見出し画像

【音楽】弦楽四重奏曲を究める。

数年前から、クラシックの弦楽四重奏曲を集中して聴いている。

音楽に関わらず読書や映画鑑賞の趣味では、どちらかといえば雑食タイプだ。好奇心のおもむくままに、いろいろなものに手をつけてきた。

ただ、多様な作品を食い散らかしているうちに、広く浅く網羅的に引き出しを拡げるだけではつまらなくなった。これは!というテーマを深掘りする「自分プロジェクト」をやってみたい。そんな風に考えが変化した。そのひとつとして、弦楽四重奏曲を究めるプロジェクトがある。

しかし、クラシックには、さまざまなジャンルがある。なぜ弦楽四重奏曲なのか。

まず理由として考えられるのは、子どもの頃に交響曲が苦手だったことだ。交響曲は、おおげさ過ぎる。音楽の授業中に聞かされる交響曲は、長いし分かりにくいし、苦痛でしかなかった。だから、ミニマムで静かな室内楽に惹かれたのかもしれない。

弦楽四重奏は宮廷音楽でもあり、きらびやかな雰囲気が心地よい。記憶を手繰り寄せると、新婚旅行でハワイに行ったとき、ホテルのラウンジで生演奏していた弦楽四重奏によるパッヘルベルのカノンの響きが美しかった。その空間だけ、ひかりの粒子が違っていた。弦楽四重奏曲を聴いていると、あのときの気持ちを思い出す。木漏れ日のシャワーのなかで佇んでいるような、やさしい気持ちに浸ることができる。

さらにいえば、小規模の構成のアンサンブル(合奏)がいい。ピアノ、ヴァイオリン、チェロの独奏も好きだけれど、弦楽四重奏では、第1・第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロの音が重なり合って楽曲のうねりを生み出す。ときには追いかけっこのように旋律で対話する。そんな音符の動きを思い浮かべながら、聴くのが楽しい。

かつて社会人バンドをやっていたことがあり、ギター・ベース・ドラムスのスリーピースの編成でオリジナル曲を演奏していた。大人数のバンドと違って3人編成の場合、それぞれの音が際立つ。担当する楽器の責任が大きい。

バンドではベース担当だったが、そもそもベースはひとりで弾いても面白くない(といっても、スラップでべしべし弾く演奏スタイルであれば、ひとりで弾いても楽しい)。みんなで音を合わせたとき、地味ではあるが、リズムの低音を支えることにベースの存在価値がある。

めちゃくちゃな解釈かもしれないけれど、弦楽四重奏団は、クラシックのスリーピースバンドのようなイメージがある。もちろんドラムスはいない。

弦楽四重奏曲を聴き始めたきっかけは、ブラームスの弦楽六重奏曲だった気がする。編成としてはふたり多いのだが、こういう音楽を聴きたかった!という感動があった。

チェロの名手であるアンナ―・ビルスマが率いるラルキブデッリの演奏で、古楽器(オリジナル楽器)が使われている。最初に聴いたときは音質に違和感があったのだが、何度か繰り返し聴くうちに古楽器の音が好きになった。

その後、CDで弦楽四重奏曲を着々と増やしてきた。実は、これまで初心者向けのおすすめを無視して聴いていた。YouTubeで弦楽四重奏曲を検索して、なんとなく感性のセンサーの針が振れた作曲家のCDを揃えている。

最近では初心に戻り、いわゆるハイドンのような入門者向けの弦楽四重奏曲に目を向けるようになった。

+++

ここからは弦楽四重奏曲を究めるプロジェクトのこれまでを整理する上で、所有しているアルバムを振り返り、感想をメモしてみたい。

クラシックはシロウトだから「えー。その評価はどうなの?」という指摘があるかもしれないけれど、個人的な好き嫌いについて思うままに書く。

まずハマったのは、メンデルスゾーン。メロス弦楽四重奏団の3枚組のCDは、USBメモリに録音して、ほとんど毎日BGMとして聴いていた。

次に、ボロディン四重奏団の2枚組のチャイコフスキー。同じ楽器の構成であっても、メンデルスゾーンと違って音楽の匂いというか色彩が変わる。ソロの演奏が際立つ楽曲という印象を受けた。

たとえば第1ヴァイオリンにスポットが当たると、背後の3人がすっと引く。地と図の関係がくっきり浮かび上がる。チャイコフスキーの音楽自体の特徴なのか、楽団の解釈によるのか、クラシックに疎い自分にはなんともいえない。

