私の集大成
花嫁の母として、今、教会の重厚なドアの脇に立った。
この少し前、式場の担当者から簡単な段取りを説明され、促されるがまま、ここに立たされた。
「もう本番ですか?」思わず問うと、「本番ですよ。」と担当者の張りきった声が返ってきた。
このドアの向こう側に、スーツ姿の息子とウエディングドレスを身に纏った娘が立っている。
27年前、当時4歳の息子と2歳の娘を連れて離婚してから、愚痴と嘆きの日々だったが、いずれ娘が結婚する時、兄妹が腕を組んでバージンロードを歩く姿を妄想しては、ウルウルしていた。
そんな子育て中から思い描いていた、私の人生最大の幸せの妄想が、今現実になろうとしている。
このドアが開いたら、私の子供達が腕を組んで入って来る。
緊張より感動、喜び、誇らしさが入り交じり、高揚した溜息のような声が「はぁ、はぁ。」と小さく何度も出た。
うっすらと瞳が潤み、両手で頬を包む。
留袖の内側に何枚も重ねたタオルの奥で、心臓が嬉しさの余り張り裂けそうだ。
高揚感は更に高まり、「あぁ。」と小さく声が漏れる。
やがてパイプオルガンの演奏が始まり、聖歌隊の美しい歌声が教会中に響き渡る。
出席者全員が注目する中、荘厳な装飾が施された教会のドアが、音楽に合わせてゆっくりと開き始めた。
夕暮れが始まりかけた冬の凜とした空気が室内に流れ込み、その冷たい気配と共に全開になったドアの入口に立つ、私の2人の子供達…。
新郎へと腕を組んで歩く2人の後ろ姿に、もう言葉も何も出なかった。
当たり前の3人の生活こそが、私にとっての信念だったと、言い尽くせない程の高揚が気付かせてくれた。
その集大成が現実と化した時、最大級の歓喜の表現は「はぁ」と「あぁ」のみ。
これからの人生において、再びこの2語を発する程の喜びが、果たして私に訪れるだろうか?
