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星の弧



 水たまりに映った星が弧を描いた。

 あ、と夜空を見上げたときにはもう遅かった。
 群青色がどこまでも広がっていく空にぽつりぽつりと瞬く星たちが、ぼくを静かに見下ろしている。
 誰もいない原っぱの上にごろんと寝転がった。昼に雨が上がったばかりの原っぱはまだ冷たくて、ぼくのシャツを一瞬で濡らす。でも、そんなのはどうでもよかった。
 都会の空は明るい。人工的な光が星の瞬きを隠してしまう。
 上京してきた頃はそんな夜空に寂しさを覚えていたけれど、それにももう慣れた。それでも、目を閉じて瞼の裏に広がるのはいつだってぼくが生まれ育った場所から見える満天の星空だった。
 眠れないとき、ぼくはよくここに来る。この公園から見える空が一番、その夜に近いと思うからだ。都内にあるなんのへんてつもない公園から見上げる夜空に、ぼくは自分の故郷を重ねている。
 ずいぶんと遠いところまで来てしまった。目を開けて、小さく息を吐いた。
 俳優という夢を追って東京に来てから早五年。憧れはまだ憧れのままだ。
 ぼくなんてちっぽけな存在だ。この空で輝く星たちみたいに、数多ある光のひとつに過ぎない。それがひどく虚しくて、でも、同じように安心する。
 あの星の光は何光年前のものなのだろうか。何十年、もしかしたら何百年も前に発せられた光が、ようやく今のぼくに届いている。そんな途方もない神秘を思うと、なぜだか胸がいっぱいになる。今のぼくの頑張りも、きっと何年後かのぼくを照らしてくれるものなのかもしれない、と——遠い昔の光に背中を押されるなんておかしな話だ。ふっと心がやわらかくなる。
 星が、またひとつ、夜空に弧を描いた。
 明日もオーディションだ。
 ゆっくりと体を起き上がらせて、ぼくは立ち上がった。

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