第3回「奴奈川姫」の表記についての疑惑
前回のブログでは、三種の神器の八尺瓊勾玉が糸魚川翡翠である可能性を探りました。その内容を踏まえて、翡翠を司っていた「奴奈川姫」とはいったい何者なのか…をここから追っていきます。
《 奴奈川姫の「奴」は「瓊」ではないか?》
糸魚川翡翠について知っていくと、これだけ古代において翡翠が重要視されていたのなら、産地である糸魚川を中心とした奴奈川姫の治めていた地域も重要であったはず…と私は思いました。
奴奈川姫は古事記では「高志国の女王」と記されています。
古代においての越の国はかなり広大な範囲でした。
いろいろと鍵となる「大化の改新」以前は福井県、石川県、富山県、新潟県、山形県庄内地方の一部までが高志国とされています。広大な統治範囲です。明確な境界線もなかったため、さらにもっと広範囲だったとも言われます。
それを女王が統治していた…というだけでも驚きです。奴奈川姫はそれだけの力があった存在なわけです。
そんな奴奈川姫はいったい何者で、どういう出自なんだろうと、系譜を知りたくなりました。
が、その前に
奴奈川姫の「奴」という字がずーっと気になっていました。奴奈川姫や翡翠に興味を深く持つようになる前から。
これだけ広大で、宝の産地として重要な土地を治めていた女王になぜ奴隷の「奴」の字が使われて表記されるのか。
ちなみに実は『古事記』では「沼河比売」と書かれます。 「沼」という字もまた、泥深く澱んだイメージがわいてしまい、ちょっとした違和感を覚えます。
この疑問で頭をよぎったのは、いまだに実在したかしていないか、どこが邪馬台国かと論争がつづく「卑弥呼」です。
決していい意味ではない「卑しい」の「卑」という文字が意図的に当てられていると言われています。
魏の国が、倭国(日本)を下に見て、自分たちよりも格が下であるという事を表す意図で「卑」という文字を使ったのではないかと。
まず、奴奈川姫の名前について調べると、古代において「ヌ」というのは「玉」や「宝石」を表す…と言われ、
ヌ): 選び抜かれた美しい玉。
ナ): 接尾語、あるいは「〜の」という連体助詞的な役割。
ガワ): そのまま、川。
と、一般的にはこのように説明されます。
つまり奴奈川姫は「美しい玉(ヒスイ)が採れる川の姫」という意味になります。そうであれば、「美しい玉」の字がなぜ奴隷の「奴」になるの?
なぜ「沼」になるの? とますます疑惑は深まります。
そこで、ふと思ったのが前回のブログのテーマだった三種の神器の1つ「八尺瓊勾玉」です。この「瓊」は「に」や「ぬ」と読まれ、玉や宝石(光り輝く美しい玉)を意味します。
この文字は日本神話の天孫降臨のストーリーで登場する天から降りてきた「瓊瓊杵尊(ニニギノミコト」にも使われています。
天照大神の孫であり、天から地に降り立った高貴な存在として描かれる人物にこの文字があてられている事を考えても、古代日本において、この「瓊(ニ、あるいはヌ)」という漢字がいかに特別な意味を持っていたかということがあらわれてます。
奴奈川姫が翡翠を司る女王で、日本の至宝である勾玉や宝石と大きくか関わっているなら「奴」や「沼」じゃないでしょう。一番、品・格が高くふさわしいのは「瓊」という文字なんじゃないかと思いました。
だとしたらなぜ「奴」や「沼」という文字が使われたのか。
古事記は神武王朝(大和政権)の正統性を示すために作られた文献です。
歴史の世界では、勝者が敗者や同化した勢力を管理する際に、文字によって格下げをするという手法が使われてきました。
卑弥呼の「卑」も同じです。
これが奴奈川姫にも使われたと考えました。
「地方の女王に、天孫と同じ『瓊』の字を使わせるわけにはいかない」という中央(大和政権)側の政治的意図があったのではないか…と。
でも、この文字による格下げが行われたということは、逆に考えるとその手法を用いられた奴奈川姫、いやここではあえて「瓊奈川姫」は、下げなくてはいけない程の格があったという事でもあるのではないでしょうか。
だとすると、一体、奴奈川姫はどんな出自なのか、ますます気になります。
今回はここまで。
次回は3つの「黒姫山」と奴奈川姫についての予定です。
ではまた次回の講釈で。
