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第6回 記紀における越の国と奴奈川姫

 前回のブログでは、ついに地元に伝わる奴奈川姫の系譜が明かされました。
 
祖:高皇産霊神
祖父:意支都久辰為命
父:俾都久辰為命
 
という衝撃の系譜でした。
日本神話の根源神「造化三神」のうちの1柱・高皇産霊神が奴奈川姫の祖だとしたら奴奈川姫は日本神話の「神族」の血筋ということになります。
私たちが一般的に認識してる設定が大きく覆る系譜なのです。
 
この系譜は地元の神社に残る伝承のため、もしかしたら地元が自分たちの土地に関わる神をより格の高いものとしたいという意図で伝えたものかもしれません。それとも背景に何かしらの事実があってのこの系譜なのか、その可能性をここから探っていきます。
 
まずは日本の正史として認められている古事記・日本書紀において越の国・奴奈川姫がどう描かれているのか調べてみました。
 
《記紀において越の国がどう描かれているか》
記紀(『古事記』『日本書紀』)では、越の国は主に「高志(こし)」「古志(こし)」として登場し、現在の北陸〜新潟一帯を指す地域として描かれています。特に『古事記』では神話の重要舞台として明確に記述されます。

1. 表記:『古事記』は「高志」、『日本書紀』は「越」・「越洲」
 ・『古事記』は古い地名表記を残し、「高志(こし)」と記す。
 ・『日本書紀』では、古い地方名として「越(こし)」や「越洲(こしのしま)」が登場する。
 ※「越」の字が一般化するのは大宝4年(704)以降で、それ以前は「高志前国・高志中国・高志後国」などの表記があったと考えられる。

2. 地理的範囲の描写
記紀が想定する越の国は、 敦賀(氣比神宮)から日本海沿いに北上し、弥彦山を望むあたりまでを一体として捉えている。
 ・西端:若狭国との境・関峠
 ・北端:弥彦山(のちに渟足柵・磐舟柵・出羽柵へと北上)
 古代の大国としての「高志国(こしのくに)」の姿が反映されている。

3. 神話における越の国の登場
記紀で越の国が最も印象的に描かれるのは神話部分です。
 ・ヤマタノオロチの出身地(『古事記』)
 ・ヤマタノオロチは「高志(こし)」から来たと明記され、「北方から来る巨大な存在」として描かれ出雲でスサノオに討たれる。
 ・大国主命(八千矛神)が高志の沼河比売(ぬなかわひめ)のもとへ妻問いに行く神話が記される。
これは越と出雲の交流・婚姻関係を象徴する重要な場面。

4. 歴史記事としての越の国(『日本書紀』)
『日本書紀』では越の国は神話よりも北陸道の重要拠点として登場する。
 ・欽明天皇5年(544):粛慎人が佐渡に渡来し、高志から朝廷に報告。
 ・573年:高麗使人が高志海岸に漂着。
 ・589年:阿倍臣が北陸道に派遣され、越など諸国の境界を調査。
 ・国造(くにのみやつこ)として久比岐国造などが存在したことが記される。国造とは、ヤマト王権が地方を統治するために設けた重要な官職、あるいはその地位にある有力者を指す。
これらは越が日本海側のフロンティアであり、外来勢力との接触点であったことを示す。
 
これらをまとめると、記紀における越の国の位置づけは
 ・『古事記』:神話の重要舞台(高志)
 ・ヤマタノオロチの出身地
 ・沼河比売の地
 ・『日本書紀』:北陸道の要衝(越)
 ・外交・漂着記事
 ・国造の存在
というところでしょうか。 

私が気になったのは、ヤマタノオロチが「高志(こし)」から来たと明記されていることです。そしてヤマタノオロチの尾から出てきた剣はやがて三種の神器の草薙剣となります。
以前のブログで、三種の神器の一つ「八尺瓊勾玉」が糸魚川産翡翠で作られている可能性を書きましたが、古事記のこの設定だと、剣も越由来の可能性があることに気が付きました。
3つのうち2つが越由来だとしたら、もしかして鏡も越の国が関わっているかも…と頭をよぎります。鏡については、後に思わぬところで「越由来」を感じさせる事実に出会うことになります。

それはそうと、記紀に登場する「越の国」は
◎ 登場頻度は少ない  ◎ 登場する場面は重要  ◎ 出雲と深く関わる
という感じで、“地味だが、物語の要所で突然存在感を放つ地域” という印象になります。
 
《奴奈川姫がどう描かれているか》
では奴奈川姫はどうでしょうか。
奴奈川姫(沼河比売)が登場するのは『古事記』のみであり、『日本書紀』には一切登場しません。日本書紀には登場しないということにも驚きました。
● 登場箇所…『古事記』上巻「大国主神の段(八千矛神の求婚譚)」に登場。
● 内容の要点…名は 沼河比売(ぬなかわひめ) と表記。
 ・大国主命(八千矛神)が 「高志(こし)の国に賢い女がいる」 と聞き、 沼河比売(ぬなかわひめ) に求婚するため高志国へ向かう。
 ・大国主命は 沼河比売の家の外から求婚の歌を詠む。
 ・沼河比売は 歌を返して応じる。
 ・翌夜、二神は結婚する。
古事記ではここまでの情報だけです。

