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RNAシリーズ2-2 mRNAの「ワクチンへの進化 」 -mRNAを制御するためのノーベル賞受賞研究-

 こんにちは、ビビです。いつものお散歩コースもお盆の間はびっくりするくらい人が少なかったです。普段は混んでるカフェでもゆっくりすることができました。きっと皆さん、帰省して家族の時間を過ごしたり、久しぶりな友達とあったり、あるいは旅行を楽しんだりしてて街中が静かだったのでしょう😆

これも世界中の研究者が必死に頑張った連携プレーのおかげなのかも。RNAやタンパク質を迅速に解析する技術から始まり、適切な作用が得られるように設計したり合成したりする技術、体内に安全に効率的に届ける技術、出来上がったものが安全に効果的に作用するか評価する技術………. 医薬品の開発には数えきれない技術やナレッジが詰まっています。今回は、そんな多くの研究者の努力の賜物の一端でもお伝えしていけたら嬉しいです。

ではでは、前編に続き、mRNAが回避しなければならなかった自然免疫の解決策からどうぞ。


🧬ノーベル賞を受賞した研究が導いた「解決策」

研究の結果、mRNAワクチンをヒトに投与できるようにするには、1️⃣体内でとても分解されやすいRNAを安定化する、2️⃣mRNAを異物とみなすセンサーであるTLRを回避するの2点が課題となることが分かりました。

この難題を最初に解決したのが、2023年のノーベル生理学・医学賞を受賞した研究です。まずは、2️⃣のセンサー回避の課題から。前編で出てきたTLR7とTLR8が共通で認識する外来RNAの構造は、RNA特有の核酸であるウリジンを含む構造です。そして、このウリジンを修飾する(シュードウリジン、シュードは疑似の意)ことが大きな鍵でした。
TLRから逃げるだけであれば、いくらでも構造を変えれば良いのですが、mRNAを投与する目的は必要なタンパク質に翻訳することですから、細胞内の翻訳に関わる酵素等がウリジンと誤認してくれる必要があります。いい感じに偽物感を出した構造が必要だったのです。

さて次は、1️⃣の課題、体内での分解も回避しなければならないのですが、こちらも様々な方法が研究がされています。
例えば、キャップ構造という特有の配列をRNAの端っこにつなげて分解されないようにする技術があります。つまり、分解酵素などが取り付く端っこに蓋する感じです。この構造は生体内のmRNAも持つものですが、現在ではこの配列について深く研究し、分解を抑制するだけでなく、タンパク質への翻訳効率を上げることにも成功しています。効率が上がれば少量の投与で副作用を抑えることができます。mRNA自体も直鎖状よりも分解されにくい環状にする研究もされています。

また、脂質でできているナノ粒子(lipid nanoparticle:LNP、空のボールっぽい構造)の中にmRNAを封入して投与することで、分解酵素がアクセスしにくくなります。こちらも非常に多くの研究者が研究を進めており、副作用の少ない脂質構成にするだけでなく、投与後のmRNAが目的の臓器にたどり着きやすいように目印をつけるなどの工夫がされてきています。

脂質膜はワクチンを守る殻でもあるだけでなく、
構造や成分を変えることで医薬品を運ぶ容器としても開発されている

いずれもmRNAワクチンの改良に必須の研究ですが、これらの技術は将来的には遺伝子治療にも応用できる可能性もあります。一つの技術が他にも応用できるのが研究の興味深いところですね。

🧬mRNAワクチンだからできる「迅速な開発」

今まで使われていたワクチンは、大きく生ワクチンと不活化ワクチンに分類できます。生ワクチンは、ウイルス本来の毒性を弱めたものを摂取し、感染した時と同様の免疫反応を起こすことで強い免疫力をつけることができます。もちろん、弱毒化していますので、症状はごく軽いものになります。不活化ワクチンは、毒性や感染力をなくしたものを使うので、症状などは出ないのですが、十分な免疫反応を起こしにくいので複数回の投与が必要になります。

では、核酸ワクチンはどうでしょう。
核酸ワクチンとして投与する場合、ウイルスのタンパク質の一部を細胞に作らせ、それを免疫細胞のターゲットとすることになります。毒性や感染力のない構造部分を使うので症状などは出ないのですが、現在使われているLNPなどが発熱の原因ではないかと言われています。
DNAワクチンとRNAワクチンを比較すると、ワクチンを安定に保管できる温度が、mRNAワクチンが-20℃以下なのに対して、DNAワクチンは冷蔵温度で良いので医療現場でも扱いやすいという利点があります。DNAは転写酵素のある核内まで運ぶ必要がありますが、保管上のメリットが大きいのです。

