【第21話】壊れたテレビと、壊れかけた心
2020年11月9日。逮捕から4ヵ月と17日目――
最後の裁判を終えた数日後の朝、事件は起きた。
「なんで映らねぇんだよ…!なんで動かねぇんだよッ!」
その怒鳴り声で、一日が始まった。
声の主は、B-150号室の“隊長”ジェリー。怒りの矛先は、彼のテレビだった。
電源は入るのに、何をしても画面が映らない。
皆で順番にテレビの裏や下をのぞいたが、ドライバーもハサミもない。
何も直せない我々が見つけられたのは、テレビの裏に潜んでいたゴキブリたちだけだった。
ジェリーの文句はエスカレートし、
部屋の話題は完全に「壊れたテレビ」一色になった。
とはいえ、テレビは元々ジェリー専用だった。
イヤホンを常に装着していた彼のテレビは、他のメンバーにとっては
「音のない動く壁紙」でしかなかったのだ。
映画上映のときだけは、彼がイヤホンを外し皆で楽しむこともあったが、
言語はジョージア語。誰も意味がわからず、結局は形だけの鑑賞会になる。
寝る時間もバラバラだったため、ジェリーはほとんどの時間、
イヤホンを差しっぱなし(他者の睡眠妨害とならないように音無し)にしていた。
だから正直、テレビが壊れても、他の者たちにとっては
「どうでもいいこと」だった。
――だが。
最大の問題は「ジェリー本人」だった。
彼は部屋の最年長で、みんなからもリーダーと見なされていた。
温厚で頼れる存在――それが、まるでおもちゃ売り場で泣き叫ぶ子供のように崩れていた。
隊長が狂えば、兵隊も狂う。
ジェリーの不安定さは、部屋全体の空気をじわじわと侵食していった。
だがその時、カールが動いた――。
カールは、買収していた看守と、ラリオキに早朝から相談を持ちかけていた。
そしてその夜――
ラリオキの腕には、2台のテレビが抱えられて戻ってきた。
ひとつはジェリーへ、もうひとつは自分用に。
カールは黙って配線を繋ぎながら、ふっと笑った。
私は思った。
これは金銭による利得関係を超えた、2人の男の友情の姿だった。
刑務所内で、28型のテレビを手に入れるには、
約200ドルもの金が必要だった。
そして、刑務所からの使用許可を得るのもまた、困難を極める。
私は知っていた。
これまで何度も、カールはジェリーに「この番組が見たい」と頼んでいた。
だがジェリーは、それを一度も受け入れなかった。
わざとカールの希望を無視して、自分が見たい番組しか見せなかった。
――にも関わらず。
カールはそんなこと、一度も根に持っていなかった。
彼は許可を得て、ジェリーにテレビをプレゼントした。
「俺たちは皆、不完全にできているんだよ。」
(We are No body Perfect.)
配線を繋ぎながら、カールは静かに語った。
「誰でも優しい時があれば、冷たい時もある。それが自然だと思う。だから俺は、ジェリーを責めないよ。」
「それに、あの辛そうなジェリーの顔は見てられなかった…。」
「でもさ、彼はテレビの画面を見ているだけで、その辛さを少しでも紛らわせるかもしれない。だから俺にできることをやったまでさ。」
カールはさらっと語る男だったが、
その一言一言は、実に深く、思いやりに満ちていた。
しかも、しっかり自分用のテレビも確保していたのが、また彼らしかった。
――そしてその数日後、私も彼のおかげで自分のテレビを手に入れることができた。
6年の有罪判決を受けた後は、本当に希望なんてなかった。
だがその夜、部屋に一台のテレビが持ち込まれたとき、私は思わず笑っていた。
生まれて初めて、全く理解できない言語のニュース番組を、1週間ぶっ通しで見続けるほどに嬉しかったのだ。
――続く。
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