そして、前回紹介しましたが、歴史資料としても認められている出雲風土記には名は 沼河比売(ぬなかわひめ) と表記され、その系譜が明記されています。

祖父:意支都久辰為命
父:俾都久辰為命
夫:大穴持命(大国主)
子:御穂須須美命(美保神社の神)
※この系譜は『古事記』には書かれないため、記紀の記述とは別系統の伝承。
 
やはり、田伏奴奈川神社と柏崎の鵜川神社に伝わる系譜が一致しているというのは興味深い点です。
上越エリアの地元伝承では、大国主と奴奈川姫の間に「建御名方命」が生まれたとされていますが、古事記では、建御名方命は大国主命の子として登場するものの、母親が奴奈川姫であるとは書かれていません。というよりも、母親について一切触れられていません。
一方、出雲風土記は「御穂須須美命」(みほすすみのみこと)という神が子供であると書かれています。これも興味深い記述です。
 
そして、これも近年は再び歴史的資料としても一定の価値が認められている
『先代旧事本紀』の巻第四の「地祇本紀(ちぎほんき)」にも奴奈川姫と思われる記述があります。
● 大己貴命(大国主命)の妻の一人として登場
「次娶高志沼河姫。生一男。建御名方神。」 とあり、 高志沼河姫=建御名方神の母、と明記される。
ここでは、上越エリアの伝承と重なっています。
 
それ以上の情報は古事記・出雲風土記・先代旧事本紀には無いようです。
しかし、地元の伝承と重なる点としては
・大国主命の妻
・祖父・父・本人の系譜が一致する
・子供の存在が一致するものがある
など、かなり興味深いものとなり地元伝承の信憑性も高くなります。
 
とはいえ、この3つの文献に載っている記述がここまでとなると
手詰まりのようにも感じますが、まだ手立てがあります。
「古史古伝」です。
 
古史古伝とは、公式な歴史書としては認められていない
様々な神社や家系に伝わる独自の歴史書といえばいいでしょうか
「時の権力者(中央政府)によって歴史から消されてしまった真実を、自分たちのコミュニティだけで密かに守り抜いてきた」というストーリー性を持っているのが特徴です。
スケールがとてつもなく大きかったり、荒唐無稽とも思われる記述があったり、時系列が不自然であったりという理由から、一般的には「偽書」として扱われます。
しかし、記紀と違う=偽物とは言い切れない面があります。
何度も書きましたが、記紀はあくまで大和政権の正統性を伝え残すために作られた歴史書であり、ある意味古史古伝もその成り立ちの意図には共通する面があります。
つまり、記紀も自分たちに都合のいいように歴史を書き換えている可能性があるのです。だとすれば、古史古伝にも一定の真実が記録されている可能性もあるのです。
 
奴奈川姫について、古史古伝にもなんらかの痕跡がないのか
足を踏み込んでいくことになります。
 
まず古史古伝と言われるものにどんなものがあるのか、またその大まかな内容を紹介します。
 
1. 竹内文書(たけうちもんじょ)
「日本が世界文明の中心で、超古代の天皇が宇宙から来た」という壮大な物語を語る文書群。 宇宙創成、超古代天皇、世界五色人(黄・赤・青・黒・白)の起源、ムー大陸などが登場し、世界の文明は日本から広がったと主張します。
2. 九鬼文書(くかみもんじょ)
スサノオやアマテラスの系譜が独自に語られ、神々の子孫が世界に広がったとする文書群。 ノア・モーゼ・イエスなどが日本の神々の子孫とされるなど、神話と世界宗教を結びつける内容が特徴です。
3. 宮下文書(みやしたもんじょ)
富士山麓に「富士王朝」が存在したとする物語を記した文書。 中国から来た徐福が記録したとされ、富士山を中心とした超古代国家の歴史が語られます。
4. 上記(うえつふみ)
神武天皇以前に「ウガヤフキアエズ王朝」があったとする文書。 天文学・暦・医術・農業など、古代の知識が大量に書かれているとされます。神代文字で書かれているという体裁が特徴です。
5. 秀真伝(ほつまつたえ)
アマテラスが男性神として描かれ、記紀とは異なる神話体系を語る長歌形式の文書。 ヒルコやツクヨミの物語が詳しく語られ、和歌や節句の意味も説明されます。
6. カタカムナ文献
縄文以前の「カタカムナ文明」の叡智が書かれているとされる文書。 独特の円形文字で書かれ、宇宙観・生命観・エネルギー論などが詩の形で語られます。
7. 東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)
青森に「東北王朝」があったと主張する文書群。 のちに偽作が確定したことで有名ですが、地域史やオカルト文化に大きな影響を与えました。
8. 物部文書
ニギハヤヒの秋田降臨、十種神宝の奉安、神功皇后の来訪、物部氏の秋田移住など、記紀とは異なる「物部氏の神話と歴史」を語る伝承文書です。
 
どの文献も、「記紀とは異なる日本の超古代史」を語る点が共通しています。 内容は壮大で魅力的ですが、学術的には史料価値が否定されており、民間伝承・新宗教・オカルト文化の文脈で語られる文献群です。
 
これらの文献の中に、越の国や奴奈川姫が登場するのか。しているならどのように記録されているのか。そこにあの系譜につながるような記述があるのか…これを調べてきます。
 
今回はここまで。
 
また次回の講釈で。
 
 
 

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