RNAシリーズ1-3 セントラルドグマと非コードRNA:lncRNAと疾患
こんにちは、ビビです。
RNAシリーズ1はncRNAの中でもlncRNAに注目してきました。最後である今回は日本の研究者がこの分野でどんな貢献をしているかを集めてみました。実際にヒトの疾患との関係も分かり始めています。まだまだ検証を続けるべき早期の研究成果ですが、皆さんに興味を持っていただけると嬉しいです🍰
🧬ヒトの発生段階でのヘモグロビンの切り替えとlncRNA
ヘモグロビンは体内での酸素の運搬に必須である、4つのグロビン鎖の複合体です。興味深いことに、ヒトの発生の過程で、胚型・胎児型・成体型と変化します。胚型から胎児型へは発生の極早い段階で、胎児型から成体型へは出生の前後で切り替えが起こります。グロビン鎖は多くのタイプがあり、胚型はεとζ、胎児型はαとγ、成体型はαとβで構成されます。
成体型に必要なβグロビン鎖の遺伝子異常により起こる鎌形赤血球症という病気があります。ヘモグロビンを持つ赤血球が三日月形になり、酸素が十分運ばれなかったり、赤血球自体が壊れやすかったりします(溶血性貧血)。また形が歪なので血管中で引っかかり、閉塞を起こす可能性もあります。
ところが、患者の中で胎児型のヘモグロビンを出生後も発現している人がいるのですが、彼らはβグロビン鎖の遺伝子異常を持っていても症状が軽微となることが分かっています。このため、治療で胎児型のγグロビン鎖の発現することができれば、症状を改善できる可能性があります。このグロビン鎖の生産切り替えにもlncRNAが関与していることが報告されました。

マラリアの感染の増殖を抑制する効果もあるので
マラリアが蔓延する地域ではこの遺伝子を持つことが
生存に優位になることもある
理化学研究所の研究者は、DNAからRNAへの転写を調整するヒストンメチル化酵素G9aの活性を低下させる化合物を発見しました。ヒストンのメチル化を抑制し、DNAからの転写パターンを変化させるのです。この化合物により、BGLT3の発現だけが非常に増加していることが分かりました。このBGLT3は、胎児型γグロビンの発現を誘導するIncRNAだったのです。
もちろん、まだまだ様々な検証が必要で、この化合物がすぐに薬になるわけではありませんが、このようなメカニズムが確認されたことは興味深い成果だと思います。
🧬老化炎症とlncRNA
以前にも老化細胞についてお話ししたことがありますが、老化細胞が放出する因子(Senescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)因子)の中には、炎症に関するものも多く、周辺に炎症や発がんを起こしやすい環境を作り出します。正常細胞の時には産生されなかったSASP因子が、どのようにして産生されるようになったのでしょうか。
ゲノムには、サテライトDNA配列と呼ばれる同じ配列が繰り返されている領域があり、この領域からは繰り返し配列を豊富に含んだlncRNAが転写されます。このような領域の一つであるサテライトII 領域から転写されるサテライトII RNAが今回のlncRNAです。老化細胞では、このサテライトII RNA領域が転写されやすくなることが分かりました。
ゲノムには一部をループ状にしてそのループの元をCTCF(CCCTC-binding factor)というタンパク質で留めている構造があります。ループになった部分はRNAポリメラーゼ(DNAからRNAを転写する酵素)が入り込めず、転写できません。SASP因子を作る遺伝子はこのループの中にあるので正常細胞では発現しません。ところが、サテライトII RNAが発現するとCTCFと結合して、ループを解きます。ループを解けば、ポリメラーゼが入り込めるのでSASP因子も発現できるのです。この場合、発現されてしまう、ですね。

細胞が老化を起こし、サテライトII RNAが発現するとCTCFと結合し
ループを解いてSASP因子の発現ができるようになる
サテライトII RNAはがん関連線維芽細胞でも高発現しているようです。そして脂質膜で構成される細胞外小胞(エクソソーム)に包んで細胞外に放出され、周囲の細胞に届けられます。これがゲノムの不安定性=ガンの特性を伝播することにもなるわけです。
🧬タンパク質をコードしないRNAのカタログ化
lncRNAは様々な方法で遺伝子の発現に影響を与えているという研究が続々と報告されています。多くの研究成果が報告されている中で、lncRNAが”どこにマッピングされているか、どんな機能を持っているか(アノテーション)”といったデータは、研究をどんどん進めていくために必要です。
今までに報告された膨大なデータをまとめて、世界中の研究者が利用できるように整備する事業を日本の理化学研究所がリードしてます。
理化学研究所のこのチームは、以前より様々なゲノム情報などのアノテーションをまとめて公開してきました。こういった事業は、ゲノム以外の欧米などの先端研究を担う研究者が中心に担ってきました。日本でもこのような事業を展開しているということは、とても誇れることだと思います。
🧬次回は……
RNAシリーズの第一弾はここまでです。第二弾は、mRNAについてまとめてみたいと思いますので、楽しみに待っていてくださいね!
このお話は、ポッドキャスト(サイエントーク&サイエンマニア)をもとに書かせていただいています。本編も楽しんでいただけると嬉しいです。
サイエントーク
161.miRNA視点で考えよう!子供にも影響する小さなRNAの世界入門
サイエンマニア(もっさんのトーク)
104.翻訳されないRNAが主役!”うまく出来すぎている”転写制御の世界
105.ヒトの無駄な動きも”よく見る”と無駄がない!世界は結局ヒトで動いている
関連資料他
1. 鎌MSDマニュアル 鎌状赤血球症
2. PDBj 胎児ヘモグロビン
3. 鎌状赤血球症の新しい治療薬候補を開発
4. ヒトゲノムの繰り返し配列から作られるRNAとその反復のなせる技
5. 老化した細胞が炎症を引き起こすしくみを解明
6. タンパク質をコードしないRNAをカタログ化する
