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生と死の境界!(後編) - 老化細胞と疾患の関係-

こんにちは、ビビです。職場の乾燥がひどく、いつになったらエアコン=乾燥にならない技術革命が起こるのかなぁと思いつつ、ハンドクリームばかり塗っています。乾燥は肌の細胞(線維芽細胞)に多大なストレスを与えてますよね。
シミの原因=老化だなとみんな思っているに違いない(と信じてます)。お気に入りの紅茶🫖のほかに、加湿器も準備万端にして書いていきますので、後半も楽しんでいただけると嬉しいです🍀

前編では老化細胞は自らが老化するだけでなく、SASP因子を撒き散らして周囲の細胞にも影響を与えるというお話をしました。さて、どんな影響を与えてしまうのでしょうか。最近の研究成果も交えて、早速見ていきましょう。


🐭老化細胞は疾患の増悪と関連している?

前編でお話ししたように、老化細胞は特徴的な分泌物を撒き散らし、それが近隣の正常細胞まで老化してしまいます。こんな老化細胞が広がることで、どんな影響が体に及ぼされるのか、という謎をとく研究が進められています。
めっちゃ気になりますね。ちょっとみてみましょう。

-膀胱がんと老化細胞

膀胱がんは、加齢によって発症率の増加がみられる疾患の一つです。加齢によってマウスの膀胱周辺には、老化マーカーであるp16を高発現(陽性)する老化細胞が増加する傾向があります。この細胞を p16 陽性老化線維芽細胞と言いますが、がんを増殖させる作用を持つCxcl12を分泌するという特性があります。
がん細胞が周囲にいてもいなくても分泌しているのですが、がん細胞がいる場合は老化細胞ががんを増殖させてしまうという結果をもたらします。

-神経疾患と老化細胞
アルツハイマー病、パーキンソン病やハンチントン病などの神経細胞が関わる疾患も加齢により発症数が増加します。
例えば、細胞の核内にはPSME3というタンパク質がいて、Lamin B1を分解します。Lamin B1は、DNAなどを核内に閉じ込めて保護するために、核膜を安定に保つという重要な役割を持ちます。つまり、核膜を安定に保持するにはPSME3がLamin B1を分解するのを抑えることが必要です。

PQBP3は、これらの疾患を研究していた研究者が疾患関連タンパク質として発見したものです。このPQBP3は核内でPSME3と結合してPSME3の機能を抑え、Lamin B1を分解しないようにします。つまり、PQBP3が核内にいると、核膜が安定し、DNAの作用を正常に維持できると考えられます。
正常細胞ではPQBP3は核内に存在しますが、老化細胞では細胞質に移動してしまうため、核内においてLamin B1は分解が進んで減少してしまいます。これによって核膜が不安定化し、核の機能に異常をきたします。

このような状況=老化が神経細胞を保護するグリア細胞で起こってしまうと、神経細胞を保護することができず、神経疾患が発症する要因になります。これが、加齢によって、神経疾患が増加する一因ではないかと研究者は考えています。

オートファジーの記事でもお話ししましたが、神経細胞は心筋細胞と同じくほぼ一生同じ細胞がその機能を担います。神経細胞が正しく機能するには、正常なグリア細胞による日々のメンテナンスが必須なのです。

神経細胞は周囲に存在するグリア細胞によって、メンテナンスを受けている
グリア細胞が老化などの機能不全を起こすことで
神経細胞が細胞死を起こすなどの疾患が多く報告されている

-がん免疫と老化細胞
がん細胞を死に追いやるのに、免疫機能は重要な働きを担います。ところが、がんの周辺(がん微小環境)では、免疫を司るマクロファージが集積しても十分に免疫機能が発揮されないことがあります。この機能不全のマクロファージが、CD38及び周辺のがんを攻撃するはずのT細胞の働きを抑えるアルギナーゼ 1 を発現する=老化状態にあること報告した研究チームがあります。

マクロファージのエネルギー源が枯渇してしまうことで
老化が起こり、周囲のT細胞の活性化もできなくなってしまう

彼らはマウスの実験で、がん幹細胞IL-6を分泌することでマクロファージの老化を促しCD38タンパク質の発現を増強することを見出しました。CD38は、細胞のエネルギーを産生する上で重要な役割を持つという、サーチュインと共に注目されている分子NAD(ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド)を分解してしまう分子です。つまり、CD38が増えてNADを分解してしまう=エネルギー産生が十分できずに老化してしまうのです。
この実験では、NADの前駆体(原料)であるNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)を添加するとエネルギー産生が戻り、老化マクロファージも減少し、T細胞も活性化=免疫能を回復し、がんの増殖も抑制されました。老化状態を回復させることで、治療ができる可能性が示されたのです。

🐭老化細胞は除去できる?