医薬品の保管温度は、厳密に管理される
より扱いやすい温度帯で管理できる医薬品は、冷凍設備が
十分に確保できない地域で利用しやすいメリットがある
日本国内でもパンデミックの際に一時的に
冷凍設備の需要が高まり、混乱したこともまだ記憶に新しい

既存のワクチンに対する核酸ワクチンの最大と言えるメリットは、ターゲットの解析からワクチンの設計、製造までが迅速にできる点にあります。今回、COVIC-19のワクチンが迅速に提供できたのは、全世界のバックアップ以外にも理由がありました。

核酸ワクチンの開発では、最初にウイルスのゲノム解析(核酸配列の解析)を行い、その結果からワクチンのターゲットになりそうな配列を選択し、ワクチンに使えるよう設計します。製造はこれを鋳型に核酸合成装置で行います。実際シンプルに書いていますが、其々の工程で専門的なナレッジが必要ですし、課題もあります。
ただ、今までのワクチンの生産では、生産工程の中に、細胞などに感染させて増殖させる期間、培養液から細胞や培養液などの異物となる成分を取り除く工程などがあるので、それに比べれば著しく簡便になります。
他にも品質管理の面から見れば、今までのワクチンではウイルスの培養工程で、ウイルスが人へ感染して増殖する場合と同様に変異していく可能性もあるので、こちらも核酸ワクチンの方が効率的に管理できるかもしれません。

もちろん、多くの人が感じたように発熱などの副作用が強く、接種後の負担が大きいので、改善の余地はかなりあるでしょう。でも、前項のように多くの研究者が改善のための研究を進めていますので、期待したいところです。

🧬『諦めなかった』カリコさんに救われた私たち

カタリン・カリコ氏がmRNAの研究を開始したのは、故郷であるハンガリーでした。しかし、1985年に所属していた研究グループが解散することとなり、研究を続けるためには、アメリカに渡るしかない状況になりました。当時のハンガリーはソビエト連邦の影響下にある社会主義国でした。その状況下でアメリカに行くということは、私たちには想像し難い大きなリスクがあったことでしょう。

無事に家族でアメリカに渡ることができたカリコ氏は、テンプル大学やペンシルベニア大学で研究を続けることができましたが、当時はmRNAに関連する研究はメジャーな分野でなく、資金難に陥ることも多かったようです。研究を続けることが難しくなっていく中、偶然出会ったドリュー・ワイスマン教授がこの研究に興味を持ち、共に研究を続けることになりました。二人は2005年にmRNAに関わる研究成果を発表しています。

マイナーな研究は資金を獲得しにくいが研究成果は欲しい時に急に出てくるわけではない
長年の努力の積み重ねの末にやっと得られるものであり、基礎研究の継続はとても重要

ここまでを振り返っても、ハンガリーで10年以上、アメリカに渡ってからも20年もの期間をこの研究にカリコ氏は費やしたことになります。2020年12月にCOVID-19のワクチンが緊急承認されるまで、更なる研究が行われての実用化ですので、実際はそれ以上です。この長いデータの蓄積が迅速なワクチン開発を導いたと思います。ノーベル賞を受賞した研究者たちの努力と信念の強さを感じていただけたら嬉しいです。

🧬最後に……

どの分野でも研究者の多大な尽力が必要となります。また、時代を経て開発された他の研究分野の技術がその研究を助けることも多いです。数十年前はできなかった研究が今ならできるというのは、そんな多くの研究者の積み重ねの上にあるのかもしれません。

このお話は、ポッドキャスト(サイエントークサイエンマニア)をもとに書かせていただいています。研究者のレンさんとOLのエマさんの楽しいトークを引き続き楽しんでくださいね😆

サイエントークプロジェクト

サイエンマニア

#7. mRNAワクチンとは何なのか?難しい言葉をほぼ使わずに紹介
#8. ヒトの免疫システムをくぐり抜けるmRNAの巧みな戦略
#47. mRNA医薬に繋がった「諦めない物語」科学者紹介10: カタリンカリコ
87. 祝!ノーベル賞2023!mRNA医薬に繋がる「諦めない物語」科学者カタリンカリコさん(再編集版)

関連資料他
1.  2023年ノーベル生理学・医学賞「mRNAワクチンを実現した修飾塩基の研究」
2. 環状mRNAにキャップ構造を導入しタンパク質合成を高効率化 "ICIT"機構発見で、抗体療法など医薬利用に期待
3. ワクチンについて
4. ワクチンの種類 正しく知ろうワクチンのこと
5. Q.ワクチンはどうやって製造される?
6. ノーベル生理学・医学賞にカリコ氏ら コロナワクチン開発貢献

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