会社がDX推進した話
中途入社の上司と現場ベテラン社員、立場も世代も異なる二人が、夢を叶えた話を書きます。
約束の結実
数年後、私たちの目の前には、最新のシステムを備えた新工場棟がそびえ立っていました。1階の小さな自販機前で二人が交わした約束が、周囲を巻き込み、組織を動かし、見事に結実した瞬間でした。
時計の針を戻して振り返ると、このプロジェクトにおけるチームの推進力は、圧倒的でした。 中途入社の上司とそのチームは、単に工場のDXを推進して生産効率を上げるだけでなく、「働く人の環境」をも変えてみせました。
それによって現場でもリモートワークなどの柔軟な働き方が選択できるようになりました。
「次の人たちには、同じ思いをさせたくない。仕事も家族も、両方大切にできる会社にするんだ」
上司には、子どもが生まれたばかりの最も大変な時期に、激務に追われて家族のそばにいられなかったという、キャリアの裏側の苦い後悔がありました。強い信念のもと、彼は会社の体質に風穴を開け、後輩たちが安心して子育てに参加できる環境を作ろうと努力していました。
一方、現場の要であるベテラン社員らの放つ存在感もまた、凄まじいものでした。 熟練技術者のノウハウにITを導入して負担を減らし、若手にも前線で活躍できる環境を整えました。彼らは新工場棟の最先端システムの検証という大仕事を完璧にこなしながら、今まで守ってきた旧工場棟の維持管理を疎かにはしませんでした。
「もし万が一、災害などで電気が止まるようなことがあっても、旧棟が非常電源で機能し続ければ、製品を作り続けられる。私たちの製品を待っている人たちがいる以上、どんな時でも、絶対に製造を止めるわけにはいかんからな」
人々の生活に不可欠なものを届けている、という、技術者としての覚悟とプライドがそこにはありました。彼のその一言には、何十年もの経験に裏打ちされた重みがありました。
立場や年齢を超え、互いの専門性を心からリスペクトし合う。プロフェッショナル同士の完璧な連携がそこにありました。
立ちはだかる壁
すべてが順風満帆にはいきませんでした。
新工場が仮稼働してまもなく、新工場棟と旧工場棟の製造データがどうしても上手く噛み合わず、確認作業で現場の残業が増えたり、出荷が遅れそうになるトラブルが発生しました。プロジェクトはここへきて分厚い壁にぶち当たってしまいました。
現場には疲労と焦燥感が漂いました。
そんなとき、追い打ちをかけるように、突然の辞令が下りました。
上司の、本社への異動です。
(そんな…完成まで、もう少しなのに。)
喜ぶべきことかもしれません。でも、現場には動揺が走りました。
頼れるリーダーを失い、ぽっかりと空いた穴を抱えながら、残されたもの全員が現場で必死に手探りの業務を続けていました。
一元管理システム
半年後のことです。
突然、本社主導で本社がデータを一元管理する新システムが打ち出されました。各工場へ瞬く間に導入されたそのシステムは、単なるデータ管理の枠を超えていました。かつて現場で共に頭を抱えた新旧データの不整合、煩雑な入力作業、そして何より現場の人間が本当に欲しかった機能、例を挙げれば、深夜の確認作業が不要になる自動アラートや、旧棟の計器をスマホで確認できる機能などが、実用的な形で網羅されていたのです。 そのシステムの全貌を見た瞬間、現場は拍手喝采でした。私たちがどうしても超えられなかったあの壁が、完璧にクリアされたのです。
システム仕様書を見ていたベテラン社員は、フッと笑いました。
「……あいつ、やってくれたな」
上司は現場を去ったあとも、決して私たちを置き去りにはしていませんでした。現場でぶつかったあの分厚い壁を、今度は「経営の中枢から組織を動かす」という彼にできるやり方で、見事に打ち壊してくれたのです。共に汗を流し、現場の痛みを誰よりも知る彼だからこそ、本社という異なる立場から、現場の誇りを守るための最適解を導き出してくれたのでした。
離れていても、どれだけ立場が変わっても、彼らは間違いなく、「盟友」でした。
