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hanasfather
夕方の風がゆるむとき
夕方の帰り道、手にさげた買い物袋が思ったより重くて、少しだけため息が漏れた。
今日は地域の集まりで、近所のおばあさんが落ち込んでいるという話を聞いた。
大したことはできないのに、「顔だけ見てきてやって」と頼まれた。
断ればいいのに、嫌だなぁって思っているのに、どうしても断れない。
自分でも、この性分は面倒だと思う。
おばあさんの家へ向かう途中、胸の奥がじんわり痛んだ。
人のために動くたび、ふと自分の弱さが浮かび上がる。
静かな水面にぽつりと落ちたしずくが広がるように、胸の奥に小さな波紋ができる瞬間がある。
誰かの力になりたいくせに、朝はなかなか起きられない日があるし、
気力がすり減って、何もしたくないまま時間だけ過ぎることもある。
そんな自分が誰かの役に立とうとしている。
ちぐはぐに見えるけれど、気づけば少しだけ前へ歩ける力になっている時もある。
玄関先でおばあさんに会うと、思っていたより元気そうで、
「わざわざ来てくれて、ありがとねえ」と落ち着いた声がこぼれた。
その声は、夕方の冷たい空気の中でふっと白くなる息みたいに、あまりにもかすかだった。
なんてことのない会話を少しして、帰るころには買い物袋の重さがすこしだけ軽くなっていた。
気のせいと思いながらも、歩きながら胸の奥がほどけるのを感じた。
誰かのための行動は、大きくも立派でもない。
弱いままの自分が、その弱さを抱えたまま手を伸ばすだけのことだ。
けれど、その一歩が、人の心に小さな灯りを残すことがある。
優しさは、そんな地味な場所からしか育たないのかもしれない。
家に着くころ、風が少しだけあたたかく感じられた。
今日の自分は、弱かったのだろうか、それともすこし強かったのだろうか。