ベルリン弦楽四重奏団の2枚組のベートーヴェンもいい。印象で語ると、ベートーヴェンの弦楽四重奏は厚みがある。分厚い。クルマで喩えるならば、高級車のイメージ。そしてドラマチックだ。演奏の映像を観たことがないけれど、4人の登場人物が頷いたり歓談したり、喜怒哀楽をともにするような場面が浮かぶ。

一方、多くの音楽愛好家に絶賛されるモーツァルトは、個人的に好きではない。弦楽四重奏に限らないのだが、天才臭というか浮き足だった軽さというか、キャッチーな旋律にあざとさを感じるからだ。バリリ四重奏団のCDを持っている。

シューベルトのCDは2枚持っているが、なんとなく印象が薄い。第4番、第5番、第6番は好み。こちらはウィーン・コンチェルトハウス四重奏団の演奏。ブラームスは、弦楽四重奏曲より五重奏曲(六重奏曲)のほうがいいと思った。

坂本龍一さんが影響を受けたドビュッシーの弦楽四重奏曲も聴いてみた。残念なことに、なんとなく自分には合わない気がした。しかしながら、坂本龍一さんのルーツとして、なるほどという音楽のつながりを感じることはできた。

うまく言葉にできないが、エキゾチックというか、絵画でいえば油絵のようなイメージがある。パステル画の印象のあるハイドンに対して、濃厚な絵の具を重ね塗りしたような感じ。エベーヌ四重奏団のアルバムで、ほかにはフォーレ、ラヴェルの弦楽四重奏曲を収録している。

最近、毎日のように繰り返し聴いているのが、ハイドンの弦楽四重奏曲だ。8月には立て続けに3枚のCDを手に入れて、この記事を書いた後の9月になり、さらに1枚追加した。ものすごく癒される。なぜか知らないが元気が出る。作曲家の性格や人間性が曲に反映されるのだろうか。

第76番≪五度≫、第77番≪皇帝≫そして第78番≪日の出≫は、ヨーゼフ。エルデーディ伯爵に献呈された楽曲で、ハイドンが50代の頃に書いた。ハイドンそのひとに関心がわいてきたので、生涯について調べている。

ちなみに、このCDジャケットの不思議な絵が気になり、ジャケットのクレジットを探したところ、有元利夫さんという画家であることを知った。この画家の本を図書館で借りて読んでいる。

収集したのはすべてクイケン弦楽四重奏団のアルバムで、この楽団もオリジナル楽器を使用している。どうやら自分は、古楽器、オリジナル楽器、ガット弦の音質が好みのようだ。ややかすれた乾いた響きがあるのだけれど、その音質が古典派の作品にはマッチしているのではないか。クイケン弦楽四重奏団の演奏がすばらしいことは言うまでもない。

まだ聴いていない弦楽四重奏曲として、初心者向けの定番にドヴォルザークの『アメリカ』がある。この曲をおすすめしているWebサイトが多いのだが、YouTubeで視聴して、いまひとつ自分には合わないかなと感じた。といっても、実際に聴き込んでみると印象が変わるかもしれない。

最後に番外編として、ロックと弦楽四重奏を融合した楽曲もある。お馴染みのところでは、ザ・ビートルズの『エリナー・リグビー』や『イエスタディ』。弦のアレンジが加えられていて、当時としては画期的だった。

個人的に好きなアルバムには、やはりイギリスのミュージシャンであるエルヴィス・コステロの『ジュリエット・レターズ』がある。アルバム全曲ブロドスキー弦楽四重奏団の演奏をバックにコステロが歌うという、驚きのアルバムだった。しかも、すべてが書簡体(手紙)形式の歌詞である。

+++

かなりたくさんの弦楽四重奏曲を聴いてきたが、ハイドンの代表的な曲はともかく、さすがに音楽だけ聴いて「これは〇〇の第〇〇番だ」などと当てることはできない。また弦楽四重奏曲の歴史、作家の生い立ちも分からない。どうやら古典派が好みだということには気づいたが、時代の文脈(コンテクスト)を理解するところまでは至っていない。

これから作家の生涯や時代背景などを調べていけば、音楽鑑賞の幅を拡げることができそうだ。ひとつ関心のあるテーマを挙げると、音楽をめぐる経済の仕組みが気になる。教会からの依頼のほか、貴族たちをパトロンとして対価を得ていたのだろうけど、いったいどれぐらい儲かったのか。あるいは音楽制作に政治的な意図もあったのか。

弦楽四重奏を究めるプロジェクト、今後も進めていきたい。

2026.08.22 Bw

CD購入時のXの投稿。