僕がペーパーバックを読み始めたわけ⑮
6月もかわらず私はジェイムズ・ティプトリー・JRの傑作選“HER SMOKE ROSE UP FOREVER”(ARKHAM HOUSE, 1990年)を汗かき読んでいる。この本の“MALE AND FEMALE”の章に含まれる3篇は読んだ。
それらに触れる前、私は私の愛するティプトリーの側面を書いておきたくなった。
それはティプトリーが優れたSF作家でありなおかつSFの大ファンであることだ。作品からびしばしその愛情は伝わってくるわけだが、ここでは『故郷から一〇〇〇〇光年』で伊藤典夫氏が紹介しているエピソードを略し気味に書きたい。
ティプトリーは自宅にSF作家を招く機会を得た。招待客をランチと雑談で楽しませたあと、ティプトリーは作家が使っていた細切れのペーパーナプキンを箱に収める。ラベルに「作家との初対面」と感激を記して。
ティプトリーが初めて出会ったSF作家が、ガーナード・ドゾワっていうのがしぶくていいんですよね(短編「調停者」「海の鎖」が代表作です)!
あるいはまた、ディックの傑作選に寄せたティプトリーの短い文章を読もう。ディックの特質をまっすぐていねいに論じていくファンの愛が冒頭だけでも確認できます。この文章が、1986年12月の日付をもつことに私は感動をおぼえます!
HOW DO YOU KNOW YOU’RE READING PHILIP K. DICK
I think, first and pervasively, it was the strangeness. Strange, Dick was and is. I think it was that which kept me combing the SF catalogs for more by him, waiting for each new book to come out. One hears it said, “X just doesn't think like other people.” About Dick, it was true. In the stories, you can't tell what’s going to happen next.
And yet his characters are seemingly designed to be ordinary people ―― except for the occasional screaming psychotic female who is one of Dick’s specialties, and is always treated with love. They are ordinary people caught up in wildly bizarre situations, running a police force with the help of the mumblings of precognitive Idiots, facing a self―replicating factory that has taken over the earth. Indeed, one of the factors in the strangeness is the care Dick takes to set his characters in the world of reality, an aspect most other writers ignore.
(“THE COLLECTIVE STORIES OF PHILIP K. DICK Volume4”p.ix, CITADEL TWILIGHT, 1991年)
「あなたはディックを読んでいることをいかにして知るか」
第一に、そして広くあてはまることとして、それは奇妙さだと思う。そう。奇妙であること。ディックはかつてもいまもそうである。この奇妙さこそ、もっとディックをと私にSFカタログをくまなく探させ、新刊が出るたびに心待ちにさせたのだと思う。誰それは他と全くちがう考え方をすると言われる。彼に関しては真実だ。ディックの物語では、次に何が起きるか予想できないのである。
その一方で、彼の描く登場人物は、一見平凡な人間として造型されている。時おり叫びだすサイコな女は例外である(彼女はディックの十八番であり、いつも愛を込めて描かれている)。彼らは奇怪きわまりない状況下の普通の人物である。プレコグの予言のつぶやきで警察組織が動いていたり、もはや地球を乗っとっている自己再生する工場と対決している。じっさい、奇妙さを生む要素のひとつは、ディックが登場人物を現実の世界の側に置いている注意ぶかさにある。これは大部分の作家たちが見落としている側面である。
(拙訳、この文章には名訳があるようなので、いつかそれと取り替えますm(_ _)m)
