジントラブルを起こして不時着しても、そこは冒険小説を読むようなわくわく感がある。
 真水を探し魚をとるサバイバルの「共同作業」のさなかに、彼と女性との距離が近づく。互いがもっと若ければなどと思うほどの距離の近さだ。そんな冒険とロマンスの予感とともに、ドンはそれとは異質な女の心の表白を聞く。

“Women have no rights. Don, except men allow us. Men are more aggressive and powerful, and they run the world. When the next real crisis upsets them, our so-called rights will vanish like ―― like that smoke.(p140)

「女たちには権利はないのよ、ドン――男たちが与えてくれたもの以外はね。男はずっと攻撃的で、力があって、世界を動かしている。このつぎ大きな危機がやってきて男がうろたえれば、わたしたちの権利なんていうものは消滅してしまうわ。ちょうど――ちょうど、あの煙みたいに。」
(『愛はさだめ、さだめは死』(ハヤカワ文庫、伊藤典夫・浅倉久志訳p271、本作は伊藤典夫訳です)

 お気づきだろうか。物語は楽しく深く進行しつつもまだSFでないことを。「男たちの知らない女」はファーストコンタクトものの傑作で、エイリアンが登場する瞬間に、そもそも女性がずっとエイリアン(異質な存在)だったじゃんとぶちかますプロットのたたみかけがやばいです。
 そのたたみかけの切れ味は、この作品の発表以後どの時代のどの作品ジャンルで描かれてもバズったのではないかと思うほど。たとえば、縦スクロールの漫画でも読んでみたいと思わせるほどの展開の妙を本作は有しています。未読のかたはハヤカワSF文庫の伊藤典夫訳でぜひお読みくださいm(_ _)m
 
 

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集