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ヒトの免疫力って何がすごいの!? 免疫界隈の最近の研究 - II

こんにちは、ビビです。 
アメリカの最高峰の研究機関で免疫の研究をされている高浜先生をお招きしてのゲスト回。後編は、サイファー(サイエントークのリスナー)さんからの質問についてお答えいただきました。なかなか鋭いものも多く、高浜先生も詳しく回答していただいて、とても勉強になりました。
その中からいくつかピックアップしたのと、私が気になってたのを集めてみましたので、引き続きお楽しみください!


🧬 そもそも免疫力が低いってどういうこと?

免疫力という言葉は、免疫の研究者の間では使われませんが、一般的には、感染症にかかりやすさのことを指します。
ただし、生体内の免疫システムは、様々の細胞、それら細胞が分泌する分子などによる複雑な連携で構成されているので、免疫力が下がって感染し役なったとしても、何が原因であるか、何がどの数値になったら低くなったか、などの定義はありません。つまり、概念的な言葉なんですね。

🧬 生体に関わる様々な要因が免疫に影響を与える?

日常の中で受けるストレスが免疫に影響を与えると言われています。
例えば、過労などで生体内のホルモンバランスが崩れれば、細胞間で受け取るシグナル物質(体内の情報伝達物質)の量やタイミングがずれ、免疫細胞の働きに影響を与えることがあります。

過労や睡眠不足は体内のシグナル伝達やホルモンバランスを崩してしまうので
免疫だけでなくいろいろな体調不良を引き起こす原因となるかも

また、ホルモンの分泌量は、ホルモン毎に1日のうちに強弱の波があり(日内変動、サーカディアンリズム)、これが免疫に影響を与えることがあります。1つの例として、抗炎症剤などとして使われているグルココルチコイドの研究を見てみましょう。

グルココルチコイドは、副腎皮質で作られるステロイドホルモンの1つです。マウスでは,このグルココルチコイドの血中濃度は夜間は高く,昼間は低くなるという,日内変動(サーカディアンリズム)を示します。
この濃度変化とT細胞の数の関係を調べたところ、マウスの末梢血では昼間に増え、夜間に減ることが分かりました。逆にリンパ組織では、夜間に増え、昼間に減るという逆の現象が起こりました。そして、T細胞のグルココルチコイド受容体の発現を抑制すると、このT細胞の日内変動が消失したのです。つまり、コルチコイドがT細胞の動向を促していることになります。

より詳しい話をすると、コルチコイドがT細胞のサイトカイン受容体IL-7Rとケモカイン受容体CXCR4の発現量に影響を与え、夜に高く、昼間に低くしていることが分かりました。ちなみに、IL-7RやCXCR4は、T細胞の機能的分化に影響を与えたり、脂質代謝を制御することで成熟したT細胞の長期生存を可能にしたりする、つまりT細胞を活性化・維持する機能があります。

コルチコイドがT細胞の動向を通して、免疫に関係するのが興味深いです。しかしながら、これはマウスでの研究ですので、ヒトでも全く同じであるとは言えません。例えば、マウスは夜行性ですので、グルココルチコイドの発現だけみても、ヒトでは昼夜逆転することが分かっています。それに免疫系では多種多様な細胞が関与するので、種差(生物種による違い)が大きいことが知られています。なかなか難しい研究分野なのです。

🧬 免疫の制御が受精卵の着床に重要なの?

妊娠すると、胎児の持つDNAの半分は父親由来であり、母体にとって異物とみなされる非自己タンパク質を産生します。つまり、T細胞の格好の攻撃相手となるのです。このため、母体は胎児を攻撃しないように免疫機能を調整する必要があります。これには、多様なシステムが関わっています。