老化の研究者は老化細胞を除去することを、セノリシスと言います。実際に生体内でセノリシスを起こすことはできるのでしょうか。
適度にカロリー制限することで老化細胞の蓄積が減ることは以前から知られていました。最近注目されている糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬がこのメカニズムを解明するのに一役買いました。

まず、老化細胞もがん細胞と同様に免疫チェックポイント分子(免疫抑制作用を持つ)であるPD-L1を発現して、免疫細胞からの攻撃を回避しようとします。また、SGLT2阻害薬は糖を体外へ排出する薬剤ですので、カロリー制限=飢餓状態を引き起こすことが今までわかっていました。
今回、この飢餓状態では、AMPKという経路を介して老化細胞のPD-L1が担う免疫抑制機能を抑制=免疫を活性化し、老化細胞を除去する働きを高めることがわかりました。
オートファジーの時と同様、”適度”なカロリー制限は有効に働くようですね。

そうはいっても、老化細胞は悪いことばかりするのでしょうか。老化細胞を全部除去してしまうのは、研究者の中でも議論の余地があるようです。

例えば、老化細胞が分泌するSASP因子が骨再生に役立っている可能性を示唆した研究も報告されています。
半月板を損傷したラットは、ヒトとは異なり、高い再生能力=治癒能力を示します。その際、損傷部位には老化マーカーであるp16を持つ細胞が多く出現することが分かりました。このp16陽性の老化細胞は、SASP因子を介して正常細胞に、骨の再生に重要なSOX9の発現を促していたのです。

もし、ヒトでもSASP因子の中にSOX9が含まれ、これが同様の作用を示すのであれば、治療法の開発につながるかもしれません。ヒト以外の生体メカニズムを研究するメリットはこういったところにもあります。

SASP因子は多くの成分を含む総称ですから、その中に含まれる個々の成分が及ぼす作用を見極めることが重要かもしれませんね。老化細胞によって分泌するSASP因子が異なる場合もありますので、もっと細分化して考えるのも必要です。

🐭ハダカデバ”ネズミ”が30年以上生きる理由とは?

げっ歯類であるマウスやラットの寿命は2〜3年くらいです。その中で、ハダカデバネズミ(デバ)は、30年以上生きることができます。年齢を重ねても老化やがんなどの疾患で死ぬというよりも、喧嘩などで怪我をして死ぬことの方が多いようです。老化しにくく、がんにもなりにくいなんて、一体どうなっているのでしょうか。ヒントはやはり老化細胞のようです。

一般的に老化細胞は増殖せず、細胞死も起こしにくいのが特徴です。しかし、デバは老化細胞を細胞死させる独自のシステムを持っていることが分かりました。
デバの細胞は、普段からセロトニンを溜め込むという変わった特徴を持っています。そしてストレスなどで細胞が老化する時、モノアミン酸化酵素がこのセロトニンを5-HIAAへ変換する反応が起こります。この過程で大量の過酸化水素を産生することがポイントで、これが老化細胞を細胞死へ導くのです。

デバはヒトの細胞とは異なる独自のシステムで老化細胞を死滅させる

過酸化水素は活性酸素の一種で酸化反応を起こしやすく、細胞にとってDNAを傷つけるなどのリスクの高い物質ですが、デバの細胞は元々、他の生物種の細胞より活性酸素に弱いため、ヒトの細胞ではDNAの損傷する程度の活性酸素量でも、細胞死=老化細胞が消失するわけです。
老化細胞が消失することで、SASP因子が引き起こす炎症反応がなくなるのは、この例を見るとポジティブな現象なのかもしれません。

🐭老化は病気なのか?

ご紹介してきたように老化細胞からのシグナルが、様々な疾患を引き起こすことがわかってきました。もしかしたら、老化自体が疾患なのでしょうか。少なくとも、細胞老化は疾患の重要なトリガーであると、多くの研究者は考えています。
しかし、「老化」=「加齢」ではありません。歳を重ねることが、そのまま老化ではないのです。歳を重ねても柔軟な考えを持つことができる人も多いのと同じで、環境や生活習慣を変えることで、予防や改善ができる可能性があります。老化細胞の研究が健康寿命を伸ばすことにつながれば、若者の社会的な負担も減り、様々なストレスも軽減されるに違いありません。

海外では、X PRIZE Foundationという財団が老化研究に莫大な懸賞金($101M)を出しています。筋肉、認知、免疫機能の老化を10年以上巻き戻すことが目標です。この支援が素晴らしい研究成果に繋がることを期待しています。

老化細胞のネットワークを若返らせることで
疾患の治療や健康寿命の延長ができる可能性がある

🐭最後に・・・

最後まで読んでいただいてありがとうございました!
このお話は、ポッドキャスト(サイエントーク)をもとに書かせていただいています。研究者のレンさんと”普通”のOLのエマさんの楽しいトークもぜひ聴いてみてください😆

サイエントークプロジェクト

サイエントーク
151. 生と死の境界!老化に挑む研究

関連資料他
10. 老化細胞除去は膀胱癌治療の新たな戦略実験
11. がん幹細胞
12. がん幹細胞によるマクロファージの老化がカギだった!
13. 細胞が老化してNADが減少するプロセスにおいて、CD38が重要な役割を果たしている
14. 老化制御が研究から、社会実装段階に突入する
15. 「老化細胞を除去する薬」で若返り 実用化へ高まる期待
16. 臨床応用可能な老化細胞除去薬の同定に成功
17. ヒトの体内で起こっている自食作用「オートファジー」
18. 半老化細胞がもたらす半月板再生の新展開ラット
19. ハダカデバネズミとは?
20. 最長寿齧歯類ハダカデバネズミでは老化細胞が細胞死を起こすことを発見
21. X PRIZE Foundation

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