「問題解決」は何を解いているのか
戦略コンサルに身を置くと、「問題解決能力(problem solving skills)」という言葉を浴びるように聞く。
これは必ずしも単なるバズワードではない。トップティアのファームで一定以上の経験を積めば、その経験が無い人とは明らかに一線を画す、別物の思考エンジンを積んだような感覚は確かに得られる。私自身、苦労して獲得する価値があったと断言できるスキルの筆頭候補である。
その問題解決を最もハードコアに鍛えられる場として、ファーム内でもさらに特別な意味を持つ典型的な例が、M&AのビジネスDD(デューデリジェンス)のプロジェクトである。
ビジネスDDとは本質的に、「他人の会社を、自分の会社並みの解像度で理解する」という営みである。つまり普通にやれば50点も取れないハードな問題設定に対し、いかに70点・80点の理解を、しかも超短期間で叩き出すかというゲームだ。必然的に、多少の業界専門性などよりも純粋な問題解決エンジンの出力が問われることになるため、「あいつはDD案件を回せる」という認知を得ることはある種特別な意味を持っていた。
ところが、「問題解決能力」という呼び名があまりにも漠然としているために、あたかもそれが万能薬であるかのように見えてしまうことは問題だとも感じる。このスキルは本質的に、ある特定のシチュエーションでのみ威力を発揮するきわめて特殊性の高い能力である。
本質をありていに表現するならば、問題解決とは「より良い答えを突き詰める技術」ではない。それは「ある仮説に対して、確からしい根拠を必要十分に構造化し、その必要十分性をストーリーとして示す技術」である。仮説を立て、それを証明するのに必要な前提を構造化し、一つひとつ検証していく。このプロセスをやり切れば、70点、80点の答えは恐ろしく高速に出すことができる。
一方で見落とされがちな点として、既に70点の答えは出ている課題に対して、問題解決アプローチが90点・100点の革新的な答えをもたらすという現象はさほど期待できない。コンサルタント自身が時間と根性を投入して「このアウトプットは100点、いや120点だ」と自己満足することはあっても、クライアント側がコンサルの能力に一番の驚きを感じるのはほとんどの場合「答えの質の圧倒的な高さ」というより「必要十分な答えに至る圧倒的な速さ」である(パワポの質の高さ、ならあるかもしれないが)。
このスキルが最も確実に価値を出す場面ははっきりしている。
クライアント自身がすでに高い解像度を持つ既存領域ではない。新規事業や、まったく知らない会社を買いに行くM&A、あるいはオペレーションしか経験のないチームが急に経営レベルの「戦略」の言語化を求められた場面など、放っておけば分からないことばかりで、90点どころか手がかりすら無い課題だ。そこで70点、80点をポンと出せることが戦略コンサルの最も確かな価値であり、世間のイメージとは少しずれているかもしれない。
この点を取り違えると、どんなに問題解決スキルが高くとも、それを場違いなところで振りかざそうとする「スキルバカ」になりがちである。