排卵された卵子は旅の途中で受精し子宮に着床する
着床時に免疫寛容が必要

最初に、マクロファージが免疫を抑制する制御性T細胞(Treg)を使って着床を促しているという研究をご紹介します。マクロファージは、侵入した外敵などを貪食する免疫細胞です。その種類は多様で、細胞表面に発現しているCD+番号で表す分子で分類します。今回の主役は、CD169陽性(発現)マクロファージです。
マウスの着床直前の子宮組織にこのマクロファージが存在し、その近傍に免疫を抑制するTregが集積していることが分かりました。CD169陽性マクロファージを欠損したマウスでは免疫を抑制できず、着床しにくいことも示されました。
このマクロファージは、炎症に関わる分子(ケモカイン)の一つであるCCL8を産生しており、その産生量がマウスの交配後に増加し、その増加ピークとTregの集積ピークが一致しました。つまり、CCL8の産生量とTregの呼び込みに何らかの関係がある可能性があります。

別の研究では、このTregがメモリー細胞として父親の情報を「記憶」していて、2回目の妊娠の際に、迅速に発現して免疫寛容となることが示されています。同じ父親である場合、より安全に妊娠できる環境を整えることができる可能性が高まる可能性があるということです。

メモリー細胞は過去の免疫に関わる経験を記憶し
繰り返しのイベントに早急に対応できるよう準備している

🧬 抗がん剤で有名な免疫チェックポイント分子も安全な妊娠に重要?

もちろん、一つの細胞だけが免疫寛容を担っているわけではありません。
妊娠期には、
B7‐H4(VTCN1)という免疫抑制分子が、子宮内の抗原提示細胞や胎盤の元になるトロフォブラスト細胞に発現し、母体免疫による胎児に対する過剰な攻撃を抑制するようになる、いう研究があります。がん治療でも話題になったT細胞の活性化や増殖を抑制する免疫チェックポイント分子のひとつです。免疫細胞自身だけでなく、周辺の細胞(トロフォブラスト細胞)とのコミュニケーションによって免疫を調整しているんですね。胸腺での正の選択が重要だったわけです。

🧬 免疫を抑制することで着床率が上がる?

本当に免疫を抑制することがヒトの妊娠開始に必要なのかという臨床研究が行われました。実際に臓器移植等の治療に使われている免疫抑制剤を重症不妊症患者に投与したところ、50%を超える確率で着床を促すことができました。これは、免疫が着床に大きな影響を与えていることを示しています。

ただし、免疫抑制剤は胎児に影響を与えるような副作用を持つものが多く、この臨床研究も胎児に与えるリスクを最小限に食い止める厳重な管理下で行われています。それだけでなく、妊娠期間を通して免疫バランスは胎児だけでなく、母体への影響もかなり高いことも多くの研究でわかっています。
このため、今回の研究だけですぐに不妊症治療が行えるわけではありません。それでも、今後の治療研究を進める上で、重要なデータと言えるでしょう。

妊娠は自分の体の中の非自己を受け入れるという、免疫の基本概念とは異なる状態です。そんな環境を一時的、局部的に作り出すヒトの体内システムの緻密さに驚くばかりです。こんな発見があるからこそ、研究は楽しいのかもしれません。

🧬 最後に・・・

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
追加で胸腺が健康で長く生きるために重要であるという論文があったのでお知らせしておきます。どうやったら健康な胸腺を維持できるかはわかりませんが、楽しく自分の好きなことをして生きていけたら嬉しいですね🎵

高浜先生は、後半の回でサイファーさんからのたくさんの質問に答えてくれました。金属アレルギーが、金属ではなく、金属がヒトのタンパク質に結合した結果、タンパク質の構造が生体内のものと変わってしまい、異物として認識されてしまうという話やウーパールーパーの胸腺の再生の話など、ここでは書ききれなかった話題もたくさんありました。

笑いながら聴けるサイエンスの話。ぜひ一度、サイエントークを聴いてみて下さい!🥳

サイエントーク 

関連資料他
1. グルココルチコイドはインターロイキン7受容体およびCXCR4の発現を誘導することによりT細胞の体内分布および免疫応答の日内変動を制御する
2. 胸腺と末梢のT 細胞におけるIL-7 レセプターの機能
3. 妊娠に必須であるマクロファージを同定
4. Progestogen-driven B7-H4 contributes to onco-fetal immune tolerance
5. 世界初・不妊症に対する新たな治療方法を開発
6. Thymic health consequences in adults


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